無限と十種   作:うぃりあむぅ

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なんとか今年中に出せた。


紅と蒼 -参-

 盤星教本部、星の子の家。宗教団体の拠点らしく周りが山岳地帯となっており、世俗から一歩離れて暮らすにはうってつけの場所であると言える。奥に見える荘厳な造りの本部とその周辺に暮らす信者たちの住宅街。

 

そこは今、最強たちの喧嘩舞台と化していた。

 

 

 

「──なんだ、これは。」

 

呪霊に乗り、ようやく到着した夏油の目に入ったのは見たこともない規模の破壊痕だった。見渡す限り、ほぼ全ての建造物が崩壊している。跡形もなく抉られたようなものもあれば、巨大な何かにより真っ二つになったものまで。

 

植えられている街路樹も根本から消し飛んでいるか、雷でも落ちたかのように焼け焦げている。発火した樹木から火の手が拡がっていることも被害が大きい原因だろう。

 

……これだけの破壊規模、先行した悟はどうしている?どこに──

 

突如、夏油が感じたのは恐ろしい程の呪力。発生源は上空。たまらず空を仰ぎ見た先に目視出来たのは、親友である五条悟と、翼をもった人型が高速で空を駆ける様だった。

 

悟と……あれは何だ?

 

頭上には法陣、背中には異形の翼。着ている着物の上からでも分かるほどに発達した四肢と爪牙に、その手に握る異様な剣。何よりも驚嘆すべきはその呪力量だろう。比較的呪力量が多い筈の五条悟を前にして、尚感じる圧倒的な呪力差。

 

異形はその手に持つ剣から放つ斬撃とそれに交えた雷撃を。五条悟はその悉くを無限の発散で迎撃し、躱し続けている。2人は翼と無限で自在に空を駆け回り、戦闘はより激しさを増していく。

 

あれも盤星教の刺客か……?あの男といい、どちらもレベルが高い!……悔しいが介入は後だ。悟との戦いで疲弊した最良のタイミングで叩くべきだろう。悟が相手をしてくれている間に私は理子ちゃんを探さなければ。

 

夏油はそう思い至ると、すぐに周りを見渡す。殆どの建造物は破壊されているが、盤星教本部と思われる豪華な建物はまだ半壊程度にとどまっている。悟がなんとか気を回してくれたのか、はたまた唯の幸運か。急いでそこへと向かった。

 

***

 

 互いの有効打で損傷した肉体を治癒した2人は、戦場を空へと移していた。明は鵺の翼によって飛翔し、悟は無限を巧みに使って宙を舞う。

 

無限による不可侵を突破し得る八握剣で飛ばす斬撃に、牽制と目眩しに掌から放つ高威力の雷撃。それらを上手く躱し、ときには受けながらも捌き続ける五条悟。躱しながらも反撃は忘れない。斬撃を放った隙を逃さずに中距離からの赫による無差別砲撃をお見舞いする。蒼の引力で移動が制限された中での飽和攻撃は避けることを許さない。

 

避けられないのならば受けた上で適応を進めるまで。明は被弾する瞬間に呪力を防御に多く回すことでダメージを最小限に抑えていた。しかし、赫の威力は順転である蒼の約2倍。五条悟の呪力出力から放たれるそれは、明の呪力防御があってもダメージは免れない。確実に削られている。

 

両者は反転術式を会得している。頭部や腹部に致命傷を負わない限り、呪力が尽きなければ死ぬことは無い。それに2人は理解しているのだ。この程度でコイツが死ぬ筈が無いと。

 

これは喧嘩、術比べ。互いを死に追いやることが目的じゃない。会わなかった数年間でどこまで実力を伸ばしているのかを見せ合うだけだ。

 

「あぁ、楽しいなぁ!明!やっぱお前はすげぇよ!!」

 

五条悟は満たされていた。

高専に入ってからも鍛え続けた甲斐があったもんだ。あのゴリラには出し抜かれてしまったが、今は感謝している。おかげでこんなに良い景色を見ることが出来ているんだからな。

 

……ごめん天内、俺は今オマエのために怒ってない。誰も憎んじゃいない。今はただ、この状況が、この世界が心地良い。

 

「天上天下、唯我独尊。」

 

今ならイケる、アレを決めたい!呪力の核心を掴んだ今なら!確実に決められる!

 

刹那の内に明の体が引き寄せられ、悟の拳が赫く光る。

 

『黒閃』

 

──空間が歪み、赤黒い火花が戦場を照らした。

 

黒閃の直撃を受けた明は凄まじい速さで地上に叩き落とされる。防御に使った左腕は消し飛ばされた。勢いを殺せぬままに地を滑る。

 

黒閃により五条悟のボルテージが上がる。やっとのこと止まった明の前へと瞬時に現れた悟の次の一手は。

 

「領域展開──」

 

帝釈天印と共に膨れ上がる呪力。死に際に掴んだ呪力の核心と、たった今放った黒閃によるゾーン状態が可能にした呪術戦の極致。

 

