よう実RTA 決闘者チャート 作:KKKK
龍園SIDE
既に学校が主催している特別試験は意味をなさなくなってやがるな。本剛が特別試験で動く以上のポイントを賭けだした段階で、もうこの学校では「どう本剛に勝つ」かが重要になりやがった。
アイツが自主的に開催した特別試験で三年Dクラスは事実上壊滅してクラス闘争から脱落したらしい……まぁ尤も、既に三年Aクラスとの差は絶望的だったらしいから、最後通告が少し早まった程度の話だろう。
この自主特別試験だが、学年はおろか学校全体を揺さぶったのは間違いない。学校が主催する特別試験でなくとも自分たちでやれば良いという価値観が広まった段階で、もう後は戦国時代だ。
南雲辺りは二年全体に迂闊な真似をするなと注意喚起をしているらしいが、三年はそこまで纏まっていないから……いや、正確には元生徒会長の堀北学が自分たちの都合良しと判断したのか放置をしている。
だとすると狙い目は三年、それもCクラスだろうよ。Dクラスと同様にAクラスとは絶望的な差が付いていることで事実上脱落している集団……このまま本剛を放置できない以上は餌にするべきだろう。
そう思って俺はクラスの全財産を纏めてベットした。奴の独走を許さない為にはそうするしかなかったからだ。
幸いと言うべきか、それとも自然と言うべきか、本剛が決闘部を開いて影響力を高めたことで学園全体でそういった方向性の治安が壊滅的になっていることもあって相手も乗り気になった。
三年Cクラスが勝てば俺たちが持つポイントの全てを手に入れてAに肉薄できる。そんな期待が脳裏に過った段階で断ると言う選択肢は消えたらしいな。
どうせ現状ではAクラスに勝てない、ならば……本剛は本当に性格が悪い野郎だ。俺が言うのもなんだがな。
三年Cクラス、総合力ではDと大差がない連中。ここで負ければいよいよ後が無くなるが、まぁ躊躇した所でアイツに食われるだけだ、やるしかねえ。
「まぁ腐っても三年……多少は手間がかかったか」
お互いに脳筋しかいないクラスなんだから自然と競技は格闘技の勝ち抜き戦。お互いに後が無いことから男も女も関係がなく、死ぬか生きるかの戦いを制したのはこちらだった。
死屍累々だがな。怪我人はあっちにもこっちにも多い。俺もなりふり構わねえ馬鹿に良いのを貰ったが、まぁこんなもんだろう。
女子の対決は伊吹が上手く立ち回ったようだな。汗だくになってボロボロの様子だが、容赦なくボコボコにできる姿勢は評価してやるよ。
「龍園さん、アイツ、来てますよ」
怪我人多数、敵も味方も担架で運ばれていく中で顔をパンパンに張らせた石崎が指差す方向には本剛がいるのが見える。
格技場の入口付近に背中を預けてこちらを眺めてくるアイツの顔には笑みが浮かんでやがる。相変わらず不敵な野郎だ。
「ククク、健気に偵察か? それとも自分の獲物を取るなとでも警告に来やがったか?」
「構わんよ、どうせ三年CクラスはDクラスが食われた段階で俺たちを警戒していたからな。まだ格下のお前たちの方が勝てると考えるのは自然なことだろう」
「てめえッ」
「下がってろ石崎、お前がどうこうできる相手じゃねえよ」
本剛は不敵な笑みを浮かべたまま両手を打つ。まるでこちらを称賛するかのような大仰な拍手だった。
「既に学校の特別試験に勝つだけでは意味がないと判断して即座に行動に移す。見事な瞬発力だ、俺は感心しているんだぞ。そうでなくては困るくらいだ」
「ハッ、随分とゆったりだな。油断とも言えるぜそれは」
「油断? これは余裕というものだ。どうせ学校内に存在しているポイントの総量は変わらんからな。お前が勝っても三年が勝っても最後に残った方を俺が潰すだけ。寧ろポイントを一カ所に集めて整理してくれるのだから感謝したいくらいだ」
