無限と十種   作:うぃりあむぅ

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息抜き話。短め。


閑話
閑話 禪院直哉


 「下を見て何になるというんだ?」

 

 明君のその一言はまだ幼かった俺にとって衝撃的なもんやった。

 

大体10歳かそこらの時やろうか。たまたま、あの甚爾君と明君が一緒に鍛錬しとるってことを聞いた。自分が強い思っとる男と次期当主筆頭候補様の鍛錬や、気にならんやつはそれこそ臆病者やろ。そう思って見に行った。凄かった、としか言えへん。

 

遠くから見てても分かるぐらい、おっそろしい程の呪力が込められた明君の攻撃を甚爾君は余裕をもって躱しとった。別に明君の技術が低かったとかやない。俺にはまだ理解出来ん動きをしとるし、もし明君の攻撃を受けてるのが甚爾君以外やったらもう終わってる筈や。

 

嬉しかった。2人が強いことが。

嬉しかった。2人の強さを分かっとる自分のことが。

家の奴らは呪力の無い甚爾君のことはもちろん、明君のこともその隔絶した呪力の差からか理解しようとしてへんかった。理解していたのは父ちゃんくらいやろ。

 

甚爾君が強いのは分かっとったことや。でも、実際に動いて戦っている所は初めて見た。それは明君もそうや。禪院家の希望。相伝の術式で長い歴史をもつ十種影法術の保有者。そして幼くして恐ろしい呪力量を可能にする呪心の存在にそれらを活かす柔軟な術式の解釈。持てるもんぜぇんぶ持って産まれたんかっちゅうぐらいの才能。

 

最初は嫉妬することもあったんやけど、もうそんな気は起きん。俺は俺で、絶対あっち側に追いついてみせる。

 

 決心した俺はとりあえず明君のことについて情報を集めてみようと思った。明君はあんまし俺らの前に姿を現さん。父ちゃんに頼るのもダサいし、甚爾君に聞くなんて論外や。せやからその辺の女を捕まえて聞いてみることにした。

 

「なあ、明君って普段何してんの?答えろや。」

 

所詮は呪力も扱えん女や、どんなことにも答えるし、言うことを聞く。それ以外の価値が無いからな。やけどその女は何にも話さんかった。分からないの一点張り。気に食わん。本当に何も知らんかったとしても、なんでそんな堂々としとるんや。女やったらぺこぺこと申し訳無さそうに頭くらい下げろや。

 

「女の癖に──」

 

「何をしている。」

 

ちょっと虐めたろうかと思った瞬間、声をかけられた。声をかけたのはまさに今探っている相手である禪院明その人だった。

 

「その女は僕の食事を担当している奴だ。お前、僕のものに手を出すのか?」

 

向けられる殺意。……重い。あまりの呪力に屋敷が軋みそうや。

 

「……なんや、明君のモノだったんかい。知らんかったわ、申し訳ありませんなぁ。」

 

冷や汗が止まらんかった。コミュニケーションを取ろうとした相手のモノに手を出すところやった。虚勢を張ることしか出来ひん。

 

「お前は誰だ。」

 

「直哉。禪院直哉や。当主直毘人の息子っちゅうたら分かりますか?」

 

「……直毘人爺の。で、女中に尋問紛いのことまでしてなんのつもりだ?」

 

……ふぅ。ひとまず呪力は収めてくれた。生きた心地がせんかったわ。

 

「いや、前から一度話してみたかったんですわ。なんでそんなに強いんですか?なんで、女を重宝するんです?飯なんて作って当たり前やないですか。別に庇わんくても殺されることなんてあんましないんやし、呪力も持たん奴らが俺たち術師に奉仕するのは当然やないですか?」

 

「……質問が多いな。」

 

今思えばあんまりにも失礼過ぎる質問のオンパレードやったと思うけど、やっぱりあの時の明君は俺のことなんて眼中になかったんやろうね。

 

「強さが全てだと言うのなら、下を見て満足している暇なんてあるのか?僕からして見れば、お前たち程度の術師なんぞ非術師と大差がない。僕のために大量の食事を作ってくれる女中たちの方が僕にとっては有用だ。」

 

……言い過ぎ……やないんやろなぁ。明君と家の術師たちにはそれくらい言われても仕方ないと思える程の実力差があった。それよりも衝撃を受けたのが最初の一言。

 

『下を見て満足している暇なんてあるのか。』

 

あの時の俺はしばらくこの言葉が脳裏から離れんかった。放心している俺をよそに明君は女中を連れてどっか行ってもうた。

 

かっこいいな。そう思った。同時に今までの自分の行動が恥ずかしく思えてきたんや。強さ強さと言っとる癖にわざわざ構う必要もない弱者を嬲って遊んどる矛盾。間違いなく家の術師で一番強いであろう明君がまだ鍛錬しとるのに自分らは何をしとんねん。

 

それからというもの、見る世界が変わった。雑魚共に構っとる暇はない。最速で、明君に、甚爾君に追いついて見せる!

 

 

「俺も、あっち側に行くんや!!」

 

俺の、禪院直哉の変わった瞬間。輝かしい思い出。今では明君は特級術師になってもうた。また離されてしもうたけど……諦めへんからな。

 

そういえば最近、明君は剣をよく振ってるらしいで。すんごい神聖な何かを感じる剣やったらしいけど……何かの呪具なんかな。

 

……今度、鍛錬に付き合ってくださいってお願いしてみるのもええな。今なら意識してもらえるやろか。




躯倶留隊の"禪院明"レビュー!!!
3.0⭐︎⭐︎⭐︎

・怖い。トラウマ。

・強すぎ。でも何もしてこない。

・カッコ可愛い。食後はめちゃくちゃ機嫌いいからたまに喋ってくれる。

直哉は絡ませたかった。他は……どうしようかな。
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