無限と十種   作:うぃりあむぅ

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テンポよく。


暴君再び

『どうだ禪院、星漿体暗殺。お前も一枚噛まないか?』

 

「なんだそりゃあ?」

 

 適当に飯食ってるときに掛かってきた電話から聞こえてきたのは依頼の話。盤星教からの星漿体の暗殺依頼。盤星教が信仰しているのは混じり気のない純粋な天元であり、如何に適合者といえども星漿体が天元と同化することは受け入れられないらしい。だからどうにかして殺す。物騒なこった。

 

『星漿体の護衛には五条悟とその学友である夏油傑。更に特級術師の禪院明まで参加するらしいぞ。』

 

「うげ、明も居んのかよ。」

 

『知り合いか?姓が同じだしな、親戚辺りだろ?』

 

「まぁ、そんなところだ。昔色々あったんだよ。」

 

『そうか。だが今回、奴……禪院明は基本的に自宅待機らしいぞ。確かな筋からの情報だ。信用していい。』

 

「マジかよ。……相変わらず呪術界の上層部は腐ってんな。安心したぜ。」

 

『そういう事だ。……受けるか?金払いはいいぞ。』

 

「いいぜ、その依頼受けてやる。……言い忘れていたが、禪院じゃねぇ。今は伏黒だ。婿に入ったんでな。」

 

『え、お前結婚してたのか──』

 

そう告げ一方的に電話を切る。用件は済んだだろう。

 

明は基本的に自宅待機。つまり何かあった後にしか行動出来ない訳だ。暗殺するだけならば相手にするのは五条の坊とそのお友達だけ。だが肝心の五条の坊は高専に入ってからというもの更に鍛え込んでいるらしい。……護衛期間は3日もある。焦る必要は無い。

 

「念入りに削らねぇとな。」

 

***

 

「呪詛師が多すぎるだろ!!!」

 

「確かに多いね。」

 

 護衛任務を受けた2人は異常なペースで襲来する呪詛師を捌き続けていた。

五条悟は視線一つで呪詛師を巻き込み捻り潰し。夏油傑は呪霊操術による物量で抵抗を許さない。

 

「さっき呪詛師御用達の闇サイトの掲示板を見てきた。理子ちゃんに4500万の賞金が掛けられていたよ。」

 

「だからこんなに多いのかよ!現金な奴ら!!」

 

「呪詛師というのはそういうモノだよ。金のために人を呪い殺す。」

 

護衛対象である天内理子の要望には全て応えろ。夜蛾先生を通して伝えられた天元様のお達しだ。この時点で高専に戻る選択肢は無くなり、天内理子は普段通り学校へと通おうとした。そうして1カ所に長く留まった結果、大量の呪詛師が襲いかかって来ているという訳だ。

 

依頼主である天元様、そして他でもない理子ちゃん本人とその家族からの切実な願い。断る理由なんてなかった。自分達は最強なのだからと自分に言い聞かせて。

 

だがいかんせん呪詛師の数が多すぎた。戦闘に巻き込まないよう、黒井さんには離れておくようにお願いしたことは正しかったとは思う。

 

「ど、どうしよう!黒井が──」

 

黒井さんの誘拐。敵側にとっての黒井さんの価値を見誤っていた。自分のミス。普通ならこのまま無視すれば良い。交渉の主導権があるのは理子ちゃんがいるこちら側だ。とりあえず人質となっている黒井さんのことは後回しで理子ちゃんを高専に連れていき、それから硝子辺りに影武者でもさせて交渉すれば良い。……だが理子ちゃんはそれを良しとするだろうか。唯一の家族。そんな人と自分が過ごせる時間はあと僅か。我慢させるには余りに酷だ。

 

「悟、どうす──」

 

「助けに行くぞ。俺たちなら問題ない。人質をどうこうする前に叩き潰せる。」

 

悟の顔は、自信に満ち溢れていた。

 

 

***

 

 結局あの後は沖縄にまで行った。黒井さんを拉致した奴らがそこを指定してきたからだ。場所が分かってからは簡単に制圧出来た。ちょっと呆気なさすぎたなと思えるくらいに。

 

護衛の期間はまだある。理子ちゃんがまだ遊んでいたいと言い出したのはこちらにとっても好都合だった。東京に比べれば沖縄は呪詛師の数が少ない。護衛する側としては東京より守りやすいのは確かだった。それでもそこそこの数が追いかけて来たのには驚いたが。そのせいか悟は常に術式を維持して周囲を警戒していた。大したものだ。ろくに睡眠も取っていないだろうに。

 

……理子ちゃんの賞金には期限がある。その期限いっぱいまでこちらで過ごして最短で高専へと帰還する。これで良い。

 

高専結界を通り抜け、長い護衛が終わる。そんな油断があったからだろうか。

 

 

 

 

 

──トスッ

 

