よう実RTA 作:KKKK
綾小路side
人は平等か否か、生まれや環境、血や財産、容姿や果ては生まれる時代まで、この世の中に存在するありとあらゆるものには格差が存在していると言う者もいれば、いや人は人でありそれ以上も以下もなく、すべては平等でありただ向かうゴールが異なるだけと主張する者もいるだろう。
当たり前のことではあるが結論など出るはずがない……あるいは、既に結論はでているが大多数の者はそれを見ないふりをしているだけなのかもしれない。
オレ自身はどうだろうか、あの白い部屋で育ち、そして今この高度育成高等学校へ通うオレであれば、客観的にあちらとこちらの差をより如実に実感できるのかもしれないな。
胸の奥にある言葉では表現できない何か、その答えはここにあるのだろうか?
まぁなんであれ、この学校での時間はある種のモラトリアムである。普通の生活というものを学ぶ良い機会になることだろう。
知識でしか知らず実感のない状態なのだ、まずは「普通」の高校生というものがどういうものなのかしっかり観察して自身に反映していくとしよう。
なんてことを思っていたのだが、普通に自己紹介で躓いてしまった。知識と実感が乖離している弊害がさっそく出てしまったらしい。
嘘だろ、まだ入学初日だぞ? だというのにクラス内では既に平田や櫛田といった生徒を中心にグループができ始めてしまっている。当然ながら自己紹介で躓いたオレはそこにはいない。
いや、焦るような時間ではないな。まだ入学初日だ。
「なにかしら、その目は?」
「いや、同じようにクラスに馴染めない相手がいると思うと妙に安心して」
「くだらない考えをしているわね、他人と馴れ合う必要を私は感じないだけよ」
見栄でも虚勢でもなく、本心からそう言ったのは隣の席の堀北鈴音というクラスメイトであった。放課後になり施設内にあるスーパーで偶々であったのだが。オレと同じように一人で行動しているのは、こいつも自己紹介でメイングループから零れ落ちたからだろうな。
心底くだらなさそうに小さく鼻を鳴らした堀北はオレにも興味がないとばかりにスーパーに入店していく……別には冷たくあしらわれて傷ついた訳じゃないぞ。
「……無料食品?」
「あぁ、ポイントを使いすぎた生徒への救済処置とかか?」
「毎月十万ポイントが貰えるのにそこまでする必要があるのかしら。だとしたら随分と生徒に甘い学校のようね」
「それはそうだな」
しかし棚に並んでいる品はオレには未知の物ばかりである。あの白い部屋ではついぞお目にかかれなかったカップラーメンもある。試しに買い物かごへそれを入れると堀北から馬鹿にしたような視線が向けられる。
「あさましいわね、ポイントがあるというのに」
「いや、興味があってな。お前も買ってみたらどうだ? ポイントはあるけど、節約ってやつは大事なんだろ?」
「そもそも――……」
何かを言おうとした堀北の言葉が突然途絶える。どうしたのかと視線を向けてみると。鉄仮面のようにクスリともしない堀北の顔が少し驚いたように崩れているのがわかる。
その視線の先はスーパーの入口へと向けられており、オレもまた自然にそちらへ顔を向けるとその瞬間――……。
「へぇ、結構品揃えあるなぁ」
別に、スーパーの入口にいたその少女が特別な何かをしていた訳じゃない。目立つ奇行もなく、大声で歌っていた訳でもない。
ただ普通に入店して、キョロキョロと店の中を眺めていただけだ。何もおかしくはなくオレだって同じことをした。
だというのに、目が離せない。
ただ歩き、ただ商品を眺める。それだけのごくごく普通の一挙手一投足から、視線が逸らせない。
不思議な、引力とでも言えばいいのだろうか。そう、あの女子生徒の第一印象を言葉であえて表現するならば「引力がある女」と表現すべきなのかもしれない。
美しい、可愛い、綺麗、そういった言葉で表現するのではなく。引力を持った存在感と表現するのが相応しいように感じられた。
「驚いたわね、彼女もこの学校へ入学していたなんて」
「ん? 堀北はあの子と知り合いなのか?」
「別にそういう訳ではないわよ……ただ有名人だから知っているだけ」
「へぇ、そうなのか?」
「テレビをつけていれば嫌でも目に入るでしょう」
いや、すまないがあの白い部屋にそんな気の利いた物はなかったので全く知らないぞ。
だが察するにあの女子生徒はどうやら有名人であるらしい。それもテレビなどでも見かけるくらいに。