「なるほどなぁ、お前のおかげで学園の治安は最悪、今やどこも鉄火場だ。雑魚が雑魚からポイントを毟り取って、そいつもまたポイントを奪われて、最後にはテメエに挑むって構図な訳だな……ククッ、性格の悪いことだな」
賭け事に対するハードルや、意識が低くなっているのは間違いない。それもこれもコイツの責任だろうな。自主特別試験なんていう価値観を植え付けてくれたおかげで三年Cクラスを釣り出すのは容易かったが。
「王者に挑むのはお前たちの権利だ、切磋琢磨して我こそはと励めばいい……それで、お前は来ないのか?」
そんな挑発に石崎とアルベルトが身構える。そして保健室に運ぶ必要の無かったクラスの馬鹿どもも同様だ。だがこれだけの人数に敵意を向けられながらも本剛は欠片も揺らぎはしない。いいぜ面白えじゃねえか。そうでないと困るくらいだぜ。
「それも悪くはねえが、先ずはテメエの戦力を把握してからだな……なぁ聞かせてくれや、体育祭で一之瀬を助けた理由をな」
「気まぐれ、利益不利益の傾き、感情論、計算、その他もろもろ全てを合わせてそれが利益になると判断したからだ」
「そうか……だが、解せねえことが一つある。真鍋が弱みを握られたと思われる相手はテメエじゃなかったってことだ。だがどうした訳かテメエがそれを把握してやがる」
「続けろ」
「真鍋が言うには軽井沢って女を追い詰めてる現場を見た中にお前の姿はなかった……つまり、その現場の状況を報告した奴がいる。そいつはつまりその中にお前の手駒がいるってことだ。或いは、よく目立つ奴の後ろにこっそり隠れてニヤニヤしてる性格の悪い奴がいるってことになる」
「ほう、それで」
「殺すのは、手札の全てを把握してからって話だよ。冷静になってよくよく考えればテメエが目立ちすぎてるせいで、どうにもそっちのクラスの連中の印象が薄い……そんな不確かな状態で挑むなんてのはただの間抜けだろうが、本剛だけが突出したワンマンのクソ雑魚クラス、まるでそんな印象を周囲に与えているようにも思えるぜ」
すると本剛はまた大仰な拍手を奏でて来る。偉そうな態度だがこいつがやると何故か様になるのだから面倒だな。
「よい慧眼だ。挑発を躱し、本質を見極め、冷静でありながらもリスクを受け入れて博打にでる瞬発力もある。どこぞのギャンブル狂いとは違うようだな」
「坂柳のことか……クク、あのギャンブル狂いと一緒にするんじゃねえよ」
「あぁ、そうらしい……まぁあの女も自主特別試験が生まれたことで、俺に勝てばそれだけで全てが片付くというのは理解しているようだがな。毎度毎度負けて涙目になって逃走していくが、挑んでくる度に洗練されていくので……存外、愛い奴ではあるぞ」
こいつのシステム上、際限なく餌は大きくなっていく。そしてその積み上がった掛け金を誰が最後に取るのかが重要になってくるだろうな。さすがに坂柳もその辺は理解してやがるか。
もう、特別試験にどう勝つかはそこまで重要じゃない。こいつを誰が殺すのかが重要になっている。もし入学してからすぐにこの状況を思い描いていたとするならば大した大馬鹿だ。
「テメエを殺す……だがそれは今じゃねぇ。楽しみにしてな、そっちの戦力も手札も全て把握した瞬間に俺がギロチンになってやるからよ」
「励むがいい。そして俺の屍を越えて見せろ」
偉そうに。だが今はそれでいい、せいぜい見下していればいいさ。最後に勝つのは坂柳でも一之瀬でもなく、この俺なのだから。
「まぁ尤も、俺に辿り着く前に倒れてしまうかもしれないがな」
そんな奴の呟きを、この時の俺は完全に理解することはできなかった。
茶柱SIDE
「効くッ……ふぅ~~~~~ッ!!」
