「碇シンジ…碇司令の実の息子さん。彼が戦略自衛隊の特別大尉とは、これはまた、面倒なことになりそう」
「司令の息子がライバルの戦略自衛隊にいるなんてね。どうりで、協調姿勢に転じたわけだ」
「ライバルのトップの息子を握り込んでいる。親子の対面は事務的になるのは、まだ救いなのかしら」
第四の使徒撃滅から数日が経過している。NERVと戦略自衛隊は後片付けに追われている。後片付けは戦略自衛隊と行政が連携し、市民生活を圧迫しないよう復旧を進めていった。使徒戦の研究はNERVが独占しているが、部分的に戦略自衛隊へ小出しに共有している。
「彼の出自は一切が不明…」
「少年の情報公開は無理でしょうね。いかに無能な国連も握り込んで離さない。そして、あのジェット・アローンか。碇司令は不要と見れば、実の息子だろうと関係ないんじゃない?」
NERV側で使徒戦の指揮を執った幹部職員が私的な反省会を開いている。葛城ミサトと赤木リツコが参加する反省会の話題は、戦略自衛隊のジェット・アローンが大半を占めた。自分達のエヴァンゲリオンと負けず劣らずの実力を見せつけられている。
「まずは会ってみることに始まらない。ダメもとで自衛隊病院に行ってくる」
「自衛隊病院?」
「そう。自衛隊病院だから面会を許されるかな。本当にダメもとよ」
第四の使徒殲滅に成功し、各所で喝采が叫ばれた。あいにく、NERVも戦略自衛隊も消化不良の不完全燃焼である。NERVはエヴァの安定した起動に成功したが、使徒との戦い方は確立されていない。戦略自衛隊のジェット・アローンと共闘を余儀なくされた。戦略自衛隊は、NERVのエヴァと性能差を痛感している。使徒相手には装甲、馬力、火力の全てにおいて不足が露呈した。パイロットの技量と度胸、エヴァの機転の良さで殲滅に成功したに過ぎない。
そのNERVのエヴァは、使徒の自爆から逃れた。特殊装甲板とクッションのおかげで極々軽傷で済んでくれる。しかし、パイロットの精神的なダメージという、ストレスは尋常でなかった。覚悟していた事とはいえ、使徒の圧力による恐怖心は否めなかった。いいや、実は、自分は共闘でなければ勝てないこと、最後に助けられたことが圧し掛かっている。
戦略自衛隊は、単純に大怪我を負った。自爆から1cmでも遠くに離れることを試みたが、所詮はロボットで間に合わない。自爆時に生じた爆風と熱は逃れているが、遠方のビルまで飛ばされ、叩きつけられた。ジェット・アローンは間に合わせの色が濃くある。元々は無人機の計画だったこともあり、有人運用ではパイロットの保護が不足しがちだった。したがって、脳震盪から打撲までの重傷を負ってしまう。命に別状はないため、数日も経てば意識は戻った。円滑な意思疎通が可能にまで回復している。
「NERVも未完成のジェット・アローンの奮闘に驚いていたよ。シンジの操縦技術から戦いの機微を感じ取る力、自分にできることを全うする理解の良さまで、最初から最後まで驚きっぱなし。はい、口開けてね」
(ムグムグ)
「ただ、ジェット・アローンは中破しちゃった。装甲の強度不足に制御盤のバグ検知、外装の兵装強化が山積している。次の使徒が現れるまでは応急修理で間に合わせるって」
(頷き)
「まぁ、やっぱり、例のエヴァンゲリオンには及ばないね」
小さく輪切りにされたバナナをムグムグするはシンジ大尉だ。彼の傍に世話係兼護衛の霧島マナ中尉がついている。両名の表向きこそ一般市民の扱いだが、自衛隊病院に運びこまれた。ちょっとした、ケガや病ならともかく、高度な治療を要する場合は、自衛隊病院に直行された。機密情報をタップリと含んだ戦略自衛隊の切り札のため、NERVや国連に身柄を奪われてはならないだろう。
「使徒戦の主力は、間違いなくNERVだよ。僕とジェット・アローンは、冷やかしになるかどうか」
「NERVが抱えている情報と技術を融通してくれればねぇ」
