もう、滅茶苦茶です。
第三新東京市は火薬の薫りに包まれた。
「化け物めぇ…」
「NN地雷だぞ!核に匹敵する通常兵器を受け付けんのか!」
立体モニターと大モニターを真剣に見つめるは、軍服姿の戦略自衛隊のお偉いさん方である。彼らを含めた誰もがモニター越しに不気味な二足歩行の化け物を睨んだ。その化け物は、正規軍の戦闘ヘリや戦闘機を片っ端から撃墜する。地上の戦車や自走砲を踏みつぶして回った。ついには、切り札であるNN兵器を使用するも、化け物にはかすり傷すら与えられなかった。
「もう十分だ。秘密協定に基づき、使徒戦に係る全ての指揮権をNERVに移譲する。ただし、ジェット・アローンについては別だ。君たちのエヴァンゲリオンと共同作戦を固持させてもらいたい」
「どうぞ、ご自由に。我々はエヴァンゲリオンこそ、人類存続の切り札と認識している。これからはNERVが第四の使徒殲滅の指揮を執る」
「お互いに、お手並み拝見といこうじゃないか。碇ゲンドウ…NERV司令よ」
軍服を着たお偉いさんは、十人十色で口惜しさをこぼした。昔から正規軍のプライドが存在する。しかし、一人だけは泰然自若としていた。自分達よりも上段に位置している男こと、NERV司令の碇ゲンドウを見定めている。
「エヴァンゲリオン弐号機の発進を急げ。零号機は待機させろ」
「了解。弐号機の発進を急ぎます。零号機は待機を維持します」
「エヴァンゲリオンか。果たして、彼のジェット・アローンと協同できるだろうか」
世にも奇妙な共闘が開幕した。
山には巧妙に偽装された仮設の待機所がある。旧日本軍の時代から周囲に溶け込む偽装は得意だった。迷彩ネットや実物の草木を混ぜ、遠距離からの識別を困難にしているが、もう必要なくなったようである。
「第四の使徒は、依然として、NERV本部に侵攻中です。そして、ちょうど…」
「こっちでも確認した。第四の使徒と共闘の命令だね。今日は、ぶっつけ本番だから仕方ないか。本当は、入念な打ち合わせや時機合わせをしたかった」
「ま、いいじゃん。NERVに見せつけちゃいな。シンジ大尉のジェット・アローンをね」
待機所から迷彩ネットを脱ぎ去るロボットを見られた。だらんと垂らした両腕はなで肩に繋がっている。両肩には外装式と思われる武装がタンマリと連結されていた。
「少なくとも、NERV側のエヴァンゲリオンが出て来るまでの時間は稼ぐよ」
山を蹴飛ばして大跳躍する間に化け物の正式名称は『使徒』と判明している。平和な街から戦場と化した第三新東京市は、日本国の首都機能を有しており、相応に街は発展してビルなど建物は多くあった。着地に失敗すれは致命的な隙を見せようが、ロボットは空中でねじりを含めた一回転を挟んで綺麗に着地している。
「丁度いい時に来てくれた」
ロボットの左前方に赤い塗装のロボット(?)が勢いよく出現する。下から出現したことから地下に陣取るNERVの機体と推定された。赤色の目立つ格好は軍人視点からは好ましくない。戦場で目立つというのは被発見のリスクが高まった。もっとも、仲間内での識別が容易な利点も指摘でき、あながち、間違いと断じることはできない。
「聞こえるかな。NERVのエヴァンゲリオン」
「随分と若いのね。そっちのパイロットも」
「聞こえるなら良いよ。自己紹介したいところっ!」
戦略自衛隊とNERVの共闘について、確認する間もないようだ。第四の使徒は光の槍を放ってくる。あの一撃は、戦闘機や戦闘ヘリを撃墜した対空砲火を為した。回避に専念すると思いきや、ハラハラドキドキの観戦者をアッと驚かせる。
「ちょっと!いきなり!」
「それに答えている余裕がないんだっ!」
「だとしても、使徒には効かないの!そんなポンコツじゃね!」
「それで結構!僕の仕事は使徒を固めることにある!豊富な実弾兵装はこのためにあるんだから!」
地下帝国のNERVも地上の状況を把握した。NERV側とすれば、戦略自衛隊の切り札に期待は皆無である。しかし、操縦者の卓抜された技量と冷静な判断に賛辞を贈りたくなった。使徒を撃滅するため、人類は叡智を結集させる。そして、使徒殲滅を専門とする組織のNERVが誕生した。高度な自治権を有して、いかなる、組織から束縛されない。NERVは、人智の範疇を超えた存在を創出した。使徒に対抗できる唯一無二の決戦兵器を送り出している。
それこそ…
「汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオンの弐号機か。パイロットの技量も申し分なく、ジェット・アローンが大きく見劣りすることは否定しない。だが、我々も戦略自衛隊の意地があるのでな」
「上手い!」
「通常兵器は通用しない。使徒はATフィールドを持っているのよ」
臨場感の溢れる大画面では、ジェット・アローンが「移動式火薬庫」の異名を証明していた。肩には短射程ミサイルの多連装発射機を装備している。しかし、使徒に通常兵器は通用しなかった。ATフィールドと呼ばれる無敵の盾がある限り、ノーダメージの理不尽を押し付けられる。
「そんなことは、百も承知している。だから、我々はNERVのエヴァンゲリオン、ジェット・アローンの協同を提案した」
「白状しましょう。私たちはお荷物になると思いましたが、これなら、エヴァのサポート役になります」
「上手いものね。ただ、ATフィールドを使うまでもないと認識すれば。流石に危ういのでは?」
「全て織り込み済みだ」
ミサイルの猛射を受け止めた使徒は、爆炎の隙間からジェット・アローンを捕捉する。再び光の槍を突きだそうと試みるが、背後からの強烈な敵意を感じ取り、攻撃を崩したのけぞりの姿勢でATフィールドを張った。
薄い盾を挟んで赤きエヴァンゲリオンが薙刀の薙ぎを見舞う。
「やるじゃない、アスカ」
初対面とは思えない手儀の良い挟撃に驚きを隠せない者が続出した。
一体何が起こっているのだろうか。
「ミサイルの飽和射撃により、使徒の視界を遮って防御を強いた。小型ミサイルの一撃は軽いけど、数をぶつけてエヴァ弐号機へ注意を払わせなかった。それに、さっきからの回避機動もキレが良い。あんた、何者よ!」
「それに答えている余裕はないんだってば!」
「っち!そうみたい!」
使徒はATフィールドを解くと同時に目らしきパーツを光らせる。嫌な予感を覚えて反射的に回避した。先まで赤いエヴァがいた地点から十字状に焼き払われる。高出力のエネルギーを収束した破壊光線のようだ。
「馬力だけなら、負けない!」
「バカ!」
短距離小型ミサイルを撃ち尽くし、発射機本体を切り離して機体を軽くした。そして、思い切った近接格闘戦に移行している。お互いの素性はもちろん、碌に基本性能も知らされていないにもかかわらず、NERVと戦略自衛隊の切り札は、いつの間にか信頼し合っていた。
挟撃を被ろうとも、使徒の化け物っぷりは健在である。クルリと反転しては猛然と掴みかかった。ガッチリと両手が合わさり、メキメキと装甲の弾け飛ぶ音が聞こえてくる。しかし、本人が宣言した通りで馬力では負けていなかった。使徒とジェットアローンが立つ道路は、瞬時に陥没して両者共にその場から動かない。
しかし、使徒は光の槍を形成した。
無慈悲に両手を粉砕される。
「戦自も無茶苦茶なバカばっかりぃ!」
「バカでいいよぉ!」
使徒は罠に嵌ったことに気づいた。この押し相撲は圧倒的に使徒有利であるが、数秒でも動けない時間を作らされている。戦いはコンマ秒が勝敗を分けた。数秒の空白は尋常じゃない隙を為し、背後に迫る機体が薙刀を振り上げる。
「いいぞ!そのままにして!」
薙刀は途中まで入ったが、途中で刃が折れてしまった。とは言え、一時的に使徒の動きを止めている。この絶好機を活かさないことがあろうか。いいや、あるわけが無かった、ジェット・アローンは、ボロボロの右腕を即席の槍に変え、使徒の赤い球体に突き刺した。ガラス質なのか瞬く間に球体は割れていく。
「やばいっ!使徒は自爆するつもり!」
「僕はここまでかもしれないな…」
「ちょっ!」
なぜか、赤い機体に体当たりして故意的に吹っ飛ばした。後方で使徒は膨張から収縮に転じている。どう考えても危険の予兆だった。ひとしきり収縮すると、凄まじい大爆発を以て、第三新東京市の一画を支配する。
爆心地には十字架が立った。
続く
第四の使徒戦は、自爆という衝撃的な幕切れで終わった
NERVと戦略自衛隊の共闘は成立したが、ジェット・アローンは損傷している
そして、パイロットも重傷を負った
NERVは戦闘の主導権を握るも、完全掌握までは至らない
戦略自衛隊はプライドを死守したが、JAの弱点が露呈した
お互いに不完全燃焼だった
次回『イノチのキボウ』
「あなたが、碇シンジ大尉ね」