パワフルドリンクを一気飲みすると胃を中心に熱が広がっていくことがわかった。最初は高い回復効果があるとは言え激マズであることからどうにも受け付けなかったのだが、こうして慣れてみると実に高ぶって来るのだから素晴らしいと思ってしまう。
腹部から全身に熱が広がっていき、それが頭にまで達すると頭痛も頭の重さも吹っ飛ぶ。その瞬間の解放感や清涼感と言ったら、もう一言では表せられないほどに衝撃が大きい。
良いものだな、パワフルドリンク。こういった栄養ドリンクはこれまでそんなに飲むことが無かったのだが、試してみれば思っていた以上に効き目があった。
これを飲めば眠気も吹っ飛ぶ。職員室にある私の机の上に山のように積み上がった制作中の問題集や小テストなどを見ても首を吊りたくなるような気分も吹っ飛ぶので、もう私の人生に不可欠な存在になっているのだろう。
「おッ……おッ……おほッ、これ、来た、この解放感ッ!!」
腹部から広がった熱が頭まで届くと、私は世界の中心であるかのような万能感と解放感を得られた。あまりにも衝撃が大きかった為に痙攣を繰り返してしまったことで、隣の席のチエに不審な視線を向けられてしまったが……問題はない、なにもな。
「あの、サエちゃん? 休んだほうがいいんじゃない?」
「何を言っているんだ、私は疲れてなんていない。パワフルドリンクは全てを解決してくれるんだぞ? お前も飲んでみろ、世界が変わる」
「いらない、いらないからね? 絶対それ危ない成分が入ってるから、お願いだから前のニヒルで冷めた感じのサエちゃんに戻ってッ!?」
素晴らしい物を布教しようとチエにパワフルドリンクを渡そうとするのだが、引き出しを開いてもそこにドリンクの姿はなく、買い溜めしていた奴が切れていることに気が付いた瞬間に、私は不安に駆られたのですぐさま売店へと向かう。
ダッシュで職員室を出て売店へ。どうせ毎日飲む物なのだからもう箱買いで良いだろうと思って私は売店の店員にこう言った。
「「パワフルドリンクの在庫を全部売って欲しい」」
しかし声が重なってしまう。私と全く同じタイミングで同じセリフを言った相手は、同じように売店に駆け込んできた本剛だった。
「……」
「……」
そして無言で見つめ合う……まるで今にも殴り合いが始まるような緊張感が売店に広がっていく。
「本剛、お前はまだ十代だろう。こういった物に頼るのはどうなんだ?」
「これは俺に必要な物だ。それ以上の理由などいらん」
「私は激務の中にいるんだぞ。お前が毎日毎日押し付けて来る大量の仕事や審判役によって休まる時間もない」
「贅沢を言うな、だいたいそれなら俺も一緒だ。クラスの連中をどれだけ介護していると思っている。それは本来そちらの仕事の筈だが? 全く、貴様といいクラスの連中といい、俺にここまでさせるとは本当に困った奴らだ」
「……」
「……」
そして私たちはまた無言で見つめ合う、お互いに鋭い視線のまま。
「それで、どっちが買うんですか?」
次に盤面が動いたのは売店の店員が店の奥からパワフルドリンクが入った箱をカウンターの上に置いた瞬間だった。それを確認した瞬間に我こそはと本剛は手を伸ばして……私はそれを阻止するように手首を掴み取る。
「離せ」
「これは私の物だ」
「離さんか」
「まだ若いお前にはわからんだろうがな、これは私が飲むべきものなんだ」
「知らん、そちらが俺に奉仕することなぞ水が上から下に流れるほどに自然なことだ。そもそもこの売店は主に学生向けのものだろうが。教師ならば学外から取り寄せるなりしたらどうだ?」
「今日、今、欲しいんだ」
「離せ、茶柱教諭」
「断る」
またもや私たちは睨み合う、いつのまにか本剛の手首を握る私の手はこれまでの人生で最も力が入っていたと思えるほどに力んでいた。
