無限と十種   作:うぃりあむぅ

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やっぱメモ帳なりで流れ書いた方が楽だ…


夏油傑の奮闘

 時は少し遡る。

 

 月がよく映える静かな夜だった。禪院家の屋敷の一室は、仄かな灯りを放つ。

現当主、直毘人の部屋にて禪院明と禪院直毘人の密談が行われていた。

部屋の外に控えさせた明直属の女中から次々と運ばれてくる料理に舌鼓を打ちつつも、明は話を切り出す。

 

「直毘人爺、夏油傑は知っているか?」

「ふむ…五条悟に近しい人物だったと記憶しているが」

 

直毘人は顎を擦り、思い返すような素振りを見せつつも、視線で明に話の続きを促した。

 

「あぁ、先日の盤星教本部を壊滅させた際に知り合ったんだ。…あれは良い術師だった。悟が高く評価しているだけはある」

 

当時の状況を簡潔にまとめて事情を話すと、直毘人はその手に持った酒を豪快に仰いでニヤリと笑った。

 

「くくく、話が読めてきたぞ。明よ、試すつもりなのだろう?夏油傑を」

「まぁ、近いかな。あの眼は見たことがある。強く、深い、力への渇望。…直哉もそうだった」

 

 明は思い返す。初めて自分を鍛えて欲しいと頼み込んで来たときの直哉の姿を。力の差を見せつけられても尚、己を睨み返すその眼からは決して光が消えなかった。

そんな直哉の努力は実を結び、独力での術式の拡張を達成。徒手空拳を用いた、単純な近接戦闘の最高速度では明を超え得る。鵺の力を使わなければ打ち合うことが少し難しいくらいだ。

普段は中々口にしないが、その努力と成長には素直に感心しているものである。

 

「術式は呪霊操術。文献の通りであれば、その成長性は無限大とも言える。悟が体術を教わったと言っていたところからも、近接戦闘もやれるだろう」

 

 夏油傑の能力がどういったものなのか。推察を交えつつも伝えていく。そして明は話した。

 

「さらに、夏油傑は()()()()()()だ。術師としての後ろ盾は高専くらいのものだ。優秀な人物であり、都合も良い。…ゆくゆくは禪院家に迎え入れたいと思っている。仮に縁談などを断られて取り込めなかったとしても、良好な関係を保っておくべきだ」

 

真剣な表情で明は語る。その思考は家を取り纏める当主のものだ。次期当主として相応しいその言動に頷きつつも、直毘人は問うた。

 

「お前の考えは分かったが、何か手は打っておるのか?」

「もちろんだ、近日中に夏油傑はウチに来ることになっている。鍛錬を目的とはしているが、禪院家を見て欲しいとも思っているんだ。優秀な血は欲しいだろう?」

 

明の返答を受けて上機嫌になった直毘人は酒を飲む手が止まらなかった。それからも2人の話は盛り上がり、夜が更ける。

だが直毘人は知らない。夏油傑は五条悟の親友であり、五条悟は明とも仲が良い。

そう、明は悟も来ることを直毘人に伝えていなかったのである。

 

***

 

 軽く挨拶を交わした後、明が集まっていた禪院家の術師達を解散させる。その場に残ったのは4人。明、直哉、ここに案内して頂いた直毘人さん、そして私だ。しかし、直毘人さんは2人の組み手を見て満足したのか、すぐにこの場を立ち去っていった。

 

「さて、互いに初対面だろう。傑、紹介しよう。こいつが直哉、禪院直哉だ。歳は僕らの1つ下だから気楽に相手してやってくれ」

「どうも、禪院直哉ですぅ。悟君のお友達って聞いてるで?よろしく頼んますわぁ」

 

金髪で、軽薄そうな関西弁。先の組み手で見られたような鋭さを感じさせない雰囲気だったが、こちらを見定めるような視線は私を捉えて離さない。「禪院明が注目するような実力が貴様にあるのか?」と、そう言い出しても何ら不思議ではないだろう。

