無限と十種   作:うぃりあむぅ

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大変お待たせしました。なんとか生きてます。


禪院ブートキャンプの始まり

 『私たちは最強なんだ』

 

 今にして思えば、なんともまあ、空虚な思い込みだったなと思う。

私は知ってしまった。見てしまったのだ。親友と、その友が縦横無尽に空を駆け、闘う姿を。

あのとき、私が傍に居たとしてどこまで戦えただろうか。手持ちで最高の硬度を誇る虹龍は一蹴された。

領域展開の直後、術式の使用が困難である筈の状態を狙ったのにも関わらず。

 

 悔しかった。自分の術式(ちから)が通用しなかったことが。

そして…少し…羨ましかった。悟が戦闘において、あそこまで楽しそうにしているところは見たことがない。

悟も、そして任務に同行する私も、苦戦することはなかった。成功して当たり前、勝って当然。呪霊は私が取り込み、呪詛師は適当に討伐する。

そう、成功する筈だった。失敗なんてする筈がなかった。『私たちは最強』なんだから。理子ちゃんも死ぬ筈がなかったのだ。

 

私が強ければ

 

 だから受けた。禪院明の誘いを。

私をより強くしてくれると信じて。もう誰も失わないように。

 

***

 

 京都にあるという禪院家は、東京にある呪術高専からはとても遠い。

 早朝、まずは京都の呪術高専へと向かい、禪院家から来るという迎えを待つ。

明曰く、「分かりやすい呪術的施設はそこぐらいしかない。頑張れ」

とのことだった。悟は直接向かうらしい。術式で一瞬だと言っていたが、そこは私も連れて行って欲しかったところだ。

先に着いたらしい悟と連絡をとりながら時間を潰し、しばらく待つと、いかにもな雰囲気を纏った漆黒の高級車が目の前に止まった。

 

「お待たせ致しました。夏油傑様で、お間違いないですかな」

 

運転席から降りてきた初老の男が一礼しつつも告げる。

 

「はい、間違いないですよ。今日はよろしくお願いします」

 

柔和な笑みを浮かべ、挨拶をする。呪術師の家系とはいえ、お世話になる以上は丁寧に。常識だ。

 

「そうお堅くなさらずに、明様のお客様なのですから。遠路遥々お疲れになったでしょう。さぁ、お乗りください」

 

 そう見事に返されるとこちらとしても素直に従うしかないだろう。後部座席を開けられ、乗車を勧められる。

乗り込んだ車内は清掃がきっちりとされており、ほんのりと香料の類が感じられた。ゆったりとした座席に深く腰掛ける。

私の乗車を確認した運転手は、ゆっくりと扉を閉めると運転席へと戻った。ほどなくして発進した車は、目的地である禪院家へと順調に進む。

もう間もなく、禪院家へと到着するのだ。強くなるため、親友に追いつくために。

 

 禪院家の屋敷に到着した。屋敷の正面に停車した後、運転手によって扉を開けられた私の目に飛び込んできたのは立派な正門だった。

平安の時代から長く続く御三家の威容。やや古風ながらも手入れの行き届いた、一種の威厳を感じさせるような造りである。

運転手の案内で正門を通ると、多くの女性の使用人が道を作って並び、一斉に頭を下げていた。

道の奥からは一人の男性が歩み寄ってくる。

 

「ようこそ、禪院家へ。夏油傑一級術師殿。俺は禪院直毘人。禪院家の現当主をやっている」

 

男の正体は禪院家の当主だった。差し出された手を握り、握手を返す。

 

「早速だが、今からうちの明と直哉がいつもの組み手を始めるところでなぁ。夏油殿は良いところに来たと言える。…見に行くだろう?」

 

 是非もなし。直哉と呼ばれた者は知らないが、明が戦うところは見てみたい。

その誘いを快諾し、禪院直毘人の後ろをついていくと、大きな訓練場へと案内された。予め空けられていたであろう、眺めの良い席に座る。中には既に多くの禪院家の者たちがおり、一様に訓練場の中央を注視していた。

そんな視線の先には二人の男。片方は自分も見知った顔。今回の禪院家訪問を提案した、禪院明その人である。となると、もう片方。金髪で目つきの鋭い男が直哉と呼ばれていた男だろう。

両者は構えず自然体で、お互いを見据えていた。

 

「いつでもいいぞ」

「ほないくで」

 

そんな軽いやり取りの直後だった。

 

「投射呪法『60fps』」

 

 直哉が術式を起動させた。禪院直哉の術式、投射呪法は術者の視覚を画角とし、予め画角内で作った動きを高速でトレースする。通常、作る動きは24個であり、24fpsで動く術式であるが、禪院直哉の弛まぬ努力と研鑽により、術式はブラッシュアップされたのである。

