僕は戦略自衛隊の碇シンジです   作:5の名のつくもの

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母たる海は何処へ

「す、すごい。セカンド・インパクト前の海洋生物がこんなにも」

 

「いや~大変だったな。あれだけ、殺菌とかの処理しないと、入れないんだ。なんせ、復活した生き物たちだからな。さぁ、一度入館すれば見放題だ。存分に楽しんでいってくれよ」

 

NERVのエヴァパイロット、および戦略自衛隊の碇シンジ大尉は、壮大な海洋研究所に招かれた。具体的には、独自のパイプを有する加持リョウジ主席監査官が紹介している。彼は子どもたちのガス抜きと称した。普通は入ることができない場所な故に興奮が収まらない。

 

ここはセカンド・インパクトが発生する前の青々とした命の源たる海を再現した。死に染まった赤い海を特殊な濾過装置を通し、命に溢れる青い海に復元している。そして、絶滅したはずの海洋生物を保護した。

 

子供たちはセカンド・インパクトの後に生まれている。よって、海洋生物は図鑑や教科書、データベースでしか見たことがなかった。巨大な水槽を優雅に泳ぐ魚は好奇心の対象となる。

 

「ありがとうございます。加持さん」

 

「いいってもんだ。普段は人類を守るため、命を捧げているんだ。1日くらいは羽目を外しても怒られない。それより、2人と一緒に行動してきな。俺はどうでもいいから」

 

「はい」

 

いつもは大人を演じるアスカ、無関心なレイは、未知の生物に心を躍らせる。まだまだ14歳の少女だった。いかに鍛え抜かれたシンジ大尉も根幹は子どもに変わりない。早歩きでアスカとレイに合流した。

 

シンジの背中を見て。

 

「若いってのはいいもんだ」

 

さて、広大な施設には多数の水槽が置かれる。お魚と一括りにして見ることはできない。それぞれに最適な環境を整えなければならない。アジやイワシなど古くから食用に親しまれた小魚からウミガメ、ペンギンまでの多岐に渡った。

 

「なにこの魚?」

 

「コバンザメだね。ご飯をくれる場所で待機しているみたい」

 

サメと呼ばれるが、実はスズキ目のコバンザメがいた。水槽の底でジッとしている。まったく動かないことを不思議に思う。

 

「なんで?」

 

「コバンザメはずる賢い。本来は大型のサメやカジキに張り付いて、宿主が食べ残した魚を食べる。ここでは宿主の必要がなくて、定期的にエサが投下される。だから、ジッとして、エサが投下されるのを待つだけ」

 

「怠け者ね」

 

「ま、まぁね」

 

それにしても、セカンド・インパクト以後に生まれたにもかかわらずだ。碇シンジの知識は富んでおり、アスカとレイから寄せられる質問に対し、一つ一つを分かり易く回答している。これには少女2人だけでなく、施設の職員まで、驚かせるに足りていた。

 

「どこで、そんな知識を仕入れたのよ」

 

「戦略自衛隊さ。ありがたいことに自己研鑽として、勉強は筋トレと並んで制限なく行えるから」

 

「へ~。NERVよりしっかりしてるのね」

 

戦略自衛隊で仕入れた知識をひけらかすことは慎んだ。あくまでも、要請を受けてから応える格好である。セカンド・インパクト以前の貴重な時代に触れることができ、シンジとアスカ、レイの3人は今後に大きく関わる経験となった。

 

それから各自で自由行動に移ると、綾波レイは特徴的な生物に惹かれる。

 

「不思議だけど綺麗な生き物」

 

「クラゲだね」

 

小さな水槽にはクラゲと呼ばれる、可愛らしい生物がフヨフヨと浮いた。泳いでいるのか、浮いているのかわからない。しかし、綾波レイを強く惹きつけた。クラゲの不思議は魅力的で間違いない。

 

「可哀想なのかな。こんな狭い水槽の中でしか、生きられないことって」

 

「私も同じ。限られた中でしか、私は生きられない。クラゲと同じ」

 

さすがのシンジも反応に困る。そんなことは無いと力強く否定したい。しかし、エヴァのパイロットは、NERVと第三新東京市という水槽の中で生きた。碇シンジも所属する組織が異なるだけであり、使徒を殲滅することを第一に据え、実父の繋がりも含めれば、NERVの水槽に接続している。

 

「いつか自由になりたい。叶う願いなのかな…」

 

