「いやはや、随分と待たせて申し訳なかった。シンジ大尉が希望するジェット・アローンの改装は完了している。重心の問題からミサイルは両肩部に3発ずつが限界だった。その代わり、携行兵装に振り分けて、183mmリボルビングライフル、360mm無反動砲を2個用意している」
「動力源の原子炉を『JAリアクター』へ変更するのはまだですか」
「すまない。N2リアクター自体は完成しそうなんだが、莫大な冷却水が必要になる。水源のある地帯でなければ動けなかった。使徒を短期決戦で仕留めると言うかもしれないが、技術者として、致命的な弱点を抱えたままは許せない」
戦略自衛隊と日本重化学工業共同体が共同開発するジェット・アローンは、使徒戦の合間を縫って改装を進めており、責任者の時田シロウ博士が直に説明してくれる。時田博士は無人運用を頑なに主張しているが、予期しない事故に対し、最小限の犠牲で済む有人運用への変更を渋々に認めてくれた。
「武器の切り替えや弾の補充については、VTOLの輸送機から随時投下するようだ。そして、例の超大型輸送機と戦闘支援空母はもう暫くかかる。次の化け物次第だが、まず間に合わないと思ってほしい」
改装計画は軽量化と武装造設の二本立てだ。被弾が許されない以上は、回避するしかなく、回避のためには機体を軽くしたい。運動性を向上させるしか手は無かった。これも苦渋の決断であるが、装甲は重要区画に限定しつつ、装甲素材を新型に更新している。
武装造設は、両肩部にミサイルランチャーを装備した。携行火器に155mmリボルビングライフルと300mm無反動砲が用意される。使徒や戦場に応じて、柔軟に切り替えるつもりだ。よって、VTOLの輸送機を飛ばして、武器や砲弾の入ったコンテナを投下してもらう。
最後にジェットアローンの戦場を拡大する目的より、戦略自衛隊は「超大型輸送機」と「戦闘支援空母」を建造した。前者は、空中戦および空挺奇襲の空軍的な要素があり、後者は、赤い海の海中戦や艦隊戦の海軍的な要素がある。
「今回の改装はNERVとの協同を考えている。だが、NERVと戦略自衛隊ひいては国連軍の全面衝突はあり得ないことじゃない」
「分かっています。NERVが人類の敵であれば、容赦なく、叩き潰すことに変わりありません」
「それは父親への復讐か?」
「まぁ、それもありますね。僕が戦略自衛隊に拾われ、ジェット・アローンのパイロットになったこと。それは、父さんの影響力から逃れて反抗するためです」
そう言えば、どうしてジェット・アローンに乗るのかを綾波に聞かれたや。
「あなたは、どうして、エヴァに乗らないの?」
綾波はエヴァ零号機の試験で負傷した。僕はフリーパスのカードキーを持っているから、クラスメイトの立場で彼女のお見舞いに訪れている。もはや、NERVに出入りすることは日常の一つだ。情報を抜き取ろうにも、NERVは碇シンジ大尉に限って、事実上のチルドレンに並べている。僕を受容されては勝ち目はなかった。マナの孤軍奮闘に期待される。
「どうして、エヴァに乗らないか。そもそも、所属している組織が違うんだ」
「…」
これは建前であって、綾波に見透かされている。
「本音を言うと、僕は父さんの事が嫌いなんだ。母さんに関する記憶を残さず消した。まだ幼かった僕を捨てた。仕方がない理由があったのなら、分かるように示してくれたら良かったのに」
「碇司令が嫌いなの?」
「嫌いだよ。あんな父さんは信頼できない」
バチン!
