僕は戦略自衛隊の碇シンジです   作:5の名のつくもの

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アンケートは締めきりました。

回答ありがとうございました。


心の中に

~死の海~

 

「ありがとう。ジェット・アローン一号機」

 

「大尉まで付き合う必要は無かったのに」

 

「いえ、一号機を大破させたことは、僕に全責任がありますので」

 

赤い海が広がる。

 

赤い海には戦略自衛隊のおおすみ型輸送艦がいた。ジェット・アローン一号機の廃棄処分を担当して海に沈めている。一号機は、第六の使徒戦に投入されて加粒子砲の直撃を被った。全身の装甲が融解し、大破の判定を受ける。動力源の原子炉も廃炉が決定される。ジェット・アローン一号機の復帰は見送られた。

 

時田博士が自ら述べた通りであり、ジェット・アローンの一号機は間に合わせに過ぎなかった。大本命の二号機建造の目途が立ち、一号機は廃棄処分にして圧縮を図る。

 

普通は解体してスクラップにするところだが、戦略自衛隊は、一号機がNERVに奪われることを危惧した。NERVは、ジェット・アローンが想像以上に活躍したことを評価している。碇シンジ大尉の引き抜きと同時並行して、エヴァンゲリオン用強化パーツに転用できないか画策した。仮に一号機が普通に退役となれば、必ずや、譲渡を持ちかけてくる。

 

したがって、永久的に使用不可能とするべく、赤い死の海へ投げ込んだ。

 

「生命の無い海に投棄することは、穏やかに眠れるかもしれません。しかし、生命のある海は、数多の命を育むこともできる。はたして、どちらの方が良いのでしょうか」

 

「シンジ大尉はロマンチストだな。私みたいな技術者が考え付かないことを考えられる」

 

「そんなでもありませんよ、僕はただ責任を痛感しているだけです」

 

甲板上に碇シンジ大尉と時田シロウ博士が立っている。ジェット・アローンを操縦する者と開発した者が並んだ。時田博士は、一号機が大破したことを一切咎めなかった。あくまでも、本命は二号機であり、一号機は捨て駒に等しい。しかし、碇シンジ大尉が存分に暴れ回ったことを嬉しくも思った。時田博士はクセの強い理系の人間であるが、未来のある少年を守り切った一号機を称賛して誇りにする。

 

「もっと、上手にやれなかったか。反省は尽きることがありません」

 

「その向上心があるから生きて来られた。少しでも、図に乗った瞬間に淘汰される。この世の中の摂理なのだろう」

 

「二号機はどうですか?」

 

しんみりとしてきたので、少年から空気を転換する。博士は二号機の開発と建造に集中した。1日も休むことなく働いている。あまりのオーバーワークを心配する者は多いが、博士は「シンジ大尉が命を賭して戦っているのだ」と叱り返した。どんなに、一癖も二癖も三癖もある人物と雖も、子どもを犠牲にすることに罪悪感を覚える。

 

「皮肉なことに、NERVから技術供与を受け、やっと『JAリアクター』を完成させている。冷却水を不要にすることで活動範囲を格段に広げることができた。装甲材も最新型に変えているが、大尉の希望通り、必要最小限の軽量化を徹底したよ」

 

「武装はどうなりますか」

 

「一号機から大幅に拡張性を増した。背部に武装コンテ用のラッチを追加している。任務の性質に応じた多種多様な武装を携行できるから、ミサイルもよし、無反動砲もよし、カノン砲もよし、何でも持てるはずだ。流石にポジトロン・ライフルは無理だがね」

 

「何から何まで、ありがとうございます」

 

誰もが思うことである。碇シンジは本当に14歳なのか疑いたくなった。彼の紳士さは、戦略自衛隊仕込みを排しても、立派だろう。最も驚いたのはNERVの職員だった。父親の碇ゲンドウと真反対の性質にひっくり返る。彼の人柄もあって、NERVは引き抜きに本腰を入れる。最近はエヴァパイロットを介した勧誘に余念がなかった。

 

「私は長く生きられないと思っている。よって、碇シンジ大尉が生き抜いていけるように手を打つよ」

 

急に何を言うのだろうと怪訝に思った。

 