「芸能人って奴か、サインとか貰った方がいいのだろうか」
「ミーハーな真似は止めておきなさい。プライベートの侵害よ」
「冗談だ、よく知らない相手だしな」
そんな会話をしていると後ろから妙な引力を感じ取る。後ろ髪を引っ張られるようなその感覚に従って振り返ってみると、そこにはオレたちと同じように無料品コーナーを覗き込むブラックホールのような女子生徒がいた。
「タダなんだこれ……ふ~ん」
オレと同じようにカップラーメンを持った女子生徒が不意にこちらに視線を向ける。
「……おっふ」
その瞬間に緊張で体がこわばってしまい、オレの口からは謎の単語が意図せず零れ落ちてしまっていた。
何故かオレの隣にいた堀北が肘鉄を食らわせてくるのだが、そんなことを気にする余裕もなく緊張が高まっていくのがわかる。
それはおそらく堀北も同じなのだろう。鉄仮面のように表情を崩さない奴なのに見るからに緊張しているのが感じられた。
いや、無理もない。こればかりはどうしようもなかった。
目の前にいる少女を見ればそうなってしまうのだ。視線が引き寄せられて釘付けとなり、逸らすのが難しい。
まず最初に目が行くのはその整いすぎた顔面である。CGで作ったのではと思えるほどに整いすぎている。だというのに作り物感がなく不気味の谷へと陥っていないのだから不思議なものだ。
瞳も、桜色の頬も、あごのラインや耳の形、髪の一本一本、それどころか細胞の一つ一つまで、人を引き付ける引力を持っているかのように作られている存在である。
オレの視線は彼女の瞳と、目元にある小さなほくろを行ったり来たりしており、その反復横跳びが永遠に終わることがない。少なくとも自分の意志で終わらせるがことができなかった。
堀北もまた同様だ、どこを見ているのかはわからないがおそらくオレと同様にほくろと瞳で視線を行ったり来たりさせているのだろう。
「あ、初めまして、もしかして同学年の子? 私は零膳一美、よろしくね」
彼女に話しかけられて、ようやく意識を取り戻すことができた。
「あ、あ、あぁ、よ、よろしく……あ~、綾小路、清隆だ、その、えっと……確かに同級生だな」
緊張の中、なんとか絞り出した自己紹介は、クラスでやった自己紹介よりもさらに酷いものであった。
「綾小路くんね、よろしく。そっちの子は? クラスメイト?」
「……堀北鈴音よ」
人付き合いなんて興味がないとか言ってなかったか? 随分と素直に自己紹介をするものだ。
さすがの堀北も零膳を前にすれば自己紹介くらいはするのか。
「よろしくね堀北さん……あれ、でも堀北って生徒会にもいたような、もしかしてお兄さん?」
「た、確かに兄弟だけど……なぜ兄を知っているのかしら?」
「ついさっき生徒会に顔を出してたんだよね、生徒会役員になりたくてさ。でもまだ募集はしてないからダメって言われちゃったのさ……あぁ~、でも兄弟って言われるとなんか似てるかも、目元とか雰囲気とか」
「そ、そうかしら、まぁ兄弟だもの、当然よ」
零膳一美、やはり只者ではなかったか。この堀北と会話をまともに成立させるとは恐れ入った。それどころかちょっと気分を良くしているぞこいつは。
なるほど、普通の学生とはこうやって会話を広げていくわけか。いや、もしかしたら零膳が特別なだけなのかもしれないが、参考にしていこう。
それから他愛無い会話を繰り返して自然とその場は解散となった。量の部屋に帰ったオレはふと有名人であるらしい零膳一美のことをスマホで調べてみることにした。
「なるほど、有名人なんだな」
名前を検索しただけで様々な情報がスマホに映し出される。子役時代から芸能界で働いており、モデルやタレント活動の傍ら、大手動画サイトで配信者などもやっているらしい。
試しにそのチャンネルを開いてみると、様々なタイトルの動画がアーカイブに残されているのがわかる。
「NASAに取材してみた」「琵琶湖を走って一周してみた」「おすすめコスメ十選」「踊ってみた」「歌ってみた」「爆乳グラビアアイドルの雫ちゃんから悩殺ポーズを教えてもらう!!」「チャリティーマラソンに出場!! スパチャは全額寄付!!」……ジャンルも方向性も様々であるが、どれもかなり再生回数が多い。
「てえてえ」
雫と呼ばれているグラビアアイドルとのコラボ動画を見ながらオレは自然とそんな言葉を口走り、その日は満足しながら眠ることができたのだった。
神室side
「ねぇねぇ席近くだね、これからよろしく」
