ボーリング掘削を勧める第六の使徒を睨むことが可能な特設陣地は、エヴァ弐号機とエヴァ零号機が配置されている。なんと、人類側初めてのエヴァンゲリオン2機体制である。
エヴァ弐号機は、高い汎用性を活かし、外装式の狙撃装備を身に付けた。パイロットのやるべきことは、コンピュータの弾き出した、適切なタイミングを示す合図で引き金を引くだけである。非常に簡単な仕事に思われよう。いいや、そう簡単な仕事でもなかった。
ポジトロン・ライフルは、日本全国の総電力を注入している。ようやく1発を発射できる大飯食らいなのだ。予備電源を用意して間隔を開けた第二射は可能であるが、あまり現実的でないため、原則として一発で仕留めなければならない。つまり、パイロットにかかるプレッシャーは尋常じゃない。
エヴァ零号機は、観測手を兼ねた護衛である。零号機は極初期型に該当して制約が多い。狙撃仕様への改装は不可能だった。よって、弐号機を守る即席の耐熱シールドを携行している。特殊装甲を何重にも重ねた大盾だが、即席に過ぎず、計算では10秒持てば良い方だった。
何らかのイレギュラーにより第一射が外れた際は、零号機が使徒の反撃を受けることになる。大盾に期待できない以上は、時間稼ぎの囮役が欲せられた。そこで、戦略自衛隊から派遣された、碇シンジ大尉のジェット・アローンの出番である。
ジェット・アローンはミサイルとライフル、無反動砲の弾薬を補充した。最も危険な原子炉も制御機器が更新され、強制停止プログラムがパイロットに託されている。使徒に撃破されることがあっても、超火力の前に焼き払われ、原子炉が暴走する間も与えられずに蒸発した。
シンジ大尉はマナ中尉と最後の別れを取る。
「必ず帰って来てね」
「もちろん、勝って帰って来るつもりだよ。まだ使徒は残ってる。それにNERVへ潜入する任務も果たしていないんだ」
「私が代わって…」
「マナは内臓を壊しているでしょ。無理だけはいけないよ。マナは真っ当な人生を送らないといけない。それを忘れないで」
霧島マナ中尉は碇シンジ大尉と並んでパイロット候補だった。しかし、試験中に内臓を悪くして、とても、激しい実戦には耐えられない。碇シンジ大尉に椅子を明け渡した後は、自身の適正からオペレーターを装い、NERVの情報を抜き取る工作員に転身した。
私的には悔しい思いを抱いたが、彼の秘めたる力に気付き、悲しい過去からの復讐心を理解する。彼女は「戦略自衛隊のため」よりかは「碇シンジ大尉のため」にNERVと対決を決意した。
「さて、行かないと」
「お願い…帰ってきて」
重装備のジェット・アローンは月の光に照らされる。
全国的な節電要請や計画停電により、ポジトロン・ライフルの電源を確保する。しかし、準備の間に使徒は掘り進めた。ボーリング掘削はNERV本部まであと少しである。
NERVは第六の使徒殲滅に無人砲台を総動員した。戦略自衛隊も協力を惜しまなかった。高高度偵察機を飛ばし、使徒を24時間体制で監視する。自走砲やミサイル車両を揃えて山越えの攻撃を整えた。
「時刻合わせ。作戦開始!」
NERVの葛城ミサトの鶴の一声で作戦が始まる。第六の使徒にへ無人砲台から猛砲撃が与えられた。使徒は直ちに掘削作業を中止する。自由自在に変形して迎撃する。死角を生じないように全周囲から攻撃するが、立体的な迎撃は片っ端から叩き落とした。
「次の砲撃、急いで!」
「第91、64、71急げ!」
「戦略自衛隊の自走砲およびミサイル車両が攻撃を開始!」
「数が多いに越したことはないのよ。今日ぐらいは贅沢に使いましょう」
使徒は迎撃に追われるが、虚を探しては、チマチマと反撃している。出力を調整した破壊光線を無人砲台へ発射した。エヴァを撃破した砲撃は控えているが、流石の使徒も出費の激しい攻撃は慎むらしい。
「ジェット・アローンが発進!」
ジェット・アローンは、第一波の攻撃と使徒の反撃が収まってから発進した。特設陣地とは別に設けられた発進施設から飛び出す。第三新東京市はNERVが要塞化した。エヴァ向けの施設が散りばめられた一つに電磁カタパルトがある。ジェット・アローンは電磁カタパルトを使用して一気に彼我の距離を詰めた。
「弾切れを心配する必要はない。素手になってでも時間を稼ぐ。最悪はJAを盾にして砲撃を逸らす」
滑空中に対艦ミサイルを斉射する。手っ取り早く火力を出して機体を軽くした。ミサイルを撃ち尽くすが簡単なのである。とは言え、所詮はミサイルだった。無人砲台の攻撃と一緒に迎撃される。
「ポジトロン・ライフル。エネルギー充填80%」
NERVのオペレーターから定期的な連絡が入った。
(榴弾は防ぐのか。段々掴めてきた)
ミサイルを撃ち尽くした後は183mmライフルに移行する。183mmライフルの砲撃は、迎撃という間接的な防御からATフィールドの直接的な防御に転じさせた。今回は弐号機がいないため、高威力の通常榴弾(HE)を吐き出す。威力はN2兵器未満だろうと、使徒にとって、煩わしい攻撃だった。なお、NERVは劣化ウラン弾を使っているのに対し、榴弾の古典的な砲弾を使用することは、碇シンジ大尉の支援に重点を置く方針が見えてくる。
(ただ撃てば良いんじゃない。1発と1発を丁寧に当てる!)
