「ポジトロン・ライフルは陽電子砲です。まさか、破棄した極秘の兵器計画を丸ごと譲渡するとは、随分と気前の良い、大盤振る舞いですね」
「戦略自衛隊は、人類が滅ぶぐらいなら、NERVへの協力を惜しまない。ただし、NERV側にタダで渡すのも癪だった。よって、NERVが複製を進めているS2機関について、技術提供を受けている。君のジェット・アローンに用いるJAリアクターの完成度を高めたい」
「等価交換ですね」
「そういうことだ」
久し振りに上官に呼び出されている。上官からは今までの労いを程々に済ませ、NERVと戦略自衛隊は第六の使徒戦に共同作戦を行うことを知らされた。今までは初期迎撃の名の時間稼ぎを戦略自衛隊が担う。本格的な使徒の殲滅はNERVが担当した。
しかし、第六の使徒は規格外である。超火力を押し立てて防御力は攻撃力の裏返しだ。安易に近づこうとすれば、超高エネルギー砲撃を被り、エヴァンゲリオンでさえ耐えきれない。ジェット・アローンの豊富な火器も圧倒的な火力の前に通じなかった。
「何を今更の話だが、碇シンジ大尉は本日付けでNERVへの出向というか。なんだ、あれだ。今日からは戦略自衛隊から派遣されたことを建前に、君はNERV保有するエヴァと並ぶ戦力と戦ってもらう。使徒戦や訓練の度に連絡を取り合っては不都合が多かった」
「確かに、何を今更と言う話です。ほぼNERVの人間ですし、実の父が向こうの司令官なので」
「すまない。君には苦労ばかりかけている。こんな碌でもない大人が軍の命令遵守を盾に押し付けてしまった」
戦略自衛隊と聞けば、税金の無駄遣いなど、悪いイメージが与えられる。使徒戦においては、時間稼ぎになっているのか分からない戦闘を繰り広げた。兵器の損耗や人的な損耗も激しいため、税金の無駄遣いと言われても仕方ない。
それでも、僕の前に立つ上官は例外だと言いたかった。
「私は50が近いオッサンなんだ。こんなオッサンが子供を苦しめること、ましてや、軍人が苦しめることはあってはならない。せめて、NERVで真っ当な青春を過ごして欲しい」
クドイが何を今更の話である。僕はNERVへの派遣が正式に命じられた。指揮権を譲渡しても指揮系統は分断されている。現場単位の共闘は「その場しのぎ」な事が多かった。エヴァとジェット・アローンの共闘は、時にして、命令違反や独断専行が起こり得る。使徒の殲滅に成功していることに加えて、命を賭す者の判断は尊重されるべきであり、実際は軽い口頭注意や黙認で済んでいるだけだ。
「もちろん、所属自体は戦略自衛隊で残る。何かあれば遠慮なく言ってほしい」
「マナは…」
「さすがにガードが堅かった。戦略自衛隊の諜報員であることはバレバレだ。彼女は彼女なりのやり方があってNERVに潜りこむ。一応だが、二重スパイの協力者がNERVの内部にいるしな」
「わかりました。僕はNERVからの連絡を待つことで」
「頼んだ」
第六の使徒は正八面体を崩すことなく、NERV本部までの掘削作業に精を出している。圧倒的な火力を得た代償にNERVを目指すにはボーリングの掘削が必要だった。人類のエヴァンゲリオンと同様に使徒も完全無欠でないが、タイムリミットは刻々と迫っている。
「ヤシマ作戦とは、思い切ったじゃない」
「でっしょ~」
「よく戦自から強奪したわね」
「ちょっと、そんな言い方ないでしょ。NERVの立場で交渉して、技術交換の名目だから」
「そうね。こっちからはS2機関の複製を渡すなんて」
第三新東京市の山を複数個を挟んだ先では、急ピッチで建設工事が進められている。それは第六の使徒を撃破する秘密作戦の『ヤシマ作戦』によるものだ。NERVは第六の使徒の殲滅にアウトレンジ攻撃を立案した。戦略自衛隊から試製陽電子砲(ポジトロン・ライフル)を譲渡され、エヴァンゲリオンを狙撃仕様に改修している。
