第五の使徒戦に勝利した翌日に僕はNERVに招かれた。戦略自衛隊とNERVの組織単位は不仲で有名である。しかし、現場単位では人類の存続に共闘するため、不仲は冗談でも済まされなかった。
大きくはジェット・アローンとエヴァンゲリオンの協同になる。根本的に異なる兵器な上に両者共に機密の塊と言える。普通は外部のライバルの人間を入れることは憚られた。しかし、僕に関しては司令の実子であることを前提に置き、戦友として「信頼に足りる」と評価してもらえている。
地下帝国と表現できる広大な施設を見学した。この後は射撃訓練に参加する。ジェット・アローンは一旦置いておき、エヴァンゲリオンはパイロットの戦闘力が要求されるようだ。操作の都合でパイロットの能力が直接的に関わった。それぞれが内に秘めたる潜在能力が超常的な力を引き出している。
「エヴァンゲリオンのATフィールド。ジェットアローンにも欲しいなぁ」
「かわいそうね。被弾できない機体なんて」
「元は無人機だから、省略する所は省略されている。無理やり有人機に変えているから仕方ないんだ。今のジェットアローンは試作機が正しい。本当のジェットアローンは二番機を待たないといけない」
「あんたは司令の息子なんだから。移籍とかしないわけ?」
「ちょっ…」
射撃訓練の演習場へ向かう道中の会話は、基本的にアスカの一方的が占める。共闘の場では、互いの短所を埋め合っていた。彼女は、エヴァのパイロットであることに誇りがある。戦略自衛隊のジェット・アローンを玩具扱いする傾向が見受けられた。実質的な指揮権を有する葛城ミサトは、彼女の教育に苦慮しており、特異な才能を持った少女は難しい。
「確かに、そうかもしれないね。君の言うことは正しいよ」
「なによ、その反応」
「それより、綾波は大丈夫なんですか?」
少年はミサトに微妙な目配せした。ミサトはしっかりと受け止め、ここで不毛を続けるよりかは、話題をガラッと大転換する。14歳というのはさばを読んでいないか、彼を隅々まで疑いたくなった。
「多分、大丈夫なのかな」
「司令から贔屓されるからよ」
「使徒と戦う仲間の立場から心配です。仲間は1人でも多いこと。これに越したことはありません」
もう1機のエヴァは調整が難航する。出撃は二度も見送られていた。パイロット搭乗の起動試験などを重ねる。しかし、エヴァンゲリオンは単なるロボットでなかった。ジェット・アローンの方が立派なロボットと言えよう。
先日にパイロットの綾波レイが搭乗する試験が行われた。誰もが成功を望んだ結果は失敗である。レイは緊急脱出するも負傷を余儀なくされた。中学校を欠席する日々が続き、彼女のクラスメイトであるシンジとマナは心配している。クラスではシンジ、マナ、レイの3人が仲良くした。寡黙で知られる綾波レイは、特にシンジの前では笑うことが多く、周囲を驚かせている。
「いつかはエヴァ2機とジェットアローンの陣形が組めるように」
「弐号機だけで…」
「無理よ。彼の援護射撃と機転の利かせが違うから」
それでは、アスカが蚊帳の外に置かれる、ということでもなかった。活発なマナが挑発して巻き込むことで解決している。マナとアスカは衝突しがちだった。シンジが間に入ることが多く、周囲は4名に何かの繋がりがあり、シンジを中心に回ることを理解する。
そんな話をしていると、射撃訓練場に到着した。戦略自衛隊の訓練フィールドもあるが、地上のために周辺に配慮が求められる。NERVのような地下で高度に独立した組織な故に可能だった。
「拳銃だから、とりあえず50mにしましょう」
今回は拳銃のため、競技と一緒の50mの距離で同規格の標的を設定した。
