「ミサトも来れば良かったのに」
「後始末が忙しい。とても、来れなかった」
「そうみたいねぇ。それより、シンジの湯治も兼ねてるんだから。ここに入ってきなさいよ」
第六の使徒を撃破した後にNERVのアスカとレイは休暇を与えられた。さらに、戦略自衛隊の碇シンジも湯治と称して療養に入った。各員の交流を深めて連携力を強化することを狙い、アスカ、レイ、シンジの3名で温泉旅行に出かけている。第六の使徒を殲滅したことに第四の使徒、第五の使徒も考慮に入れた。旅行費用に関してはNERVが全負担している。現地での買い物については自費であるが、命を賭す仕事のため、3人ともに高給でたっぷりの現金を有した。
本当はゆっくりと観光したいところである。あいにく、セカンド・インパクトの影響や第三新東京市の防衛により、いわゆる観光地は大幅に制限された。下手に動くことも危険と考え、温泉旅館で療養に努めることを選択する。五体満足のアスカとレイは、シンジに負い目を感じていた。彼が穏やかに過ごして心身を癒すことを優先する。しかし、天然温泉で「極楽」な2人と対象にシンジは「神妙」だ。
「どうして貸切の混浴なんだ」
「そりゃ、女将さんの好意なんだから」
「ありがたく受け取るべき」
この場に限っては、アスカとレイが絶対的な優位に立っている。なぜなら、天然温泉は貸切な上に混浴だ。彼らのお世話になる温泉旅館は、NERVが予約した際に3人が人類の救世主と知るや否や、彼ら1組で締め切っては豪華な部屋、料理、天然温泉の全てを貸切に設定する。この対応に恐縮に恐縮を覚えるが、純粋な好意である以上は、素直に受け取るが礼儀だった。
シンジは貸切こそ歓迎する。しかし、天然温泉が混浴というのは震えた。戦略自衛隊より強者のイメージを有するが、所詮は14歳の少年であり、母を知らず愛に飢えている。混浴と聞いて尻込みしては勇気ある撤退を選んだが、アスカとレイに退路を断たれた。混浴のため水着を着用することをお願いしている。日本は古来より「裸の付き合い」が存在するが、あくまでも、同性同士で異性同士は不純だった。
なお、葛城ミサトらNERVの大人は3人の交流に不介入である。
シンジがいなければ死んでいた。こうして、日本の温泉を楽しめるのは、シンジのおかげなの。私のエヴァ弐号機だけで勝てると思っていた。それは傲慢だって、こっぴどく叱られた。最低でも2人じゃないと勝てないことを学ばされた」
「碇君から学んだことは多い。私も碇君と過ごしていることが嬉しかった」
最初から共闘しているアスカは「自分一人で勝てる」の自信を打ち砕かれる。シンジの支援行動や思い切った行動に助けられ、指揮官のミサトには幾度となく叱られた。
レイは第六の使徒戦が初の実戦だったが、シンジと中学校のクラスメイトに過ごす。クラスの中では孤立していた。彼が転校してから交流が広がり、今まで知らなかった人の温かみを教えてくれる。一緒に過ごすことが嬉しく、心がポカポカする。
2人がシンジと共に命を懸けて戦う戦友であることを加えて、特別な感情が芽生えることは何ら不思議でない。しかし、彼にはマナという家族がいた。彼女はアスカとレイを否定しない。むしろ、正妻の座を巡って競争することを(それとなく)表明した。
「ほら、座って。肩をもんであげるから」
はたして、心労の多い旅が療養になるかわからない。彼を半ば無理やりに座らせ、両肩を揉もうとした。流れに身を任せた方が心労が減ると諦めた瞬間に背中に男の幸せを覚える。
「ちょっ」
「こうさせてよ。馬鹿なシンジ、アンタが帰って来てくれて、本当に安心して、泣きたくなる」
最後にかけてか細くなったが、ハッキリと耳に入っている。なぜなら、彼女は両腕をシンジの首に回して、背後から抱き着く格好であり、至近距離で聞こえない筈がなかった。
