僕は戦略自衛隊の碇シンジです   作:5の名のつくもの

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ジェット・アローンの改装計画

前回の使徒戦で得られたデータは須らく貴重だが、中にはNERVが握り込むものもあり、戦略自衛隊は武力行使をチラつかせる。半ば強引に情報提供を引き出した。NERVは戦略自衛隊を「税金の無駄遣い」と断じるが、現場単位では、ジェット・アローンを「囮役や支援役に足りる」と評価している。パイロットの技量の高さや司令の実子など、複雑な事情もあって無碍にすることはできなかった。

 

さて、ジェット・アローンは、大改装の下準備に入るが、第四の使徒戦で露呈した課題解決が最優先である。馬力だけはエヴァや使徒に匹敵する。しかし、装甲は脆くてATフィールドを破る術を持たなかった。あくまでも、通常兵器の範囲に収まる。使徒殲滅のメインは、エヴァンゲリオンに譲らざるを得なかった。

 

開発の主担当者である博士は苦悩を強いられる。

 

「シンジ大尉のレポートは、特に重武装の制圧力を要求しています。装甲の強化は不要に重くするだけであり、軽い機体に重武装のピーキーを希望しております…」

 

「馬鹿なことをと言いたいが、彼は被爆のリスクを承知で操縦してくれた。彼の希望には満額回答しなければならない。技術者としては、未完成なことの方が許せない。NERVのエヴァンゲリオンと明確に差別化するため、とにかく、JAリアクターの実用化が待たれる」

 

「せめて、原子炉の制御OSの更新と汚染の防止は徹底すべきです。乗り込む時点で命懸けなのは、最もあり得てはならない」

 

「同感です」

 

「そうだな。まずは事故の防止を第一に進める」

 

NERVのエヴァンゲリオンは、原則として、電気で動き安全性は確保された。しかし、ジェット・アローンは、原子炉を動力源にするため、移動式の原子力爆弾とされる。原子炉の暴走を未然に防止するため、制御OSはありとあらゆる事象を想定した。有人運用の際は非常停止装置も備えられる。原子炉の暴走が排除された後は、操縦者に対する放射線の危険性が浮上した。本来は無人機の遠隔操縦の予定が崩れた。完成目前になって有人運用に切り替わる。中の操縦者が危険な放射線に蝕まれる可能性が呈される。

 

このような危険性から、NERVから「税金の無駄」と指摘されても、反論できなかった。

 

「あんな中学生が乗っていること。私は未だに信じられない」

 

「どうにか、無人に戻せないのでしょうか」

 

「私も突き上げてみたが、悉く無視されている。これには、私たちが関知できない政治が挟まった」

 

「やっぱり、碇大尉の出自ですか」

 

「まぁ、そういうこと、なんだろうな」

 

技術者の矜持と大人の心から碇シンジ大尉をパイロットに据えることは、何よりも馬鹿げており、到底受け入れられるものでなかった。まだ大人の空軍あがりや陸軍あがりの人間はともかく、中学生の少年兵が乗り込むなんて、とてもだが、あってはならない。

 

「腐ってますよ。この世の中は…」

 

「ふざけている世の中でも、我々にはやらなければならないことがある。大尉の要求する制圧力の強化は、防衛省や国連軍と掛け合う。強奪してでも重装化しよう」

 

第四の使徒戦を経て、碇シンジ大尉は主に2つの要求を行った。

 

1つ目は、装甲を必要最小限に抑え、機体本体を軽量化することである。機体が軽くなれば操縦性の向上や機動力の強化に繋がった。ただでさえ、被弾が許されない機体なのだ。防御よりも回避を優先することは、あながち、間違いでないだろう。

 

2つ目は、外付けの外装式兵装の増設である。第四の使徒戦は、取り外し可能な短距離ミサイルを装備した。一度に火力を集中できるが、撃ち尽くすと、一転して徒手空拳に陥る。NERVとの協同も考えて火力支援に外装式兵装の増設は必須事項だ。

 

もっとも、この2つを両立させると「軽量で軽装甲の機体に高火力の重装備」というピーキーにならざるを得ない。ピーキーはアンバランスを意味する。操縦難易度の高い機体に仕上がった。ジェット・アローンは多方面に悩ませている。

