僕は戦略自衛隊の碇シンジです   作:5の名のつくもの

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僕を愛してくれる世界に

「怒らないの」

 

「なんで?」

 

「あたしのせいでシンジは…」

 

「それ以上言うと、シンジの自己犠牲を踏みにじることになる」

 

「そう…ね」

 

第六の使徒は総力戦の末に撃破された。ポジトロン・ライフルの有用性が実証されるが、無人砲台の壊滅や多量の砲弾、全国中の電力を消費している。人類が滅ぶよりかは圧倒的にマシだ。しかし、その当事者たちにとって悲痛だったのは、戦自のジェット・アローンが大破したことに尽きる。ジェット・アローンの本体が大破することは気にしない。そのパイロットの碇シンジ大尉が高温の蒸気に晒されており、衝撃による打撲や内臓へのダメージも重なった。救助されると直ちに搬送され、緊急手術を受けたが、未だに生死を彷徨っている。

 

「ジェット・アローンは、二号機の見込みが立ったことで、廃棄処分が決まった。誰もいない海へ投棄される」

 

「エヴァに乗り換えることは?」

 

「それは本人に聞かないとじゃない」

 

彼の状況を確認し合うは、NERVのアスカとレイに戦略自衛隊のマナの3名だ。戦略自衛隊の病院ではなく、NERVのエヴァパイロットの病院へ緊急搬送される。ジェット・アローンは、第六の使徒の加粒子砲の直撃を被った。装甲は必要最小限であるが、ギリギリで狙撃が間に合い、複合装甲は高熱に耐えている。

 

しかし、被弾から原子炉が暴走の一歩手前にまで陥った。パイロットの碇シンジ大尉は放射能漏れを危惧する。衝撃で意識が朦朧としながらも、懸命にシステムを動かした。辛うじて、手動による原子炉の制御に成功する。緊急事態用のOSが作動した後は安定を確保した。

 

彼が意識を失う直前にコードを打ち込んでいる。

 

「コードは『キボウ』だってさ。シンジが望んた自己犠牲による未来がこれよ。それを知って謝るつもり?」

 

「…」

 

「碇君は目を開けてくれる。信じるだけ」

 

碇シンジ大尉は、自己犠牲を厭わない。むしろ、自ら進んで選んでいるが故にエヴァ弐号機に託した。そのような背景がある。弐号機と零号機のパイロットより謝罪を受け取ることを拒んでいる。二人のせいでと責め立てることもなかった。したがって、ただひたすらに碇シンジがこの世に帰って来ることを望まざるを得ない。

 

この場で自責の念に駆られるは、弐号機パイロット以外にいなかった。絶好の機会を得たにもかかわらず、ポジトロン・ライフルの初撃を外した。第六の使徒の反撃を許して、ジェット・アローンの大破と少年の犠牲に繋がる。

 

NERVの大人達は「地磁気の乱れ」というイレギュラーを立てた。彼女の帰責性を排除している。マナは先述の通り、少年の自己犠牲を汲み取る。とは言え、弐号機パイロットのアスカは私的な反省が尽きなかった。

 

「NERVには、幻のエヴァが存在する。本当はシンジが乗るはずだった」

 

「あいにく、シンジは碇ゲンドウ司令官の下で戦うことを嫌がった。それもそのはず、自分を捨て、母親の記憶を消した、張本人だから」

 

「仲良くしてほしい。碇君と司令に」

 

この女子3人が揃うことは意外に少ない。3人が繰り広げる話題は碇シンジを中心にコロコロと転がった。特にNERV本部に存在する幻のエヴァこと『エヴァンゲリオン初号機』が占めた。当然と言えば当然だろう。エヴァパイロットのアスカとレイはNERVの仲間と碇シンジを加えたい。使徒戦がエヴァンゲリオンに統一されると、戦いやすいことは否定できなかった。

 

しかし、碇シンジは戦略自衛隊の大尉である。NERVに派遣された身だが、所属自体は戦略自衛隊に変わりなかった。そして、ジェット・アローンのパイロットを貫徹している。乗り慣れた車を手放すことを渋る気持ちと似た。

 

もっとも、本音はまた別にあった。なんせ、実の父ながら自分を捨てて母親の記憶を消し去った碇ゲンドウの下で戦う羽目になる。そんな父親に命じられて戦うことに「御免」と主張することは仕方のないだ。

 

