※投稿日午後1時51分タイトル変更
「これは物凄い機体だぞ」
「だろう?マナ中尉には操れん機体になってしまったが」
「私は事故で内臓を悪くしました。よって、碇大尉のサポートに徹するだけぇ」
戦略自衛隊は硫黄島にて大規模な訓練を行う。硫黄島は絶海の孤島でこそない。しかし、現在も民間人の立ち入りは厳しく禁じられた。ここは戦略自衛隊を含めた軍隊の演習場に使用されている。
「実際に動かさないと、分からないことがある」
「そうだ。何か思うところはあるか。遠慮なく言ってほしい」
硫黄島の訓練は厳戒態勢の下にあった。なんと、ジェット・アローン二号機を実際に動かしている。JAリアクターと呼ばれる新型の動力源により、一号機の原子炉と打って変わり、汚染の危険性は排除された。しかし、人の目や万が一の事故を考える。ここは硫黄島の演習場を使用するが良かった。
「今回は最大武装と同等の重量物です。二号機に慣れていないこともありますが、やっぱり、操縦が重く感じられます。回避機動や高機動戦闘に間に合うかどうか」
「バランスが悪いんだな。わかった」
「それだけの兵器を積み上げていたら、そりゃ、当然というか」
ジェット・アローン二号機の目玉は『JAリアクター』である。これは百も承知しているが、同等に目を引くのが全身に備えられた武装の数々だ。背部にコンテナ型のユニットを装備し、多連装短距離ミサイル、三連装対艦ミサイル、擲弾投射機のゴテゴテが視界に入る。
「武装ユニットは取り外しできる。戦闘区域を脱した安全地帯で取り換え、戦場に戻って、使徒迎撃を継続できるよう配慮した。しかし、積み込む量は調整しなければならないか」
「いえ、最大限の積載でお願いします。火力はいくらあっても足りません。N2兵器の搭載を求めたのは…」
「N2兵器は核と違って調整が効きやすい。爆雷は街一つを消さずに済んだ。あの地雷は調整が下手だな」
「ひたすらに火力を求めても、使徒はATフィールドを張る。やるせないね」
一号機が背部兵装と携行兵装に留まり、碇シンジ大尉は火力不足を訴えている。彼の思想は、圧倒的な火力を以て使徒を牽制し、NERVのエヴァンゲリオンが接近する隙を作り、使徒殲滅はエヴァに任せることに置かれていた。ジェット・アローンの自前で完結することは捨てる。
「小さきものには、小さいもの。大きいものには、大きいもの。自分がどのような役割を求められているのか。時節相応に主とすべきことに徹するべき」
「?」
「戦国時代に最強と謳われた本田忠勝の生き方だよ」
二号機は彼の不満解消に応えるように各部へ武装を増設した。原子炉からJAリアクターへの変更に伴い制御棒が消えた。制御棒の干渉が消えたおかげで、背部の一部と腰部を活用してN2爆雷投射機を増備する。N2爆雷はN2兵器の中では小型だった。もちろん、通常の爆雷より破壊力は比べ物にならないが、入念な調整を経て地図を書き換えるには至らなかった。
そして、シンジ大尉の語ることは、戦国最強を誇った本田忠勝の生き方である。本田忠勝の強さは、言わずもがなのため、語らずにおきたい。シンジ大尉は、ジェット・アローン二号機に求められることに徹した。己に分不相応なことは努めるべきでない。もし、彼に求められることが自爆だろうと、嫌な顔一つせず喜んで請け負った。
いや、むしろ、望んでいるのかもしれない。
「JAリアクターの量産は…」
「勘弁してくれ。NERVの技術供与があって、なんとか、ギリギリ、間に合わせた」
「なるほど」
時田博士の返答から「JAリアクターの量産は不可能に近い」と理解する。JAリアクター自体は、一号機の時点から研究されていたが、N2兵器を流用した『N2リアクター』が根底に存在した。N2リアクターは原子炉に比べて安全が強みである。しかし、莫大な量の冷却水を必要とした。ジェット・アローンの運用に大幅な制約をきたしている。
