よう実RTA 決闘者チャート   作:KKKK

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 綾小路SIDE

 

 

 

 

 

「なぁ綾小路、名前を貸してくれないか?」

 

「……うん? どういうことだ?」

 

 ある日のお昼休み、オレの前の席に座っていたクラスメイトの本剛防人がそんなことを言ってきた。

 

「実は新しく部活動を設立したくてな、だがそれには複数名の生徒が所属していなければならないんだ」

 

「それでオレを勧誘しているということか」

 

「いや、名前だけ貸して欲しいんだ。別に部活に参加する必要はないしこちらからは何も縛りはしない。幽霊部員という奴だな」

 

 新しい部活を作るというのに活動自体は一人でやるということだろうか。本剛が何をしたいのかわからないが、一人だけで完結する部活ということなのかもしれない。

 

 オレもこの学校に入学して半月ほど、一般的な高校生という存在がまだハッキリと学習できていない段階だが、部活動に参加することはとても普通のことなんだろう。

 

 こういう部活への勧誘も高校生らしさを学習できるので悪くはないが、最初から幽霊部員を求めるのはどうなんだろうか。

 

「そもそもどんな部活なんだ、お前が作ろうとしているのは」

 

「そうだな……高校生活を通じて必要な技能や意思を育てて学術的思考と戦略的思考を培う為の生徒間による研究会だ」

 

 うさんくさいと思ったのはオレだけじゃない筈だ。隣の席の堀北も胡乱な視線を寄こしているのでこれは一般的な高校生の感覚と違いはないのだろう。

 

「難しいか?」

 

「そうだな、名前だけといってもちょっとな」

 

「むッ、そうか……では堀北はどうだ? 名前を貸してくれるだけで良いんだが」

 

「ふざけないで、どうして私が貴方に名前を貸さなくてはならないのよ」

 

 黒髪の隣人は今日も相変わらずナイフのような鋭さを纏って他者を遠ざけているようだな。オレも普通とは言えないがこいつはこいつで特殊な人間なんだろうということはこの半月でよくわかった。

 

「難しいか」

 

 そんな本剛の言葉に返答もないまま、堀北は昼食のサンドイッチを咀嚼する。もう話しかけてくるなというオーラを全開にしながら。

 

 仕方がないとばかりに本剛の視線がこちらに戻って来る。

 

「では報酬を用意しよう。名前を貸してくれれば一万ポイントをそちらに支払う」

 

「悪い話ではないな」

 

「そうだろう。どうせ来月に支給されるポイントは減るのは確実なんだ、一万ポイントでも得たいと思うのは自然なことだとも」

 

「ポイントか……お前は本当にそうなると思っているんだな」

 

「勿論、この学校に散りばめられた様々な情報がそうなると示しているし、先輩方から得た情報からもそれは自然な流れだからな」

 

 まぁ言わんとしていることはわかる。この学校はそこまで甘い所でもないということは察するには十分だ。

 

 だからといって事なかれ主義のオレが何をする訳でもないのだが……まぁ大きな縛りがあることもないんだから、名前を貸して幽霊部員になることくらいはいいか。

 

 報酬も用意してくれることだしな、それにこいつがやろうとしていることにも少し興味がある。入学してからずっと色々な部活動に顔を出して道場破り的なことをしている奴なんだ。興味深くはあった。

 

「おっと、そろそろ昼休みが終わるな。綾小路、そういう訳だから後で名前だけ貸してくれ」

 

「わかった、悪用だけはしてくれるなよ」

 

「部活動の申請用紙に名前を書くだけに悪用も何もなかろう、安心してくれ」

 

 午後の授業が始まる鐘が校舎に鳴り響く、それと同時にDクラスの生徒たちはそれぞれ席に着いて授業の準備を始めるのだった。

 

 そう、誰もがとても静かに授業を受けることになる。入学してから一週間ほどで学級崩壊さながら荒れていたクラスだが、今は真面目に授業をうけているのだ。

 

 それもこれも本剛が不真面目な者たちを中心にアルバイトとして雇ったからである。

 

 本剛が言うには、とりあえず報酬を用意して黙らすとのことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 茶柱SIDE

 

 

 

 

 

 

 今年のDクラスは逸材が集まったと内心では思っている。下剋上を期待してしまうくらいには期待を寄せられる程度にはだ。

 

