よう実RTA 決闘者チャート   作:KKKK

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茶柱「綾小路も巻き込むつもりやったけど、もうこいつだけでええか……ええやろ、寝よ」


裏6

 

 

 

 

 

 

 高円寺SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼のことは入学当初から注目していたとも。一目見た瞬間からその筋肉の張りや体幹は常人とはかけ離れていたものだからね。

 

 彼は強い。言葉もなく、関わりもなく、一目見てそんな認識を持ったことを覚えている。

 

 そんな認識と予想が確信に変わったのはあの水泳の授業の時、決勝で私は彼に敗れてしまった。それはきっとこの世のどんな称号よりも輝かしい物であるべきなのだろう。

 

 次に戦えば勝つのは私か彼か。そんな思いを持つのは随分と久しぶりだと考えた時に、私は随分と飽きていたのだと自覚することができた。

 

 完璧な私をより高みに押し上げるのに必要な何か。一つだけ欠けていたジグソーパズルの破片がふとした時に見つかったような安堵と喜び。まさか私にそんな幼稚な対抗心があったことに驚きながらも、そこにあったのは間違いなく感心であったと思う。

 

 彼、キングボーイはそんな期待を裏切ることなく決闘部を作ってくれた。ポイントの為? それともクラスの為? なんだっていい、場を整えてくれたのでねぇ。

 

 かかってこいと、俺はいつでも強者を待つ。そんな招待状を送られたのだから返礼に右往左往するのは無粋だろう。己の全てを賭して挑まなければね。

 

 毎日行っていた鍛錬もこれまで以上に集中することができたし、彼の趣味趣向や戦略も同じクラスなので観察が容易い。

 

 そうやって観察していて思ったのは、意外にも他者への配慮を持っているということだった。

 

 容赦はない、一切ない。しかしどこかで一線を引いて弁えている。私から見ればそれは象が蟻を潰さないように歩いているようにも見えたので、少しだけ彼という人間がわかった気がした。

 

 あれだけ力があればもっと自由に生きられるだろう、もっと大きく羽ばたけるだろうと思っている。しかしどちらかと言えば彼は草花を愛でることに幸福を見出す存在であったらしい。おそらく気が付いているのは私だけだろうがね。

 

「高円寺、野球の助っ人を依頼したい」

 

「ふむん? 生憎と忙しくてねぇ、そこまで暇ではないとも」

 

「そうか、ならばいい」

 

 毎日のルーティーンと化した早朝のトレーニング。夏休みであっても変わることにない流れの中で、彼もまたいつも通りランニングをしているのがわかった。

 

 別に何かを示し合わせた訳ではなく、お互いに目標やペースも異なるので並び立つこともないのだが、その日は偶々声をかけられる距離まで近づくことになった。

 

 私が隣を走っていると彼は全てを見透かすような眼差しを向けて来る。そして野球の助っ人を依頼してくるのだった。

 

「おや、随分とあっさり引き下がるものだねキングボーイ」

 

「お前に協調性を期待するなんて、F1カーを公道で走らせるくらいに無意味なことだ」

 

「最初から断られるとわかっていたのならば何故声をかけたのだね?」

 

「気まぐれだ、そんな日があっても良いと言うかもしれないからな」

 

「なるほどねぇ、確かに気まぐれにそういうこともあるかもしれないが、やはり答えはNOだ」

 

「そうか、ならばそれでいい」

 

 せっかくこうして並んで走っているのだ、別方向に気まぐれを働かしてみるとしよう。

 

「決闘部は順調かね?」

 

「商売繁盛しているぞ……お前は来ないのか?」

 

「ふッ、いずれ気まぐれが囁けばね。今はその時ではないというだけさ」

 

 すると彼はランニングをしながらも僅かに笑って見せる、それでいいとばかりに。

 

「しかし思っていたよりもキングボーイは難儀な生活をしているじゃないか。凡夫など引きちぎって進もうとは思わないのかね?」

 

「そうもいかん、俺は俺の責務を果たすだけだ」

 

「ほう、クラスメイトを育てることが君の責務だと?」

 

「違う、枝の選定や肥料をやっているだけだ。お前も自分の庭の景観くらいは気にするだろう」

 

「なるほど……今のは俗にいうツンデレという奴なのかね?」

 

 私がそう言うと彼は珍しく渋面を作ってしまう。なんだ、意外に表情豊かではないか。

 

「それで、本音は?」

 

「本音も何もない……お前は俺を窮屈な生き方をしていると思っているようだが、存外悪くないぞ、草花の手入れは」

 

「ほう、そういったことに快楽を見出すのかね、君は」

 

「昔から、不思議なことに俺の目には色々な情報が流れ込んでくる。目の前にいる人物がどんな人間で、何が足らなくて、何を得意として何を不得手としているのか、一目見れば殆どな」

 

「ほう」

 