「ありがとう。綾波の真意は痛みで知れた」
中学校やNERVの中では仲が良いと雖も、合わない箇所は必ずや存在する。そこで衝突しようと、互いを知って理解を深められた。綾波は僕に全力でビンタを与えた。100%の痛みを頬で受け止める。手形こそつかないが、綺麗に赤く染まった。
この時の綾波レイは、形容し難い感情に包まれる。
いつも思うが、彼は己を軽く見ている。私からすれば、恐ろしい中学生である。しかし、シンジ大尉は己を軽視し、自己犠牲を厭わなかった。そんな傾向が確認されている。
ジェット・アローンは原子炉を動力源にするため、常に放射線の危険が付き纏った。私が未だに無人運用を主張する根拠にするが、彼は「無人で暴走したら大の虫が殺される。ならば、1人が乗り込むべきだ。小の虫を殺して大の虫を生かす」と反論した。とても、受け入れられない。
しかし、彼はNERV司令の実子と聞いた。
複雑な政治が絡んで有人運用を押し通される。
「そういう時田博士もNERVが嫌いじゃないですか」
「そうだ。NERVとエヴァンゲリオンは好みじゃない」
「僕が協同していることは?」
「やむを得ないことだろう。公私混同する程の愚かさは持っていない。しかし、エヴァに負けたくない。ジェット・アローン二号機を作り上げることに心血を注いだ」
私はNERVという組織とエヴァンゲリオンを心底嫌っている。常に電源と接続して動かなければならず、ケーブルが切れたらお終いなんて兵器は大欠陥品だった。さらに、少年少女のパイロットが乗り込み、勝手に暴走する危険があるとは、常軌を逸している。エヴァンゲリオンが使徒戦の切り札であり、人類の救世主なんて、お笑いにもならない。
「使徒出現のペースがあまりにも早い」
「平均して二週間から三週間で出現しています。予測することは絶対に不可能なので、緊急地震速報のように初期段階で察知するしかありません。しかも、地上なのか、赤い海なのか、はたまたは宇宙なのか。どこからでも現れます」
「まったく、なんて厄介な存在だ」
シンジ大尉が乗り込むジェット・アローンは、試作機の一号機である。エヴァに対抗するだけの間に合わせだった。危険な原子炉を排した完成版の二号機をジェット・アローンと呼びたい。二号機は『JAリアクター』と呼ぶ動力源を想定した。150日の稼働可能期間を堅持し、事故の危険をゼロに抑える。大元はN2兵器から着想を得たN2機関だが、膨大な冷却水を必要とし、水源のある戦場でなければ戦えなかった。こんな未完成品を送り出すことは愚の骨頂であるよ。
まだまだこれから。
未来のあるシンジ大尉のため、安全な機体を渡さないと死ねなかった。
「時田博士も気をつけてください」
「私が?何を気を付ければ…」
唐突に警告を被った。
「NERVは戦略自衛隊から人員引き抜きを実施している。こんな報告が上がりました。現に僕は諜報部の人員からマークされ、マナは不穏分子として侵入を阻まれている。どうにかして、NERVは僕を引き剥がしたいようで」
「それと私に何の関係があるのか…」
「ジェット・アローンをエヴァンゲリオンの強化パーツにする。そのため、博士も拘束することが」
なんと、私を確保するなんて、NERVはやりたい放題じゃないか。確かに、高度に独立した組織と聞いたが、ライバル組織の人員を引っこ抜くとは、傍若無人を極めている。そして、ジェット・アローンをエヴァの強化パーツにするなんて許されなかった。あんな制御できない聞かん坊にジェット・アローンを奪われては堪らない。
「わかった。十分に気を付けることにしよう。幸い、最近は施設にカンヅメになっている」
「博士をNERVに取られたら、僕は移籍せざるを得なくなります。お願いしますね」
せめて、ジェット・アローン二号機を引き渡しからだな。
私が思う究極のジェット・アローンを作り上げるまではな。
続く
再び使徒は出現した
使徒は正八面体のプリズムのようである
NERVは使徒迎撃のため、通常通りに弐号機を発進させた
戦略自衛隊も強硬偵察とジェット・アローンを投入する
しかし、アスカの操縦する弐号機へ使徒の咆哮が放たれる
次回 『エヴァの完敗と一人では何もできない』
「あたし一人じゃ何もできやしないのよ」