「エネルギー充填100%!」
「カウントダウン開始…」
ついにカウントダウンが開始された。
「相転移空間防御か。あれは崩せない」
リボルビング・ライフルを投棄して無反動砲に切り替えた。360mmの大口径で有翼の対戦車榴弾を装填し、使徒の外殻を想定したタンデム弾頭は、ATフィールドに阻まれてしまう。
しかし、カウントダウンがゼロに至るまでの時間を稼ぎ切った。
「ゼロ!」
直後にポジトロン・ライフルの光線がジェット・アローンと第六の使徒の間を貫いた。この一撃で苦しい戦いが終わり、人類が総力戦と注ぎ込んだ努力が報われる。光線は見事に赤い球体のコアに突き刺さった。
しかし。
「ダメだっ!」
使徒は一時的に絶叫を上げてガンガゼと化している。しかし、即座に正八面体に戻り、コアを中心に大砲を形成した。第六の使徒は、一定範囲内に脅威を確認した時に排除を試みる。アウトレンジには対応しないわけでもなく、その一定範囲を拡大すれば、ポジトロン・ライフルとエヴァンゲリオンも含まれた。
「間に合わないっ!」
「外したっ!?」
「違う。地磁気が狂った」
これは弐号機パイロットを責められない。地磁気が急変動するイレギュラーが発生した。僅かなズレは遠距離に達すると大きなズレに変化する。なぜズレたのかを研究する間もなく第二射の用意に入った。銃身を強制冷却しつつ、エネルギーの再充填を待つが、予備電源を活用しても74%に留まる。
使徒からカウンターの砲撃が差し向けられた。幸い、特設陣地までは数個の山を挟んでいる。自然が築き上げた山の土砂と岩盤は特殊装甲に匹敵し、分厚い山々のおかげで咆哮は減衰された。特設陣地に達する前に途切れており、一安心するところ、信じられない光景を目にする。
「うそっ!そんな早く!」
「私が守る!」
使徒の再発射までは驚異的な約3秒だ。カップラーメンと時間の単位を間違えているのでないかと突っ込む余裕は皆無である。頑張ってくれた山は半分を刈り取られた。ポジトロン・ライフルの第二射は、決定的に間に合わない。
「なんとか軌道を変えてみせるっ!」
ほぼ同時に2人の声が重なった。アスカは正確に聞き分けている。零号機は大盾を立て防御態勢を整えている。計算上は10秒しか持たないと雖も無いよりかはマシだ。
ジェット・アローンが使徒に特攻を仕掛ける。
「バカァ!」
零号機は予定調和と受け入れられたが、彼の特攻は正気の沙汰でないだろう。第六の使徒の真正面へ躍り出ると、無反動砲の一撃を見舞おうとした。いくらなんでも、真正面に脅威が出現すれば、否が応でも、照準が微妙に狂わざるを得ない。
使徒の反撃は特設陣地に到達したが、零号機と弐号機を捉え切れなかった。零号機の構える大盾に直撃するが、真正面から捉えた当たりでない。10秒は持つのは真正面から直撃した場合であり、上方へ逸れた場合は溶解こそすれど、零号機へのダメージは軽微に済んだ。しかし、盾に直撃した時の猛烈な爆風は、弐号機の狙撃装備を引き剥がす。やむなく、弐号機は通常の狙撃モードに切り替えた。
「どいつもこいつもバカばっかりぃ!」
アスカの世の中の不条理に対する怒りが込められた一撃は、第六の使徒のコアを完璧に捉え、光線が通過した後の使徒は先ほどよりも激しいガンガゼに変わる。鼓膜が破れかねない絶叫の後に内部から崩壊を始めて赤い液体を撒き散らした。
全身が溶けたジェット・アローンを赤く染める。
続く
第六の使徒を撃滅したが、各員の心は晴れやかでなかった
戦略自衛隊とNERVはJA回収作戦を行い、JAの事故を不可逆的に防いだ
碇シンジ大尉も救出している
しかし、碇シンジ大尉は意識不明だ
彼の献身は計り知れないが、生死を彷徨っている
次回 「僕を愛してくれる世界に」
「死んだらダメなんだね」