「第七の使徒には間に合いませんでしたが、完成した状態でジェット・アローン二号機を収めています。これもNERVの皆様のご協力のおかげです。ありがとうございました」
時田シロウ博士は、ジェット・アローン二号機の完成に際し、技術を供与してくれたNERVから葛城ミサトと赤木リツコの両名を招いた。実物を前にしながら感謝を伝えた後は二号機を説明する場を設ける。戦略自衛隊とNERVの関係は、決して良好と言い難かった。とは言え、使徒と言う共通の敵を前にして反発し合うことは、何ら意味のないことであり、碇シンジ大尉を介することで交流を深めた。
「世辞は結構です。問題は二号機が戦力になるかどうか」
「これは手厳しい。確かに、ジェット・アローンはエヴァのように超常的な力は発揮できません。使徒のATフィールドを破ることも叶いません。しかし、JAリアクターだけは胸を張らせていただきます。二号機も稼働期間は最大で150日と長く確保でき、原子炉でないため、放射能汚染を引き起こすことは起こりません」
「エヴァはATフィールドを張れますよ」
NERV側からの指摘は、鋭いことこの上ない。厳しい指摘が飛んでくることは容易に予想できた。ありとあらゆる質問を想定し、個々に対応する返答を用意してある。NERVのエヴァの強みと弱みを理解していることも大きかった。
「私がジェット・アローン二号機に込めた名称。それは『希望』でした。ATフィールドなどの足りぬところはあります。しかし、この機体には人類の希望が込められました。エヴァもそうですが、人類にとって、希望は捨てられない」
「結局のところ、エヴァの方が有効ではありません?」
時田博士の返答が悪手に聞こえるかもしれない。
しかし、彼はニヤッと笑った。
「ATフィールドの用意は完了しています。私が思うに、碇シンジ大尉から実現できるものです。ジェット・アローン単体の無人運用では、到底不可能でしょうが、彼の希望による奇跡を信じています」
「碇シンジ大尉の価値について、全面的に同意しましょう。彼は素晴らしいパイロットです」
「ATフィールドのことは、正直言って、まだわからない点も多くあった。時田博士の仮説もNERVの仮説もどっこいどっこいです」
永遠とライバルと言うべきなNERVと戦略自衛隊は、使徒殲滅の主役を巡って静かなに火花を散らした。NERVとしては使徒殲滅を独占して戦略自衛隊の介入を防ぎ、日本国政府や国際連合のテコ入れを阻むことが求められる。あいにく、エヴァンゲリオンは運用上の制約が足を引っ張り、使徒の学習と進化によって苦戦を余儀なくされた。そこへ戦略自衛隊のジェット・アローンが支援を建前に掲げ、見事な大立ち回りを演じている。
「そもそも、奇跡はエヴァンゲリオンが起こすこと。それ自体が誤りではありませんか」
「どういうことですか?」
「エヴァンゲリオンは、神と使徒を模倣することにより誕生した。このように聞いています。しかし、ジェット・アローンは、人の手によって作られしモノです。奇跡は人が培った知恵と工夫に依るべきであり、神と使徒を模倣したモノが起こすべきとはなりません。つまり、奇跡は人の手により作られたモノでなければならない」
時田博士は淀みなくスラスラ答えた。
NERVのエヴァの真実は秘密扱いである。ただ、幾らかは漏れても仕方なかった。エヴァンゲリオンは、神の産み落とした使徒の複製を試みて建造される。使徒を撃滅できる力を得るため、使徒を倣うことは最も手早く、かつ簡単な手段だ。しかし、日本には「言うは易く行うは難し」とある。使徒のコピーは苦難の道のりが続いた。
ようやく、完成したエヴァンゲリオンは、聞かん坊で困り果てる。大人の職員は変わらず苦しめられた。エヴァがパイロットと共鳴した際の戦闘力は、カタログの性能を突き抜け、使徒が使用する無敵の盾こと、ATフィールドの展開も可能だった。まさに、人類の用意した切り札になろう。
これに対抗するジェット・アローンは、良くも悪くも、ロボットに括られた。使徒に対抗できるパワーは有するが、所詮はロボットの故に超常的な力は発揮できなかった。さらに、ATフィールドの展開も「ジェット・アローン単独では不可能」と時田博士が自ら断言される。
これは有人運用で碇シンジ大尉が乗ることで反転した。
「あくまでも、私の私見ですが」
「あんた、なんで、掴めないっ!」
「僕の専門は柔術だからね。ジェット・アローンが弾を撃ち尽くした時は、まったくの徒手空拳となるでしょ。その時を想定しているんだ」
中学校の武道場を間借りしている。アスカ、レイ、シンジの3名は武術の訓練に汗を流した。パイロットの肉体と精神を強化することは、持続的な戦闘力の向上に繋がり、健康の観点からも好ましいことだろう。
アスカは、軍隊とNERV上がりのため、エヴァに通ずる格闘技を嗜んだ。レイは、長らく休んだ事情があって軽めの運動に抑える。シンジは、戦略自衛隊仕込みの中でも、古くからの柔術を選択し、徒手空拳の戦い方を叩き込まれた。
ジェット・アローンは全身に実弾兵装を満載する。主に中距離支援の機体と運用された。全ての実弾兵装を撃ち尽くすことは考えにくい。あいにく、使徒はATフィールドを張った。実弾を無力化されては直ぐに撃ち尽くす。要は徒手空拳となるため、柔術の武器を使わない戦い方を学んで損はなかった。
「こうして、攻撃を受け流したりする。さすがに、ジェット・アローンはできないけど」
「碇君が優位にある」
レイに審判役を頼んだ。第三者の視点からは碇シンジが有利と見えた。アスカの格闘技が下手とは評価しない。普段から落ち着き払うシンジが冷静に対処できるだけだ。アスカは自身の思い通りにいかないとイライラを覚える節がある。
「ここっ!」
「それは僕の誘いだけど」
「あっ!」
シンジの軸となる足を払って倒そうとした。アスカは彼の撒いた罠に引っ掛かる。そもそも論だが、互いの武が異なるため、この勝負に対してアンフェアが呈された。使徒との戦いは、アンフェアどころの話でない。ありとあらゆる不公平を押し付けられる。この戦いはアンフェアを承知の上で行われた。れっきとした真剣勝負なのだ。
「これで一本かな」
躱されると同時に畳へ倒される。しっかりと受け身をとったおかげで怪我はなかった。彼女は敵が多数で己が単独の格闘戦も対応している。しかし、碇シンジ大尉は彼女を上回った。武道場の畳を戦場に見立て、対アスカの戦略を組んでいる。
ここから先は寝技に移行するところ、いくらなんでも、中学生の女子生徒と男子生徒が寝技を掛け合うことは不純と断じられた。血のつながった家族の間柄でない限りは認められない。シンジは離れようとしたが、柔道着に違和感を覚える。汗などの汚れから異臭を生じさせない。抜群の主夫力を以て清潔を維持した。彼が言うには「衣服の汚れは心の汚れ」らしい。
「とんでもない。試合はまだ終わってないわ」
「すぅ…」
「レイ」
シンジの柔道着は、アスカの受け身からガッシリと掴まれた。そろそろ外してもらいたいが、アスカはニッコリを笑っている。そして、寝技の練習を始めることを宣言した。シンジは全てを察して息を吸うことしかできない。
「認めます」
「という事で…第二ラウンドに入るわよ」
審判の綾波レイが認めたため、寝技の掛け合いに移行せざるを得ない。
この後は逃げに走るシンジと攻めを徹底するアスカという激戦が繰り広げられた。
続く