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松実玄という少女は、咲にとって微妙なポジションにいた。
女性の胸をおもちと呼び、京太郎の部屋に押しかけて夜遅くまでおもちについて語り明かしていると聞いていた。そんな話を聞いては、見過ごすわけにはいかない。
幼馴染の立場を利用して京太郎の部屋にやってきた咲は、その日も突撃してきた玄を迎え撃った。
しかし実際にその現場を目の当たりにすれば、男同士が下ネタで盛り上がっているかのような錯覚に陥った。
京太郎もテンションは高い方だが、おもちについて語っている玄はそれ以上だった。
とはいえ、油断はできない。気を抜いた瞬間、京太郎を掻っ攫われる可能性もゼロではなかった。
阿知賀には要注意人物が集まっていた。
行動力の化身である穏乃。
男性恐怖症である憧。
極度の寒がりである宥。
指導者を志す灼。
穏乃は、京太郎を山に連れ出しては一日中駆けずり回り。
憧と宥は、それぞれが抱える問題が京太郎の庇護欲を駆り立て。
師に憧れる灼は、初心者同然の京太郎を指導したりと。
この四人も、自然と京太郎との距離を縮めていた。しかし最も距離感が近かったのは、間違いなく玄だった。
先輩後輩といった上下関係をしっかりと守っている京太郎が、タメ口で接する数少ない年上の相手。
京太郎に同志とまで呼ばれる関係は、咲には到達できない一種の極地だった。それを羨ましく思えないのは、二人の間で交わされる会話を京太郎の隣で聞いてしまったからだろう。
同志の立場は玄に譲ろう。遠い目をした咲の瞳からは、いつもとは違った理由で光が失われていた。
それが玄を落とす前の話。玄の攻略はあっさりとしたもので、気付けば籠絡していたレベルだった。
お姉ちゃんを自分よりも優先してくれるなら、咲の計画にも喜んで協力すると言ってくれた。献身的な姉思いの妹。同じ妹である咲は、その純粋な思いに目が眩んでしまった。
玄を籠絡した咲だったが、本当の苦労はそれからだった。
新たな境地に辿り着いたと宣った玄は、笑顔でとんでもない要求を咲に突きつけた。
「…………また、買い替えないと」
自室。姿見の前に立った咲は、窮屈になった胸を見下ろしていた。
玄を籠絡してから一年近くが経っていた。二年生に進級した咲の胸は、一年前とは比べ物にならないほどの成長を遂げていた。
さすがに和には及ばないが、照を凌駕するくらいの急成長を遂げている。
この一年でブラを買い換えた回数は、まさかの三回。その全てが、胸が成長した事でサイズが合わなくなったから。という理由だった。
以前の咲なら、手放しに喜んでいただろう。
得意げな顔で胸を張って、京太郎に自慢もしていただろう。
しかしその原因を思うと、素直に喜べなかった。
「…………重い」
和が前に言っていた、胸が大きくてもいい事なんてない。という言葉を思い出す。
京太郎が喜んでくれるのは、これ以上にないメリットだ。とはいえ、無いなら無いで喜んでくれていたと思うと、必要のない苦労を背負い込んでいる気がした。
実際にはぶら下げてるんだけど。などと、つまらないダジャレが脳裏をよぎるくらいには余裕はあった。
服越しにでも見てわかるほどに、自らの存在を主張する双丘。それは、まだ巨乳の部類に入る大きさだ。
しかしこれ以上大きくなれば全体のバランスが悪くなり、奇乳の類になってしまう。もう少し控えるべきだろうか。そんな事を思いながらも、玄が考案したバストアップ体操を始めた。
「1、2、3、4…………」
すっかり習慣になっちゃったなぁ。
最初こそ、胸が大きくなるから! という言葉に釣られて始めた体操。効果は絶大で、咲の体がそれを証明している。
これ以上は必要ないのだが、玄からは毎日続けるように! と、強く念を押されている。
また体操自体が、それなりにきついものも多い。室内にいる事の多い咲にとって、運動不足の解消にも役立つものだった。
