ハーレムメンバー同士が仲良く喋ってるだけになりました。
新子憧は男性が苦手である。
それは自他ともに認める事実だった。いつからとは明言できないが、中学の半ばから自覚できるくらいの苦手意識はあった。
明確なきっかけがあったわけでもない。ただ中学への入学後、ファッションなどに興味を持ち、自分なりに勉強を始めた頃から男たちの見る目が変わった。
今にして思えば、年頃の少女である憧に様々な感情を抱いて接触してきたのだとは思う。しかし当時の憧は男の感情の機微に疎く、急に距離を縮めようとしてくる男たちの意図が読めずに恐怖心を募らせていった。
幸いな事に、事件になるような出来事はなかった。何度か告白はされたが、断ればその場は引き下がる相手ばかりだった。もっとも時間をおいて繰り返し告白してくる相手もいたので、それはそれで対応に困りはした。
そういった出来事が積み重なって今に至る。このままではいけないと何度か地元の友人に相談したが、未だ解決には至っていなかった。
どうすれば解決できるか。頭を悩ませる憧に、転機が訪れた。全国大会で再会した旧友である和と同じ麻雀部である京太郎。
観察に徹して京太郎の性格を知った憧は、彼に協力を依頼できないかと和に話を持ちかけた。
相談を受けた和もまた、いい考えだと前向きな答えを返した。ただ具体的にどうするかは思い浮かばず、とりあえず相談の場を設けたいという話になった。
そうして設けられた相談の場というのが、清澄と阿知賀の合同合宿だった。冬休みが始まってすぐの合宿は、松実館を利用して行われている。
互いに人数が不足しているという理由で、引退した三年も参加している。休憩時間となった今は、二年の面々と共に京太郎を引きつけていた。
阿知賀の面々が泊まっている大部屋。ここにそれぞれの一年が集まっていた。
双方に縁がある和が進行役を務め、話題の中心にいる憧が補佐役として隣に並ぶ。
「相談に乗るのはいいけど、私たちだけでいいのか? 阿知賀の先輩の方が、憧ちゃんの事よく知ってるはずだじょ」
「みんなには、何度か相談してるのよ。けど今回は、京太郎に協力してもらう前提でしょ? 仲の良い和たちの方が、いい案も出ると思ったのよ」
チームメイトは信用しているし、何度かこの手の相談もしている。しかし女子校である阿知賀に手頃な男子などいるはずもなく、解決には至っていなかった。
しかし今回は、京太郎という心強い味方がいる。大会直後に会った際はその見た目から萎縮してしまったが、それも今となっては好都合だった。
出会った当初の恐怖心を克服し、京太郎と普通に接する。それが出来れば、男性に対する苦手意識は克服したも同然だった。
とはいえ、憧たちが京太郎について知っている事はそこまで多くない。
体力面や精神面。そして性格こそ大まかに把握しているが、趣味趣向などは知らない事の方が多い。
知らない部分は、自分たちのイメージで補完している。おかげで、せっかくの妙案も台無しになってしまう可能性があった。
「とりあえず、憧の目標とする男性との距離感を教えてもらえませんか? 場合によっては、段階を踏んでいく必要がありますので」
和が最初に確認したのは憧の目標だった。
普通にとは聞いているが、具体的なラインははっきりと聞いていない。つつがなく会話ができる程度でいいのか、はたまたもう少し踏み込んだものを望んでいるのか。
時間をかけた分、男性恐怖症の根は深い。一気に推し進めようとすると、逆効果になりかねなかった。
「…………急に手とかがぶつかっても、驚かないくらいにはなりたいわね。それ以上なら、驚くくらいでちょうどいいだろうし」
事前に心構えさえしていれば、不意の接触でない限りは日常生活に支障は出ない。むしろその状態でも憧が驚く状態となると、それが当然の反応とも言える状況だった。
苦手意識を克服したい憧だが、克服したからといって気安く体を触らせるつもりはない。
身近に玄という同性から見ても危険な人物はいるものの、どことも知れない相手に磨き上げた肌を好きにさせるつもりはなかった。
なら誰ならいいのか。そう自問して最初に思い浮かんだ顔を憧は否定しなかった。
────ま、まあ協力してもらうわけだし? 結果はどうであれ、お礼はするべきよね。なんなら、ちょっとくらいサービスしてあげても…………
「…………憧、顔赤いけど大丈夫?」
「だ、大丈夫! なんでもないわ!!」
みるみるうちに顔が赤くなっていく憧を心配し、穏乃が顔を覗き込む。慌てて否定する憧に、穏乃だけでなく咲と優希も首を傾げる。
和だけは穏やかな微笑みを浮かべており、その心情を察しているようだった。
