大会のレギュレーションとかで禁止されそう。
「クチノキ君のガンプラは素晴らしい出来ですね!」
そのまま連れられてきた模型部の部室で、サトノさんは楽しそうに僕のガンプラ――フリントを眺めている。
その様子はまるで、初めておもちゃを見つけた子供のようにはしゃいでいた。
「……作ったのガンプラバトルやめる少し前だからそんなに出来は良くないんだ」
「そんなことないですよ! このガンプラには色んなモノがこもっています……私には分かります」
そう言ってサトノさんは愛でるようにフリントを撫でる。
――やっぱり、サトノさんには敵わないな。
そう言えば、以前聞きそびれたことがあったのを思い出したのでサトノさんに聞いてみることにした。
「あのさ、ウラミと戦うためにガンプラバトル出来る人を探してたのは分かるけど、何で僕だったの? この学校にも強い人って結構いそうだし、サトノさんだったら誰でも頼めば引き受けてくれると思うんだけど」
「それがですね……」
サトノさんは何やら戸棚に向かい、一枚の封筒を取り出し、僕に手渡した。
「えーっと、なになに……『スカルハート――クチノキ・リオを頼れ』」
「………………はぁ!?」
顔が恥ずかしさで赤い絵の具のように真っ赤になっていくのを感じる。
――やばい、すごく恥ずかしい。
この手紙の主がどいつなのかある程度推測はつくが、可愛い女の子の前で、よくもこんな羞恥プレイを……。
「スカルハートというのがなんのことか分かりませんが、クチノキ君を頼れと書いてあったので、手紙の通りにクチノキ君へお願いしたんです」
「この手紙誰から?」
額ににじみ出た冷や汗をハンカチで拭きながらサトノさんに質問する。
「それが未だに分からなくて……。私が部室に来る前に机の上に置かれていたんです。丁度、ウラミくん達からの嫌がらせが悪化し始めた頃だったので、見かねた誰かが助けてくれたんだと思うんですけど……」
あの名前を知っているのは昔の知り合い、それも僕だと知っているのは小学校からの付き合いのやつとごく少数だ。この学校に知り合いは数人しかいないので、自然と誰かは絞られる。
「こんなこと知ってるの、あいつくらいだよなぁ……」
「あいつ……?」
サトノさんが頭に疑問符を浮かべたような顔で僕に聞いてくる。
何と答えようか頭の中で整理していたとき、急に勢いよく部室の扉が開いた。
「こんにちはー! 模型部の皆さん」
空いた扉の先では、頭にバンダナを巻いた明るい髪の活発そうな男が元気そうに挨拶しながらニコニコと笑っている。
「トーシローか……」
「よぉ、リオ! 久しぶりだな、元気にしてたか? ……相変わらず背ェ小さいなお前!」
トーシローは僕の方に近づき、僕の髪をわしゃわしゃと掻き乱す。
「ちょっと、トーシローやめてよ……あと身長は関係ないだろ」
「クチノキ君。この方は、フジミヤ・トーシローくんで合ってますか……?」
サトノさんは何故か不安げな顔で僕に聞いてくる。
「うん、そうだよ。こいつはまぁ、僕の腐れ縁っていうか元悪友みたいな……?」
「元じゃなくて今もだろ! 全く……オレも噂のサトノ姫に知られるくらい有名になったとあっちゃ鼻が高いぜ!」
トーシローは何故か自信満々に胸を張っている。
「サトノさんはトーシローを知ってるの?」
「はい……フジミヤくんは……」
僕が聞くと、サトノさんは言いづらそうに途中まで話し、息継ぎをしてから一気に語りだした。
「フジミヤくんはガンプラバトル部の部員ですから」
「え……?」
先程まで和やかだった部室の雰囲気が一気に冷え込んでいくのを感じる。
僕がトーシローの方を見ると、トーシローは笑みを崩していなかったが、先程のような明るい笑顔ではなく作ったような表情をしていた。
「あぁ。サトノ姫の言うとおりだ……オレは今ガンプラバトルの部員なんだ」
「リオ。お前隨分派手にやったらしいじゃねぇか。今、部内でもその話題で持ちっきりだぜ? よく分からん無名のチビが、あのウラミを傷ひとつつけられることなく倒したってな。ウラミだけじゃなく、今日は他の部員までピリピリしてて、エンジョイ勢としてはたまったもんじゃねぜ」
トーシローはやれやれと言った感じでため息をつく。
「……トーシローは昨日の報復をしに来たってこと?」
僕は身構えながらトーシローに質問する。
しかし、「ハッ」とトーシローはそれを鼻で笑う。
「まさか、誰がそんな事するかよ。言っただろ、オレはエンジョイ勢だって。それにオレはウラミとは仲悪いし、オレもあいつもお互いのこと嫌い合ってるから復讐なんか頼まれてもやらねぇよ」
血気盛んなやつはこれだから……とブツブツ言いながらトーシローは答えた。
「じゃあ、何のためにここに来たのさ」
「何ってそりゃ、サトノ姫に挨拶するついでにお前と久々に会うため以外にないだろ」
トーシローは何を当たり前のことをといった感じでケロリと答える。その様子に身構えていた僕とサトノさんは拍子抜けしてしまう。
「あー……そうだ、リオにお願いがあってきたんだったわ」
「お願い?」
僕が聞き返すと、トーシローは「そうだ!」と笑顔で答える。
そして、先程の笑顔と打って変わって、真剣な表情になった。
「オレとガンプラバトルしてくれ」
トーシローの目を見ると、その目はまるでこれから死地に赴く兵士のような真剣な目をしていた。
「これはガンプラバトル部とかそういうのは一切関係ない、オレ個人の頼みだ。頼む、引き受けてくれないか? この通りだ」
トーシローは頭を僕に向かって下げる。
急いで僕は頭を上げるよう言うが、トーシローはそれを聞いてくれない。
「トーシロー……悪いけど僕は――」
「クチノキ君」
断ろうとした僕の言葉をサトノさんが途中で遮る。
「引き受けてあげてくれませんか? きっとフジミヤ君は、これからなにか大事なことを成し遂げようとしているんだと思います。でも、何かが足を引っ張って前に進めない……クチノキ君なら分かるでしょう?」
「…………」
「ですから、これはフジミヤ君が前へ進むために必要なことなんだと思います。私からもお願いします……引き受けてくれませんか」
そう言って、サトノさんも頭を下げる。慌てて、僕は頭を上げるように説得するが彼女も聞いてはくれない。
「分かった!受けるから!頼むから、二人とも顔を上げて!」
そう言うと、サトノさんはニコッと笑いながら顔を上げた。
おそらくこれも彼女の計算内だったのだろう。
――やっぱ、サトノさんには適わないや……
トーシローの方を見る、すると彼は……。
――彼は号泣していた。
「ぐす…………サトノさん……いや、サトノ様……。あなたはなんて素晴らしい人なんだ……あなたは女神様ですか……?」
涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになった彼を、僕とサトノさんはドン引きしながら見つめていた。
次回くらいにバトル?