だが、禪院明も領域の展開を見過ごさない。悟より1年早く会得した領域はその習熟により、僅かに遅れた展開を構築速度を以って同時へと持ち込む。

 

「領域展開──」

 

欠損した左腕を治癒する時間は惜しい。体のダメージを無視して影で掌印を組む。更に影を用いて地面に描くのは、尾を喰らう蛇の呪印。無限を象徴するウロボロスの紋章。

 

掌印と呪印による2段階の発動条件を満たした領域は悟の領域に対抗すべく世界を塗り潰す。ここに、両者の領域展開が発動した。

 

『無量空処』

 

『無明影呪界』

 

全てを飲み込む漆黒の影と無下限の結界が衝突する。領域の押し合いは互角。恐るべきは五条悟。初めての領域展開にしてこの完成度。両者の会得タイミングに差があることなど感じさせない見事な領域である。

 

領域の押し合いが互角な今、領域内への必中効果は打ち消しあっている。本来は領域内全てを影で満たす『無明影呪界』だが、その影は領域の半分程度までしか及んでいなかった。それでも領域の半分である。影の上を走れるかずっと飛ぶことが可能でも無い限りは影に沈み、二度と浮き上がっては来ないのが普通だ。

 

「初めての領域展開おめでとう、気分はどうだ?」

 

左腕を治し、体の調子を確かめながらも明が尋ねる。

 

「最高だな、力が漲るのを感じるよ。これが領域か。」

 

無限を使って空中を漂いながら答えるのは満面の笑みの悟。

 

そう言いながらも両者は構える。必中効果の奪い合いとなっている今、2人に出来るのは、領域によるバフを受けている間に相手に領域を維持することが不可能になるダメージを与えること。

 

合図も無しに再び空中で激突する。明は引き続き八握剣を用いて斬り掛かり、悟はそれに赫と蒼を交えて対応する。

 

領域によって全ての攻撃の威力が底上げされている両者の攻撃は凄まじいものとなっていた。ここが領域内でなければ周辺の破壊規模は恐ろしいことになっていただろう。

 

必中効果は無くなっているものの、領域効果により式神の破壊に気を回す必要が無くなった明は次々と式神を嗾ける。『影融合』によって生み出された合成式神は勿論、制限が無くなった脱兎による数の暴力は恐ろしいの一言。

 

しかし悟はこれだけの数の式神であっても物ともしない。領域によって威力の上がった赫と蒼により襲いかかる式神達を瞬時に破壊し、潰し、轢き壊す。

 

……やはり適応していない魔虚羅では領域で出力が上がっているのもあって一撃で破壊されてしまう。必中効果が無いと普通に対応されてしまうのも気がかりだ。成る程な、領域の押し合いとなるとこうなるのか。

 

領域の必中効果を取り戻す必要があるということ。または……適応の対象を領域に変更することで領域そのものを破壊するかだ。まだまだ学ぶことは多いな。

 

幾度となく攻防を繰り返すも、両者に目立ったダメージは無い。このままでは埒があかない。そう判断した2人は大技により押し切ることを選択した。

 

五条悟が構える。立ち昇る呪力と共に、ダメ押しの呪詞を詠唱する。

 

「九綱 偏光」

 

これは五条家の中でもごく一部しか知り得ない技。

 

「烏と声明 表裏の間」

 

順転と反転。それぞれの無限を衝突させることで生成される仮想の質量を押し出す奥義。それを完全詠唱で放つ。

 

「虚式──」

 

禪院明も今の自分が放てる最高の一撃を用意する。胸の前に掲げるのは八握剣。

 

九界(くかい) 円環(えんかん) 破邪の理(はじゃのことわり)

 

詠唱と共に自らの心臓、無限の呪力を生み出す呪心へと八握剣を接続。

 

「完全解放──『八握剣』」

 

八握剣が持つ莫大な正のエネルギーと明の呪心が放つ無尽蔵の負のエネルギー。プラスとマイナス、相反する二つのエネルギーが衝突して起こる対消滅反応によって生まれた力を渾身の斬撃へと乗せる。

 

2人の放つ力で、押し合いにより不安定な領域が軋む。今放てる全力を以て練られた一撃が唸りを上げて解放される。

 

『茈』

 

『禍津風』

 

激突した瞬間、あまりの威力に両者の領域は崩壊した。

 

***

 

 2人が領域内で戦っている間に夏油傑は天内理子の体を取り戻すことに成功していた。

 

……思ったより簡単に見つかった。祭壇のようなところに放置されていたのは状況から見るにこの建物の崩壊から逃げようとしたからなのか……。

 

『天元様……どうかお救い下さい……』

 

『あぁ、世界の終わりだ。不純物が天元様に混ざろうとしたばかりに!』

 

『痛い……足が……天元様……』

 

思い返すだけで寒気がする。部分的に崩壊した内部では多くの信者が被害に遭っていた。最初は助けなければとも思ったが、血塗れの理子ちゃんを見たらそんな考えは吹き飛んでしまった。なんなら少し気分が良いくらいだ。

 

「……帰ろう。理子ちゃん。」

 

出口が見えた。戦いの余波から守るため、大事に呪霊に飲み込ませる。あとは悟が襲撃者に勝てば終わり。

 

そう考えた夏油が外に出て目にしたのは、まさに戦っている2人の領域が崩壊した瞬間だった。

 

……あれは領域か!悟が領域を会得したのは良いことだが、あの刺客も使えるとは!だが領域展開直後は術式が焼き切れ、使用が困難になる。加勢するなら今しかない!!