 

「JAリアクターさえ完成すれば…」

 

キーワードは『JAリアクター』だった。

 

~NERV~

 

NERVはNERVでパイロット達が研鑽を積んでいる。

 

「どう?2人の調子は」

 

「レイは病み上がりの割には良好だけど、アスカは精神的な乱れが多い。学校の事が足を引っ張ってるみたい」

 

「そうねぇ。これが一時的な物だと良いんだけど」

 

エヴァンゲリオンを単なるロボットと括ることはできない。戦闘力はシンクロ率に左右された。数値が高ければ高いほど向上する。しかし、一時的では意味を為さない。高い数値を維持することが重要だ。そこで、シンクロ率を長時間維持できるかを確認するテストが行われるが、シンクロ率は精神状態によって変化する。

 

「ライバルが出現することは良い傾向だと思うの」

 

「中学校の話を聞いている限り、仲は悪くなさそうね」

 

「悪くはないんだけど。やっぱり、子供は子供だから」

 

プライベートを監視することは憚られる。しかし、人類の存亡を預ける少女たちはNERVに監視された。中学校のことは全て筒抜けであり、戦略自衛隊のパイロットに接触したことも判明している。戦略自衛隊の狙いはわからないが、現時点では、ライバルの出現と良い傾向と推測された。

 

「霧島マナという女の子が要注意じゃない?」

 

「そうね。彼女は筋金入りの諜報員らしい」

 

NERVは戦略自衛隊の協同に際し、危険人物をリストアップした。噂の司令官の息子は、意外と低く見積もられる。常に彼の隣に付いている女の子の方が危険視された。なぜなら、彼女は諜報員と推測される。機密を突き抜けたナニカを持つNERVから抜き取られては堪らなかった。

 

「碇司令はどうするのか。幻のエヴァ初号機は、無人のダミーシステムで使うつもりなの?」

 

「さぁね。ただ、冬月副司令が言うには、身柄を確保すること。それは、十分にあり得ると」

 

「本気で言っているの?戦略自衛隊は税金の無駄遣いでも、安易に手を出していいわけでもないの」

 

NERVはエヴァンゲリオンを運用しているが、何も1機だけではなく、複数機による体制を整えた。ちょうど、少女2名がテストを受けていることから、最低でも2機が運用されていることが窺える。しかし、NERVには幻のエヴァが存在した。

 

そして、そのパイロット候補が碇シンジ君なのだ。

 

「もちろん、そこは織り込み済みでしょ。NERVだって諜報部を有する」

 

「毒は毒を以て制する。あまり乗り気じゃないわ」

 

「私に言われてもね」

 

エヴァのパイロット候補者は、速やかな回収が好ましい。一元的に管理する方が効率的だった。彼は戦略自衛隊に身を置いているため、下手に手を出すと、NERVと戦略自衛隊の全面戦争を招致する。人類は滅亡の危機に瀕し、使徒と戦う運命にもかかわらず、人類の性と言うべきなのか、一枚岩になる事はあり得なかった。人員の引き抜きと言えばマシであるが、実際は実力行使による無理矢理に身柄を確保した。

 

「どうしても、彼を引き抜くことになるならね。アスカとレイを使うしかないわ」

 

「色気で誘えそう?」

 

「色気じゃないわよ。あの子が抱える過去から2人の付け入る隙がある」

 

ミサトと碇シンジは入院見舞いの恰好で初邂逅を果たしている。ジェット・アローンの戦闘から何となく理解した。碇シンジ大尉は、14歳の年齢にそぐわない完璧を携える。本当に中学生なのか疑いたくなる紳士さは、ミサトの舌を巻かせるに足りた。しかし、完璧な人間はおとぎ話の世界であり、必ずや、付け入る隙がある。

 

「彼の分析については、私的だけど、マヤに任せている。彼女から材料を貰っていって」

 

「ありがとう。リツコ」

 

「勘違いしないでよ。私は一人の技術者/科学者として、あのジェット・アローンに興味があるだけ」

 

結局のところ、誰もが碇シンジ大尉の身柄を狙っているのだ。

 

続く

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