博士の自虐的な薄ら笑いを見て、真意の汲み取りに努める。

 

「世界中に宝箱を撒こうと思う。そこに君が欲しい物を置いていく」

 

~合同墓地~

 

第三新東京市から離れた所に合同墓地が設けられた。未曾有の大災害であるセカンド・インパクト等により、荼毘に付されることもなく、この世を去った者が形だけの墓に弔われる。平地から丘まで一面に広がる墓の数々からセカンド・インパクトの甚大な被害を理解できた。

 

その一つに碇シンジ大尉が立って花束を置いている。

 

「記憶にすらない実の母。碇ユイ」

 

彼の目線の先にある金属プレートには「碇ユイ」と刻まれた。苗字から察せられるが、碇シンジの実の母に違いない。彼の幼少期に事故(?)で母を失った。あまりにも小さかったことに加えて、実父が碇ユイ関連を消去したことで、彼の記憶には微塵も残っていない。

 

「NERVの諜報部の人は優秀だね。僕の動きは全部筒抜けなんだ」

 

「あぁ。お前は要監視対象になっている。戦略自衛隊にいようと関係ない」

 

「数年ぶりがそれか。少しも期待してなくて、よかったよ」

 

そして、少年の背後にはサングラス姿の成人男性が立った。その男は碇ユイの夫にして碇シンジの父たる碇ゲンドウである。たとえ、感情の無さそうな冷血な男でも、心から愛した女性は忘れていなかった。普通の父は子を愛するはずが、彼は子を愛せなくなる。

 

そのような真似をするため、子から事実上の絶縁を叩きつけられる。NERVへの召喚は届くことなく、ライバル組織の戦略自衛隊に逃げ込まれた。さらに、自身の切り札に据えたエヴァンゲリオンの対抗馬であるジェット・アローンを操る。碇シンジ大尉を知った時は珍しく動揺したと伝えられた。

 

「母さんに関連する物は全部処分したもんね」

 

「心の中にしまっておけばいい。物を残していると、嵩張るだけだ」

 

「心の中にしまっておく。幼い息子を捨ててまで」

 

一種の憎みを向ける相手を「父さん」と呼ぶことは、碇シンジなりに礼儀正しいを貫く努力の賜物だ。今すぐにでも、殴りたい気持ちを抑圧する。実の父親から受けた仕打ちは、非情が不適切に思えるぐらいに酷悪を極めた。

 

「大人になれ、シンジ」

 

「自分の愛した人を失った悲しみは分かるよ。でも、自分の子どもを捨てるような大人にはなりたくないな」

 

凄まじいカウンターパンチである。

 

父と子が衝突している頃に一大事が収束を迎えた。

 

~港~

 

「シンジ君を呼ばなくてよかったの?」

 

「だって、母親の墓参りに行っているんでしょ? 母親と会う時間を奪うなんて、レディーどころか人として気を遣えてないじゃない」

 

「大人になったわね。アスカ」

 

つい先ほどまで、エヴァ弐号機と第七の使徒の戦闘が行われた。海を瞬時に凍らせて海から侵攻を試みた第七の使徒は、大型輸送機から空中投下された弐号機とアスカによって撃破されている。

 

アスカの技量と使徒の油断から最も容易く撃破した。なお、港にはレイの零号機が待機して不測の事態に備える。応援役に碇シンジ大尉を呼んでも構わないが、彼は最愛の母のお墓参りに出かけた。アスカは単独の撃破を頑なに主張する。現地の指揮を執るミサトは彼女の気遣いを汲み取った。

 

「だって、中途半端にいた方が辛いでしょ。最初からいなかったとは違う」

 

「そうねぇ。中途半端に残っている方が辛いのよ」

 

「あっ」

 

「いいの、いいの。変に気遣われるのも嫌だから」

 

アスカは「しまった!」と詰まらせた。ミサトはひらひらと手を振っている、ミサトもまた親に関して複雑な過去を抱えていた。どうも、NERVを構成する職員は、何らかの複雑で難解な過去を持つらしい。

 

なんだ、採用の条件になっているのか。

 

「あの父と子が仲良くしてくれたら」

 

「無理でしょ」

 

続く

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