 我ながら歪んだ執着心だなと呆れてしまうが、もう自力では抜け出せないと自分でもわかっているので、私とはなんの関係もない世代につい期待してしまうのだろう。

 

 教師ではなく、あの日の自分に絡めとられたままここに執着しているのが良い証拠だ。教師としての資格などないと言われればそれまでかもしれない。

 

 だが、重要なことだ。きっとAクラスでの卒業は私の根幹にあるものなのだから。

 

 どうせ無理だろうと思いながらも、つい期待してしまうくらいには今年のDクラスには戦力が揃っている。

 

 今、私の目の前にいるのもその一人だった。

 

「部活動の申請用紙だ、受理をしてくれ」

 

「……」

 

 本剛防人。おそらく個人としてはこれ以上の存在は今後現れないと学校側から評価されておきながら、中学時代に色々とやらかした結果Dクラスに配属になったこの生徒は、入学して二週間ほどしてから職員室にやって来て私の申請用紙を突きつける。

 

「決闘部? どういう部活なのかよくわからないな」

 

「生徒たちによる研究会だ。戦略的思考や学術的思考を培う交流の場である」

 

「そうか……それで、本音はなんだ?」

 

「本音もなにもない、裏もない、そのままの意味でしかないんだが」

 

 何かを隠すでもなく、悪ぶるでもなく、さも当然とばかりにそういう本剛は押し付けるように私に申請用紙を向けて来る。

 

「まぁ待て本剛、お前は入学してから色々な部活に顔をだして道場破りまがいのことをしているらしいな」

 

「そんなことはしてないぞ、ただポイントを賭けて交流しているだけだ。現金でのやり取りではないので博打行為には当たらない筈だ。交流会に参加した者も納得してポイントをやり取りしている。道場破りでもなければ博打でもない、アレはただの交流会だ」

 

「言いたいことはわかるし、実際にその通りではあるが……お前の中学時代のあれやこれやを知る身としては懸念がある」

 

「ふむ…。やれやれ、我儘なことだ」

 

 何故、私が聞き分けの無い子供のような扱いを受けているんだろうか。

 

「では交渉といこうか。こちらの部活動を支援してくれるのならば、そちらの願いも叶えようじゃないか」

 

「ほう、大きく出たな。お前に私の何がわかる」

 

「さてな、そちらのことなんて実を言えば大して興味も無い。だが俺の提案を蹴り返すのではなく探るような反応を見せた時点で交渉は成立したも同然だろう」

 

「……」

 

 視線が部活動の申請用紙に移ろう。そこには顧問の名前だけが欠けているのがわかった。

 

「……五月までに成果を残せ、それができたら顧問になろう」

 

「よしきた、その言葉を忘れるな」

 

 できるだろうか。毎年毎年この時期のDクラスは基本的に学級崩壊に近い状況になるのでクラスポイントを大きく減らしてしまうのだが。

 

 教師は学校の仕組みを説明する五月一日までの間は干渉できない決まりとなっているのだが、生徒が自主的に行動するのならば何も問題はない。

 

 どうなるにせよ今後の試金石にはなるだろう。本剛という生徒を測る機会にもなる筈だ。

 

 その翌日、Dクラスの生徒は昨日までの授業態度が嘘であったかのように真面目になったことで、私は少し不気味な気分になってしまうのだった。

 

 

 一体何をしたのだと不審に思っていると、本剛がやったことはとても単純でポイントによる買収である。

 

 授業を真面目に受けなかった生徒を中心にポイントで買収することによって授業態度を改めさせたということだろう。

 

 二年先の卒業や就職や進学に向けて真面目に勉強しろと言って頑張れるような生徒は基本的にAクラスやBクラスにしかいないが、一カ月先の小遣いを増やす為に勉強できる生徒はDクラスにも多いということなのかもしれない。

 

 なんであれ例年通りのDクラスではないということなので、私としても期待の方が大きい。

 

 後は綾小路や堀北などの生徒を上手く動かせれば……いや、まだ様子を見るべきか。

 

 

 

 翌月、つまり五月一日になり、Dクラスは510ポイントを残すことに成功して、ここ数年では最高の滑り出しとなったことになる。

 

