とある休日に来客があった。
ピンポン♪
「誰だろう。マナは図書館に出かけているんだけどな」
僕とマナは古めかしいアパートの一室を借りて暮らしている。エレベーターが無く、階段を使って昇降した。インターホンも電子音ではない。ピンポンと実際に演奏されてレトロを感じられた。不便を覚えても寮生活より自由が保障されている。
「はい」
「こんなところに住んでいるのね。碇シンジ大尉さん」
「え、うん」
扉を開けた先には中学校で同じクラスの式波・アスカ・ラングレーさんが立った。特に中学校を休んだ日は無い。よって、彼女に届けてもらうようなプリントの類は無かった。それに、伝達事項は概して「委員長」と親しむ洞木ヒカリさんが送ってくれる。
「マナはいないから。どうぞ、上がって」
「あら、気が利くじゃない」
クラスメイトなことはもちろん、戦略自衛隊とNERVの協同において、僕と彼女は非常に重要だった。変に軋轢を生んでは、セカンド・インパクトのような戦争を招きかねない。軍事力は戦略自衛隊が勝っていると信じたいが、NERVはエヴァンゲリオンを保有している。詳しい事は不明でも、超常的な力を秘めていることが窺えた。
なぜなら、バチカン条約が保有数を3機に制限している。通常兵器と遜色なければ、制限は設けられないか緩くなった。しかし、使徒に対する切り札が3機に制限されることは、エヴァンゲリオンの軍事的評価が極めて高い事を表している。
それはともかく、彼女をリビングへ通した。
「綺麗にしているのね」
「そうかな。普通だと思うけど」
「世の中には、自分が普通だと思っていることが非常識になるのよ」
我が家を綺麗に保つことは、当たり前の常識と思いながら、キッチンへ転進した。来客に出す飲み物を考えたが、直接本人の希望を伺う方が確実だろう。我が家にはコーヒー、お茶、紅茶を置いた。まさか、水道水を出すわけにはいかない。
「コーヒー、お茶、紅茶が…」
「コーヒーをちょうだい」
「砂糖とミルクは必要そうだね」
普段はペットボトルのコーヒーを飲んだ。しかし、今日はNERVからお客さんが訪ねてくれている。戦略自衛隊仕込みの本気を見せたく思った。やかんでコーヒーを淹れる用のお湯が沸くのを待つ時間は別作業に充てる。
「豆から挽くなんて、随分と拘りがあるのかしら」
「僕は日本人だ。おもてなしの心は忘れていないよ」
手動の豆挽き機にコーヒー豆を入れ、投入口を閉めてからハンドルをグルグル回す。KALDIで購入したブレンドのコーヒー豆が粉々になる。あそこはコーヒーショップだけど、世界中の色々な商品が陳列された。なかなかに楽しい買い物ができる。豆を粉末にした後はドリップ式コーヒーメーカーの出番だった。紙のフィルターにコーヒー粉末を置き、上からお湯を注いでは、ポタポタと落ちるのを待つしかない。
「さて、ご用件は何かな」
「そうそう、これを渡せって」
「カードキー?」
コーヒーが貯まり切るのを待っては非効率だ。訪問の要件を聞くと、カードキーを渡される。ビジネスホテルを利用した際にフロントで渡される物と同質だった。
「これがあれば、NERVに自由な出入りが可能になる」
「わからないな。だって、僕は戦略自衛隊の予備官だ。NERVが自由な出入りを認めることは、博打じゃないかな」
「さっすが。これで喜んだら没収するつもりだったのに」
そのカードキーはNERV職員用である。外様の人間である僕に書留郵便を使うのではなく、エヴァンゲリオンのパイロットを中継する手渡しだった。どうやら、本格的に目を付けられたようである。ライバル組織の人間をフリーにすることは博打以上のことだった。
「戦自の上は嫌いでもよ。碇シンジ大尉は信頼に足りるってわけね。これからはNERVが収集したデータの共有や訓練の参加が認められる」
「なるほど…」
ポッドの中にコーヒーが貯まって、これを回収に向かっている。ポタポタと滴り落ちる音は会話でかき消された。ポッドからコーヒーカップに注ぎ、やや熱いままで提供せざるを得なかった。角砂糖とミルクは別々の提供にしよう。