この体操を毎日続ける事。それが玄の要求だった。しかも二ヶ月に一度はアップデートが入り、更に効果を増している。京太郎との熱い議論の果てに編み出した。というのが玄の言葉だった。
なお咲がこの体操を始めた当初、京太郎は咲がこの体操をしていると知らなかった。
おもちを育てるにはどうしたらいいか。という玄との議論がそのまま流用されていると知らなかった京太郎は、それを知った瞬間に咲に土下座を決めていた。
その後、バストアップの議論には消極的になった京太郎だが、玄に煽られて熱が入って以前のような議論を交わしてしまう。
そして更に有用な方法が発見され、咲の体操に反映される。それを知った京太郎がまた土下座するという、ループを生み出していた。
十数分にわたる運動を終えた咲は、僅かに上がった息を整えていた。キッチンに降りて水分を補給すると、部屋の姿見の前に戻って下着姿になる。
パシャ
鏡に映った自分を正面から見た姿と、横を向いた姿の写真を二枚ずつ撮る。撮影した写真を玄に送るのも、すっかり習慣となっていた。
「なんで私、玄さんに下着姿の写真なんて送ってるんだろう…………」
撮影した写真をメールで送ったところで、冷静になる。
バストアップという言葉に釣られて始めた習慣は、そう簡単に抜けそうになかった。
それだけ、当初の咲は熱心に取り組んでいたのだろう。ここまで尾を引くとは、当初の咲は考えもしていなかった。
パシャリ
ついでとばかりに、もう一枚撮影。今度は棒立ちではなく、ポーズを決めた咲なりのセクシーショットだった。
少しぎこちない格好だが、それはそれ。写真をメールに添付すると、一文を添えて送る。
『京ちゃんのせいだからね! 責任とってよね!!』
胸を片手で抑え、頭上から見下ろすようなアングルでの撮影。恥ずかしげに頬を染め、涙目の上目遣いも忘れない。
というより、本当に恥ずかしい。色々と振り切っているおかげで行動に躊躇いがない咲だが、京太郎に肌を晒すのは恥ずかしさが残る。
狂気が後押ししているおかげで、実行する分には問題ない。しかしその表情は、あざといくらいに羞恥に染まっていた。
「…………やっぱり、やめとけばよかったかも」
京太郎を誘惑するのは、以前から作戦の候補に挙がっていた。しかしこうして咲が実行するようになってからは、半年も経っていなかった。
玄のおかげで手札が増えたのは良い。それでも後々に恥ずかしさが勝って、自分の行動を後悔している。
────────
「〜〜〜〜♪」
送られてきたメールに添付されていた画像。下着姿の咲を見て、玄は満足気に鼻歌を歌っていた。
ちょうど自室にいた玄は、慣れた手つきでパソコンとプリンターを起動。スマホのアプリから送られてきた画像を印刷しながら、パソコンにデータを送って『おもち育成日記』フォルダーに保存する。
印刷された写真を確認し、取り出したアルバムにしまう。アルバムには、フォルダーと同じ『おもち育成日記』と書かれていた。
パソコンの電源を切り、アルバムを最初から開いていく。そこには下着姿の咲の写真が所狭しに並んでいた。
その写真の数は、脅迫材料にすらなり得る量だった。よほど嬉しかったのか、胸が大きくなり始めた頃の写真には全裸でポーズを決めているものもある。
ページをめくるごとに、写真の中の咲の胸が大きくなっていく。一通りめくり終えて最後まで見終えた玄は、誇らしげに深く息を吐いた。
「うんうん。咲ちゃんのおもちの成長も順調ですのだ。この調子なら、半年もすれば目標の三桁に突入しそうだね」
咲には言っていないが、玄には目標があった。
それはほぼ平野とも呼べる状態だった咲のおもちを、高校生の間に世界最高峰の山脈に育て上げるというもの。
三桁というのは最低限のラインでしかなく、更にその上を目指すつもりだった。
もちろん高校を卒業したからはい終わり。というわけではない。
生涯をかけて咲のおもちを育て続ける。たとえおもちが育ちすぎて動けなくなっても、玄が一生面倒を見るつもりだった。
まだまだ玄の楽しみは尽きない。