 これならばと堀北や綾小路を上手く操作してより戦力を増やそうと考えるよりも早く、本剛は部活申請書を再び私に突き出してきた。

 

「よし、顧問になってくれ」

 

「……いいだろう」

 

 成果を出したのは間違いないので否とは言わないが、部活の顧問になる程度のことで本剛を戦力化できるのならば安いものだろう。

 

「一応、最終確認をしておくが、この部活の活動内容はここに書かれている通りなんだな?」

 

「勿論だ。戦略的、学術的思考を培う生徒間の研究会であり、それ以上も以下もないぞ」

 

「……」

 

 まぁ良いだろう。懸念もあるが様子見といこうか。

 

「あぁ、それと質問があるのだが、校内放送をする権利はポイントで購入できるか?」

 

「できなくはないが、何をするつもりだ。公序良俗に反する発言は認められない」

 

「ただの宣伝だ。新しい部活動のな……言語化が難しいんだが、それでも敢えて言うのならばキングの戦いはエンターテイメントでなければならないらしいぞ」

 

 

 そういって本剛は学校側にポイントを払って校内放送をする権利を購入するとこう宣伝することになる。

 

 

 自分に勝てば大量のプライベートポイントを得られるという宣伝であり、挑発を行った本剛は、どこか機嫌よさそうにしながら鼻歌を奏でていく。

 

 全校生徒に喧嘩を売ったにも拘わらず、その危機的状況を自覚しているのかわからないな。こいつはもしかしたら大馬鹿なのだろうか、それとも大物なのだろうか。

 

 どちらかわからないが、もう賽は投げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 堀北SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 屈辱的なクラス分けの内容と、この学校のシステムが明かされた五月一日、私たちのクラスは510ポイントを確保することができたけれど納得することはできない。

 

 茶柱先生が言うにはDクラスに配属された生徒は最底辺の評価を学校側から与えられた生徒であるらしい。そんなことを言われて受け入れられる筈もなく私はすぐさま抗議に向かったのだけれど受け入れられることはなかった。

 

 挙句の果てに、その抗議の現場を茶柱先生は同じクラスの綾小路君と本剛君に盗み聞きさせるという意味不明なことまでさせている。

 

 抗議は無駄とわかった。何を言った所で結論が覆らないのならば、実力を示して正せばいい。

 

 幸いにも使えそうな駒が存在している。茶柱先生が私の抗議を盗み聞きさせた理由はきっと彼らを上手く使えということなのでしょうね。

 

 綾小路君は……わざわざテストを50点で揃えたりとよくわからない所があるけれど、本剛君に関してはある程度は使えるかもしれないわね。

 

 水泳の授業では難なく一位を取っていたし、入学してからここまで何やら色々な部活動に乗り込んでは荒稼ぎをしているという噂はもう学年中で囁かれているものなので、実力と行動力はあるんでしょう。

 

 なので私はまずこの二人を戦力とする為に利用することにした。お昼休みになると同時に強引に昼食に誘って罠を張る。

 

「今日は私がごちそうするわ」

 

「……」

 

「綾小路君その顔は何かしら? 遠慮する必要はないのよ」

 

「そうか……では遠慮はしないでおこう」

 

 彼はどこか警戒しながらもスペシャル定食の食券を購入する。

 

「本剛君、貴方も遠慮しないで注文しなさい」

 

「いや、不要だ。遠回りなことをせず本題に入ってくれ」

 

 どうやら彼は勘が鋭いらしい。

 

「そう……まぁ良いでしょう、貴方たちに協力をお願いしたいのよ」

 

「オレにできることは何もないぞ」

 

「そのスペシャル定食、美味しそうね。誰が奢ったのかしら」

 

 綾小路君の視線が自分が食べている定食に向けられる。もう席に着いて口にしてしまったそれを。

 

「嵌めたな」

 

「ひねくれ者の貴方を引っ張り出す為よ」

 

 彼はこれでいい、実力は不透明だけどいないよりはマシでしょうから。

 

 本命は本剛君、彼は無料の山菜定食を食べながら何やら考え込んでいる。どうせポイントをいかに稼ぐかを考えているのだろう。

 

「本剛君も当然手伝ってくれるわね?」

 

「部活動が忙しいんだ、放課後になると色々な相手が顔を出すのでな」

 