「ええい貴様ッ!! 公僕の分際で上意に逆らうつもりか!! 離せ、離さぬかッ!! HANASEッ!! 誰ぞおらんか!? であえであえッ!!」
「お前はまだ十代だろうがッ!? 寝れば大抵の疲労が吹っ飛ぶ恵まれた肉体をしているくせに贅沢を言うんじゃない!!」
そして私たちはそのまま騒ぎを大きくしていき、最終的には騒ぎを聞きつけた真嶋によって「大人なんだから我慢しろ」と怒られてしまい、愛しいパワフルドリンクは本剛に奪われてしまうことになる。
この世の絶望を煮詰めたような気分になっていると、そんな私を憐れんだのか、本剛は少しだけ仕事を押し付けて来る量を減らしたようにも思えるのだった。
櫛田SIDE
私のクラスには吐き気を催すくらいに存在感のある人がいる。
昔から人を見て観察してどういう人なのかを知ることが得意だった私は、その技能を使ってどう思われるのかをずっと研究してきた。
こういう言葉なら好印象を引き出せる、こういう動作や仕草なら庇護欲を刺激できる。そうやって他人に好印象を植え付けてその人の心に入り込む。
そうやって信頼を稼いでいき、その人の最も深い位置にある秘密や悪意を暴いて収集することがきっと私の才能なんだと思う。
その人を理解して、その人に信頼されて、その人の秘密や悩みを打ち明けて貰うことに快楽を感じて……まぁ、失敗しちゃったんだけどね、中学時代に。
馬鹿ばかりで、オッサンに股を開いてたり、同級生と二股してたり、先生と付き合ってたり、どうしようもない中学の頃の同級生たちの秘密を集めていくウチに、快楽だけでなく気持ち悪さや邪悪さに触れるようになったと思う。
気持ちが悪い、知りたい、気持ちが悪い、もっと注目されたい、気持ちが悪い、信頼されたい、気持ちが悪い、秘密に触れたい、その繰り返し。
そんな快楽と邪悪が限界まで達した時に、私は私らしくないミスをして、全てが崩壊した。
私にとってそれはあってはならない過去であり、無かったことにしたい歴史であり、決して離してくれない鎖でもある。
それを引きちぎる為にも誰も知り合いがいないこの学校に来たというのに、あの女、堀北鈴音がいたことで全てが破綻しちゃった。
「ククッ、とんだアバズレだな、テメエの都合でクラスを裏切るなんてよ」
私の前に龍園君がいる。この学校で私が二番目に恐ろしいと思っている相手。だからこそ利用価値がある。
「それで、できるの、できないの?」
「……成果を上げな。まずはテスト問題を手に入れろ。そうすれば俺が鈴音を消してやる」
「邪悪な笑みだね……いいね、及第点くらいはあげる」
軽くジャブを打ってから私は龍園との密会を終える。そして向かうのは屋上だ。
ペーパーシャッフルが始まってすぐに本剛君は自分一人でテストを作ると言って、クラスメイトたちにはいつも通り勉強するようにと命じた。それに疑問を挟むことなくテキパキと動き出す私たちはもう軍隊みたいな連帯感があった。
けれどそれはまずい。テスト問題を手に入れて情報を流さないと龍園の協力を得られない。あの人が支配するこのクラスは山内君くらいしか隙がない状態だけれど、彼を味方につけた所でお茶汲みにすら使えないから、やっぱり龍園君の協力が不可欠だ。
私の中にある冷静な部分が「過去を知る相手を消す為に新しい弱みを作ってどうするの?」と囁いているけれど、今更もう引く気はない。
軽率だと理解しているのにそれでもなお馬鹿な真似をしているんだから、本当に笑えないなぁ。
「あ、本剛君、ここにいたんだ?」
まるで偶然であることを装うかのように私はそう言った。場所は学校の屋上、そこにあるベンチに座って偉そうに足を組みながらも、微風に髪を揺らす姿はどこか女子をうっとりさせる色気があるようにも思えた。
そんなところもちょっと怖い。才能も実力もその他の魅力も、あらゆるものが天元突破している彼が、私は凄く怖い。
