僕は戦略自衛隊の碇シンジです   作:5の名のつくもの

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前半が本編で後半は趣味です

ほぼ番外編ですね


たまには衝動的な一人旅をしてみたい

碇シンジ大尉は退院して直ぐにこのように述べた。

 

「マナは生きているけど生きていない。彼女は僕の背に乗っかっているんです。幻影でも妄想でもなくて本当なんです。もちろん、信じて欲しいとは微塵も思っていません」

 

第九の使徒と戦った際に苦楽を共に心を通わせた霧島マナを自ら手にかける。人類の存亡を賭けた戦いに一人の命を惜しむことは非合理的だ。大の虫を生かして小の虫を殺すとは正鵠を射ている。彼は苦悩と葛藤の末にエヴァ参号機(使徒化)を撃破した。

 

それは非常に辛い経験である。約1週間は廃人に準じて会話もままならなかった。NERVの幹部すら面会を謝絶されている。戦略自衛隊の高官たちも会うことを許されなかった。時田博士とレイ、アスカという片手で数えられる者しか会えず、主にレイとアスカの懸命な看病のケアの甲斐あって回復を遂げる。彼は退院して早々にジェットアローンのシミュレーターを何度も繰り返した。彼は軍人の矜持の一つに訓練を欠かさない。エヴァが使徒に寄生されたなどイレギュラーのパターンも想定した。徒手空拳の格闘戦に磨きをかける。

 

「NERVとしては今回の事態を重く受け止めています。碇シンジ大尉には謝罪してもし切れない」

 

「良いんです。これは僕が決めたことなにで、どうか、お気になさらないでください」

 

「そんなことを言われたら大人失格ね」

 

「僕だって仲間を手にかけています。軍人失格でしょう」

 

彼は葛城ミサトがNERVを代表して謝罪に訪れた時は終始で大人の対応を採っては舌を巻かせた。エヴァ参号機の管理不足によって大切な人を失っている。これを怠慢と言わずしてどうするだが、彼は寛大な心の持ち主で責めることは一切せず、全てを使徒に押し付けることで処理していった。

 

「その、レイとアスカとは仲良く」

 

「心配しないでください。僕が面会を許したぐらいですよ?」

 

「そうね。ごめんなさい」

 

「とにかく、葛城ミサト一佐が謝ることはありません。また一緒に戦えたらと思います」

 

葛城ミサトは重傷を負っているにも関わらず、NERVを代表して謝罪に向かわせることに憤りを覚え、実の父親で司令官たる碇ゲンドウの無責任を追及したい。戦略自衛隊の上層部は今も突っついているはずだ。碇シンジ大尉の本人は物事をフラットに見ている。葛城一佐の機微を汲み取れば年齢不相応と評判な大人を見せつけた。

 

「また一緒に戦ってくれる。これ以上に光栄なことはないわ」

 

「それは僕もですが暫くはお休みをください。特別休暇を頂いたので第三新東京市を離れます」

 

「いいじゃない。たまにはリフレッシュしないとね」

 

「ありがとうございます。有事の際は超特急で戻ってきます」

 

「思う存分と楽しんでね。使徒が現れてもエヴァがいるから。初号機もダミーが完成して無人運用が可能になったのよ」

 

「僕が留守の間は第三新東京市をお願いします」

 

碇シンジ大尉の肉体的と精神的な疲労を鑑みて特別休暇が付与される。戦略自衛隊は世界最高峰の軍隊と言われがちだが決して鬼畜の集団ではなかった。彼の功績の数々も考慮に入れて長期間の離脱を許可している。特別休暇の前日の未明から第三新東京市の中心駅に立った。もう夜中の時間帯も鉄道は元気に駆け回る。セカンド・インパクトから人口が減ったと雖も一極集中は変わらなかった。日本の鉄道網は世界一を誇ろうに。

 

(五番線に参ります列車は寝台特急の『あけぼの』です。この列車は全車指定席です。特急券とをお持ちでない方のご乗車は遠慮しております。ゴロンとシートに限って特急指定席券のみでご乗車になれます)

 

「青森まで行ってからのことは後で考えよう。10日間もお休みを貰ったから好きに旅するんだ」

 