 

「虹龍!!」

 

手持ちで最高硬度を誇る虹龍で確実に隙を作る!そのまま仕留められるならそれで良し。仕留め損ねても悟の術式が戻るまで時間くらいは稼げる筈だ!

 

そう思い放った虹龍は。

 

「なんだ、呪霊風情が。邪魔をするな。」

 

手にした剣に斬られた瞬間に祓われた。

 

?!一撃で……あの剣、呪具だったのか?法陣や翼は消えているのにあの剣は消えていない!虹龍でダメなら直接──

 

「待った待った、ストップ傑。」

 

そう言って目の前に立ちはだかったのは五条悟。夏油の頭は混乱した。

 

「は?悟、そいつは敵だろう?何をしているんだ。」

 

「あー、こいつが明。禪院明だよ。悪りぃ、軽く喧嘩してただけなんだ。」

 

夏油は目を見開いた。コイツが。何故?では高専を襲撃してきたゴリラは?

様々な疑問が脳内を駆け巡る。最後に残ったのはただ一つ。

 

「悟。」

 

「おう、──ブッ」

 

夏油の拳が悟の頬へと突き刺さった。領域展開直後に術式が焼き切れていた悟には拳が綺麗にヒットしたのだ。

 

「……どうして、何も言ってくれなかったんだい。」

 

「傑、ごめん──「私が、弱いからか?」っそんなこと!」

 

言い放った夏油の顔には怒りと悲しみが混ざっていた。

 

元より不安だったのだ。高専に入って悟と仲良くなり、親友とまで呼べるようになった。意見の違いから衝突することは度々あったが、喧嘩しては直ぐに仲直りしていた。そんな悟からよく聞いたのは禪院明という強い友達の話。

 

仲の良さならば勝っている自信はあった。高専生として色んな遊びをして青春を謳歌した。後輩へのイタズラも手伝ったし、桃鉄99年もしょっちゅうやった。罵詈雑言は止まらなかったが。

 

悟が禪院明の話をする度に思ってしまう。自分の実力は果たして本当にこの親友と釣り合っているのだろうか。悟は私の強さを自分とは別種の物だとして高く評価してくれている。でも真に悟と互角で対等な実力であると言えるかは……怪しい。

 

今回の任務で特に感じてしまった。高専を襲ってきたゴリラになす術もなくやられ、まんまと理子ちゃんを殺されてしまった自分。あまりにも無力だ。理子ちゃんを殺したのは銃弾。油断していなければ防げただろう。

 

殴り飛ばした悟の上を取り、夏油の拳は止まらない。

 

「この際、理子ちゃんを放って2人で喧嘩していたことは良いさ。」

 

「私はどうすればいい?護るべき人は殺され、親友を止める力も無い。」

 

今、夏油が悟を殴れているのは術式が焼き切れているからである。これだけの非が有れば悟も大人しく殴られるかもしれないが、基本的に夏油の攻撃は当たらない。

 

「それでも。親友だと言うのなら……私のことも少しは頼ってくれよ。」

 

襲撃者もあの時2人で戦っていればなんとかなったかもしれない。護衛の関係上どうしようもないが思ってしまう。でも2人で戦ったとして自分は付いていけるのだろうか。頭がぐちゃぐちゃになってしまいそうだ。

 

夏油と悟の間になんとも言えない沈黙が流れると、傍らで見ていた禪院明がとんでもないことを言い出した。

 

「悟に追いつけるような力が欲しいのか?ウチにも丁度、僕に追いつこうとする面白い奴がいる。紹介しよう。」

 

***

 

 同時刻、少し離れた森の中にて額に縫い目のある女が戦況を見ていた。

 

「あれが今代の六眼ね。」

 

……若いながらに反転術式、術式反転に領域。術式の応用も抜群だ。やっぱ六眼は厄介だけど、これは運命と共にいずれ現れるものだ。それよりも……

 

「どうなってるんだよ。アレ。」

 

女の興味は六眼と闘っていたもう1人に向かっていた。

 

無尽蔵の呪力を生み出す心臓に、全式神を従えた十種影法術。あんな物は見たことがない。……天元との因果に何か関係が?いや、今回だけで考えるのは無駄か。

 

ここまで強力な術師が六眼と友好的だと計画がどうなるか分からない。いつもなら次の500年に備えたいけど……星漿体が殺されたのも初めてだ。

 

賭けてみる価値はあるし、その方が面白い。

 

「やっぱここで実力を見れたのは良かったよ。」

 

おかげで計画には大きな変更点が出来た。……アレを準備しないとね。

 

悪意もまた蠢く。




夏油は救う。羂索は壊す。両方やらなきゃいけないのが楽しいぜ。
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