 そう言えば彼は決闘部なる意味不明な部活を作っていたわね。自分に勝てば大量のポイントを得られるとわざわざ校内放送で宣伝したのは流石に呆れたことを思い出す。

 

 この様子だと驚くことに繁盛しているらしい。ポイントを使ったギャンブルにも等しい行為だけれど学校側は何も言わないのね。

 

「挑戦料は一回十万ポイントだったかしら?」

 

「いや時価だが……まぁ基本はそれくらいだ。相手が出した額の十倍を俺が出す条件だな」

 

 そう考えると挑戦者側の方がレートは有利に思える。ポイント目当ての相手が次々と訪れるのだろう。勝てれば大金が手に入るのだから。

 

「そんな不利な条件で人を集めても、負ければ大損ね。そんなことをするくらいなら真面目にクラスに貢献してクラスポイントを高めるべきね」

 

「うん? 俺は十分クラスに貢献してるだろう。この一か月間、ただ寝てただけじゃないぞ。池や山内や須藤に授業態度を改めさせる為に買収して、クラスの治安を改善した」

 

 確かにそれはそうだ。おかげでクラスポイントは500以上を残せた。もしそれが無ければきっともっと減っていたのは間違いない。

 

「十分な貢献だ、そしてクラスメイトたちも今となっては十分な危機感を持っているからもう学級崩壊するようなことはないだろう……ならば俺は、プライベートポイントを稼ぎたい」

 

 私と綾小路君の探るような視線が本剛君に集中する。そんな視線を気にすることなく彼は山菜定食を口にしていく。

 

「だが、そうだな、お前が俺を雇うと言うならば前向きに検討するぞ。今後お前が入手するポイントの半分をこちらに提供するのならばな」

 

「バカを言わないで、何故私がそんなことをしなければならないのよ」

 

「そうか、良い提案だと思うんだが、収入の半分で戦力を増やせるんだからな。それだけの価値があるだろう」

 

「だからポイントを寄こせと? 随分と自分を高く見積もっているようね、傲慢よ」

 

「純粋な戦力評価だ、俺は俺を正しく評価している。半額でも譲歩したくらいだ……まぁ嫌ならばいい、気が変わったら声をかけろ、それか綾小路を使い倒せばいい。こいつはタダ働きも喜んでしてくれるそうだからな」

 

「オイ」

 

 綾小路君の抗議を無視して本剛君は山菜定食を食べ終えてしまう。このままでは席を立たれてしまうわね、それは避けないと。

 

「ポイントばかり集めて、まるで金の亡者ね、恥ずかしいと思わないの?」

 

「それは違うぞ」

 

 席を立とうとした彼はこちらの挑発に反論してくる。これでまだ交渉の時間は稼げたかと思ったけれど、力強い視線を向けられてこちらは瞠目してしまう。

 

「確かに俺はポイントを……金を稼ぐことに全力を出しているが、それは別に私腹を肥やしたいからではない」

 

「どういうことかしら」

 

「金なんてものは結局は便利な道具でしかない。人を束ね、意思を束ね、前に進む為の道具だ。金の亡者と言われてしまえばその通りだし、別にそう思われることは構わないが、欲しいのはその便利な道具で得られる未来の方だ」

 

 力強い視線に思わず私と綾小路君は黙ってしまう。

 

「金が全てとは言わないが、金があれば大抵の融通は利かせられる。親のいない子供にまともな飯と教育を与えられて、難病の患者にまともな医療を施せる。観たいと思った映画も作れるし、やりたいと思った事業にも手が付けられる」

 

 彼は瞼を閉じて何かを夢想する。そして頬を僅かに緩めてこう言うのだった。

 

「だから俺は金を稼ぐのさ。便利な道具で未来を切り開く為にな……稼ぐということは、つまりそういうことだろう?」

 

 そう言って本剛君は柔らかな笑みと共に腰かけていた食堂の椅子から立ち上がる。

 

「気が変わったら声をかけろ。俺は間違いなく金の亡者だが、見ているのはいつだってその先にあるものだからな。ポイントをチラつかせればホイホイついていくぞ」

 

 どうやら一筋縄ではいかない相手であるらしい。まぁいいでしょう、彼がやっている決闘ごっこなんていつまでも続く筈もないんだから、暇になった時にでも拘束しましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

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