「じゃあ、始めようじゃないか」
「ちょっと待って」
やる気満々のウラミに僕は待ったをかけた。
「30分くらい待ってもらっていい? ちょっと自分のガンプラ持って来る」
「あぁ、いいぜ。ただしお前が帰ってこなかったら、模型部の不戦敗ということになり、自動的にオレの勝ち。こっちの要求は全て呑んでもらうぜ」
僕はサトノさんの方に目をやる。
サトノさんは、コクリと頷き、「それで構いません」と言った。
サトノさんをこの野郎共のいるところに1人にするのは心苦しいが、ウラミの相手は僕だ。
それにウラミとしても、僕を徹底的に痛めつけることでサトノさんを屈服させたいという意図もあるのだろう。
だからきっとサトノさんに手を出したりはしない――僕はそう判断した。
サトノさんは部室を出ようとしている僕を呼び止めた。
「私はクチノキ君のこと信じてますから」
とサトノさんは微笑みながら言った。
どうやら彼女は、僕が逃げずに帰ってくることを確信しているようだった。
サトノさんを安心させるよう僕はニコッと笑い、
「大丈夫。少しだけ待ってて」
と言い残して、走って模型部の部室を後にした。
急いで靴箱を出て、自転車小屋に向かう。
そして自転車に飛び乗り、猛スピードで目的地を目指す。
目的地は自宅……ではなく、学校から自転車で10分かからないくらいのところにある模型店だ。
急いだからか5分ほどで着いたので、自転車を店の前に止め、ガラス戸を開け店に入る。
店内には人はおらず、背の高い筋肉質の男性が店番をしていた。
服装はタンクトップにエプロンと外に出たら通報されるんじゃないかというような格好だった。
「あら、リオちゃんじゃない!久しぶりぃ~」
髪を短く刈り上げた強面の男が満面の笑みで僕に抱きつこうとしてきたので、それをひょいとかわす。
「何よ冷たいわねぇリオちゃん」
「悪いけど、今急いでるんだドウジマさん。僕が預けてたガンプラとGPベース持ってきて!」
すると、ドウジマさんは驚いたように僕の方を見た。
「リオちゃん! あなたやっと戻ってきてくれるのね! アタシ嬉しいわぁ~」
また、抱きつこうとしてきたので、それを紙一重で躱す。
「ほんとに急いでるんだって。事情はまた話すからお願い」
僕が本当に急いでいる事が伝わったのか、ドウジマさんは真剣な顔になった。
「リオちゃん。1つ聞いていいかしら」
「なに?」
「スカルハートは使わないの?」
「…………使わない」
ドウジマさんの質問に僕は狼狽えながらも答える。
1分ほど沈黙がその場を支配する。
ドウジマさんは僕の様子を見て何か察したのか、ため息を付いた後、
「ちょっと待ってなさい」
と言って店の奥に向かった。
数分後、ドウジマさんは一機のガンプラと端末を持って僕の前に戻ってきた。
「今あなたが欲しいのはこれでしょ」
そう言って、その2つを僕に手渡す。
「ありがとう、ドウジマさん」
「礼には及ばないわよ――それは元々あなたのものなんだから」
僕は受け取ったガンプラをそっと鞄に入れる。
僕は急いで店を後にしようとする、するとドウジマさんは「リオちゃん!」と僕を呼び止めた。
「礼には及ばないとは言ったけど、今回のことが落ち着いたら、また顔を出してくれないかしら。みんなあなたに会いたがっていたわよ?」
「 ここにはあなたのファンが大勢いるのよ。かくいう私もあなたのファンの1人。――久々にリオちゃんに会えて嬉しかったわ」
ドウジマさんはまるで慈母のような表情を浮かべて僕に言った。
「うん。約束する!」
ドウジマさんに手を振りながら店を後にし、僕は急いで学校に引き返した。
「はぁ……はぁ…………」
僕は息を切らしながら模型部の部室に戻った。
今日は人生で一番体力を使った日かもしれない。
「クチノキ君!」
サトノさんがこちらに駆け寄ってくる。
「ごめん待たせた……でもちゃんと帰ってきたよ……」
息を切らしながらサトノさんに言う。
せっかく、いいことを言ってるはずなのに、こんな状態じゃみっともないな――と思ったが、もう後の祭りだ。
サトノさんを見ると、頬を赤らめていた。
きっと、待たせていた間はとても心細かったのだろう、とても申し訳ないことをしてしまった。
「よぉ。逃げずに帰ってこれて偉いじゃねぇか腰抜け野郎」
ウラミとその取り巻き達はこちらを嘲笑うかのようにニヤニヤと僕たちのことを見ていた。
「さぁ、始めようぜ……サトノ姫の騎士クン」
ウラミは邪悪な笑みを浮かべながら僕に言った。
バトルベースが置いてある実験室に移動し、各々準備を始めて今に至る。
僕とウラミはバトルシステムにGPベースをセットする。
すると、プラフスキー粒子のエフェクトにより、視界が青色に染まる。
「久々だな……」
ガンプラバトルをしなくなってから、かなり久しい。
辞める前は日常的に見ていた光景なのに久々に見ると、なかなか感慨深いものがある。
準備は終わり、あとは互いにガンプラをセットするだけだ。
「さぁ、始めようぜ。おい、お前ら! こんな雑魚すぐにボコボコにしてやるから、これ終わったら焼肉食いに行こうぜぇ!」
ウラミは後ろの取り巻きたちを鼓舞するように叫んだ。
彼の取り巻きたちも「おぉ!さすがはウラミさん」と大はしゃぎしている。
僕がサトノさんの方を見ると、サトノさんは僕ににこやかに微笑んだ。
――これは絶対に負ける訳にはいかない。
『Please set your GUNPLA』
バトルシステムから案内音声が発せられる。
ふぅ……と僕は深く深呼吸をする。
そして目を見開き、集中する。
僕はGPベースに鞄から取り出したガンプラをセットする。
ガンプラをセットすると光球状の操縦桿が現れた。
『Battle Start!』
これから使用するガンプラはクロスボーンガンダム……。
――では、ない。
これから僕が使うのは――。
「クチノキ・リオ。フリント行くよ!」
クロスボーンガンダムではなく、フリントだ。