──禪院明へ通達
高専内にて異変有り。現場に残されていたのは、星漿体のものと思われる血痕と重傷の夏油傑。そして五条悟は大規模な戦闘痕と血痕を残し消息不明。
貴殿には星漿体の奪還及び、現時点で行方不明の五条悟の捜索と確保を求める。
五条悟の捜索と確保ねぇ……まるで悟を疑うかのような文面だ。死んでいればそれはそれで良いし、そうでなくても僕をぶつけて嫌がらせか。くだらない。呪術界の上層部はこんなのばかりなんだな。
だがまぁ、悟の行方が気になるのは僕もだ。負傷した悟が星漿体を取り返しにいったと考えるのならば、向かったのは敵の本拠地だろう。呪詛師集団であるQは壊滅したと聞いている。残すところは盤星教だ。
「盤星教の本拠地はどこだ?」
場所を特定次第、すぐに鵺で向かおう。悟とその学友がまんまとやられるとは。これは僕も気を引き締めた方が良さそうだ。
***
──盤星教本部 星の子の家
宙に浮かぶのは死の淵より舞い戻った、無下限呪術の覚醒者。
「……逃げられた。チッ、気配まで完璧に消しやがって。」
巻きつけていた呪霊の呪力も感じない。完全なステルス人間の出来上がり。……逃走の間際に赫を当ててやった筈だが。俺の無限を貫通したふざけた呪具で受け止めていたとはいえ、こんなすぐ逃げられんのかよクソッタレ。思い返すのはヤツの言葉。
『バケモン共相手にただ働きなんてゴメンだね、じゃあな。』
俺が反転術式で戻ってきたことを確認した瞬間の捨て台詞。清々しいまでの逃走への切り替えだった。ヤツの口振りからするに、明のことを知っていたのか?無下限呪術への対応を思えば、御三家の人間である可能性は濃厚だが……。
「まぁいい、天内を──」
「悟。」
ヤツの追跡を諦め、着地した瞬間に懐かしい声が聞こえた。
振り向いた先に居たのは禪院明。最高の喧嘩友達。
「明!久しぶりじゃねぇか!」
「あぁ、久しぶり。状況は?」
「襲撃してきた奴には逃げられた。呪力が全くねぇフィジカルゴリラだよ。逃げに徹された。」
「呪力が……?分かった。」
少し悩んだ素振りを見せつつも明は理解したようだ。流石。だがこんなことなんてどうでも良い。明がこの場に現れたことの方が大事だ。あのゴリラのせいで消化不良。これは明に一戦付き合って貰わねぇとなぁ!
妙にクリアになった頭で考える。俺と明が戦ったとしても、ここは星漿体である天内の暗殺を依頼するような組織の本拠地。地図から消えちまったところで大した問題じゃねぇ。「向こうの最高戦力とぶつかった余波です。」とでも報告すりゃ良いだろ。我ながら完璧な理論だなぁ?!
「……なぁ明。ちょっとやり合おうぜ。お前も特級になったみたいじゃねぇか。」
目の前には格段に強くなった友。そして自分も臨死体験を経て掴んだ呪力の核心により確実に強くなった。やるしかねぇだろ。高揚した今、この状態で明と遊びてぇ!!
「くくく……丁度上層部から悟の捜索と確保が指令として出てるんだ。上は悟を疑っているらしいぞ?……これって、僕と悟が衝突するのを容認しているってことだとは思わないか?」
言い終わると同時に爆発的に高まる明の呪力。言葉が無くともそれだけで理解できる。やっぱり明も俺と戦いたいんだって。
十種完全調伏者と無下限の覚醒者。後の呪術界に残る歴史的な戦いが今、幕を開ける。
***
開幕、2人が選んだのは術式を使用しない徒手空拳。この数年間でお互いがどこまでやれるようになったのかを確かめる。これは敵を殺し、殲滅する戦いではない。久しぶりに会う友との対話でもある。
五条悟と禪院明。生き物としての格が違う両者にとってはこれがコミュニケーションなのだ。噛み締めるように、しかし手は抜かず。2人の拳が高速で交わされる。フェイントも織り交ぜながら加速する2人の肉弾戦。
片や無限の呪力による埒外の膂力。片や六眼による超効率の肉体強化。並の術師が相手であれば、とうに死んでいるような打撃の応酬。
「体術上達したんじゃないか?悟。」
「だろ?傑に教えて貰ったんだよ。」
「スグル?」
「夏油傑。高専で出来た親友さ。今度紹介してやるよ。」
「へぇ、高専を満喫してるみたいで良かったよ。」
互いに軽口を叩きつつも手は止めない。会話をしている今この瞬間にも拳は飛び交っている。ラッシュを仕掛け、躱して捌いて攻守交代。防御が甘くなった部位を即座に狙い、それを当然のように見てから防ぐ。
落花の情を常時展開している明の方が防御面において若干有利であるものの、その差を感じさせない五条悟の格闘センスには目を見張るモノがある。
……相変わらずイカれたパワーだな。流石、無限の呪力の持ち主だ。ここにしっかりとした格闘の術理が合わさっているんだから怖えよ。傑に感謝しねぇとな〜。
むぅ、押し切れないか。膂力では確実に僕が上回っている筈だが。流石六眼、とでも言うべきか。呪力量には天地の差があるというのに、僕の呪力強化に追いつかんばかりの強化効率。それでこそだ。
不意に互いの拳が激突し、両者に間合いが生まれる。
「そろそろ体あったまった?ウォーミングアップはこんなもんでイイっしょ。」
「あぁ、こっちは問題ないぞ。」
「んじゃ……いくよ?」
そんな声と共に改めて構える2人。ここからは術式も使用した全力のぶつかり合い。どちらかが戦闘不能になるまで続けられる最高の喧嘩。
先に動いたのは禪院明。その足元に、十種影法術の影が広がる。
「──八握剣」
影より呼び出し、抜き放つのは退魔の剣。十種影法術において最強の式神、異戒神将魔虚羅を正面から調伏した特典にして、明が使用する唯一の武装。魔虚羅調伏の際に強い繋がりを得たことで扱えるようになった、あらゆる呪いを祓う至上の一振り。
「術式反転 『影降ろし』魔虚羅+鵺+虎葬」
更に、術式反転によって式神の能力、特徴を術者に上乗せする。今回乗せたのは魔虚羅、鵺、虎葬の3体。魔虚羅からは適応能力を司る法陣、鵺からは飛行するための翼と放電能力を、虎葬はそれらを繋ぎ止め更なる身体能力を齎すために。
「はっ、術式反転か。十種だとそうなるんだな。見た目変わりすぎだろ。」
「そうか?これでも気に入っているんだ。自分で殴った方が気持ちいいだろう?」
頭上には魔虚羅の法陣。背中からは巨大な1対の鵺の翼。退魔の剣を握った手には鋭い爪が生えている。複数の式神の力を内包するに足る強靭な器。数の優位で戦う式神術の定石に反する、極限の個の具現化。式神が影を媒体とすることを利用し、影ごと能力を術者に降ろす。それが術式反転。
……とりあえず式神だけを向かわせるのはナシだな。完全適応した魔虚羅でもないと悟には安心して出せん。他の式神では破壊される瞬間にいちいち意識を向けるのも面倒だ。じっくり楽しもうじゃないか。
喧嘩はまだまだ始まったばかり。最強たちの戯れは終わらない。
少し短いですが、とりあえずここまで。余裕があったら次も早めに上げます。お待たせしてしまってごめんなさい。