各自で拳銃を取り出すが、碇シンジ大尉に注目が集まる。碇シンジ大尉と霧島マナ中尉は、特別に常時から携行が許可された。日本の治安の良さや銃規制などは世界トップを誇る。しかし、特異な事情から安全の確保が求められた。誰かに「守ってもらう」のではない。自分で「自分の身を守る」ことが重要だ。戦略自衛隊で鍛錬を積んだこともあり、シンジ大尉に注目が集中することは当然である。
「何それ」
「私はH&K USPの45口径で、アスカを含めた職員はGLOCK17なんだけど」
彼の取り出した自動拳銃はNERVの物ではなかった。葛城ミサトは、特別にH&K USPの45口径を使用する。各職員はNERVの採用したGLOCK17を使用することが一般的だった。GLOCKは言わずと知れた傑作である。ミサトのH&K USPの45口径は彼女の立場から例外に該当した。裏の戦いにおける自衛には高威力の45口径が適する。そこら辺の正規軍兵士を上回る技量を有するために認められていた。
「これはFN社のブローニング・ハイパワーです」
「9mm拳銃じゃだめなの?」
「9mm拳銃が悪いとは言いません。装弾数の多さはもちろんのこと、拳銃本体の長さや重さなど、総合的にコッチが好みです」
碇シンジ大尉は、ブローニング・ハイパワーを愛用する。初期型は1934年に完成しており、翌年に母国のベルギー軍で採用されていた。歴史に裏打ちされた信頼性の高さから、世界最高の軍用拳銃と呼び声高い。現代では流石に他社に押されているが、決して、ブローニング・ハイパワーは廃れていなかった。
「9mm弾の入手し易さや反動の制御、握り易さもあります」
「なるほどね」
「でも、当てられなきゃね」
「実際に撃ってみましょう。これでも普通兵上がりなので、それなりに自負があります」
いかに優れた武器を持っていようと、結局は扱う者の腕が全てを結する。豚に真珠とは、非常に上手く表現された。周囲に危険が無いことを確認してから射撃を開始する。国際的にスタンダードな9mmパラベラム弾が50m先の的へ向かった。
「ほとんどが中心から50mm以内に収まっている」
「ミサトさんには及びません。数発はギリギリなので、確実に急所に当てられる腕まではありません」
「ふ~ん。やるじゃない」
「次は本命のアスカの番よ~」
彼の射撃は中心から50mm以内に収まった。国際競技では最高得点を狙える範囲である。そもそも、14歳の少年少女に自動拳銃を持たせるべきでなかった。しかし、過酷な世で自衛は必須である。アスカはNERVのGLOCK17を使用するが、弾薬は同じ9mmパラベラム弾だ。
「ちょっと惜しい。どうせだし、指導してあげて」
「わかりました」
「ちょっと、今日は運が悪かっただけよ」
「屋内なのよ。風は吹いてない」
アスカの射撃は50mmの範囲をはみ出している。よって、射撃勝負ではシンジ大尉に軍配が上がった。もっとも、彼が地上部隊上がりであるのに対し、アスカはユーロ空軍エースパイロットから来ている。地上戦のプロと空中戦のプロでは、射撃の腕前に差が生じても仕方なかった。本人の技量がエヴァの戦闘力に直結する以上は、プロに磨いてもらうのが良い。
「後ろから失礼する」
「変なところ触ったら容赦なく撃つから」
「この距離だと回避できないな。そんな下心はない。欲に塗れた思春期を過ごすつもりは毛頭なかった」
拳銃を構えるアスカの後ろから手を添えた。
下手を犯して、私的な制裁が加えられても、一切の言い訳はできない。
しかし、保護責任者の大人は認める構えを採った。
「あら、そんなこと無いのに」
「どんなことですか?」
ニヤニヤしながら、はっきりと断言する。
「せっかくの青春なんだし、碇シンジ大尉と付き合ったら?NERVは学生の青春までは邪魔しないのよ~」
「はぁ!?」
続く