「申し訳ありません。私の独断でエヴァを出撃させ、戦略自衛隊のジェット・アローンの協力まで…」
「今回の件を責められるわけがない。あの状況では仕方なかった」
「使徒の出現するタイミングが絶妙過ぎている。私も言うことは何もない」
葛城ミサトは碇ゲンドウ司令と冬月コウゾウ副司令に報告書を提出した。そして、2人の前で質問に答える場に出席した。司令と副司令が不在の中で使徒殲滅を行ったことは、葛城ミサトの独断専行と言わざるを得ず、開幕に碇司令と冬月副司令に謝罪している。
しかし、元を辿ると使徒が悪かった。通信が遮断されたことは使徒のATフィールドの干渉が原因である。碌に連絡の取れない状況下で使徒を殲滅した。これは奇跡に等しく、司令も副司令も共に手放しに称賛する。葛城ミサトを責めることは一切なかった。
「問題は戦自のジェット・アローン二号機だな。報告書に目を通し、記録映像も見させてもらった。碇シンジ大尉の提案したN2兵器の一点集中的な投入はどうでもよいが、ATフィールドを展開したことに疑義が残される」
「赤木リツコを主任に特別チームが解析にあたっています。戦略自衛隊の情報提供は限られ、碇シンジ大尉も所々をぼかして回答しません。ありとあらゆる角度から調べていますが」
「時田シロウ博士はなんだと」
「彼も何が起こっているのか分からない。こう濁しました」
「何か隠している。そういうわけでもあるまい。単に碇シンジ大尉が図抜けているだけだな」
NERVはATフィールドに関して、使徒かエヴァでなければ、展開できないと見ている。その詳細な原理等は謎のままであるが、戦略自衛隊のジェット・アローンは、謎の『JAリアクター』こそ有すれど、根本的には人の作りし純粋なロボットなのだ。ATフィールドの展開は理解が追いつかず、専門の解析チームを組織して、多方面から調べている。
「彼がですか」
ATフィールドの件から全てにかけて、原因は碇シンジに集中している。彼が碇司令の息子であることは、あくまでも、政治に過ぎなかった。問題は戦略自衛隊に所属してNERVから把握できないことにある。正規の軍隊に入れば頭脳から肉体、精神も叩き上げられた。
事実として、第三の少年の切れ味は抜群であり、肉体は中学生でも運動能力は高くある。精神は自己犠牲を厭わない側面こそあれど強靭で折れなかった。普通は幼少期に母親を亡くし、かつ父親から捨てられれば、間違いなく発狂するものだ。
どこかでシナリオが誤って戦略自衛隊に入っている。彼がNERV司令の息子と知った上層部が便宜を図り、エヴァンゲリオンに対抗するジェット・アローンのパイロットに据えた。
彼は戦略自衛隊のジョーカーに違いない。
「手荒な真似は厳に慎み、彼が自ら来るよう、仕向ければよい」
「果たして、来てくれるでしょうか」
「初号機はそのために用意している。バチカン条約は荒唐無稽だからな」
NERVの中には、不動のエヴァ初号機を不要とする見方が存在する。本来のパイロットは戦略自衛隊というライバルに台頭した。また、弐号機と零号機の2機体制が組まれる。初号機の居場所は無いように思われた。
いいや、無人の完全自律戦闘が可能なダミーシステムの完成が近い。ダミーシステムが順調に行けば、初号機を無人運用の危険な任務に充当でき、弐号機と零号機は人の手心が必要な任務に割いた。
この後も事務的な会話や対戦略自衛隊の策略を練る。
それから葛城ミサトを解放した。
この場で彼女に対する叱責は一つもなかった。
「お前らしいな。目の前で愛する人が奪われる悲しみを教えるとは」
「初号機の覚醒のためだ。他意はない」
「そうか?私にはお前の子に対する当てつけに見えるが」
碇司令と冬月副司令から本当に一度も叱責を受けなかった。厳しい処分を覚悟していたが、杞憂で終わるどころか、第八の使徒殲滅に関して最大の賛辞が贈られる。特別なボーナス支給と有給休暇を貰う太っ腹が呈された。
「おいおい、褒められたのに不満顔か」
「違うわよ。予想外だったから。それより、何の御用ですか?」
「まぁ、そう、カッカすんな。ちょっと許可を取りたくてな」
加持リョウジが無糖の缶コーヒーを2本提げている。昔馴染みの腐れ縁のため、無碍に断れない。自分の仕事場に連れて行き、コーヒーを軽く含んだ。そして、要件を改めて聞く。
「それで?」
「今度の休みにお前の弐号機パイロット、零号機パイロットを貸してくれ。第三の少年も一緒に連れて行きたい」
「どこへ?変なところへ社会見学って言ったら、タタじゃ置かないわよ」
アスカとレイを借りてシンジも加えると聞けば、否応なしに警戒するだろう。いくら馴染みの男でも、NERVの葛城ミサトの立場があった。加持はスラスラと淀みなく答える。
「国際環境機関法人の日本海洋生態系保存研究機構。それの海洋資源保存研究施設招待しようと」
「そういうことね。あんたが連れて行くのが丁度良いじゃない」
「だろ? 3人は本来の姿の海と生き物を知らないんだ。単に息抜きじゃなくて、勉強にもなる」
加持リョウジの答えは長ったらしくて堪らない。しかし、葛城ミサトは瞬時に理解して了承を与える。少なくとも、彼が3人を慰労も兼ねて壮大な研究施設に連れて行きたいことは掬い取れた。ガス抜きに限らず勉強に繋がるため、否定する意味を感じない。
「それなら、私の方からも」
コーヒーを飲み干す間に聞いてくれと言わんばかりだ。
「人類補完計画とSEELEについて教えてほしいの」
スチールの缶をコトンと置いた。
彼女の期待には沿えないことをため息で示した。
「そう言うと思ったよ。あいにく、冗談を抜いて、俺は何も知らない。俺だって知りたい」
「やっぱりか…」
人類補完計画とSEELEの単語は聞き慣れなかった。NERVの極々限られた人物は知っている。まさに、碇司令や冬月副司令が知っているを超えて触れているに違いない。葛城ミサトは自身の境遇から知的好奇心ではない。己の執念から知りたかった。
「お前の親父…さんか?」
「まぁね。碌でもない父親だけど、最期に守ってくれたことは感謝してる」
「良いもんだ。どうだろうと、親がいたってのはな」
コーヒーを飲み干し、空になったスチール缶を捨てに行った。
その際に耳元で囁かれる。
「今日の夜空いてるでしょ」
続く