激闘の裏側で   作:安永英梨

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【最適解→愛】

scene5《最適解→愛》

 

 まともな服さえ手に入らずぼろきれを纏い、歌乃子はハインリヒと共にさまよい続けていた。所属していた軍――CUBE(キューブ)――を追われ、ミカたちが命懸けで戦っているのを知りつつ、ろくに協力もできない無力さを日々噛み締めながら。

 軍の監視をまいて瓦礫の陰に潜み、今日も僅かな食料をハインリヒと分け合う。そんな歌乃子の視界の隅に、黒い影がよぎった。

「誰!?」

 表情に警戒の色を湛え、相手に呼びかける。

「おまえ……、七宝洞か?」

 返ってきたのは、思いがけない懐かしい声。

「先輩……!」

 おもむろに歌乃子の前に姿を現したのは、首から下に黒い布を纏った久里虫千遊、超銀河霊長(ソウルボイジャー)ナンバー8・うお座M74渦巻銀河霊長カイジャだった。

「どうして……、死んだはずじゃ……」

 ミカるんXの放ったランスによってカイジャの肉体が砕け散るのを、歌乃子は確かに見た。

「航海者の生命力をなめるな」

 千遊は唇の端を吊り上げニヤリと笑う。

「一時は宇宙の墓場に送られもしたが、あの場所は肌に合わない。隙を見て抜け出してやった」

「さすがですわね、先輩」

 歌乃子も艶めいた笑みを浮かべる。

「その呼び方はよせ。もう先輩でも何でもないだろ」

 人間のふりをして潜伏していた頃の千遊は、聖アグリッパ学園三年金剛石組の生徒だった。そのため、二年生の歌乃子からは先輩と呼ばれていた。

 しかし、今となっては先輩も後輩もありはしない。

「嬉しいですわ、またお会いできるなんて」

 歌乃子は浮かれて千遊に駆け寄り、勢いよく飛びつこうとする。

「おい、やめろ!」

 歌乃子の両腕が千遊の胴体を力強く捕らえた。……はずなのに、布が腕に絡み付いただけで手応えが何もなかった。

「!?」

 唖然とする歌乃子に、千遊は身体を覆う布をはだけてみせた。両腕は肘から先が無く、胴体も鎖骨の辺りから下が無い。あるのは空間のみ。

「まだ完全に復活したわけじゃない。僅かな肉片からの再生だ、時間がかかる。ふふ……、以前のように抱けない身体でガッカリしたか?」

 歌乃子は千遊の頭部を引き寄せ、そっと胸に抱いた。

「セックスができなくても、抱きしめることはできますわ。キスだって、いくらでも……」

 前髪の隙間から覗く千遊の鋭い目を歌乃子は熱っぽく見つめ、何度も口付けを交わす。

「今さら私に執着しても何の得にもならないぞ。こんな身体では戦うこともできない、不能の航海者だ」

「私だって今は何もありませんのよ。軍人でもない、丸裸の惨めな放浪者ですわ」

 歌乃子に千遊の刺すような視線が向けられる。

「お互いに無力、か。最低だな」

「ですわね」

 千遊の吐き捨てた言葉に、歌乃子はただ穏やかに同意する。そして、問いかけた。

「こんな私ですけど、あなたのお傍にいてもよろしいでしょうか?」

 歌乃子の胸に優しく抱かれたまま、千遊は上目遣いに歌乃子を睨む。

「……好きにしろ」

 ぶっきらぼうな言い方。だが、歌乃子は気付いていた。ほんの一瞬、千遊が柔らかな笑みを浮かべたことに。

 

end

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