 高い観察力と思考力、そして共感性の為せる業ということだろうか。

 

「以前に……世話になった孤児院にいる子供たちの世話をしている時に、少し実験をしてな。そいつらが持つ才能や欠点を伸ばしたり消したりできないかと四苦八苦して、何故か上手く行ってしまった」

 

「それが君のオリジンと言う訳か」

 

「かもしれん……まぁ何であれだ、お前の心配は不要なものだ。俺は存外、庭の手入れをする人生を好んでいるのでな」

 

「確かに、だとすれば私の言葉はいらぬ配慮だったかもしれないねぇ」

 

 本人がそれを望んでいるのだから、もっと自由に生きろというのは無粋だろう。

 

「ふむ……気が変わった、君の要請に応えようじゃないか」

 

「野球の助っ人のことか?」

 

「あぁ、たった今興が乗った、それでは納得できないかね?」

 

「いいや、それでいい。お前はバランス感覚に優れているからな。そうすることで自分の利益になると判断したんだろう」

 

「グレェイト、まさにその通りだ。まぁ尤も、タダ働きはごめんだがねぇ」

 

「構わんぞ、俺もそのつもりはない」

 

「ではなミスター……ミスターツンデレ」

 

「都合良く解釈するだけの耳など切り捨ててしまえ」

 

 また少しだけ微笑んだ彼は私とは異なる方向に走っていき、私は私でいつものランニング道を走りながら、少しだけ普段とは異なる楽しみに身を高ぶらせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 綾小路SIDE

 

 

 

 

 

 

 ゆで上がるような暑さが続く夏休みの最中、オレは本剛に誘われて野球の助っ人に呼ばれていた。

 

 確かにオレは決闘部の設立に名前を貸したが、アイツはあの時に巻き込むつもりはないと言っていた気がするのだが、気が付いたら当たり前のようにこちらを巻き込もうとしている。

 

 オレだけに留まらずそれはクラス全体にも言えることであって、あの近づく者全てを切り裂くような堀北でさえいつのまにかマネージャーとして巻き込まれているのだからもの凄く違和感があるな。

 

 アイツはレモンを切って奇妙なドリンクに浸けながら「何でこんなことをしているのかしら?」と疑問に思いながらも作業を続けている。やはりいつのまにか本剛の都合に巻き込まれていることに疑問を抱きながらも、それが不思議と不快にならないのだから変な話だ。

 

 普通、ああいう自分勝手な相手に振り回されると苛立ったり呆れたり反発したりするものなのだが、本剛にはそういった気がおこらない。

 

 ああ言うのをカリスマと言うのだろうかとぼんやりと学習していると、オレの視界に本剛の姿が入ってきた。

 

 もうすぐ試合が始まるというのに野球場の片隅でアイツは何をしているのかと言えば……祈っていた。

 

「……意外と、信心深いんだな?」

 

 胡坐を組んで両手を結び合わせて太陽の方向に祈りを捧げる独特の祈り方だな。

 

「信心深い、とは少し違うな」

 

 喋りかけると本剛は祈りの姿勢のまま返事をしてくる。

 

「人事を尽くして天命を待つという奴だ。勝利の可能性を高める為にあらゆることをしているに過ぎん。人は整えた、場も整えた、意思と能力も高めた、後はもう祈るくらいしかやることがないのでな」

 

「祈った所で何かが変わる訳じゃないんじゃないか?」

 

「全くもってその通りだ。こんなものに何の意味もない……だが、何もしないよりはマシだろう。これで0.1パーセントでも勝率が変わるかもしれないという勘違いを得られるのならばやった方が得かもしれんだろ。大した手間でもないのだからな」

 

「そういう考えもあるのか」

 

 あの部屋では数字が神だったので、オレにはわからない感覚だな。

 

 変わらず熱心に祈り続ける本剛を眺めながら、オレはせっかくなので気になっていることを尋ねてみることにした。

 

「本剛は、お前はどうしてクラス全体を巻き込んでいるんだ?」

 

「決闘部にか?」

 

「あぁ、単純にクラス移動する為のポイントが欲しいならば、大規模なことをせずに勝てる相手だけ選んで戦えば良いはずだ」

 

「王者の戦いではないなそれは……ふむ、行動の言語化か。敢えてわかりやすくするのであれば、俺の満足の為だろうな」

 

「……」

 

「クラスの連中を巻き込んでいるのもその一環だ。俺は俺が満足する結果の為にお前たちを利用していると言えるかもしれん。その為には走りやすいように道を均してからグダグダ言う輩のケツを蹴り飛ばすのが最も効率的だ」

 

 全くもって面倒だとでも言いたそうな大きな溜息を吐いていた。

 

「俺は俺の庭が美しくなくては我慢ならない質でな。枝葉の選定も水やりも肥料やりも手間は惜しまない。肥え太った豚や雑草だらけの景観などごめんだからな」

 

「クラス全体の成長を期待しているってことか?」

 