京太郎が二十歳になれば、咲が妊娠するのも時間の問題だろう。母乳が出るようになれば、更に咲のおもちは大きくなる。
京太郎の子供を産ませ続け、常に母乳が出るように体質を変換させるのもいいかもしれない。その方法が正しいかどうかは、医療知識のない玄には判断がつかない。
咲だけでなく、宥や他の面々も京太郎の子供を産むので子沢山となってしまうだろう。しかし龍門渕財閥からの資金提供が約束されているので、金銭面での心配はない。
将来的には、松実旅館からも何か出すべきだろうか? 貰ってばかりに感じている玄は、自分にできる事を考えていた。
重婚ともなれば、色々と課題が出てくるはずだ。大抵の問題は、龍門渕による金の暴力で解決できる。
旅館の手伝いで対人能力や家事全般を培ってきた玄は、外よりも家庭内でのいざこざに対処する方が役に立つような気がしていた。
「…………とりあえずは、京太郎くんの為に動かないとだよね」
龍門渕の資金援助も、あくまでも予定にすぎない。万が一にでも、資金援助の話が無くなってしまう可能性も考慮する必要があった。
自分にできる事を一から思い浮かべ、それを頭の片隅にでも記憶しておく。
必要になればすぐに動けるようにしながらも、玄にとっての最優先事項は揺らいでいない。
最愛の人であり、同志でもある京太郎の為に。
咲のバストアップは急務であり、義務でもあった。
アルバムを戻して、最初のページに戻る。
最初のページの横。表紙の裏の中央には一枚の写真が貼られていた。
他の写真と同じように、下着姿で棒立ちとなった咲。と思われる人物の写真。顔の部分には大きな穴が空いているせいで、写真に写っているのが咲だと断定できなくなっている。
穴が空いてるのは顔だけではない。腕、足、腹。背景どころか写真の枠をはみ出して、表紙の裏にまで穴が空いていた。
先端が細く鋭い物で、激情に任せて滅多刺しにしたかのような有様。
その中で唯一無事な胸の部分を指先で撫でた玄は、感慨深げに呟いた。
「出来損ないのおもちなんて、てきとうに使い捨てるつもりだったけど。思わぬ収穫だったなあ」
驚きとほんの少しの喜びが混ざった声。
しかしどこか冷徹にも聞こえるその声は、松実玄という少女を知る者が聞けば、その耳を疑うものだった。
ダンッ
取り出したアイスピックで、写真の顔の部分を勢いよく突き刺す。ぐりぐりと突き刺したアイスピックを回し、表紙を抉っていく。
「でも、まだですのだ。お姉ちゃんを差し置いて、京太郎くんのお嫁さんになるつもりなら。もっと、もっともっともっと立派なおもちになってもらわないと。私、何するか分からないよ?」
宥と京太郎が結ばれるなら、玄は喜んで身を引く覚悟だった。その為におもちについて語るように見せかけて、宥の魅力を存分に語っていたのだから。
しかし付き合いの長さが準備の時間そのものとなる以上、咲が圧倒的に有利だった。
京太郎は、無自覚ながら咲に惚れている。そしてかつての仲間であった和が敵になっている以上、玄たちに勝ち目はなかった。
最初こそ、なんとか隙を見て京太郎を奪い取るつもりだった。ただ、京太郎の思いも無視できない。
そうして考えた末に玄が辿り着いたのは、咲が京太郎に相応しい女になれるかどうか。というものだった。
内面なんてものは気にしていない。京太郎が惚れているのだから、普段は相応の性格なのだろう。
玄が気にしているのは、胸のみだった。京太郎の嫁になるというなら、相応の大きさが必要になる。出会った頃の咲は当然として、生半可な仕上がりであっても切って捨てるつもりだった。
そんな玄の思惑など知らず、咲は明日もバストアップ体操を続ける。鍵をかけ忘れ、部屋に入ってきた京太郎にピンクの先端を見られるとも知らずに。
誕生日プレゼント(バストサイズ)
こんなに酷いプレゼント、滅多にないと思う。
この作品は作者の思いつきで描かれています。突然大学卒業後の話になったかと思えば、インハイ中の話になる場合がありますので注意してください。