 

「ふふ、どうせ今から目の前で戦うところを見るんだ。その辺にしておけ。来たばかりで悪いが、傑には今から僕と摸擬戦をしてもらう。まともに一撃入ったら終わり。それだけだ」

 

そんな目をした直哉を宥めたかと思えば、いきなり明から摸擬戦を始めると言われてしまった。来客の歓待よりも先に摸擬戦を優先するとは思わなかったが…望むところだ。元々そのつもりでここに来ている。戦いに事前準備など、ある筈がない。

その誘いを快諾した私は明と共に訓練場の中央へと立った。すると、見知った呪力の持ち主が訓練場へとやってくるではないか。

 

「おいおい、仲間外れかよ二人とも~。着いたんなら連絡くれよ、傑」

 

串カツを両手に持ち、いつもの高専制服ではないラフな格好で悟がのそのそとやってきた。どうやら先に着いた悟は想像以上にもてなされていたらしい。幼少から家の都合で遊びに行っている分、ここの人達も慣れているのかもしれない。

 

「久しぶりだからってはしゃぎすぎだろう。今から傑と摸擬戦なんだ、悟は…直哉とでも遊んでおいてくれ」

「直哉ぁ~?あぁ、お前か…よし、付き合えよ。明の頼みだしな、遊んでやんよ」

 

私から見ても機嫌が良かった悟は、ぽかんとした直哉を置いて訓練場の外へと出て行った。そのあとを慌てて直哉が追いかける。私たちの摸擬戦を見るつもりだった直哉にとっては後ろ髪を引かれる思いだったに違いない。後で自慢できるような摸擬戦をしなければ。自然と気の引き締まるものだ。

見れば、明も苦笑いを浮かべている。割とよく見る光景だったのかもしれない。思わぬ形で弛緩してしまった空気だが、明が呪力を漲らせて構えたことでそんな考えは吹き飛んでしまった。

 

「さて、珍妙な乱入者はどこかに行ったな。そろそろ始めようか。先手は譲ろう」

 

誰も居なくなった訓練場で、私と明の摸擬戦が遂に始まる。

 

 譲られた通り、先手は私。相手は悟に並ぶ最強の一角。手加減は無用。確実に一本取りに行く。

数ある手持ち呪霊から繰り出すのは、――仮想怨霊 口裂け女。

 

わた、わタ、わたし――綺麗?

 

その能力は、質問に答えるまで互いに不可侵を強制する簡易領域を展開するもの。領域が展開されることに気づいた明は簡易領域の使用を選択したが、それより速く口裂け女の領域は完成した。対象に質問をするために展開された簡易領域そのものには殺傷能力がない。そのことが一種の縛りとして機能しているのである。

 

 明は自身が動けないことを確認しつつ、口裂け女も動かないことから、この領域の性質を推察。領域を使える呪霊を最初に切ってきた思い切りの良さと、呪霊操術への評価を上方修正。このままでは傑に時間を与えてしまう一方であるため、投げ掛けられた質問に答えた。

 

「趣味じゃない」

 

続いて、そもそも料理できないだろ、お前。と、独りごちた次の瞬間、口裂け女の動きに変化が起きる。その手に持つ鋏が力強く握られると、明の周囲を取り囲むように無数の鋏が出現。今にも明を切り刻まんと刃を喰い込ませた。しかし、相手は禪院明。質問に答えたことで不可侵が解除されたことを確認した明は、切っていた落花の情を再起動。襲い掛かる大量の鋏の悉くが触れた瞬間迎撃される。御三家に伝わる秘伝、『落花の情』。通常、領域内で必中術式を迎撃するために使われるが、禪院明はその呪力量を活かして常時発動に成功している。五条悟の不可侵を参考にしたものだが、そのせいか練度は凄まじいものとなっていた。

一歩たりとも動かずに鋏を弾かれたことに驚くも、口裂け女の簡易領域が破られたことを見た傑は稼いだ時間を使って準備した大量の低級呪霊と共に、明に格闘戦を挑む。

 

