よう実RTA 決闘者チャート 作:KKKK
綾小路SIDE
「フッ、お前も随分と良い趣味をしているようだな」
本剛がこの現状を見て皮肉気な笑みを浮かべながらそう言った。
「軽井沢が抱えているトラウマはそう易々と粉砕はできないものだ。悪いが時間は有限だからな、荒療治も必要だ……オレを批判するか?」
「いいや、俺は王者ではあるがお前たちの父親ではない。愛でることも慈しむこともするが、それだけで終わらせるつもりもないのでな。麦が踏まれて強くなるように、北風も時には必要だろう」
本剛は屋上に続く扉の隙間から、今あちらで起こっている状況を眺めながらそんな結論を出す。なんだかんだ言いながらもクラスメイトの世話をしていた男だが、そこは平田のように病的なまでに平和なクラスを求めている訳ではないらしい。
「踏まれて強くなればいい。美しさとは、気高さとは、その先にあるものなのだからな」
相変わらずな物言いであるがオレもそれに関しては同意できるところがある。おそらく龍園にバケツに入った水をかけられて凍えている軽井沢を眺めているオレたちは外道と言われるのだろうが、まぁ今更か。
「意外に軽井沢を評価しているんだな」
「見込みはある、十分過ぎる程にな。それは軽井沢に限らずクラスの連中にも言えることだ。可能性があるのだから愛でるには十分だろう。有象無象の枝葉ならばさっさと間引くだけだがな」
「そうか」
本剛なりの考えや方針があるのはわかった。よくわからないけど凄い奴という評価が基本になっている男だが、実際にその根底にあるのは実はシンプルなのかもしれないな。
「私にだって、カッコつけたいことくらいあるッ!!」
龍園の過酷な責め苦に晒されながらも軽井沢はそう吠えた。過去の虐めやそれによって刻まれたトラウマ、隠しておきたかった弱い自分を捻じ伏せるかのように。
人を育てるか……思っていた以上に面白いのかもしれないな。
「良い、それで良い」
鎖の千切れる音が聞こえた。それを確認できたのならば言うべきことはもう何もない。本剛は満足したかのように頷くと、踵を返して屋上に繋がる踊り場から去っていこうとするのだった。
「手伝ってくれないのか?」
「お前が一人いればあの程度の輩を処理するなど容易いだろう。俺は忙しいのでな」
「オレは自慢じゃないが喧嘩は弱いんだが」
「戯け」
短くそれだけ言い残すと、階段の踊り場で倒れ伏していた山田アルベルトを跨いで階段を下りていく……どうやら本当に手伝うつもりはないらしいな。
仕方がないか、アイツはこちらの本質や素を看破しているようだし、変に取り繕った所で「戯け」の一言で今後も済まされてしまうだろう。
本剛と言う男はそういう相手だ、一目見ただけで大抵のことを見抜く。ホワイトルームにはいなかった存在なのでやはり興味深くはあるな。
あの場所にいなかった存在を、あの場所では育てることができなかった才能を、数字を神として扱っていたあの空間では決して作れない存在、それが本剛だと思っている。あのままあの場所にいたら決して知ることのできなかった出会いでもあるんだろう。
この学校に来れて良かった。素直にそう思ったオレは屋上に続く扉を開いて軽井沢の救出に向かうのだった。
数字を神としているホワイトルームでは、本剛のように数字を超越している存在は生まれない。そんな確信が得られただけでも意義があるんだろう。
坂柳SIDE
月初めになったことでポイントが入り、私は今日こそはと意気込んで決闘部の扉を開く。するとそこには既に先客がいて勝負事の準備が進められていました。
あれは三年の猪狩先輩ですね。よく決闘部を訪れては負け帰っている負け犬と噂されています。
猪狩先輩と本剛君は机の上にノートの切れ端を大量に作っており、その内の一つに〇印を付けました。
「では最終確認だ。このクジたちを箱にいれて、最初に〇印が書かれたクジを引いた方が勝利だ。問題ないな?」
「えぇ、それで構わないわよ」
お互いの認識が一致した所で、机の上にあったノートの切れ端で作ったクジは空のティッシュ箱の中に入れられていきます。当然ながら当たりのクジも入れられました。
「先攻後攻はコイントスだったな、そちらでやってくれ」
次に猪狩先輩は指でコインを弾きます。そしてその時点で勝負が本剛君の勝利で確定していることに気が付いてはいないのでしょうね。
「裏」
彼の瞳が空中で回転しながら落下してくるコインを見つめています。鋭い観察眼と動体視力でコインがどちらを向くかを把握した彼は静かにそう言いました……そして実際にコインは裏でしたね。
