碇シンジ大尉は、前回の使徒戦の情報共有のため、NERV本部を訪れていた。第六の使徒は、想像以上の難敵であり、使徒が学習していることを示す根拠となっている。したがって、使徒に対抗するためにはどうすればいいのかを検討した。
そのような研究会が終わり次第に碇シンジ大尉は休憩スペースでくつろいでいる。
そこへ、とある職員が接触を試みた。
「君が碇シンジ大尉だね」
「えぇ、あなたは…」
「おっと、こいつは失礼してしまった。俺は加持リョウジ主席監査官という。まぁ、葛城たちと同列の職員になるかな」
「はぁ、お初お目にかかります」
シンジ大尉は、年齢不相応に梅ジュースを飲んでいる。そこへ缶コーヒーを手に持った加持リョウジ主席監査官が話しかけた。あいにく、シンジ大尉は、彼が直近に帰国した切れ者であることを知らない。ましてや、ベタニアベースにいたことは知る由もなかった。
「大尉の活躍は知っているよ。なにやら、エヴァンゲリオンと互角の戦いぶりだってね」
「それは買い被り過ぎです。僕はエヴァと共闘しなければ、使徒を撃破することができません」
「それはそれで謙遜し過ぎている。自分の功績は素直に認めるべきだな」
変によそよそしかったりする大人と異なり、加持リョウジは、非常にフレンドリーに感じられた。人によっては苦手意識を覚える。しかし、シンジ大尉は「珍しいタイプの大人だ」と歓迎している。グイグイ来るのとは違うようだ。
「そんな君にお願いというか、お手伝いを頼みたい」
「お手伝いですか?僕にできる範囲なら…」
「いや、そんなに大事じゃない」
初対面の人にお手伝いをお願いされるとは驚いた。もっとも、これも交友関係を広げる良い経験と受け入れる。もちろん、罠である可能性は否めなかったが、腰にはFN社ブローニング・ハイパワーを携えている。
そうして、加持リョウジ主席監査官に連れられた先には、こじんまりとした農園が広がっており、NERVが地下帝国と展開する中に小さな農園があることは驚きを隠せなった。なぜなら、最新式のコンピューターとAIが管理する水耕栽培ではない。古き良き土を使った農園故に驚きが連鎖する。
「すごい。丸々としたスイカが生っている」
「おぉ、よく知っているな」
「戦略自衛隊は勉学に関して制限がありません。暇な時間は自主学習に充てていたので」
「素晴らしい。やっぱり、シンジ大尉は並みの子どもじゃないな」
その農園では様々な野菜と果物を栽培した。今回の収穫対象は、丸まると大きく生ったスイカだった。緑色と黒色のシマシマ模様が特徴的な野菜であり、その甘さから来るイメージより、果物と思われるが、厳密には果物と分類された。
セカンド・インパクトを経て人類に限ることなく、多くの動植物が絶滅やその危機に瀕している。したがって、種の保存を図ることは大変に重要なことと言えた。加持リョウジ主席監査官は、暇を見つけては、農園で世話を惜しまない。
「でも、どうして、このような栽培を」
「何と言うか、愚かな人類の行為によって、多くの罪なき命が奪われること。それが受け入れられなかった。そして、後を生きる者が復活させられるよう残しておきたいんだ」
「すごい、将来を考えている」
「まぁ、これでも、数十年は生きている身だからな。セカンド・インパクトも経験しているよ」
これには返しようが無かった。碇シンジは、セカンド・インパクトの後に誕生した。年長者の経験は知る由も無い。また、一般に伝えられることは、都合の良いことや嘘偽りで塗りたくられた。幸いなことに、彼は戦略自衛隊で真実を知っている。NERVとの関わりから情報は幾らでも入手できた。
「それに俺の生きる証を残したくもある。どうせ、長くは生きられないからな」
「そんなことを言わないでください。僕がジェット・アローン二号機で戦いますから」
