よう実RTA 特殊トロフィー最速取得チャート   作:KKKK

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感想、評価、誤字報告ありがとうございます。


裏 3

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神室side

 

 

 

 

 

 こいつ欲望に素直だな……そろそろ夏休みといった段階に来て私から見た一美の印象や評価はそれが全てとなっていた。

 

 テレビやネットで見たことある「奇跡の美少女」とか「世界で最も美しい女性十選」みたいな評価やパブリックイメージは、どこまでいってもテレビのこちら側の人間による一方的な評価でしかなかったってこと。

 

 本当の、等身大のこいつは世間一般の理想的な女の子などではなく……ただの変態だった。それも欲望に素直なタイプの、一番だらしない変態である。

 

 やってることと、言ってることの滅茶苦茶さを、人類屈指の顔面と体と声で帳消しにしてくるのはシンプルに酷いと思うんだけど、顔面が良すぎて全てが有耶無耶になってしまうんだと思う。

 

 それはこいつに目をつけられた私もなんだかんだで影響を受けているのかもしれない。私が思い描いていた初体験やら学園生活やら一美によって完全に粉砕されたしね。

 

 友達とか恋人とか、そういうの面倒とか斜に構えてたタイプではあるんだけど……それでもまぁ、妄想とかしたことはある。

 

 妄想と現実の初体験はあまりにも違っていて、まさか相手が世界的な美少女になるとは思いもしなかった。

 

 まぁ、色々と思う所も言いたいこともあるけど、一美との関係はなんだかんだでストレス解消にはなってることは間違いない。少なくともリスクのある万引きを繰り返すよりは、こいつとあれやこれやをする方が気持ちは良い……なんてことを考えている時点で、こいつの術中に嵌っちゃってるんだろうね。

 

 現に今も、一糸纏わぬ姿で私たちは狭いシャワー室で汗を流している。

 

「ふい~、運動後のお風呂が一番だよねぇ」

 

 私の目の前で一美がシャワーを浴びている。女である私でも直視すると喉を鳴らしてしまうような艶めかしさがある肢体は、正直何度見ても慣れない。

 

 同性の私ですらそうなんだから、多分男子にとってはもっと毒なのかもね。

 

「普通、このタイミングでする? ここ、寮じゃなくて船なんだけど」

 

「いいじゃん別に、部屋はオートロックで勝手に入って来れないし、誰にもばれやしないとも……有栖もそう思うでしょ?」

 

「私に訊かれても困るのですが……まぁ、今更といった所なのでは?」

 

 豪華客船のシャワー室にいるのは私だけではなく坂柳の姿もあった。私と同じようにこいつも毒されてきているのか、湯船に漬かりながらチラチラとシャワーを浴びている一美を舐めるように見ていた。

 

 ついさっきまでベッドの上で、およそ高校生らしくない爛れた時間を過ごしていた私たちだけど……わざわざ夏休みの真昼間に、それもせっかくの豪華客船でするようなことでもないでしょうに。

 

 渋々、というより流されに流されて爛れた関係をずっと続けてるだけに、かなり感覚がマヒしている自覚はあるけど、一美がニコリとするだけで、大体が棚上げできるのは本当にズルいと思う。

 

 なんてことを湯船に体を沈めながら思い、シャワーを浴びる一美を呆れたように眺めて……けれどそんな視線は数秒と持たずに熱っぽくなってしまった。

 

「ふふん、どうせキャンプ合宿が終われば豪華客船はゆったりと堪能できるよ。でもキャンプが始まっちゃうと皆と仲良くする時間は作れないだろうし、今だからこそさ」

 

 そう言って一美もまた湯船へと入って来た。もの凄く広い訳でもないので、三人も入ればギュウギュウ詰めになるな。

 

「ほ~ら有栖、バックハグしようねぇ」

 

「……一美さん、以前から言いたかったのですが、私を子供扱いしない方が身の為ですよ?」

 

「え、そんなことしてないよ? 有栖は立派な大人の女性さ。あ~んなに激しく求めてくるんだからさ」

 

「ちょ、待って……ん、待ちなさい」

 

「むふふ、嫌よ嫌よも好きの内ってね」

 

「さっきあれだけのことをしておきながらまだ足りないと言うのですか!?」

 

 風呂に漬かりながら坂柳を後ろから抱きしめた一美は、そのまま自然な流れで指先を肢体に這わせていく。

 