「では俺から引かせてもらおう」
先攻の権利を得た本剛君はティッシュ箱に手を突っ込み中をゴソゴソと確かめてから一枚のクジを引いてそれを開くと、そこには〇印が書かれていました。
「な、なんで……」
「浅知恵だな、お前が持ち込んだこの箱に事前に当たりクジを忍ばせていたわけだ。その程度のことも見破れない間抜けだと思われていたのか俺は。ご丁寧に箱の折り畳み部分に引っかけておいてくれたので見つけやすかったぞ。これならまだ純粋な運勝負の方が勝機はあっただろうに」
「……」
浅い企みをあっさりと見破られて逆にそれを利用されて一発で当たりクジを引かれてしまった猪狩先輩は、悔しそうに表情を歪めながらポイントを支払って決闘部を去っていきます。
「次は坂柳か、またチェスで勝負か?」
「ええ、勿論」
「お前も懲りない女だな」
「随分と余裕ですね、私がこれまでただ敗北を繰り返してきただけだと考えていると痛い目にあいますよ」
「ほぅ」
そこで私は敢えて不敵な笑みを浮かべる。そうやって余裕を演出することで心理的な圧力を高めていく。
「これまでの対局で貴方の戦略や呼吸は読み取れました……わかりますか? 既に貴方は丸裸だということを」
そうとも、これまでの敗北は楔を打ち込むようなもの。その心臓に手を届かせる為に階段を上がっていたにすぎなかったのですから。
「私は確信しています、もう貴方の心臓に触れられる位置にいると……いかに本剛君と言えど幾度かの敗北を覚悟してください」
「御託は良い、我こそはと証明してみせろ」
「えぇ、貴方に首輪をつけて犬にしてあげます……ふふふ、楽しみですね」
これまでの全てはこの瞬間の為にあったのです。
「さぁ、楽しいワルツを踊りましょうか」
軍資金は十分、もう幾度か打ち合えば彼の戦略も呼吸も全てを把握できる。そう、勝利はもう目の前――――。
「俺の勝ちだな」
はい、そう思っていた時期が私にもありました。
あれ、おかしいですね。そろそろ勝てる筈なのに、何故か私は十連敗して軍資金の全てを吹き飛ばしていました。
「な、何故、ありえない……貴方の戦略も、呼吸も、好んで使う手も把握できていたのに」
「何故も何もあるものか。戦略も呼吸も手の内も、その場その場でアドリブを利かせるものだ。ジャンケンで毎回同じ手を出す者などいないのだからな。俺に追いついた気になっていたようだが、そんなものはダイスの一面に過ぎん」
「……」
至高の一手、神が宿った一手、まるで数億通りの対局を吸収させたAIのように一切の無駄がない戦略性……どうやら私は彼に追いついたと思っていただけの道化であったようですね。
「も、もう一度……もう一度だけ、対局してください」
「挑戦料はあるのか? お前はもう100万ポイントは落としているぞ」
ボードゲーム部から奪った軍資金はもう無くなってしまってますね。残高を端末で確認してみると残りは7万ポイントほど、最近は無料商品が充実してきたこともあり、節約すれば来月のポイント振り込み日に回せて挑戦料にできる筈……しかし私は今、戦わなければならないのです。
ま、真澄さんは、真澄さんはどこに? いえ、ここは橋本君に、或いは鬼頭君……いや、ダメですね、貸してくれるとは思えません。
「うッ……くッ……何故、何故勝てないのでしょうか……こんなことでは、天才の証明など、あの場所の否定も、彼の孤独を拭うことも、父に笑ってもらうことも……うぁぁぁ」
目尻が熱くなる、無力な自分が嫌になってくる。私らしくないと思いながらもここまで完封されてしまうと心が折れそうになってしまった。
笑えて来ますよね、何が楽しいワルツを踊りましょうなんでしょうか。馬鹿みたいな発言をした過去の自分を殺してしまいたい。
「そ、そうだ、これならば」
私は愛用している帽子に付いているブローチを取り外す。
「こ、これで何とかもう一局……母が祖母から貰った家宝だそうでして、質に入れれば相応の値段になるかと……う、うぅ」
大丈夫、これは一時的なものでしかない。勝って取り返せばいいのです。
「戯け、そんなものを戦利品として奪った所でこちらの縁起が悪くなるだけであろうがッ!! 後生大事にしてお前の娘にでもくれてやれ!! そんなもので釣られるほど愚かではない」
「……では体を要求すると?」
「もう少し良い女になってから賭けの対象にしろ」
そう言い放ってから本剛君は眉間に寄った皺を揉み解すように指で摘まんでから、それはもう大きな溜息を吐くのだった。