「それを聞いたら嬉しくなるよ。君の抜群の操縦センスと勘の良さは、エヴァのパイロットを突き放した」
「いやぁ…」
スイカの手入れに汗を流すが、加持リョウジは再び頼みを送った。
「なぁ、シンジ君」
「はい」
「また頼んでもいいかな?」
「えぇ、あくまでも、僕にできる範囲に限られますが」
今度はお茶らけた空気ではなかった。誰よりも真剣な眼差しで男の約束を結ぼうとしている。碇シンジも14年を生きているが、男の約束と言うのを知っていた。戦略自衛隊の直の上官から「生きろ」と約束を結んでいる。
「俺と葛城は腐れ縁で色々とあった仲なんだ。葛城には迷惑をかけてきた。多分だが、これからも迷惑をかけ続けるだろう。碌でもない男なことは自分で承知しているが、最期くらい、自分で未来のある者達のために死にたい」
スラスラと淀むことなく一方的に伝える。シンジは真っ直ぐな思いを受け止めた。特に目立った反応こそ返さない。彼の両眼は土に汚れた大人を捉えて離さなかった。その大人は苦笑を挟んでから本題を告げる。
「どうか、葛城を守ってやってくれ」
男の約束はこの世の万物よりも硬くあった。
加持リョウジから農園のおすそ分けを頂き、シンジは自宅に戻るが、リビングで寛ぐ者はクラスメイトで戦友だった。
「お帰りなさい。碇君」
「早かったのね」
「なんで2人がいるんだ…」
リサイクルショップで購入した椅子にレイとアスカが仲良く並んで座っている。別に来ること自体は構わないのだが、予め連絡を受ければ迎える準備を整え、快適に過ごしてもらえた。
そうは問屋が卸さないと言わんばかりにレイとアスカは共謀する。普段の私生活のプライベートを知りたく思った。戦略自衛隊は基本的に寮生活だが、シンジとマナは特例中の特例を適用され、第三新東京市の中心部にある古アパートに住んでいる。
どんな暮らしをしているのか知りたくないわけが無かろうに。
「言ってくれたら…」
「あぁ、ミサトには言ってあるから」
泊まることを言う対象が絶対に間違っているが、注意しても意味が無いと遣る瀬無く項垂れた。キッチンの方からマナが出てくる。彼女に助けを求めようとするも女子の団結力を甘く見てはならない。
「わたしは大丈夫だから。タオルやパジャマのアメニティは揃ってる」
「そう言う問題じゃないの…」
まさに四面楚歌でである。抵抗は無駄と渋々を重ねて了承せざるを得なかった。シンジは友人を招くことを想定し、アメニティは一通りに揃えている。マナも女子会を想定して揃えることを忘れなかった。シンジの用意でカバーできない範囲を担当した。しかし、レイとアスカが泊まりに訪れることは想定を超えている。
「別にいいじゃない。草津温泉で身体を寄せ合った仲だし」
「アスカの言う通り」
マナのムッとした感情の空気を感知した。なるほど、レイとアスカ、マナの3名は決して一枚岩でないらしい。巻き込まれは御免のため、生鮮の食材を持っていることを建前に掲げ、冷蔵庫と冷凍庫のあるキッチンへ退避した。
「今日は大皿料理を作った方が良さそうだ」
「大皿料理だってさ」
「再生肉以外だったら」
綾波レイは再生肉を苦手とするため、学校へ持って行くお弁当まで、野菜を中心にしている。野菜だけでは健康は得られても、食事の満足感や肉体に染み渡るパワーは得難かった。ここは碇シンジの料理の腕が求められる。
「これだけは聞きたいんだけど」
「なに?食物アレルギーはないわよ」
「同じく」
食物アレルギーの確認は非常に重要である。食材はもちろんのことドレッシングや調味料に含まれることがあった。
「それもそうなんだけど、ミサトさんの家から逃げてきたよね」
「…」
「詳しく聞かせてほしいな。NERVだと完璧な人だから」
アスカの反応からしてミサト宅の居候が辛い事を察した。
続く