作る動きを24個から60個に増やすことで、より術式の運用における負担は上がったが、1回の術式完遂ごとの加速度は大幅に向上。動きを増やせるようになったことで対応力も上がった。ある種の縛りを用いた術式のブラッシュアップは禪院直哉の評価を大きく上げることとなったのだ。

 術式を起動した直哉は60個の動きの中で速度を増し、明へと襲い掛かる。踏み込み、進み、呪力を込めて拳を握り、右側面から腹部めがけての右ストレート。一連の動きを読んでいた明は左手を防御に回し、掌で受け止めた。速度の乗った直哉の拳と、莫大な呪力が宿す明の掌が衝突する。

凄まじい衝撃に一拍遅れて、パァンと乾いた音が訓練場に響き渡る。受け止めた明がそのまま直哉の拳を掴もうとするよりも速く、直哉は身体を捻って上段蹴りを繰り出し、それが受けられた反動で離脱した。

 

 二人の姿が掻き消えたと思えば、一秒にも満たない間に、音が2回鳴り響き、元の立ち位置に戻っている。観戦している多くの目にはそう映っただろう。かくいう自分も、全てが鮮明に捉えられたわけではなかった。趣味である格闘技の知識からある程度補完した上で目に追えた程度である。

息を飲みつつもこの先がどうなるのかを見守る。今の一連の攻防はあくまでも初手なのだ。ここからどんどんボルテージが上がっていくことは想像に難くない。

 

「今度はこちらからだ」

 

明が笑みを浮かべて口を開くと、術式を起動する。

 

「術式反転『影降ろし』鵺」

 

 変化は劇的だった。背中から大きな1対の翼が生え、身体に電気が帯電する。

禪院明の術式、十種影法術。その術式反転『影降ろし』は、式神の能力や特徴を、自身の影を媒体に術者に上乗せする。順転の式神召喚が数の力だとしたら、反転の式神憑依は個の力である。

式神に応じて得る能力は変わっており、鵺の場合は翼による飛行能力と放電能力。そして、帯電した電気による肉体の活性化が齎す超スピードである。

 

 力強い踏み込みと共に、雷を纏った明が猛スピードで突貫する。瞬間的に直哉の左側面へと間合いを詰めた明は、そのままの勢いで中段蹴りを繰り出した。直撃する寸前で直哉は術式を起動。受け止めることはせず、半身になって躱したままに裏拳を繰り出し反撃を試みる。その裏拳を姿勢を低くして避けた明は起き上がると同時に突き上げるようなアッパーを放つ。明の攻撃を受け止めることができない直哉には回避しか選択肢がない。攻め続けられることが悪手であることを過去の組み手から知り得ている直哉は、最小限の動きでアッパーを躱した後に再度動きを構築し、近距離の乱打戦へと打って出た。

ひたすらに直哉が拳を繰り出し、その速度に対応した明がその全てを捌いていく。作った動きにはフェイントも混ぜているが、あまり効果が無い。引っかかったとしても獣の如き反応速度で対応されてしまう。何十手と繰り返し、膠着状態に陥ったかに思えた乱打戦を制するのはどちらなのか。固唾を飲んで見守る中、戦いに動きがあった。

 

「ぐえ」

 

 直哉が動きを再構築する刹那を縫って、明の背中から生えた1対の翼によって強烈にはたかれたのである。カエルが潰れたような声を上げた直哉は綺麗に吹っ飛び、地面に叩きつけられた。無防備とも言える直哉に対して明は追撃しようとしない。どうやら、1発でもまともに入ったら終わりらしい。

 

「長く乱打戦をしすぎたな。術式を知っている僕からすると、60回の動きは読みやすい。60fpsの維持は見事だが、タイミングは悟らせないようにしろ」

 

術式を解いた明がそう告げながら、直哉を引き起こす。

 

「やっぱり長引くと読まれるねんなぁ…24fpsも混ぜた方がええね」

 

と答えた直哉に対して満足気に頷いた明は、来客である私に手を振りながら近づいてきた。

 

「やぁ傑、ようこそ禪院家へ。歓迎するよ」

 

 そう言った彼はにこりと笑い、私も笑顔で返した。

凄いものを見せて貰ったものだと、先の組み手を思い返す。明の他にもあのようなレベルの術師が居たことによる期待。強くなることへの強い渇望。それらを胸に秘め、遂に禪院家での生活が始まったのである。




完結は頑張ってさせるつもりですので、応援よろしくお願いします。
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