「戯け、高円寺もお前もどんな都合の良い耳をしているんだ……俺の満足の為だ、勘違いするんじゃない」

 

「……今のは、アレか? オレの勘違いじゃなければツンデレという奴なんだろうか」

 

 すると本剛は祈りの姿勢を止めてオレを呆れたように見つめて来る。

 

「道を均すのも、背中を蹴り飛ばすのも、庭の整備も、王者の義務という話だ……何を言っているんだお前は?」

 

 これが照れ隠しだったり、もしくは本音を誤魔化す為の方便から出た台詞なのか、それとも本剛という男の本質から出た言葉であるのかはその時点ではわからなかった。

 

「俺から見ればお前たちは全て幼童だ。ならば道を示してやることくらいはしてやらねばな」

 

「そうか」

 

 オレはそうとしか言えなかった。あの白い部屋にはいなかったタイプの人間なので興味深くはあるな。入学してからずっと観察対象にしていたが、普通の高校生を学ぶ対象としてはあまりにもかけ離れていることはわかっていたのであまり参考にはならないと思っていたが、これはこれで面白い。

 

「それよりもだ綾小路、お前はこれからどうするつもりだ?」

 

「どうするとは?」

 

「クラスの中で最も幼童だと言っているんだ。生まれたばかりの雛でもあるまいし、いつまでも右往左往していても仕方があるまい」

 

「……」

 

 確かにオレは慣れない環境に戸惑っているのは間違いない。今まで過ごしていた環境と、こことのギャップがあり過ぎるからな。試しに池や山内を参考にしてみたが合わないこともわかったし、だからといって堀北や本剛を参考にするのは明らかに悪手だろうしな。

 

 宙ぶらりんのまま、誰を学び何を吸収するのかわからないままだということは……まぁ否定はできないか。

 

 そんなオレの本質を本剛は見ている。こちらの全てを見透かすような独特の眼差しで。

 

「どうすれば良いと思う?」

 

「それはお前が決めることだと言いたいが……フッ、迷っているというのならばまだ救いはあるだろう。お前はとりあえず様々な人間に触れていくべきだろうな。幼童はそうやって成長していくものだ」

 

「……子供扱いは止めて欲しいんだが」

 

「真っ白な幼童だ、お前はな……まぁ、それでもよくわからないというのならば、万物の道理がわからない内は俺を見て目を輝かせていればいい。いずれ、見えて来るものもあるだろうさ……その先でただの装置となるのか、それとも人となるのかはお前自身が決めればいい」

 

「お、おう……」

 

 こいつはちょっとナルシストな所があるな。自分を見て目を輝かせておけなんて、そう言える言葉じゃないだろう。傲岸不遜と言うか、勘違い野郎と言うべきか……しかし本剛だからなで納得できるのは凄いと思う。変な男である。

 

 

「ヘイ、ミスターツンデレ。そろそろ私が輝く時間だとも、急ぎたまえ」

 

 

 なんてことを思っていると、このクラスに生息するよくわからないけど凄い奴のもう一人である高円寺が声をかけてきた。どうやら試合が始まるらしい。

 

「では行くとするか。綾小路も配置につけ」

 

「あぁ」

 

「高円寺、調子は?」

 

「愚かな質問だとも、常に完璧な私はどんな時でも最高のパフォーマンスを発揮できるのでねぇ。ミスターツンデレのそれはいらぬ心配さ。そうだろう? ミスターツンデレ」

 

「とりあえずお前には試合が終わった後に話があるからそのつもりでいろ」

 

「おやおや、それは恐ろしいねぇ。では手心を加えて貰う為にも鮮やかなパーフェクトゲームを献上しようではないか」

 

「あぁ、そこは心配していない」

 

 まさかこの二人とチームを組んで野球をすることになるとは、入学当初は想像もできなかったな。

 

 いや、それを言い出したらクラス全体の雰囲気もそうか。

 

「皆~!! 頑張ってねぇ!!」

 

 櫛田がベンチで男子チームを応援しており、そこには近づく者全てを切り裂くような堀北もいるのだが、こいつがいることが一番の驚きと言えるのかもしれない。

 

「が、頑張りなさい、私にここまでさせたのだから負けたら承知しないわよ」

 

 なんてことを言っている堀北であるが、入学したばかりの頃を思い出すと誰だお前はとなってしまう。

 

 人を育てるか、どうやら本剛はそこを主軸にして行動しているようだな。それは早い段階で分かっていたが、楽しいものなのだろうか?

 

「……」

 

 やってみるか。幸いにもこの学園にはあの白い部屋や父親の影響は届かない。卒業まではゆったりできるだろう。その間にオレも何かしらの目標を見つけたほうが良いのかもしれない。

 

 とりあえず縁を作った軽井沢辺りを育ててみるか。そんなことを思いながら、オレは170キロのストレートをキャッチするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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