そして彼は机の上に置いてあったチェス盤をどけると、代わりに決闘部の部室に置いてあった将棋盤や囲碁盤、その他色々な遊戯盤を置いていきました。
「ルールはわかるな? それぞれ同時に進めていくぞ」
「何をするつもりですか?」
「チェスだけに拘る必要はないということだ。将棋もオセロも囲碁もただの駒遊びでしかないが物事の初歩としてはよくできているので、異なる方向に思考を広げられるものではあるんだ、試しにやってみればいい。等しく長じればチェスにも応用ができる筈だ……武芸百般、とは異なるが、なんにでも手を出して学びに変えていくべきだろう」
「でも、挑戦料がないんです」
「これは遊戯だ、勝負でもなければ決闘でもない。ただの戯れにそんなものは要求せん」
「……う、うぅ」
私は今、人の温もりと配慮がこれまでの人生で一番感じ取れています。ありがとう真澄さん、いつも迷惑をかけているんですね私は。
「はぁ……ほら、やるぞ」
色々な遊戯を同時に進めていく。全て同時進行なのでこれはこれで大変ですね。
「そもそもお前はよく決闘部を訪れるが、クラスの運営は良いのか? 葛城を追いやったのだろう?」
「問題はありませんよ」
「俺に勝てばそれで全て解決するから、か?」
「えぇ、自主特別試験によって学校が主催する特別試験にだけ勝てばいいとは限らなくなりましたからね。重要なのは寧ろいつどのタイミングで貴方に勝利するかです。現時点でのクラスポイントの差など、気にしても意味はありませんしね」
「だが、クラスの連中は不安に思っているだろうに。龍園クラスの瞬発力を見れば尚更な」
「えぇ、しかしそれも織り込み済みですよ。今は浮いた駒がないので静観していますが、いよいよ逆転が難しくなった三年Bクラスや、一人が陥落するだけで容易に崩れる二年生全体など、取るべき場所はしっかりと理解していますから」
「そうか、ならばいい」
「おや、諦めたと言った方が貴方にとって都合が良いのでは?」
「バカを言え、諦観した者よりもしっかり挑んで来る者の方が美しい……そういう意味では、お前のこともしっかり評価している」
「ふふふ、お上手ですね」
既に特別試験にどう勝つかはそこまで重要ではなくなっている。私たちが自主特別試験でクラスポイントの変動を好きなタイミングでできる以上は、今は力を蓄えるターンなのでしょうね。
おそらく龍園君も同じことを考えているでしょうね。浮いた駒を食らいながら地力を上げて来る決戦に挑む。そういう状態なのですから。
そう、今は力を蓄えて楔を打ち込むことが重要。どうせ彼は逃げも隠れもしないのですからね。
だから今日もまた私は挑むことになる。いずれ彼を下すその時まで続くのでしょう。
南雲SIDE
「帆波、俺はお前に期待しているんだぜ?」
「えっと……はい」
放課後の生徒会室に俺と一之瀬帆波だけが残っている。他の奴らは一足早く帰らせた。大切な話があるからな。
「聞いたぜ、龍園クラスに抜かれてDクラスに転落したってな」
「それは……でも」
「だからこそお前の為を思っての提案だったんだがな」
「それでも私は……」
「お前の? 俺は今、お前だけじゃなくてそっちのクラス全体の話をしているんだがな」
今現在、一年生のクラスポイントは本剛クラスが1789ポイント。次に坂柳クラスが886ポイント。龍園クラスが842ポイント、そして帆波のクラスが674ポイント、既にトップとは1000以上の差が付いている。
本剛が自主特別試験という価値観を広げたせいで龍園はもう学校の特別試験で勝つだけでは意味がないと判断してすぐさま三年Cクラスを飲み込み、坂柳クラスは総合力の高さから余裕があるのかまだ静観しているようだが、帆波のクラスだけはどこか浮足立って落ち着かない状態らしいな。
それもそうだろう。クラス闘争の形がガラッと変わった上に、本剛と龍園の瞬発力を見せつけられて置いてけぼりにされたんだ。落ち着ける筈もないだろ。
或いは帆波にもここぞで動けるだけの決断力があればよかったのだが、他者を食らい尽くすことに長けていないのは見ればわかる。
だからこその提案だ。俺が帆波のクラスを助けてやるというお得な話をしている訳だな。
「わかるだろ帆波、このまま本剛の独走を許せばお前たちのクラスは絶対に勝てなくなる。勝つにはアイツを倒してポイントを奪い去るしかないってことが……それともなんだ、もしかして同情しているのか?」
