5…4…3…2…1
「ジェット・アローン発進!」
作戦開始時刻と同時に各地の仮設発進所からエヴァとジェット・アローンが出撃した。2機のエヴァはクラウチングスタートの格好から恐ろしい加速を見せつける。ジェット・アローンは戦自の建設したカタパルトから発進した。ジェット・アローンの馬力はエヴァと負けず劣らずである。もっとも、今回は着弾までの時間稼ぎを行う都合があり、一歩早く行動しなければならなかった。
「使徒を捕捉している。着弾地点の予測を更新してください」
当初から無人運用が組まれたが、有人運用に切り替わった一号機と二号機は事情が異なる。二号機は当初から有人運用が想定された。コックピットは一新されており、全天周囲モニターを備えている。手元にはサブモニターが置かれた。NERVから送られる使徒の着弾地点の予測が常に更新される。
「弐号機と零号機の起動を確認した」
やや遅れて弐号機と零号機も発進した。エヴァは電源と接続することが原則である。今回はケーブルを外してエヴァ本体の内部電源で行動し、稼働時間は5分に制限された。
「使徒が変形した!」
(予測が大きく変わる。すぐに最新情報を送るから!)
落下中の使徒は禍々しい球体から姿を変えた。今度は横方向に平べったくなり、大きな目玉のような模様を中心にして、デザインは鮮やかに思われる。第六の使徒と同様に美意識を携えた。しかし、こうなると着弾地点の予測が滅茶苦茶に狂わざるを得ない。
「ダメっ!間に合わない!」
「間に合わない」
まさかの変形により、弐号機と零号機は、間に合わなかった。やはり、ジェット・アローン二号機の重武装が要求される。背部にズラッと並んだミサイルが使徒を睨んだ。
「ミサイル全弾発射!」
山を越えるために跳躍したタイミングでミサイルを斉射する。多連装の小型ミサイルと対艦の中型ミサイルの一斉射は視界を悪化させた。二号機はカメラと地形情報を組み合わせて建物や山の配置を正確に把握している。それ以前として、仮に着地に失敗しても、別に構わなかった。使徒戦で第三新東京市を破壊しようと、碇シンジ大尉は、何ら責められない特権を有する。
「さすがに通常弾頭じゃ効かないか」
(ジェット・アローンしか間に合わない! お願いシンジ君!)
ミサトの呼び方を気に留める余裕は皆無だ。通常弾頭と雖も数を活かし、合計の威力を押し立てる。残念ながら、最強クラスのATフィールドの前には全弾が阻まれた。
「N2爆雷を使用するしかない」
ミサイルを撃ち尽くした後に発射機を切り離す。背部に装備する火器は取り外しが用意に設計された。発射機本体も重量物になる。片付けは回収班に任せて機体を軽くした。機体の軽量化に碇シンジ大尉の卓抜された操縦技術が追加される。使徒の落下地点へ滑り込んだが、使徒の不気味な模様がモニターを覆い尽くした。
「狙うべきは…コア!」
望遠した先には使徒の弱点であるコアが映る。圧倒的な巨体にちっぽけな赤い球体は心臓と同じだ。これを破壊すれば勝ちであるが、先から全てを拒絶する壁が立ち塞がる。
「N2爆雷を一転集中で投射する!」
腰にマウントされたN2爆雷は、コアへ向けて集中的に投射された。
使徒とジェット・アローンの間に猛烈な爆発が発生する。
エヴァ弐号機がもう少しで到着する時になって、シンジ大尉は宣言通りにN2爆雷を投射した。弐号機は眩い閃光を確認すると同時に爆風の向かい風を受ける。着弾地点の一帯を煙が支配した。
「はぁ!?」
素っ頓狂な声を上げる者は彼女に限らない。誰もが呆気にとられた。なんということでしょう。ジェット・アローン二号機は無傷だった。ましてや、自慢の馬力を以て使徒の着弾の食い止めている。
「ATフィールドなの!?」
(奇跡を起こすなら、人の作りしモノでなければならない。時田博士にしてやられたわ)
