無限と十種   作:うぃりあむぅ

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小説書くのって難しい...


天与の暴君

 改めて目の前の男を見る。着物の上からでも感じられる鋼の肉体。呪力は……感じられない。だが……強い!!!それもとてつもなく!こちらを見据えたままの自然体に隙は見られない。たとえ今ここで術式を使って奇襲したとしてもすぐさま対応されてしまうだろう。そんな凄みを感じさせる強者の来訪に思わず口角が上がる。

 

 

「それで、どうして甚爾……さんが僕の体術を見てくれることになったんだ?」

 

「はっはっは、お前がさん付けとはな。なに、今日の訓練所での結果を見てな。お前には期待している。故にあらん限りの教育を施してきたつもりだが……座学はともかく体術などの実戦訓練は俺たちの手に余る。そう判断した。」

 

「そしてジジイは大金出して俺に頼んだのさ、お前を鍛えてやってくれってな。受けるかどうかはここで決めるつもりだったが……お前は面白そうだ。」

 

 

なるほど、僕としてはとてもありがたい話だ。いくら実戦形式とはいえ今日のようなことを繰り返しても収穫はないだろう。鍛錬の内容が増える上に面白そうなのだ、断る理由なんてこれっぽっちもない。

 

 

「僕は何をすればいい?鍛錬の内容はどんなものなんだ?」

 

「まてまて落ち着け明。こんな夜中に今から始められてもうるさくて敵わん。内容は甚爾に一任してある。明日からにするがいい。」

 

 

むむむ、僕は今からでも構わなかったのだが……。昼間のあれでは不完全燃焼だ。最後に立ち向かってきた奴は気概があって面白かったが。

その後は直毘人の一声で鍛錬が翌日に持ち越されたことに悶々としながら眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 翌日。早朝から明のいつも使っている鍛錬部屋に二人の姿があった。

 

「そういえば、甚爾……さん。ずっと考えていたんだ、貴方から呪力を全く感じない。そういう術式なのか?それとも……」

 

「甚爾でいい。あー、その答えだが……天与呪縛だ。生まれながらに呪力を一切もたない代わりに、俺の身体能力は底上げされている。フィジカルギフテッドってやつだ、教わらなかったのか?」

 

天与呪縛。生まれながらに強大な力を得る代わりに何かを強制的に犠牲にする縛り。確かに習ったが、それは……

 

「……お前は俺のことを術式も呪力もない猿だとは思わないのか?」

 

「?ああ、家訓のことか。別に。……甚爾は強いんだろう?気配だけでも家の軟弱な術師どもとは違う。猿だなんて思わない。」

 

『禪院家に非ずんば呪術師に非ず。呪術師に非ずんば人に非ず。』

実力主義と聞けば聞こえはいいが僕からすればどいつもこいつも大差ない。なんなら奴らより女中たちの方が自分の役割を忠実にこなしている分賢い。今日の朝食も美味しかったしな。

 

「変わってるな……。ジジイもそうだが。」

 

「ああ、そうかもしれない。」

 

直毘人爺以外とここまで話したのは初めてだ。興奮のせいか口がよく回る。

 

「鍛錬の内容についてだが、これから俺と戦ってもらう。術式の使用はとりあえず無し。時間はたくさんあるからな。使いたきゃ後で使わせてやるよ。かかってきな。」

 

宣言と同時。明は呪力を纏い、甚爾に襲い掛かる。昨日の訓練のときとは比べるまでもない速さ。様子見は無し。相手が強いことは気配から分かり切っている。故の全力、全開。心臓から供給された莫大な呪力を使い振るった拳は。

 

「速いな、予想以上だ。」

 

半身であっさりと躱される。躱されたことに疑問はない。間髪入れずに1発、2発と追撃をかけるも──

 

「単調なんだよ、狙いがな。」

 

喋る余裕すらある。その後も仕掛けるが当たらない。死角を狙った攻撃もあった。分かっていたかのように避けられる。蹴りもフェイントも混ぜた、ダメだった。

 

「避けられてばかりもつまんねぇだろ、次は俺の番だ。」

 