(黄色い線の内側でお待ちください。そこのお客様大変危険なので下がってください)

 

「もちろん、マナも一緒だよ」

 

学生時代に一度でも経験すべきことに無計画な旅行を挙げた。第三新東京市に缶詰となっていては鬱憤を積み重ねる。それ故に弾丸旅行を希望した。軍人特権を活用して切符を確保すると寝台列車に飛び乗る。まだ中学生の年齢でも正規の大人料金を正当に支払った。

 

「これで青森まで行って…」

 

眠気の欠伸を押し殺して待っていると寝台列車の『あけぼの』が入線してくる。第三新東京市を起点に新青森まで走った。首都と地方を結ぶ交通手段の一つである。現代の移動手段が飛行機が主流になって尚も現役を務めていた。特急指定席券のみで利用できる雑魚寝のゴロンとシートを連結してお金のない学生には嬉しい列車で根強い人気を有する。

 

もっとも、碇シンジ大尉は世界を左右する人間なのだ。プライベートが確保されない空間は真っ平御免として最高峰のA寝台を用意する。新青森まで彼一人だけの空間を得て優雅に過ごすことができた。彼は鉄道ファンでないが興奮を覚えざるを得ない。

 

「ちょっとだけ留守にするよ」

 

あけぼの号は碇シンジを乗せると新青森を目指した。新青森についてからの予定は何も組んでいない。これこそ学生による旅行なのだろうが、しっかりと、最新版の全国時刻表を携帯していた。タブレットを用いるよりも利便性は高い。一度に複数を参照できる利点は馬鹿にできなかった。

 

「意外と快適じゃないか。ジェットアローンのコックピットよりも広い」

 

A寝台と称するだけはあって快適性は群を抜いている。個室の時点で豪華と言えた。A寝台は別格を主張する。室内に専用の洗面台が用意された。睡眠から目覚めて直ぐに身だしなみを整えられる。彼はジェットアローンのコックピットに幽閉されることが多かった。24系客車A寝台の環境はまるで夢のようである。

 

それでも、願わくば霧島マナと一緒に旅したかった。

 

(あけぼの号は間もなくの発車となります。発車時は車内が揺れますのでお気を付けください)

 

「遅めの夕飯としようか。なぜか2人分も買ってしまったや」

 

ちょっとしたテーブルに駅弁を二つも並べている。一人で二つも買うことを訝しく思う者は皆無だ。なぜなら、日本の駅弁文化は伝統的な食文化に数えられる。日本の市民は駅弁をこよなく愛して止まなかった。

 

(死んだとあけぼの号をご利用いただき誠にありがとうございます。この列車は新青森行です。これからの停車駅をご案内いたします。次は…)

 

「美味しいね。マナにも食べさせてあげたいけど叶わないことだ。今もNERVで治療を受けている」

 

彼が想う人は生きているのか死んでいるのか判別がつかない。使徒に寄生された以上は治療は困難を極めた。今もNERVが責任を持って除染を続けるが、一筋縄ではいかぬものであり、最悪は安楽死の選択肢を用意する。これを決めるのは碇シンジだった。彼はモラトリアムの一種と第三新東京市を一時的に脱出する。

 

「僕が帰る頃には時田博士がスーパージェットアローンを完成させた。楽しみに取っておかなきゃね」

 

駅弁に舌鼓を打ちながら帰宅時のことを考えた。ジェットアローンは二号機を運用するが、あいにく、使徒は学習して進化を遂げている。二号機は早々に馬力不足や火力不足が露呈した。大規模な改装計画が浮上してNERVのエヴァンゲリオンに匹敵する性能が求められた。現在も時田博士を中心としたチームが徹夜で作業に追われている。彼は悠々と一人旅に興じることに罪悪感を覚えることもなかった。

 

「青森を観光した後はリゾート号で秋田まで行って…」

 

駅弁を頬張りながら時刻表を読み漁る。寝台特急あけぼの号は碇シンジ大尉を乗せて新青森を目指した。この特別休暇を無駄にするつもりは毛頭ない。今も戦う人のために思う存分と楽しむのだ。お土産は何を買って帰ろうか悩みの種となる。

 

続く

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