まだ14歳にもかかわらず、碇シンジは物事を俯瞰することに長けた。対使徒戦における戦略自衛隊の非力さを認識し、NERVのエヴァンゲリオンが主役であることも認めた。NERVほどではないにしろ、世界の理に触れる。
「NERVのエヴァはロボットじゃない。あれは。おっと、お客さんが来たみたいだ」
目を伏せて合図を送った。面会者は受付の方で不穏を排除するが、プロフェッショナルは。容易にすり抜ける。霧島マナ中尉は諜報員だが、シンジ大尉の護衛を兼任した。腰に拳銃を隠し持っている。ノックを聞いて「どうぞ。お入りください」と返した。
「お初お目にかかります。碇シンジ大尉と霧島マナ中尉」
「このような格好ですが、どうか、ご容赦ください。NERVの葛城ミサトさん」
病室に入って来たのは、なんと、NERVの葛城ミサトだった。一度も会ったことのない関係だが、お互いに何かを知っている。霧島マナ中尉は、腰の拳銃をいつでも取り出せる体勢を堅持した。これをシンジ大尉がやめさせる。
「ミサトさんはそんな人じゃないよ。NERVで実質的に使徒戦の指揮を執るんだからね」
「失礼いたしました。無礼をお許しください」
「こっちこそ無礼を誤るべきよ。ごめんなさいね」
これで張り詰めた空気が換気される。
「シンジ大尉には、NERVを代表して感謝申し上げます。エヴァは分からないことが多く、パイロットも実戦経験に欠けている。戦略自衛隊のジェット・アローン、及び碇シンジ大尉の支援と身を挺した献身に心から感謝いたします」
「それより、NERVのパイロットは無事ですか?」
そう、第四の使徒戦は敵の自爆で終わった。挟撃を仕掛けていた都合より、エヴァもジェット・アローンも至近距離にある。仮に機体は無事であったとしても、パイロットの命が脅かされる。当時のシンジは、瞬時に優先順位を付けた。自分ではなくてNERVを生かすことを選択する。自分がジェット・アローンを操縦するため、技術者よりも限界を知っていた。とてもだが、使徒と戦えないと判断した。
「無事です。本来は嫌でも連れて来させるはずが…」
「いえ、結構です。なんとなく、分かりますから」
(噂通りで優しい好青年ね。でも、頭の回転が妙に早い)
エヴァ側のパイロットは、先に述べたように無事である。
しかし、精神的なショックから見舞いは難しかった。
「このぐらいにしましょう。本題に入っていただいて大丈夫です。NERVから来たのは、僕に色々と聞きたいことがあるから。こうでありませんか?」
「流石にタイミングがあからさま過ぎましたね。はい、NERVと戦略自衛隊の協同に関して、直接お聞きしたいことがあります」
「どうぞ。僕が話せる範囲なら何でも…」
異様なモノリスが目を引く空間にNERV司令の姿があった。
「戦略自衛隊は気にせんでよい。SEELEが手綱を引っ張っている」
「邪魔をすることは、くれぐれも、慎んでいただきたい」
「わかっている。我らも国連や日本政府の都合があるだけだ。戦略自衛隊は程よく消耗させる。次第にNERVが主導権を握る形を予定した。世界のバランスの調整を図っているが、まさか、NERV司令の実の息子がいるとは予想していなかったよ」
やや道が逸れそうな気配を察知して軌道修正される。
「ともかく、使徒を殲滅することは不変である。使徒を殲滅せん限りは人類に存続の途はない」
「承知しております。全ては人類補完計画のため」
「そうだ。頼んだぞ…」
モノリスはシャットダウンして照明が灯された。広大な会議室で司令たる男性は、僅かに気を狂わせている。普段はポーカーフェイスの黄金仮面を貫徹したが、最近は予想外の出来事が頻発した。その度々に計画の修正に追われる。
よりにもよって、諸刃の剣が。
続く
無事に退院したシンジは青春を取り戻す
NERVを探るマナも共に中学校に編入した
そこでは様々な出会いがある
はて、どこかで会ったことが…
「あんた…あん時の」
次回 『再会?』