「機体がはじけ飛ぶまでに決着をつけてくれっ!」
ジェット・アローン二号機はATフィールドを展開した。使徒のATフィールドと自身のATフィールドが相撲を繰り広げる。おそらく、先ほどの爆風は両者のATフィールドの狭間で発生した。碇シンジ大尉はN2爆雷を投射直後に無意識でATフィールドを展開している。使徒は予てからの絶対のATフィールドで対抗してきた。
ひとまず、安心できるわけもない。通信で聞こえる彼の声は苦しかった。エヴァと違ってフィードバックは無い。操縦が重くて苦しくなっている。一寸でも緩めた瞬間に押し潰される。さらに、使徒は攻撃手段を持たないと予想したが、使徒は子使徒を生み出すと、ジェット・アローンの両肩部に槍を突き刺した。
「JAリアクターの最大出力ぅ!」
N2爆雷をATフィールドで挟む荒業という時間稼ぎじゃ成功している。エヴァ弐号機の到着が間に合った。エヴァが受け止める予定が狂ったが、とにかく、使徒を撃破すること。奇跡のATフィールドを考察するのは随分と後回しにされてしまった。
使徒は新たな脅威にATフィールドを追加する。いったい、どこまで、ATフィールドに特化している。しかし、弐号機は鋭利なナイフで切り裂き、易々と突破口を開いてみせた。
だが、ナイフの刃先は硬い殻に弾かれる。
先ほどまでコアはそこにあったにもかかわらずだ。
「小癪なやつぅ!」
「機体が持たないかもっ!」
使徒の貪欲な学習は称賛に値する。コアを固定することが良くないと理解した。コアを超高速回転させ、銃撃、斬撃、打撃など全てを回避する。いかに脆弱でも、当たらなければ、どうということはなかった。往生際の悪いと悪態を吐くが、使徒も賢明に懸命である。
弐号機とアスカが困惑している間にも、ジェット・アローンは限界に近づいていた。超大質量を受け止めるに凄まじい負担が圧し掛かる。増設された装甲板は弾け飛び、両肩から両腕にかけて内部が露わにされた。さらに、JAリアクターの発する音は、機体への負荷を主張するように悲鳴をあげる。
「このままだと、リアクターを暴走させて、本当に自爆しないと」
「わかってる!」
肉眼はおろかエヴァのシステムを持ち出してもだ。コアの超高速回転は捉えられない。かと言って、当てずっぽうにナイフも刺せなかった。下手にナイフを立てると、硬い殻に砕かれたり、刃を折られたり、攻撃手段を失うだろう。
「零号機っ!」
「抑えてるからっ! 早くっ! 碇君をっ!」
目の前の出来事に集中し過ぎ、零号機のことがすっかり抜けた。弐号機に遅れた零号機はコアを掴んでいる。コアの超高速回転から正確に掴んだことは神業に等しい。しかし、コアは拘束からの脱出を希望してブルブルと震えた。零号機とレイがいつまで掴んでいられるか微妙なところだ。この中で最も楽をしているモノが弐号機である以上は、ここで一発で仕留めないと、2人の苦労に失礼である。
「舐めないでちょうだい!」
零号機の掴むコアへ2本のナイフが突き刺さる。ナイフはX字に切り込みを入れた。まるで、シイタケの美味しい焼き方である。シイタケに切り込み入れる工夫と共通した。しかし、切り込みを入れるだけではシイタケは崩れない。
「もういっちょ!」
ナイフの柄に膝蹴りを叩き込んだ。刃は奥深くまで入り込み、反対側にまで亀裂を届ける。コアは自壊して赤い液体に変わった。使徒本体は鮮やかさを失い、内側から外側にかけて崩壊する。
(パターン青の消失を確認した。みんな、ご苦労さま)
ミサトの労いの言葉は届かなかった。
非常電源で最低限の機能を維持しているエヴァ2機の中でクタクタである。
上半身がボロボロになったジェット・アローン弐号機は赤く染まった。
これは洗浄作業が大変になる。
「新品を壊しちゃった」
続く