観察して、その人を知ることに長けているが故に、入学初日に本剛君を見て……衝撃のあまり吐きそうになったことをよく覚えている。
例えるなら巨大な怪物、底の見えない水面、終わりの見えない落下。それが私から見た本剛君の評価と印象であり、それが間違いでないことはこれまでの活躍でよくわかった。
「櫛田か、何用だ?」
「何か用がある訳じゃないんだよ。なんとなく屋上に来たら本剛君がいたから声をかけたんだ」
するとベンチに座った状態で手元にあるノートにテスト問題を書き記していた本剛君は視線をこちらに向けて来る。
こちらの何もかもを見通すその瞳は、恐ろしいとも美しいとも思えてしまう。
「嘘だな」
「……え?」
「何となく屋上に来たという言葉は嘘だ。お前は明確な目的をもってここに来た……もう一度訊こうか、どういった用件だ?」
「……えっと」
とりあえず私は彼が腰かけているベンチに同じように座った。私ほどの美少女がそうすると普通の男子は照れたり期待したりするのだけれど、急接近しても彼は一切乱れない。
寧ろ「女が俺の隣に座りたがるのなんて自然なことだろう、驚くことでもない」とか言い出しそうである……ムカつくなこいつ。
「実はね、私心配になっちゃって……ほら、本剛君っていつも凄くクラスのことで頑張ってくれてるでしょ? その内、過労死しちゃうよ」
「ほう、気遣い感謝と言いたいところだが、それも嘘だな」
「……」
「上辺だけの言葉など不要だ。俺は全てを見ることができるし、それ故に全ての結論を瞬時に出せる。つまらない駆け引きなんて必要はない。もう一度訊くが、何の用だ?」
「……」
私が持っている経験や能力が一切通じない怪物、心に入り込める隙間が欠片も存在しない。信頼されて秘密を手に入れてその人の理想として振る舞うこともこれではできない。
「ふむ、龍園の奴が好んで使っているオーデコロンの匂いがするな。お前はここに来る前に奴と接触していた。違うか?」
「……ぁ」
いや、匂いって、犬じゃないんだから。
「つまりお前は龍園と何かを話して、明確な目的があってここに来た。そうだろう?」
「え、えっと、誤解してるみたいだけど、たまたますれ違っただけでね」
「言い訳は不要だ、別に責めはしない」
「……え?」
この人と話していると調子が崩れるのは多くの人に共通する認識なんじゃないかな。
「お前の執着や恐れや、そこから発生する軽率な行動の全てを俺は許す。もう勝てません、好きにしてくださいと泣き叫びながら白旗を上げるまでやりたい放題しろ。どうせ無駄だからな」
こちらの全てを見通す瞳が私を射抜く。未来さえ見えているんじゃないかと思えるほどに恐ろしいそれを向けられると心臓が跳ねるような気がした。
「俺からお前に言えることはただ一つ、気の済むまでやれ、だ。そしてその先で納得したら、また何かが見えて来るだろう」
偉そうに何を……あぁ、だけど、この人が言うと何故か傲慢な言い方も納得できてしまう。
「存外、俺はお前を評価しているんだぞ……まったく、ほとほと迷惑をかけてくる連中だ。だが、全てを許す。もう行け、ここにお前ができることは何もない」
「あ、あはは……そっか」
その瞳がちょっと怖かったので私は逃げるようにベンチから立ち上がって屋上を去ることにした。
「忘れるな櫛田、未来とは後ろには決して存在しない。さっさと鎖を引きちぎれ」
「……ねぇ本剛君、本当に評価してくれてるの?」
「あぁ、その言葉を拠り所にして思うままにしろ。そして全てが終わったら俺に憧れてしまえばいい」
なんだコイツは、どこまでナルシストなんだと思ったけれど、思うままにしろという言葉に何故か心が軽くなった気になっていることにこの時は気が付いていなかった。