術式を解いた悟の胸から刀が生える。その場の空気が凍った。ありえない。ここは高専結界の内側。私に咄嗟に出来たのは、悟を刺した男を呪霊を使って遠ざけることだけだった。

 

「悟!大丈夫か!」

 

「──問題ない。術式は間に合わなかったけど急所は避けたし、刃はどこにも引かせなかった。アイツは俺がやるよ。傑は天内たちを頼む。」

 

「──油断するなよ!」

 

ヒラヒラと手を振る悟の顔は、とても頼もしかった。

 

***

 

「さて。どこのどいつかな?」

 

傑の放った呪霊を引き裂いて現れたのは筋骨隆々の大男。それと男に巻き付く芋虫のような呪霊。術師殺し、禪院甚爾。

 

「なんだ、星漿体はいねぇのか。お前は今ので仕留めたかったんだけどな。」

 

「はっ、あれで殺せるわけねぇだろうが──よ!!」

 

視線と同時に放たれるのは蒼の引力。五条悟の意志一つで巻き起こされた破壊が甚爾を飲み込まんと迫る。

 

しかし、引力が晴れた先には既に甚爾の姿は無かった。

 

──速い!だけじゃねぇ、さっきから違和感があったがコイツ呪力が全くない!天与呪縛のフィジカルギフテッドか!

 

「すげぇな、視線だけで術を起こせるのか。」

 

「……褒めるんだったら当たれよ。」

 

「悪りぃな、生憎殺気の籠った視線には慣れている。来ると分かったなら躱せるさ。」

 

そういうや否や、呪具を取り出した甚爾はその圧倒的な身体能力を駆使して縦横無尽に動き回る。眼で追いかけることが困難な速さ。

 

「寄らせねぇよ──『無空』」

 

「!!!」

 

ビタリ、と()()()()()()()()()()()()。動きの止まった甚爾を見逃さない。すかさず呪力で強化した拳で殴り飛ばす。

 

無下限呪術、拡張術式──『無空』

対象の周りを無限で囲み、動きを限りなく遅くする技。無限は至る所に存在する。術式の解釈を深めた五条悟は、ある程度自分から離れた無限をも操る事に成功していた。当たれば確実に相手を止められる強力な技であるが、引き換えに『蒼』などとは同時に使えない。これはあくまで止める力を応用したものである。

 

……なるほどな。止める力であるニュートラルの無下限呪術を俺の周りに展開したってことか。だが、普通に殴ってきたことを鑑みるにさっきの巻き込むやつとは同時に使えないってとこだろ。厄介だが動けないところを好き勝手やられる訳じゃねぇ。

 

プラン変更だ。元々不意打ちの速攻で全員殺って帰るつもりだったんだ。手速く殺せば明は間に合わねぇ。出し惜しみはナシだ。

 

 

……中々出てこねぇな。あれで終わりとは思えねえけど。奇襲されても面倒だ。ちょっと辺りを掃除するかぁ!

 

「術式順転 出力最大──『蒼』」

 

奇襲を警戒しての辺り一帯、遮蔽物の一掃。今の五条悟によって放たれる最大出力の『蒼』は辺り一帯を文字通り更地にした。

 

これで遮蔽物はゼロ。奇襲は出来ない筈だが……

 

「森に隠れたか。だけどそこも今丸ハゲに──」

 

ギリギリで悟の術式の範囲外だった森から現れるのは多数の蠅頭。

 

あの呪霊の中に飼っていたのか!これじゃあ蝿頭の呪力でアイツを捉えられない!このまま蒼でもう一度……いや、ヤツは天内を殺しにきてるんだ。狙いは──

 

「天内──」

 

ジャラリと、鎖が舞い踊る。

 

五条悟の無下限呪術。その絶対防御を貫く一撃。その正体は鎖の先に括り付けられた異質な呪力を放つ呪具。

 

特級呪具 『天逆鉾』

 

その効果、発動中の術式の強制解除。

 

喉を貫かれつつも呪具を掴んだ悟は間違いなく強者である。しかし、今この瞬間は甚爾が上手だった。ただそれだけのこと。

 

鎖を使い、天逆鉾を巧みに扱って五条悟をひたすらに斬る。使っている鎖も特級呪具。安全な距離からの完璧な不意打ち。仕上げとばかりに腹に突き刺した天逆鉾を、悟ごと引き寄せ──

 

特級呪具 『游雲』

 

取り出した三節棍での重い一撃が胸部に決まる。引き寄せる勢いと甚爾の膂力の乗った攻撃は凄まじい音を立てて悟を吹き飛ばした。

 

……ふぅ、あれ当たってまだ反撃しようとすんのかよ。削っといて正解だったな。それなりに速く殺せた筈だ。今から星漿体殺しにいけば明が来る前にトンズラこけるだろ。

 

「特級呪具3点セットのフルコースだ。これでくたばっといてくれや。」

 

──返答は、無かった。

 




悟君もめっちゃ鍛えた。
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