「……あ、うん、よろしく」
第一印象は……まぁ、テレビとかネットで観たまんまだった。視線が自然に吸い寄せられて言葉が耳朶から溶け込んで、気が付けば熱っぽい溜息を吐いている不思議な相手である。
いや、嘘ついた。画面越しに見るよりも現物は全然違った、もちろん良い意味で。
なんかもう、直視できない。見てるだけでなんかクラクラしてくる。良い匂いが漂ってきて頭が回らなくなってくるんだもん。
それでも好奇心から強制的に視線が吸い寄せられる。すると零膳一美もまた視線を逸らさずまっすぐと見つめ返してくるのだ。
ネットやテレビでも自分のチャームポイントは目元のほくろとか言ってたっけ。確かに小さなほくろがあって、不思議とそこに視線が向かってしまう。そうしたら最後、目が離せなくなってしまう。
私らしくないと思いながらも、照れながら自己紹介してしまった。友達とか女同士の付き合いとか面倒で済ませてきたタイプだと思ったんだけどね。
まぁなんであれ、私と零膳一美の縁なんて遠くから眺めるくらいのもんだと高を括っていた訳だ、この時までは。
最初の第一印象はきらきらしたクソ陽キャ。次の印象は悪い意味で陽キャだったかな。
「あれ、もしかして万引きした?」
ニタニタと、あるいはニヤニヤとしたいやらしい笑顔でコンビニから出た私に零膳は声をかけてきたのだ。まるでその時を待ってましたとでも言わんばかりに顔である。
「いけないなぁ、神室さん、これはいけないなぁ」
「何、脅したい訳?」
「いやいやそんなわけないじゃん。せっかくできた友達をわざわざ脅すつもりなんてこれっぽちもないとも。なんだったら私の部屋で遊んでく?」
「へぇ……意外だね、もっと真面目な奴かと思ってた」
「そうかな? そうかも。まぁテレビ映りをずっと気にしてるのも大変だしねぇ、私だってハメ外したくなる時もあるとも」
それが本当かどうかは知らないけど、まぁ共犯にしてしまえば教師にチクるようなこともないかと私は考えたのだと思う。ほいほいと付いて行ってしまった訳だ。今にして思えば警戒心が無さ過ぎな訳だけども、不思議と距離を詰めてくるのがうまい相手だったということなんだろうね。
「ん~お酒美味しい。このドリンクで割ると美味しいんだよねぇ。はい神室さんの分」
「意外といける口じゃんか……いや、本当に意外」
「ずっと真面目に清く正しく生きるとか大変じゃん。メリハリって大事に思う訳よ。ストレス社会だしねぇ」
「まぁ、アンタはそうかもね」
零膳から渡されたカクテルドリンクを飲むと、口の中に酒と変なドリンクの味が広がった。別に私は酔いたくて万引きした訳でもないんだけど、おススメされた以上は付き合うべきだろう。これでこいつも共犯だ。
「よくわかんないけど、ストレスはすごそう」
「やっばいよマジで、芸能界ってルッキズムの極致みたいな場所でさ、しかもスポンサーやらなんやらにずっと気遣って……あぁ~大変だった」
なるほど、確かにそう聞くと色々と大変そうだ。おそらく私にはその苦労が欠片もわからないんだろうけど。
「だからさぁ、メリハリを意識してるって訳よ。キッチリする時と、だらけてハメ外す時、そんで万引きしてる真澄さんを見た時にビビッて来たんだよ、ここで怠惰とスリルを一摘みってね」
「あっそ、でもこれでアンタも共犯だからね」
「わかってるともさ、これで真澄さんと私はツーカーの仲ってね」
まぁ、私が思っていた以上にこいつは話しやすい相手ということかな。たまにストレス解消に付き合ってやるくらいはいいか。
なんてことを思いながら謎カクテルをグッと飲み干すと、腹の中から全身に奇妙な熱が広がっていくのがわかった。
酒の酔いも普段よりも早い気がする。少しだけ思考がぼんやりしてきたかと思えば、いつの間にか隣に零膳の熱を感じられた。
「でも万引きってスリルはあるけどリスク大きいじゃん? どうせならもっと簡単にストレス解消できる方がよくない?」
「そうかもねぇ」
また謎カクテルを飲む、すると隣に座る零膳の熱と匂いがより強く感じられるようになる。
なんだろ、私は酒に酔ってるのか、こいつの匂いに酔っているのかわからなくなってきたな。
気が付けばこいつはこちらにしだれかかってきており、私の頬に指先を伸ばしてきていたのだ。抵抗することもできた筈なのに……瞳が、目の前に、あって……。
「むふふ、まずはチュ~しよっか?」