 大量の低級呪霊と共に接近する傑を視認した明は術式を起動。足元から媒介とする影を伸ばし、呪霊共々叩き潰さんと迎撃する。掌印のために影で象られた2本の腕と無数の触手が次々と呪霊を祓う。傑は持ち前の体術で明の攻撃を躱しつつ、隙を晒さないよう慎重に反撃する。

呪霊操術は物量の術式。降伏の儀を省くことのできる、2等級離れた呪霊は掃いて捨てるほど所持しているのだ。何ら勿体ぶる必要はなかった。傑からしても、得意分野とは言え、そもそもの格上相手にまともな格闘戦をするつもりはない。勝負を決めるのは一瞬である。

 

 明がより格闘戦に意識を割いた瞬間、傑が仕掛ける。放つのは少し大きめの、図体だけが取り柄の2級呪霊。抵抗すら出来ずに祓われるかと思われたが、寸前で爆発したのだ。明の視界に、爆風と血でほんの僅かな時間、空白が生まれる。傑はそこを見逃さなかった。

明の下げられた左腕に、傑が組み付く。タイミングは完璧。鮮やかな関節技。人体の構造上、逃れられない必殺技である。腕を使わずとも、影が自由に使える明相手では、次の瞬間に傑を引き剝がさんと手痛い攻撃を受けてしまう。全身全霊の力で関節を破壊するために力を籠める。

彼我の呪力差は絶望的だが、完全に極まった傑の技は、見事に明の左肘関節を破壊した。

予想外の痛みに驚いた明は影腕で反撃するも、間に呪霊を挟まれて受けられる。吹き飛ばされた傑は、訓練場の壁に激突する寸前でなんとか踏みとどまった。

 

 勝負あり。明は関節を破壊され、傑は反撃を受け止めた。呪霊操術の手数の多さ、傑自身の判断力と近接戦の強さが遺憾なく発揮されたのである。肩で息をしつつも何とか起き上がり、明の方に向き直った傑は見やる。

立ち昇っていた呪力を収めた明は、反転術式で左腕を治療するとニヤリと笑った。

 

「…いやはや、素晴らしいな。この摸擬戦は僕の負けだ。」

 

晴れやかにそう口にする明の足元からはまだ影が消えていない。影の腕が掌印を結ぶ。

 

「ここまで良いものを見せて貰ったんだ、礼をせねばならんだろう」

 

明の足元から巨影が伸びる。

 

「『影融合』大蛇+鵺+虎葬 『融合式神 竜王』」

 

 現れたのは巨大な竜。鈍く輝く長大な蛇体、それを覆い隠すような1対の翼。強靭な四肢と鋭い爪牙は帯電して青く輝いている。3体の式神の影を混ぜ合わせて作られた融合式神が、明を守るように空中に座していた。

 

「ははは…なんだい?これは」

 

虹龍と同じか、それより少しでかい。そんな式神が突然現れたことに驚愕した。

目に焼き付ける。その威容を、堂々たる姿を。同じ使役系の術式として、目指すべき頂点。

改めて、こんな化け物から1本取れた自分に我ながら感心していた。

 

「呪霊操術には無限の可能性がある。取り込んだ呪霊の領域もそのまま使えるなら尚更な。本当に、良い術式を見れて良かった。…少し眠ると良い、夕飯時には起こしに行く」

 

 「助かるよ」、そう口にしようとした瞬間、竜から雷撃が飛んできて私は気絶した。…何故?




頑張りました。
竜王君は、魔虚羅戦で出てきた融合式神ちゃんの完成形ですね。魔虚羅よりは流石に弱いけど殲滅力は上。融合式神はもう一体出てきます。
明は影の攻撃、式神の攻撃、本人の攻撃が全部同時に出来ますが、そんなことしたら模擬戦にならないのでやりません。
領域と本人の八握剣を用いた攻撃以外、ほとんどをシャットアウト出来る無下限呪術がおかしいです。
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