「やめときなって坂柳、そいつを論破しようとしても最終的に押し倒して全部無かったことにしてくるからさ」

 

 坂柳も最初こそ優位に立とうとか、主導権を握ろうとか考えてたみたいだけど、最終的にこの関係を受け入れているのだから、結局一美には勝てないってことだ。

 

「く……覚えていなさい、私はまだ完全に負けたわけではないという――ひゃん!?」

 

 全てを言い終わる前に一美は坂柳の耳を甘噛みしてみせる。それだけでだらしない顔を坂柳がするくらいには、この関係に沼ってしまっている。

 

 

 こいつがもし男だったら、本当に最低のカスだけど……女だから色々と有耶無耶になっている気がしてくるね。

 

 

 

 なんてことを考えていると、この風呂場にも聞こえるくらいの音量で船内放送が届く。どうやら一美が言っていたキャンプ合宿がそろそろ始まるらしい。

 

「有意義な景色ですか……一美さんは見に行かなくていいのですか?」

 

 船内放送を聞き終えた坂柳がそう言うのだが、一美はあっけらかんとした顔でこう返す。

 

「どうせ葛城くんあたりが必要な情報は収集してるだろうし後で聞けばいいさ。それよりそろそろ上がって身支度整えようか? まだ集合まで時間はあるだろうし、髪乾かして着替え済ませとこ」

 

「そうですね、私としても少しばかり楽しみではありますし」

 

「アンタ本当に参加すんの? 一美が言うにはキャンプ合宿っぽいことでもするらしいけど、歩きまわされたりするんじゃないの」

 

「おや、神室さん、私を心配なさっているのですか?」

 

「そうだけど、なに、心配したら悪いっての?」

 

「……あ、いえ、ありがとうございます」

 

「何よその顔?」

 

「なんでもありませんよ、遠回りをせずに素直に言いたいことを言うのは貴女の美徳なのでしょうね、そう思っただけです……ふふ、意外と心地の良いものですね、配慮から出た訳ではなく、本音から心配される言葉というのは」

 

 

 少しだけ坂柳がほほ笑む。いつも怜悧な雰囲気を崩さないようにしてる奴だけど、年相応な所もあるみたいね……まぁ、もっとも、一美から抱きしめられて薄い胸を揉まれながらだと全部台無しだけど。

 

 

「ご安心ください、不思議とここ最近はとても調子がいいので、医者からも担任の監督付きなら問題はないと許可を貰っています」

 

「そう、まぁ困ったことがあれば私かそいつに頼みなよ」

 

「えぇ、そうさせていただきますね」

 

 

 ずっとこのまま風呂に漬かっている訳にもいかないので、私たちは体を吹いて髪を乾かそうと脱衣所へと移動する。

 

「あ、愛里のこと忘れてた。お風呂いれてあげないと」

 

 そして脱衣所から繋がる豪華客船の客室に残されたもう一人のことを思い出して、一美は慌てて全裸のままベッドの上に残されていたDクラスの生徒を起こし始めるのであった。

 

 あの子も同じように一美の沼に嵌った子なんだろう、名前は佐倉愛里、なんでも学校に来る前からの一美と知り合いで、グラビアアイドルをしてたらしい。

 

 まぁ確かに、グラビアアイドルらしいすんごい体ではあった。坂柳も悔しさと驚愕と興奮で思わずお尻に何度もビンタをしたほどだからね。

 

 さすがに責め過ぎたことで意識を失ってるみたいだけど、後一時間もしない内にキャンプ合宿みたいなのが始まるらしいから、そろそろ起こさないとダメか、遅れると何言われるかわかったもんじゃないし。

 

「坂柳、髪やったげる」

 

「ありがとうございます」

 

「アンタは特に支度に時間がかかりそうだしね、着替えも急ぎな……一美、佐倉は任せるよ」

 

「お任せあれ。ほら愛里、さっとお風呂入って着替えよう。キスもハグも時間ができたらいくらでもしてあげるからさ。ふふ、大丈夫大丈夫、今日も最高にキュートにしたげるからさ、私はそんな愛里を毎日見てたいんだもん」

 

 

 あいつは本当に女でよかったと思う……もし男だったらカス過ぎて進退窮まってたと思うから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 橋本side

 

 

 

 

 

 まぁなんていうかあれだ……俺にとって重要なのは、確実な安心感って奴なんだと思う。

 

