ヤンデレ咲さん ポンコツ咲ちゃん   作:乾き塩

1 / 9
某京太郎SSを読んでいて思いついたネタ。
なお、主人公は京太郎ハーレムの為に暗躍()する咲さんですので、あしからず。


咲、計画を練る

 

 宮永咲は自分が狂っているという自覚があった。

 

 中学からの付き合いである須賀京太郎に想いを寄せるようになり、日増しにその気持ちは大きくなっていった。

 中三の夏が終わる頃には好意が愛に変わり、徐々にではあるが咲の心を歪めていった。

 京太郎が望むなら、自分の胸を抉って抜き取った心臓を捧げてもいい。それだけの覚悟と誇りを胸の内に秘めていた。

 当然ではあるが、冗談であっても京太郎がそんな事を言うはずがない。咲もそれは分かっているが、一度でもいいからそう命令されてみたいという思いはあった。

 

 さて、命を捨てるのは論外として、他に京太郎を喜ばせる方法はないかと咲は考えた。

 レディースランチ、宿題、夕飯のおすそ分け。夏の全国大会が終わってからは、京太郎の家に押しかけて泊まりがけで麻雀を教えている。

 咲なりに考えて実行しているが、これでもまだ足りない。咲の想いを伝えるには、そんなありきたりな行動では足りなかった。

 

 他に咲にできる事を考える。身体を捧げようとしたところで、断られるのは目に見えている。

 ハンドボールで鍛えられた精神力は凄まじいもので、和が誘惑してもそれを跳ね除けるだろう。というか、実際に跳ね除けた。

 寝落ちした時ならともかく、起きてる時は同衾すら許してもらえない。曰く、高校生にはまだ早いらしい。

 そんな京太郎らしい言葉を嬉しく思いながら、咲は思案を重ねる。そして一つの答えに辿り着いた。

 

 貞操観念はしっかりとしている京太郎だが、思春期の男子である事に変わりはない。女子に興味がないわけではなく、むしろ興味は人並み以上にある。

 身近に和という無自覚ハニートラップがいるので仕方ないが、その視線は彼女の胸に度々引き寄せられている。すぐに顔を背けるなどしてバレていないようにしてるつもりらしいが、周りはもちろん和にもとっくにバレている。そんな無駄な足掻きも可愛く思えてしまい、咲の好感度は日々伸び続けていた。

 

 ならばと、咲は発想を逆転させる。

 肉体的な接触は高校にはまだ早い。しかし女子に興味があるのも事実。ここで揚げ足を取り、高校を卒業。もしくは二十歳になると同時に、京太郎に想いを寄せる他の女と共に誘惑する。

 部内はもちろん、全国大会を機に広がった咲の人脈を全力で活用すればそれも不可能ではなかった。

 

 もちろん、咲が本妻であるのは譲るつもりはない。しかし悲しいかな。文学少女であり、夏の大会で大将を務めた咲には、圧倒的に体力が不足している。

 今の身体でも京太郎は咲を一人の女として意識している。それは日頃の気安い接触の中にあるさりげない心遣いから理解できた。

 しかし体力についてはそうはいかない。ハンドボールで鍛えられていた京太郎は、雑用にも体力が必要と更なるトレーニングを重ねていた。

 どうやら、合宿の時にデスクトップパソコンを運ばされたのが効いたらしい。

 

 より鍛えられていく京太郎の身体に頼もしさを感じると同時に、咲はこれからの危機を予見していた。

 性別の差もあるが、咲の体力は京太郎の半分もない。普段身体を動かし慣れていない咲では、京太郎にとっての準備運動だけでへばってしまうだろう。

 致命的な体力の差は、夜の生活にも響いてくるだろう。咲だけが満足して京太郎に寂しい想いをさせるなど、想像するだけで自分に対する殺意を抱いてしまう。

 今から鍛えれば。とも考えたが、京太郎が年単位でトレーニングをサボらなければまず追いつける気がしない。

 