攻守交替。甚爾が明へラッシュをかける。明が仕掛けたような連撃と似たような軌跡、タイミング。しかしなぜか当たる。避けられない。押されている。初めての感覚。

 

「硬いな、かなり殴ったはずだが。」

 

一方的に殴ったはず、それでも明に明確なダメージは見受けられない。加減はしたが生易しい威力ではなかった。無限の呪力による呪力強化、出鱈目な硬さの呪力防御ってとこか……。聞いてはいたが想像以上の硬さだな。だが。

 

「硬いだけの素人なんざどうにでもなるな。」

 

甚爾のギアが上がる。キレも威力もさっきより上。明は呪力による防御でひたすらに耐える。幸いにも甚爾の攻撃によるダメージは少ない。隙を見てのカウンター。一矢報いるにはこれしかない。そう決めた矢先。

 

「シッ!」

 

飛んできたのは、明のガードを崩すためのアッパー。ここしかない。ガードを解いてカウンターを──

 

コツン。と。

 

嫌に軽快な音と共に視界が揺らぐ。何が起きた!?状況を把握する間もなく膝を突く。暗転する視界の中、最後に見えたのは甚爾のニヤけ顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますと既に昼下がり。女中によると、甚爾は僕を部屋に運んだ後に「今日は終わりだ」と告げてどこかへ行ったらしい。

 

──負けた。完敗だった。

 

順調に進む鍛錬、式神の調伏。どこか驕っていたのかもしれない。初めての敗北。それは明の向上心に更なる火を着けた。

 

食事にしたら、式神の調伏だ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 さて、今回調伏する式神は満象と貫牛。書によると満象は水を扱う超質量の式神で、貫牛は走った距離に応じて突進の威力が増す式神らしい。前は影の操作で調伏したが……今回はちゃんと式神を使って調伏しよう。

 

「満象」

 

印を組み、呼び出す。大きいな。僕を視認したみたいだ、ドスドスと地を踏み均しながら突っ込んでくる。……やるか。

 

『鵺』

 

呼び出すのは雷撃と飛行の能力をもつ、現時点で手持ち最高火力の式神。勢いよく僕の影から飛び出した式神は、指示に合わせて雷を纏った強力な突進をお見舞いする。術者である明の呪力が乗った強力な一撃。

 

「パオ―――ン!」

 

ダメージを受けた満象は堪らず叫ぶ。そのまま畳みかけようと接近する。しかし。

 

こちらへ鼻を向けた満象は、とてつもない勢いで水を放出した。呪力も乗ったその水流はそのまま直線上の明を両断せんと迫るが……

 

「その程度じゃ僕は斬れないぞ。」

 

手で容易く弾き、肉迫。引き絞った拳には凄まじい呪力と共に、バチバチと雷光が宿る。昨日、禪院扇を切り捨てた『雷切』と同様の鵺による雷の付与。式神の能力を術者に乗せる感覚を、明はあのとき掴んでいる。

 

「終わりだ。」

 

耳を劈くような轟音。体の半分以上を消し飛ばされた満象は、ドロリと影に還っていった。

 

 

 

 

……あの後貫牛も調伏した。調伏したが……。あの式神には飛ぶ相手に対する攻撃手段がなかった。鵺に乗って、万が一の飛び掛かりに気を配りながら雷撃と影による一撃離脱をしていたらいつのまにか倒れていた。僕が使うときは気をつけねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 禪院甚爾との摸擬戦に新たな式神2体の調伏。今日やったことを思い返しながら屋敷を歩く。すると向こう側から直毘人爺が見えた。

 

「おお、明か。呼ぼうとしたところだ、ちょうどいい。」

 

「直毘人爺。甚爾の件は本当に感謝する。楽しかった。」

 

「クク、聞いたぞ?顎に綺麗に一発入ったとな。初めての敗北はどうだ?」

 

「……よかったよ、今味わえて。で、何の用?」

 

「む、そうだった。明よ、明日五条家に行くぞ。ついてこい。」

 

唐突に告げられた明日の予定を、鍛錬後の明は理解できなかった。




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