時田博士が率いるチームは、どん詰まりに陥ったところ、ブレイクスルーが訪れた。第六の使徒を撃破するため、戦略自衛隊とNERVは保有する技術を融通し合う。戦略自衛隊からポジトロン・ライフル(陽電子砲)を提供した。ポジトロン・ライフル提供の代償として、NERVからエヴァ関連の技術を融通されている。S2機関の複製を試みた際の失敗した試作品を頂戴した。S2機関の失敗作へN2リアクターを組み込み、辛うじて、JAリアクターという完成品を導いた。
約150日の稼働可能期間を維持し、かつ莫大な量の冷却水を不要にしている。原子炉の危険性も排除された。ジェット・アローンの運用に係る制約が消えたことは地味ながら大きいだろう。
原子炉の制御に割いたコンピュータやOSは、機体制御やパイロット補助に転用された。圧力抑制や減速材が取り除かれ、装甲増圧や衝撃吸収など、パイロットの保護が手厚くされる。今までの戦闘で碇シンジ大尉の負傷が多いことを憂慮した。
「戦闘支援空母と超大型輸送機も完成している。ただし、通常型の動力源だから、行動範囲は狭くならざるを得ない」
「しかも、NERVが横取りを狙っているって噂よ」
「あれもこれも欲しい。幼い子どもじゃあるまいし」
一時は協調が見られた戦略自衛隊とNERVだが、結局のところ、人類は内輪揉めが大好きな生き物である。NERVは使徒殲滅の主導権を握り、戦略自衛隊は隅っこへ追いやられた。ジェット・アローンと碇シンジ大尉の活躍により、辛うじて、持ち堪えている格好である。それでも、NERVが台頭して存在感は薄れていることは、否めなかった。
「きっと、我々の感知できない、上の上の更に上が動いている」
「は~嫌になる。勝手な願いで振り回されることなんて。シンジは真面目だから、グッと堪えるけど」
「そうでもないよ。僕だって、僕なりの願いがある。それを踏みにじられるようなら、情け容赦なく、叩き潰すだけだよ。仮に世界が滅ぶことになっても」
最後の一言は、周囲を震え上がらせるに足りた。しかし、彼の過酷過ぎる境遇、今にかけての大立ち回り、悲壮な覚悟の一切を無視できない。彼の願うことが叶う際に世界が滅ぶと言われても、受け入れたくなった。
それだけの人間力を備えている。
「よし、更新プログラムを組み上げた。ちょうど、送ったから、試してくれ」
「仕事が早い!」
「私もシンジ大尉に負けていられない。NERVの赤木リツコ博士にも負けたくなかった。更新プログラムを幾つか用意しておき、大尉の要望に沿うよう改良する」
時田博士は負けん気が強かった。NERVのエヴァに負けたくない気持ちは誰よりも携える。ジェット・アローンの限界は認識しているが、限界一杯まで努力しないことは、人間として怠慢と断じられた。パイロットとオペレーターと会話しながら作業を進めるが、先んじて用意した更新プログラムをシンジ大尉の要望に沿うように修正する。
「インストールを完了。動かしてみてもいいですか?」
「あぁ、動かしてくれ。バランスに関する修正を送った」
彼の傾向から武装の減少は好まないと判断した。よって、高性能コンピュータのプログラムで対応する。碇シンジ大尉の技量は非常に高いが、頼り切りでは技術者失格であり、14歳の子どもに負担を強いることは恥ずかしいことだ。
「おぉ! 一気に軽くなった」
「本当だ。さっきよりも機動が滑らかになっている」
今回は訓練のため、武装と同重量の模擬を有し、実戦を再現する。先ほどまでの重かった操縦は嘘のように消えた。二号機は軽快に動き回って驚かせる。全身火薬庫のロボットが軽快な機動を行えるなら、使徒殲滅も少しは楽になると誰もが歓迎した。
もっとも、使徒は甘くない。
空から奇襲を仕掛けた。
続く