というのは、第六の使徒が攻撃する際にコアを露出させた。この弱点を補って余るある超火力だが、意識外のアウトレンジ攻撃には弱いだろう。したがって、無人砲台による牽制を以てコアを露出させて使徒が迎撃に追われている隙を狙った。
「問題はジェット・アローンだけど」
「彼の適性を鑑みるに、今まで通りの支援役じゃないかしら。まだ話し合ってないんだけど、彼は囮役を買って出てくれるはず」
「どうしてわかるの?」
「女の勘ってやつよん」
NERVは辛うじてエヴァの2機体制を組んだ。主力の弐号機は当然として、調整が続いたエヴァ零号機が間に合う。パイロットの綾波レイは傷を癒して零号機とシンクロは安定を得た。初めての実戦が第六の使徒とは気の毒であるが、勝たねば人類が滅ぶため、気の毒を承知で出撃させざるを得ない。しかし、問題はジェット・アローンの使い方だった。指揮権はNERVが掌握して垂涎の碇シンジ大尉を派遣の名目で確保する。
「ジェット・アローンが原子炉というから、どうにか、発電用に使えないかと思ったけど」
「それは危険すぎる。こんなことを言うのは良くないけど、あれは動く原子炉でいつ暴走するかわからないの。非情でも勝手に自爆してもらった方がダメージは小さい」
「そうねぇ…」
ジェット・アローンは原子力のおかげで、最大150日の稼働が可能であった。原子炉を用いることは移動式の原子力発電所になる。半端でない電力量を要求するポジトロン・ライフルの発電機になり得たが、原子炉は暴走時の危険性が頭一つ抜きん出ている。事故を発生させた時の被害は尋常どころでない。よって、従来通りの支援の名で囮を務めてもらう。
「まさか…S2機関のコピーを渡したのは」
「戦いは二手三手先を読むってわけ」
「はぁ。そう言うのは事前に相談してもらいたいわ」
「だって、リツコは反対するんだもん」
この時の葛城ミサトは誰よりも悪そうな笑みを浮かべた。
「どうかな。アスカの状態は」
「極度の疲労もあるから出撃まで安静にする」
「それが良いよ」
NERV内部に設けられた病室にて、零号機パイロットのレイ、ジェットアローンパイロットのシンジがあった。両名の見つめる先では、弐号機パイロットのアスカがスヤスヤ寝ている。撤退後に救急搬送されて一命を取り留めたが、極度の身体的と精神的な疲労から、暫くの安静を余儀なくされた。
なお、彼女は薄くてペラペラな患者着の姿で沸き上がる情があった。シンジ大尉は、戦略自衛隊仕込みの上官や先輩から教わり、自分でどうにかする技術を有している。周りに迷惑をかけることなく、一人で処理する術を身に付けた。
「ミサトさんから聞いたよ。アスカが狙撃手で綾波は補助だって」
「私は初めてだから。弐号機を支援することしかできない」
「怖くないの?」
「怖くない。私の居場所はエヴァだけだから」
ポジトロン・ライフルの射手は、復讐心に期待してアスカが務める。実際は多方面に秀でている彼女が適した。レイは初めての実戦であり、慣れないことは、与えるべきでない。適材適所とはこのことを言うのだ。
「碇君は?」
「怖くないと言ったら、それは嘘になる。僕だって死にたくないよ…でも」
「でも?」
「僕一人の犠牲で多くの人が救われるなら、それでいいと思っているんだ。誰かに必要とされて死ねるなら本望だよ」
いかにも、悲壮な覚悟であった。自分を犠牲にして多くを救うことを厭わない。彼の良い所と悪い所を兼ねたが、綾波レイは彼の自己犠牲を望む非合理的な考えに疑問を抱いた。
しかし、彼の屈託のない笑みを受け、胸の鼓動が高まる。
「大丈夫だよ。僕が犠牲になるから」
続く
ついに幕を開けたヤシマ作戦
弐号機の怒りのポジトロン・ライフルが光る
ジェット・アローンは懸命に使徒の気を引いた
しかし、イレギュラーは起こるものだ
次回 『決戦、第三新東京市』
「何とか軌道を変えて見せるっ!」