アスカの根幹は弱い少女だろう。碇シンジはこの世の異常と言って差し支えない。初対面は第四の使徒戦であり、そこから両者の交流がスタートした。第五の使徒戦と第六の使徒戦を通じて協同を確立する。プライベートも中学校生活を共にした。お互いに衝突することはあれど、彼の芯の強さに気付かされる。彼の自己犠牲の精神は決して褒められるべきことでなかった。ただし、ここぞという時に己の生を顧みない姿勢は大人にも出来ない真似である。
さてはて、彼の特攻を真似できる大人がいるだろうか。
「ごめん。あの時は必死だったんだ」
「わかってる。でも、馬鹿して死なないでよ。お願いだから」
なかなか本心を曝け出さないが、遂に伝えてしまった。孤高を纏わせる彼女は虚勢に過ぎない。真なる気持ちとしては、傍にいてくれる人を欲した。概して、人は親友や伴侶などの永生をを共にする人を要する。一匹狼なんて例外は存在すれど、ただでさえ、大変な世の中では極めて稀有だった。
「…」
後ろから女性の武器を押し付けるアスカを見る。レイは出遅れたことを認識した。確かに、彼女の方が積極性に勝るが、退いては自ずから敗北を認める。やむを得ないことだが、使徒戦も出遅れてしまった。この差を縮めなければ、マナ、アスカと繰り広げる競争に打ち勝つことは到底不可能である。
ただし、彼女なりに疑問は残された。
(どうして、私は碇君が奪われることが嫌になの。そもそも、なぜ私は碇君と一緒に生きたいの)
普段のポーカーフェイスの黄金仮面は崩さなかった。彼女の感情の変化を外から察することは至難の業である。完全に2人の世界に入り込んでいるアスカとシンジは、綾波レイの嫉妬心に全く気付けなかった。
(私は碇君と生きてみたい。一緒に生きて欲しい。だから、私はエヴァンゲリオンに乗る)
疑問に対する答えは自力で導き出した。綾波レイが自分で生きる意味を見出したことに注目される。他者から与えられていなかった。契機こそ碇シンジの存在であるが、彼と共に生きることに生を見出している。
これは大きな成長と評価できた。
さて、温泉から上がった3人は用意された部屋に戻る。
碇シンジの率直な感想は絶叫に等しい。
「なんで一部屋なんですか!」
男女の混じる旅行の場合は、家族を除き、最低でも2部屋に分けた。しかし、今回は大きな部屋の一部屋である。布団も3人分がピッタリと密着するように並べられた。旅館の方々は何を予想しているのかと沸々する。
残念ながら、テーブルに並べられた野菜を主とした料理の前に消えた。この世界では肉や魚が存在せず、合成肉という再生品が使われる。どうしても、再生肉は物足りなさを強いられた。したがって、野菜等の栽培できる食材を中心にメニューが組まれる。主夫力が高くて料理の腕前がプロ並みのシンジでさえ、心の底から驚嘆する料理の数々だ。
「ふ~美味しかったぁ。いつも購買やコンビニのものを食べてるから」
「そうなんだ。てっきり、自炊しているかと思ってたよ」
「自炊できるならね。ミサトに作ってもらうことは自爆と一緒よ」
噂程度であるが、NERVの葛城ミサトの生活力は「壊滅的」と聞いた。居候しているアスカが掃除や洗濯をしている。彼女は料理については簡単なものしかできず、学校やNERVにお弁当を持参しなかった。食事は学食や社食、コンビ離を利用して賄う。
「僕がお弁当を作ろうか?綾波の分も含めてさ」
「じゃあ、お言葉に甘えちゃう」
「嬉しい」
(嵌められた気がするけど、料理は好きだからいいや)
室内で様々な話を咲かせる内に夜は深まった。寝る時間になると寝間着に着替えて布団に埋まる。旅館の布団は清潔な上にフカフカした。気持ちの良いことこの上ない。
グッスリと眠れそうだが、レイが爆弾を投下した。
「今夜は寝かさないから」
続く
外国のNERVへの特務を終えて帰国した者がある
しばらくの自由時間を得た職員は外部と接触を図った
「三足の草鞋は辛いよ」
「戦略自衛隊を裏切ってもらっても構いません。ただ、シンジに…」
「分かっている。彼には幸せになってもらう。それが代理人の務めだ」
その職員の正体は…
次回 「帰国と接触」
「限りなく神に近いエヴァンゲリオン。主をどうするつもりだ」