「はい、実は体育祭で助けて貰った恩があって……だから、協力はできません。ごめんなさい」
「そうか……それはつまり帆波はクラスメイトたちがAクラスで卒業できなくても良いってことだよな」
「そ、そういう訳では……でも、やっぱり無理です。なにより私のクラスの子たちはこう言ったことに手を貸してくれません。皆、良い子だから」
「俺はそうは思わないがな。きっと内心では不安に思っているだろう、このままで良いのかってな」
「……」
暗い顔で視線を下げる帆波……いいな、そういう顔もそそるぜ。
暫く帆波の顔を眺めて楽しんでいると、生徒会室の扉を叩く音が響く。廊下から姿を現したのは帆波のクラスメイトである神崎であった。
「か、神崎君? どうしたの、生徒会室に来るなんて」
「南雲生徒会長と打ち合わせだ」
「え、ど、どういう……南雲先輩、どういうことですか?」
「言っただろ、お前のクラスメイトは不安に思っているってな」
困惑している帆波を横目に俺は神崎を真っすぐ見つめる……悪くないな、この雰囲気、どこか桐山を思わせる。つまり駒として扱いやすいほどほどに優秀な奴ってことになる。
「一之瀬、俺は生徒会長の提案に乗ろうと思っている」
「神崎くん!?」
「このままあの男の好きにさせていると、絶対に俺たちのクラスは勝てなくなるだろう。どこかで一度フラットな状態にすべきだ」
「でも、体育祭では助けてくれたんだよ?」
「だとしても無人島では裏切ってきただろう。貸し借りは無しと考えるべきだ」
「良い覚悟だぜ神崎、そうでなくちゃな」
現状のクラス間闘争を本剛が支配しているという焦り、自分たちのクラスがあっさりとDに転落した不安、なんとしてでもAクラスで卒業したいという欲望、こういう中途半端に優秀な奴ほど扱いやすい。まさに桐山枠だな。
「生徒会長、俺たちが貴方に協力すれば今後のクラス闘争で援護してくれて、そして本剛との戦いで得たポイントの半分を提供してくれる。そうですよね?」
「勿論だ。俺はこの学園の王だぜ? 俺に付き従う奴には相応の飴をくれてやるさ」
「待って神崎君ッ!? こんなのおかしいよ」
「止めてやるなよ帆波、男が覚悟を決めてるんだぜ?」
「覚悟って……」
「すまない一之瀬、俺は現状に強い危機感を覚えているんだ。誰かがアイツを止めなければならない……そして、現状に甘んじる訳にもいかないんだ」
「……私が、情けない、から?」
「そうじゃない……お前はお前のままでいい。だが、それだけでは駄目だと生徒会長が教えてくれたんだ。俺が、お前にできないことをすればいいとな」
「……南雲先輩」
帆波にしては珍しく俺を鋭く睨んでくるな。そんな顔を捻じ伏せて屈服させるのも悪くないと思う。まぁ、いずれの話だがな。
「俺だけでなく、クラスの何人かも同じ意見だ」
「南雲先輩ッ、皆に何を吹き込んだんですか!?」
今度は怒気が混ざったか、そこまで責められることをした覚えもないんだがな。
「ごく当たり前のことしか言ってないぜ。クラスの現状を帆波が悩んでる、俺ならクラスを支援してやれる、そんな話だ」
「そうだな、そして俺はそれに納得した」
「神崎を責めてやるな、クラスを思ってのことなんだよ。さて、契約書を作ろうか、さっき言った条件でな」
「えぇ、わかりました」
「いいか帆波、これはクラスの為なんだよ。お前はリーダーとしてクラスを勝たせる義務がある、その筈だ。その為には本剛からポイントを奪って黙らせるしかない」
「……」
俺は暗い顔をしている帆波の隣に座りなおして、その肩に手を置いて髪を撫でた。
「それともこう言おうか……協力できなければお前の過去をうっかりばらしてしまうかもってな」
小声でそう囁くと帆波はビクッと体を震わせたので、そんな様子に俺は股間が熱くなる感覚を覚える。帆波のクラスを支配すればコイツの身も心も俺の物になるってことだ。
黙り込んでしまった帆波を愛でながら、俺は生意気な一年生の顔を思い出す。
体育祭、最後のリレー、本剛は敢えてリードを捨てて「負けた時の言い訳が欲しいなら先に走ってやろうか」と言ってきやがった。その時は面白い奴だと思ったが結果は俺の完敗だったな。
認めてやるよ、アイツは学力も運動も極めて高い。だが俺の本領は策略と支配だってことに気が付いてはいない筈だ。
アイツを倒して平伏させる瞬間を思い浮かべるとまた股間が熱くなった。俺はこういう戦いを求めていたんだとよくわかる。
待っていろ本剛、本物の強者って奴は戦う前から勝利を確定させる者のことだってこの俺が教えてやるよ。