憧の様子は気になるが、本人がなんでもないと言うので話を進める。不意の接触には対応できる程度という憧の希望に沿う形で、方針が固まり始めていた。
とはいえ、憧が目標としているのは京太郎相手だけではない。全ての男相手に、不意の接触くらいでは驚かないくらいになりたいというもの。
訓練の相手が京太郎だけという状況では、達成する方法も限られていた。
「大まかな方法は二つ。一つ目は須賀君に、より踏み込んだ接触をしてもらい、不意の接触くらいでは動揺しないように慣れるというもの。二つ目は、須賀君以外の男性を男性と思えなくする方法でしょうか?」
「一つ目はともかく、二つ目はどうするんだ? そんな都合のいい方法があるとは思えないじぇ」
和が挙げた二つの方法。一つ目はともかく、二つ目の方法は具体的な手段が優希には思いつかなかった。
芝居でよく聞く、観客をかぼちゃと思え。というのと同じようなものだろうか。と考えながらも、少し違うような気がしていた。
一方で咲はなんとなく二つ目の方法を察していた。確認するように和と目を合わせると、咲を見た和もまた小さく頷いた。
二つ目について論じるのはまだ早い。とりあえず一つ目の方法について論じようと、話を逸らす意味も兼ねた案を出す。
「二つ目については置いておいて。とりあえず、一つ目なんだけど。やっぱりここは、壁ドンとかどうかな?」
「知ってる! 壁際に追い詰めるやつだよね! こう、ドンッ! って」
「シズ。それだと、トドメを刺してるようにしか見えないんだけど」
壁ドンと聞いて穏乃がそのジェスチャーを真似るが、動きは正拳突きのそれだった。
壁際に追い詰めた相手に正拳突きでトドメを刺す。そんな光景を幻視して、憧は呆れた表情を浮かべた。
とはいえ、壁ドンという案自体は悪くないものだった。その前に何度か段階を踏む必要はありそうだが、最終目標とする分には適切に思えた。
握手、肩揉み、見つめ合いなど、壁ドンまでのルートを形作っていく。
休憩時間や寝る前の時間を使って訓練をするので、取れる行動は限られている。手軽にできるもので、効果的なものを選ぶ必要があった。
京太郎も参加している以上、合宿を疎かにするわけにはいかない。阿知賀側は憧が協力してもらう為。清澄は今までの恩に報いる為。
それぞれの事情から、京太郎の特訓を優先すると合宿前に取り決められていた。
ちょっとした時間でできる方法。和たちがその方針で案を出す中、ふとある事に気付いた穏乃がハッとした表情を身を乗り出す。
「そうだ! 京太郎と一緒に寝るのはどう? 寝てる間なら、麻雀の時間を削らなくて済むよ!!」
「それです!!」
「それです!! じゃないわよ!?」
妙案だとばかりに和が穏乃を指差す。それに驚いた憧が、視界を横切る和の腕を叩き落とした。
寝ながら麻雀はできない(極一部の巫女は除く)以上、寝ている間に苦手意識を克服するというのは限られた時間を有効に使う手段だった。
もちろん、眠っている間は意識がないのでその全てを克服に当てられるわけではない。
それでも寝る前や起きる時には、京太郎と同じ布団の中にいる事を意識できる。運が良ければ、寝起きと同時に京太郎の寝顔を間近で見られるかもしれない。
少しばかり刺激が強いが、不意の接触への耐性もつけられる。
また壁ドンと違って、恐怖心を煽る可能性がゼロに近いというのも和が目をつけた理由だった。京太郎が相手でも、憧は怖がる素振りを見せる時がある。
京太郎の風貌は、憧を怖がらせるには十分なもの。そんな彼が強引に迫るような真似をすれば、僅かながらではあるが憧の恐怖症を悪化させる可能性があった。
だからこそ、段階を踏もうとしていたところに出てきた穏乃の案に、和は興奮を抑えきれなかった。
この案が穏乃から出たというのもまた僥倖だった。性知識のせの字も知らない穏乃だからこそ、今回の案にも下心が無い。
友人を思っての純粋な提案には、憧も強く反論できなかった。
和の予想通り案を否定しようとした憧だったが、申し訳なさそうに顔を伏せる穏乃を見て口を閉ざす。
それからしばらく頭を悩ませた後に、やってやろうじゃない! と啖呵を切った。
「こうなったら、とことんやってやるわ! 同衾だろうが逆夜這いだろうが、なんでも来いよ!!」
「さすが憧ちゃん。さりげなく二番目を選ぶなんて、抜け目ないね」
勢いで発言したのは咲の目から見ても明らかだった。強がっているようにしか見えない表情は、羞恥に染まっている。
自分を差し置いて。と思わなくもないが、ここは揶揄う事で気を紛らわせる。正直なところ、咲はあまり怒っていない。