そんなこんで、時間はお昼時となった。加持リョウジと合流次第に昼食に移る。水槽が乱立する区画から離れた。多目的スペースにレジャーシートを敷いている。そこへ碇シンジが腕を振るった重箱のお弁当が鎮座した。

 

「どうぞ、召し上がれ」

 

この2人に今日は不在の霧島マナを加えた3人は、碇シンジが早朝から拵えるお弁当を食べている。普段と変わらないと高を括っては失礼だが、そもそも、今日はレパートリーが違う。もちろん、セカンド・インパクトの影響から食材は限られた。再生肉などお世辞にも美味しいと言えない食材もある。彼は見事に豪華絢爛を呈した。

 

「美味しい! 悔しいけど負けを認める」

 

「ほ~こいつは美味い。うちの社食の比じゃないな」

 

「美味しい」

 

アスカ、レイ、加持は一様にお弁当の味に驚嘆した。栄養満点なことは言うまでもなく、非常にヘルシーに仕上げられている。しかし、大人の加持でさえ、大満足できた。

 

「こりゃ、シンジ君は良い嫁さんになるな」

 

「ありがとうございます。お味噌汁もあるので…」

 

パクパクとお重箱から料理が消えていく。やむを得ない事情から偏食となる綾波レイは選んでいた。シンジは機転を利かせて別の小さなお弁当箱を用意する。各人の好みやアレルギーなど事情に合わせた。そして、冷えた身体を温める汁物はお味噌汁だだろう。保温ポットに備え付けられたカップに注いでから渡した。

 

「温かい。心までポカポカする」

 

「それがお味噌汁だよ。大した料理は作れない。せめて、自分が作れる料理は極めたいんだ」

 

温かいお味噌汁は減塩である。身に染み入る優しさが嬉しかった。心まで染め上げられるお袋の味である。自分の料理を美味しいと食べてくれる人を見て、いかにも嬉しそうな屈託のない笑顔こそ、碇シンジを表していた。

 

彼の家庭料理に舌鼓を打った後は再び自由行動に入る。シンジは招待してくれた加持リョウジにちゃんと感謝を伝えようと思った。タバコを吸っている最中を訪れる。お邪魔になると引き返しかけるも「いや、気にするな」と許可が下りた。

 

「普段から命を燃やしている君たちへ俺ができる精一杯のこと。感謝したいのは、こっちの方だな」

 

「それでも、このような貴重な経験はできることではありません」

 

「そう言ってくれると。俺も嬉しいね」

 

タバコを吸うことに関して咎めはしなかった。

 

自己の責任において行っている。

 

「本当の海の臭いを知りました」

 

「それが潮の香りってやつさ。命を育んできた母たる海だ。昔は多くの命が生まれては死んでいった。そして、堆積したものが次の世代の土壌となる。それもセカンド・インパクトで一変したが」

 

嘗ての青い海は生命の源を機能した。あいにく、青い海を知らない少年少女には腐敗臭に触る。命に満ち溢れた海は赤く死の世界へ変貌した。全ての元凶はセカンド・インパクトである。多くの生命を一瞬にして消し去った。

 

「そうなんですか。ミサトさんも来れば良かったのに」

 

「いや、あいつは来ないよ」

 

「え?」

 

「セカンド・インパクトを思い出すからな。あいつは爆心地の南極にいたんだ」

 

せっかくの機会のため、加持リョウジと腐れ縁の葛城ミサトも来ればいいが、彼女は嫌な過去を思い出した。加持は端から誘っていない。青い海と赤い海の両方を見て、大災厄がフラッシュバックした。

 

人のトラウマをわざわざ掘り返すような真似ができるだろうか。

 

いいや、できるわけがない。

 

「セカンド・インパクトのこと。詳しく伺ってもいいですか?」

 

「君は戦自で学んだんじゃないのか?」

 

「大人の都合の良いことばかりです」

 

紫煙が一段と揺らめいた。

 

「俺もその大人だぞ?」

 

「加持さんは違います。僕の目に狂いはありませんよ」

 

「参った! わかったよ。俺が知っていること、経験したことを話そうか。どうせ、長く生きられないんだ。君みたいな若者に残せるだけ残していく」

 

「ありがとうございます」

 

セカンド・インパクト

 

それは人類史上に名を刻む最悪の大災厄だ。

 

経験者は語る。

 

続く

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