「どうぞ。まだ熱いから、お気を付けて」
「子ども扱いすると蹴るわよ」
「当てられるなら、どうぞご自由に」
キッと睨まれている気がする。あいにく、おさつスナックの小袋を取り出していた。日本人なためか洋風の甘味より、昔ながらの甘味を好みにしている。
「熱いっ!」
「言わんこっちゃない。猫舌なんだね」
再び睨まれた。しかし、平静を失う僕でなかった。スッと布巾を差し出す。
「甘いものをどうぞ」
話を戻して、僕はNERVへのフリーパスを入手した。果たして、NERVは碇シンジ大尉を単なるパイロットと認識しているのか、それとも、諜報員と理解して罠にかけようとしているのか、本当の狙いは分からなかった。
急に携帯電話がけたたましく鳴る。
「ちょっと、失礼」
奥の和室で襖を閉め切り、音が漏れないようにした。表示された名前は「霧島マナ」である。図書館で勉強中のはずだ。何かあったのだろうかと疑問に思いながら通話ボタンを押す。
「どうかした?」
「そっちにアスカが行ったでしょ。大丈夫そう?」
「問題ないよ。この話はマナが帰ってからにね。それなりに大変なことだ」
どうやって、家に彼女が来たことを掴んだのか分からないが、マナはアスカの訪問を知り、心配を抱いたらしい。特に危害は与えられず、豆から挽いたコーヒー、おさつスナックを振る舞っていることを伝えた。
詳細については、マナが帰宅してからにしよう。
あいつの家に来てみたら、何てことは無い普通の家だった。なんか、拍子抜けを余儀なくされている。ただし、隅々まで綺麗が行き届いていることは、感動を覚えて当然だった。私が居候しているミサトの家は時偶にゴミが散乱した。
なんで14歳のガキの方が家事力高いのよ。
(コーヒー淹れるの上手いじゃない)
監視カメラや盗聴器の類も探知できていない。もし、反応があれば、あることないことを喋って攪乱しようと思った。まぁ、最初のコンタクトから、あいつが素人でないことは分かっていた。
(碇ゲンドウ司令の息子が戦略自衛隊なんてね。しかも、特殊部隊上がりであり、個人の技量は大人に負けず劣らずと。どこにでもいる中学生にしては、重心移動が完璧なのよね。腰に携えている拳銃は、いつ何時でも取り出せるように)
机を挟んで対面した僅かな時間で得られた所感は、はっきり言って、認めたくない程の『怪物』にならざるを得なかった。戦略自衛隊が怪物揃いってのは有名な話でも、まだ14歳のガキがこんなに成長するなんて、まったく、笑い話にもならない。
(何か裏があるはず。ファーストもそうだけど、人間じゃない何かを持っている)
幻のサードこと第三の少年は、間違いなく、根本的な資質が違っていた。
「いやぁ、お待たせしちゃった。マナから夕飯のリクエストを受けて」
「あんたが家事をしているの?」
「まぁ、そうかな。一応は分担制を敷いているんだけど、自分で拘りたい事が多いんだ」
長電話でもなく、さっさと帰って来る。チラッと見えた和室は、普通で面白くなかった。戦略自衛隊なんだから、部屋に武器を隠していたらと期待している。色々と規制が厳しい中で、抜け道は幾らでも存在そた。
「そういえば、言えていなかった」
「なにを?」
「あの時は助けてくれてありがとう」
ミサトから碇シンジ大尉に感謝を述べることを命令されている。自分一人で勝てたと反論したら、烈火の如く説教されちゃった。第四の使徒戦は、こいつの支援が無ければ無傷で終われない。NERVは無傷に等しいのに、戦略自衛隊は結構な損害を被った。
「別にいいさ。僕は自分が犠牲になることを厭わないんだ」
ムカつく笑顔ね。
続く
あれから2週間が経過し、第五の使徒が出現した
飛行しながら迫る姿に進化を思わせる
使徒も学習しているのだ
しかし、今回は待ち伏せを展開している
武装したエヴァ弐号機とジェットアローンが待ち受ける
次回 『抜群のコンビネーション』
「アスカと彼って最高のペアじゃない?」