むしろ、京太郎の為に苦手なものを克服しようとする憧の姿勢を好ましく思っていた。
その対象が
問題があるなら、下心丸出しで接触して憧を恐怖させた男子連中だ。二度と憧に近付こうと思わないように、京太郎とのデート(清澄や阿知賀メンバー同伴)を見せつけて脳を破壊する必要がありそうだった。
夜這いという単語に優希は頬を赤くして俯いてしまう。穏乃は言葉の意味を理解していないのか、不思議そうに首を傾げていた。
「やるなら、逆夜這いですね。須賀君の性格だと、苦手の克服の為とはいえ、同衾は断られるでしょうから」
「そ、それは憧ちゃんには早いじょ!! そもそも、段階を踏むって言ったのはのどちゃんだろ!?」
「ええ。ですので、私たちも同じ部屋で寝ます。体を密着させれば、全員入れるでしょうから」
意を決した優希の反論が潰される。
この合宿において、京太郎は空いている個室を使っていた。一人だけ個室を使うというのに抵抗は感じていたが、大部屋とはいえ女子との相部屋よりはマシとして納得していた。
当然、部屋には鍵が掛かっているが、関係者である松実姉妹が味方である以上はなんの問題にもならない。
部屋の大きさ的に、詰めれば両校のメンバーが同じ部屋で眠れる。小柄な優希たちがいるからこそ、実行できる荒手だった。
和の計画としては、前から咲。背後から憧が密着。残った面々で周りを固めるというもの。
最高の結果は、理性を抑えきれなくなった京太郎が咲や憧に手を出す事。しかしそれは、まず起こらないと見ていい。
今回の目的は、憧の苦手意識の克服。そして自分たちが京太郎を信頼し、更には手を出してもらっても構わないと行動と言葉で伝えるというもの。
このままだと、みんな行き遅れちゃいそうですから。と好意は認めながらも、茶目気を見せて明言を避けるつもりだった。
咲も同様に、京太郎が手を出すとは考えていない。しかし和の考えているその先については思い至っておらず、憧ちゃんに協力できるなら、くらいにしか考えていなかった。
「で、でも。大勢で押しかけたらさすがにバレるんじゃない?」
「ううん。今日なら大丈夫だよ。合宿とかで頭を使った時は、翌朝までぐっすりだから」
スポーツにおける瞬間的な判断と麻雀における長期に渡っての思考。
慣れない思考のパターンは京太郎を疲弊させるには十分なものだった。それを知っている咲なので、部屋に潜り込むまでなら難しくないと確信していた。
それ以上となると慎重に動く必要はあるが、京太郎に直接何かしなければ達成も難しくない。
京太郎に最も接近するであろう憧が騒がないかが、最大の懸念事項だった。
ひとまず、今夜、京太郎が寝静まった頃に部屋に突入する事が確定する。勢いで言った憧は表情を固くしていたが、前言をひっくり返すような事はしなかった。
布団に潜り込む時の配置も、和が考えていた通りのものを提案する。すると意外な事に、咲がその提案に異議を申し立てた。
「ま、待って待って! 私が正面って、どういう事!?」
「何か、おかしなところでも? 背中からなら、憧でも一緒の布団に入れるでしょうし。正妻である咲さんが正面に回るのは当然の事かと」
何を今更。そう言いたげな和に対し、咲は慌てふためいて言葉を返す。
「だって、京ちゃんの正面から密着だよ!? そのまま朝を迎えたら、京ちゃんの、下の…………っ!!!!!」
「咲、どうしたの!?」
途中で口ごもった咲が無言のまま取り乱す。あまりの様子に穏乃が取り乱す横で、和も僅かに頬を染めながら顔を逸らした。
「そういえば、朝になると大きくなるんでしたね。憧、これはチャンスですよ。朝の須賀君を見れば、他の男性なんて塵芥も同然。嫌でも須賀君だけを意識するようになります」
「なーんか嫌な予感がするんだけど。一応、訊いておくわ。何の話?」
「何って、ナニの話ですが」
「うん、知ってた」
諦めた様子で憧が呟く。ここから先は、もはや会議どころではないというのは、容易に想像がついた。
その後、異性の目がないのをいい事にエグい下ネタが部屋を飛び交っていた。性知識のなかった穏乃へも性教育が行われ、今夜の計画に積極的に参加する姿勢を見せていた。
その様子に憧が頭を抱える。内心楽しみにしているのを悟られないよう、隠すのに必死だった。
憧の男性恐怖症の理由として、実は京太郎と昔馴染みだったからというのも考えていました。付き合いが長い京太郎が優しい為、男はみんなそうだと思っていたらそうじゃなかった。みたいな感じで。
ただ、少し考えた後にこの案はカンされました。京ちゃんの幼馴染は咲ちゃんだけだから。仕方ないね。