さらに、大破したジェット・アローン一号機の代わりに二号機が建造される。そもそも、彼が搭乗する一号機が試作品の域に留まった。開発の中心人物である時田シロウ博士も「間に合わせ」と認めている。碇シンジ大尉の要望を踏まえた完成品の二号機が拵えられた。彼の献身の甲斐あり、NERVと戦略自衛隊の融和が進み、NERVの研究と技術を導入することで、一号機の短所を無くして長所を伸ばす。

 

「ジェット・アローン二号機がシンジの要望通りに建造される。そうである以上は、NERVへの移籍とエヴァへの乗り換えはあり得ない。私が断言するのも、おかしな話だけど」

 

「エヴァに乗る方が効果的なのに」

 

「でも、碇君は欲しい」

 

綾波レイの言葉は少ないが、自身の感情をさらけ出し、変に取り繕うことはなかった。したがって、常に本音を確認できる。先の言葉は、NERVを代表した内容と思われた。ただし、中学校で青春を過ごすうちに惹かれても、何ら疑うことのできぬ事象だろう。これはアスカも通ずることに留意が求められた。

 

なんせ、碇シンジは、非常に温厚な性格である。人間らしく父親を嫌って苦手にしているが、逆に言うと、父親以外に関しては非の打ち所がなかった。自分を犠牲にして他者を救おうとする姿勢は、決して、褒められるものでない。レイとアスカが彼の決死に救われたことを疎かにすることも許されない。

 

「シンジは渡さないからね」

 

「それは戦略自衛隊の声かしら。弱弱しい女の子の声だったら」

 

「ほ~う。言うようになったね」

 

最初の沈痛は何処へやらだった。中学校では日常茶飯事のシンジを巡ったアスカとマナの女の戦いが始まろうとする。そのような空気を感じ取る危機管理能力から「うっ」と痛みを堪えるような男性の声が響いた。

 

「シンジっ!」

 

「バカが。心配させやがって」

 

「起きたらダメ。安静にしないと」

 

反応は見事なまでに三者三様である。マナ、レイ、アスカの性質をよく表した。マナは同居していることもあって、家族同然と言わんばかりに抱き着いでいる。レイはドクターの注意を噛み締めて安静を指示した。アスカは発した言葉こそキツイが、声色は震えており、沸き上がる様々な感情から大粒の涙がこぼれる。

 

三者に共通することは彼が帰って来たことに安堵していた。

 

「死んだらダメなんだな」

 

「当たり前でしょ! 誰かに必要とされるから生きて、死ぬんじゃないのよ!」

 

「その通りだ。何も言い返せないな」

 

レイは普段の我関せずのポーカーフェイスを貫くことに一種の罪悪感を抱く。

 

しかし、分からなかった。

 

「ごめんなさい。こういうとき、どんな顔をすればいいか、わからないの」

 

アスカが説こうとするのをマナが静止する。

 

「笑えば良いと思うよ」

 

滅多に笑わないどころか、笑ったことが一度もない。綾波レイが笑ったことは歴史に刻まれるべきだ。彼女の笑みは、ニンマリではなく、微かな笑みである。しかし、少年と少女の心が通い合った。レイを控えめに捉えるだろうが、案外と積極的であり、アスカとマナに悟られることなく、少年の手に自分の美白の手を重ねた。肌と肌が触れ合って温もりを感じられる。

 

「僕は生きている。生きてみるのも、悪くないのかもしれない」

 

この後に3対1の説教が行われることは言うまでもなかった。

 

~白き月~

 

「これは予想外だったな」

 

古来から人類が想いを馳せた月にウサギはおらず餅つきも行われない。ウサギの代わりと言っては何だが、美麗な少年が全裸姿で恐ろしく巨大な人形の指先に立っていた。彼の表情は苦笑いに該当して、実際に困惑を示している。

 

「円環が切れたと思えば、ここまでのカオスを生み出すとは予想外だった。もはや、僕が介入することは不可能だよ」

 

軽く背伸びを挟んだ。

 

「君はどう生きるのかな」

 

続く




この世に生還した碇シンジ

戦略自衛隊とNERVから最大の賛辞が贈られる

ジェット・アローン二号機は建造中だった

皆を労ってか温泉旅行が用意される

疲れを温泉で癒してもらいたい

次回 「温泉パワーで命を洗う」

「なんで一部屋なんですか!」
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