見つめられるとドロドロと思考が蕩けていく、匂いが強まると心臓が高まっていく、零膳の目元にある小さなほくろとキラキラした瞳を視線が行ったり来たりを繰り返す。
気が付けばネクタイをするりとはぎ取られていて、互いに下着姿になっているというのに、不思議と抵抗感が薄まっていく。
「同じ事務所のアイドルをストレス解消でつまみ食いして怒られたんだけど、これって私が悪い訳じゃないよねぇ、可愛い子は愛でたいって誰でも思う訳だし、真澄さんもそうでしょ?」
「そうかな……そうかも」
そのままドロリと蕩けた頭のまま、私はこいつの唇と舌を受け入れてしまうのであった。
まぁ、想像していた初体験とはちょっと違ったけど、ストレス解消にうってつけっていうのは、なんとなく理解できるのかもしれない。少なくとも万引きするよりはずっと気持ちよかった。
坂柳side
ふむ、どうやら神室さんと零膳さんは昨晩のことを大げさにしないことにしたようですね。
入学二日目、私は昨日と何も変わらない様子の零膳さんと神室さんの様子を観察してそう納得します。昨晩、神室さんがコンビニで行った万引き行為、それを目撃した私は声をかけようとしたのですが、それよりも早く零膳さんによって先に奪われてしまいました。
仕方がない、また別の機会にでも……なんてことを思っていたのですが、昨日よりも零膳さんと神室さんの距離感が明らかに近い。いえ、気安くなっていますね。
万引きを咎めるのではなく、おそらくは見逃して黙っていることにした、それによって神室さんの信頼を勝ち取ったということでしょう。
友人、と表現するよりは共犯関係といった所でしょうか。
だとすればこちらにとって好都合、あの二人の間にある共犯関係を利用して有利な状況を構築すれば、労せず私の「お友達」になってくれることでしょう。
ふふふ、零膳さん。神室さんを見て見ぬフリをしたのは失敗でしたね。共犯関係になったことで貴女は大きな隙を作ってしまいましたよ。
「零膳さん、神室さん」
「はいはい、零膳ですよ」
「なに、なんか用?」
放課後になり、杖を突きながら私は零膳さんと神室さんのお二人に声をかける。どうやら二人はこれから一緒に遊びにいく予定であったようですがそうはいきません。
こちらを警戒するように見つめる神室さん、あまり危機感のない笑顔で朗らかに返事をする零膳さん、対照的な反応でありあまり相性が良いようには見えませんが、共犯関係というスパイスが良い緩衝材にでもなっているのでしょうか。
「お二人に話があるんですよ。どうでしょうか、この後、共にお茶でも」
どうする? とでも言いたげな視線を零膳さんへと向ける神室さん。やはり彼女は警戒心が強い、というより人とのパーソナルスペースが広いのかもしれません。
「お茶かぁ、上品だねぇ」
「いかがですか。私、お二人とお友達になりたいと思っているんですよ」
「友達、友達かぁ……坂柳さん、お人形さんみたいに可愛くてお嬢様って感じだけど、思ってたより積極的なんだ」
「そうですか? せっかくクラスメイトになれたのですから、お友達になる機会を逃しては勿体ないではありませんか」
「全くもって同意だよ、うん、きっと私たちは仲の良い友達になれる。実は私も一目見た時から狙ってたんだよね。いやぁ、よかったよかった、まさか坂柳さんも同じ気持ちだったなんて」
「あら、それはうれしいですね。ではお茶をご一緒しましょうか、場所は――」
言い終わるよりも早く零膳さんはこう言った。
「私の部屋でお茶しようよ!! 実はおススメのお茶があるんだよね、ごちそうさせて」
「ふふ、そうですか。ではお言葉に甘えさせていただきましょう」
他者に話を聞かれない私室であればこちらとしても好都合、まずは懐に入り込みさっさと説き伏せてしまいましょう。
私たちはきっと最高の「お友達に」なれますよ。
「はぁ~、可愛いなぁ、この学校に来て本当によかった。アイドルとかモデルとかもいいけどさ、そればっかだとどうしてマンネリ化しちゃうし……私ってロリでも楽しめるんだなって知れたのはいい発見だね」
「う、ぁ……ん」
なんてほくそ笑んでいたのはほんの数時間前。気が付けば私はベッドの上で零膳さんに食いつかれるままにされていました。
あ、あれ? おかしいですね。何故こんなことになってしまったのでしょうか? 零膳さんの部屋に招かれて、ウェルカムドリンクを渡されてそれから……色々と話している内にいつの間にか距離が近くなっていって……あれぇ?