 自堕落に生きる京太郎に母性を抱きながら、事態の解決には一つしかないと断じる。体力面で問題はなかったとしても、京太郎の剛槍で突かれればどうなるか分からない。

 事故を装って京太郎が入浴している浴室に突撃したり、早朝にこっそりと測った記録から今も順調に成長を続けているのは判明している。

 日本人の平均などとっくの昔に超え、今では海外の人も真っ青なキングサイズにまで成長して更に伸び続けている。

 相変わらず、フィジカル面での才能は凄まじいものを秘めている。これだけの人材が運動部ではなく、麻雀部の雑用に甘んじるというのは清澄の大きな損失のように思えた。

 最近では、タコス作りをきっかけに始めた料理の腕もメキメキ上達している。

 そこに、これまたハンドボールで培われた観察力が合わさる。

 

 手先が器用で、観察力に長けたキングサイズを持つ体力お化け。

 咲だけでは、一晩どころか一時間持つかどうかすら怪しいところだった。

 その上、高いコミュニケーション能力を持ち、家はカピーちゃんを買えるほどのお金持ち。それでいてその事を鼻にかけず、どれだけきつい雑用を押し付けられようと嫌な顔一つせずに取り掛かる。

 気配りの達人で、弟子入りしたという執事さんの教えを受けて立ち振る舞いにもどこか気品を感じる時がある。

 自分の非を素直に認め、謝罪するだけの器も持ち合わせている。

 

 ………………あれ? なんで私たち、こんな完璧超人に面倒ごとを押し付けてるんだろ。死んでお詫びするべきかな。

 

 思考が明後日の方向に向かう。

 なんとか気持ちを切り替える。

 咲では確実に京太郎を満足させられない。ならば、頭数を揃えるしかない。幸いな事に、咲の周りには美女、美少女が揃っている。

 清澄の麻雀部に始まり、和の古巣である阿知賀。県内や全国の強豪校。

 県外の高校との接点となると合宿くらいしかないが、全国優勝した清澄には複数の高校から合宿の誘いが来ている。部長である久は既に籠絡済み。以前のような、京太郎だけ留守番をさせるような事にはならないだろう。というより、咲がさせない。

 もしも京太郎を留守番させると言い出せば、再び教育する必要があった。

 

 貞操観念がしっかりとしている京太郎だが、美女、美少女に囲まれるのは拒絶しない。それらが一線を越えようとすれば、拒絶するだろうが。

 しかし一線を守って健全な付き合いをする分には、何も問題がない。咲の思惑に気付いていても、京太郎が明確な否定を示す事はまずないと断じていた。

 

 咲が捧げられるものの中で、京太郎が最も喜ぶであろうもの。それが友人知人。そして姉である照だった。

 京太郎の妾。否。京太郎の所有物として仕上げて捧げる。それが咲の愛情を示す咲にしかできない事だった。

 とはいえ、生半可なものを捧げるつもりもない。徹底的に教育を施し、咲と同等。とまではいかないが、深い愛情を京太郎に抱かせる。それこそ、京太郎の所有物になってでもそばに居たいと思うくらいに。

 既に清澄や阿知賀。そして照の教育には成功している。今は距離感が近い友人や先輩程度に、京太郎は認識している。しかしそれも、咲の号令一つで関係を一気に詰める事もできるようになっている。

 コミュニケーション能力はいまひとつな咲だが本で培った知識。そしてうちに秘めた狂気が、咲を躍進させていた。

 

「…………あはっ♪」

 

 計画は上手くいく。そう確信している咲は笑みを浮かべていた。その確信が誤りであり、この判断を後に後悔する事になった。

 これから咲が相手をする。もしくは教育に成功したと思っている相手の中には、咲以上の狂人が潜んでいる。

 常識を持ちながらも狂ってしまった咲とは違う。常識そのものが狂っている狂人に振り回される事になるとは、この時の咲は夢にも思っていなかった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。