「どこもかしこもスベスベだ、こりゃ征服しがいのある体してるよ」
そういって零膳さんはなまめかしく舌を動かして私の肌に触れてくる。そのすぐ後に蜂にでも刺されたかのような感触が鎖骨付近に広がって、私の思考をまた溶かしていく。
鎖骨付近にはきっと吸い付かれた跡がしっかりと残っていることでしょう。そのマークを舌先で弄ぶ零膳さんは征服欲を刺激されたのかとても満足そうに鼻を鳴らしていました。
お、おかしい、こんな筈では。
主導権を、なんとかこちらのペースに戻さなければ!!
このままでは不味いと勇んで抵抗しようにも、彼女の見つめられると途端に勢いがしぼんでいくのがわかってしまう。
匂いが鼻先を擽る度に、声が耳朶から吸い込まれる度に、指先や舌先が肌を撫でる度に、思考が蕩けて定まらない。
とても強力なアルコールや麻薬でも摂取したかのように、彼女に酩酊していってしまう。
「坂柳さん、いや有栖ちゃんって呼ばせてもらうね……お友達になりたいって言ってたでしょ?」
「え、えぇ……んん、耳元で囁くのを止めてください」
言葉にも力が入らない。彼女の腕に抱かれるまま翻弄されて、抱き上げられてその太ももの上に座らせられると、そのまま耳元で囁かれてしまう。
ドロドロと、耳元から侵略してくる熱と声に魂まで蕩けてしまいそうです。
「私もね、同じ気持ちだよ、友達になりたい。有栖と友達になって、一緒に楽しい学園生活を過ごそうよ」
「……う、ぁ」
「ここまでしたら言葉なんて無粋だけどさぁ、有栖って多分、すごく遠回しな方法でしか人と関われないタイプでしょ? だから私はストレートに気持ちを伝えようと思うんだ」
トドメを刺すかのように、あるいは断頭台を落とすかのように。耳たぶへと何度もキスをしてくることで、ついに私の理性も蕩けて消えていってしまう。
「私たちは友達だよ、共犯でも契約でもない、利益でも不利益でもない、ただ一緒にいたいから一緒にいる……好き好き、大好き、大好きだよ有栖ちゃん」
「……ひゃい」
最後に残った気力も理性も、耳から響くリップ音の連続に塗りつぶされて消えていき、私は彼女の主張を魂まで刻み込まれてしまうのであった。
「もちろん真澄も大切な友達だからね!!」
「いい笑顔で言うようなことじゃない、どうすんのそいつ、意識失いそうだけど」
「ただ眠たいだけだから大丈夫だよ。きっと友達ができたから感極まったんじゃないかな」
「……ご愁傷様、アンタも面倒な奴に目をつけられたもんだね」
意識を失う直前、神室さんの同情する声が僅かに聞こえてきたことで、私は一人ではないのだと自覚することができました。
あぁ、よかった、これが心から気を許せる友達というものなのですね。
ありがとうございます神室さん、いえ真澄さんと呼ばせてください。きっと私たちは同じ思いを共有できる真のお友達になれますね。
とりあえず感謝は後にして、今は眠らせてください。さすがに疲れました。