 よくゲームとかでもあるだろ? そのアイテムを使えば一撃でHPが回復する特別なアイテムとか、死んでも必ず復活できる奴とかさ。

 

 そういう、万が一に備えた保障、これがあるから何をするにしても余裕を維持することができる。それが俺、橋本正義の生き方って奴なんだろう。

 

 自分ができる奴とは思っていない、なんでもそつなくこなせる自信はあるが、飛びぬけた何かや結果を自分でもぎ取ることはできない。あるいは我武者羅に頑張って努力を重ねればそのごく普通から抜け出せる……いや、ないな、俺のことは俺自身が一番わかっている、ここが俺の限界だ。

 

 特別な力を持った主人公ではなく、その後ろで活躍を眺めてるくらいの、特に欠点もないモブ……自分で言ってて悲しくなるが、それが俺。

 

 飄々を気取って、気安さを演出して、何事もそつなくこなす。それが限界。

 

 そんな俺にとって重要なのはやはり安心感、これがあるから大丈夫という絶対の保証、何をするにしても、橋本正義という男はそれを価値基準に置いている。

 

 ましてやこんなおかしな学校だ。選択肢や保証や保険はどれだけあっても困らない……いや、そうやって己の安心を勝ち取ることこそがこの学校での正解なんだと解釈していた。

 

 最初にAクラスに配属されて学校の仕組みを説明された時、まず俺は最初に勤めて冷静にクラスの連中を観察した。誰がどう動き、どんなグループを形成するのか、それらを見極めてスッとナンバー3当たりのポジションに収まる、それが賢い生き方だよな。

 

 トップなんて柄じゃない、必要に迫られなければごめん被る。そしてこのクラスにはわざわざ俺が動かなくてもしっかりと生徒を纏めてくれる奴が何人もいる。

 

 坂柳有栖、姫さんは悪くはないが瞬発力がないし、余裕綽々な態度はどこかで盛大にすっころぶ危険性もあった。葛城も悪くはないが優等生って言葉で全部が片付けられる。龍園を知った後だと不安しかないな。

 

 なので自然と選択肢は一つになった。零膳一美、おそらく知らない人はいないであろう俺たち世代の一番星。もちろん、俺もテレビやスマホニュースで何度も見かけたし……なんだったら彼女でいたしてしまったことすらある。笑わないでくれ、俺たち世代の男は一度は通る道なんだよ。

 

 そんな零膳一美はさっそく頭角を現す。性格的に敵対するんじゃないかと思ってたお姫様とはあっという間に仲良くなって今ではほぼ毎日一緒に行動してるし、葛城に至っては鼻から敵わないと思っていたのか初手から零膳を持ち上げるように動いていて、彼女が生徒会入りしてからはそれがより顕著になったと俺は観察して気が付いた。

 

 どうやらこのクラスは零膳のお嬢を中心に回っていくらしい……まぁそうなるよなという印象しかない。

 

 

 隙はねえな、葛城と姫さんが参謀役だろ? 俺は適当に小間使いでもしてればいい。

 

 

 勝ったな、ガハハ……なんて思考を停止することを俺という男は許さない。

 

 このまま勝てばいい、でも勝てなかった時に備えて他の選択肢を用意する、俺はそうやってこれまで生きてきたし、これからもそうやって生きていく。

 

 もしAクラスで卒業できなかった時に備えて、他のクラスのリーダー格に恩と名前を売っておこう何かあれば拾って貰えるくらいには情報を売ろう。そして2000万ポイントもできるなら貯めておきたい。

 

 俺は何よりも選択肢を、それで得られる安心感が欲しい……そんな考えを、この学校にいる誰が否定できるってんだよ。

 

 寧ろ、たった一つの選択肢や、たった一つのクラスと命運を共にして心中するなんて、俺からしてみれば狂ってるとしか言えない。

 

 

 お前らもっと必死になれよ……そんな内心を、決して言葉にはせずに、いつも通りの飄々とした顔で隠す。

 

 

 

 だから俺は保険を求める、選択肢を増やす、安心感を手にする。当たり前だ、俺は他の奴らよりよっぽどこの学校に順応して生きているんだからな。少なくとも脳死で零膳に付き従うクラスの連中とは生きる上での熱量が違う。

 

 俺は必ずAクラスで卒業してみせる……零膳一美がそれをやってくれるのならば万々歳、やっぱ美人は違うなと訳知り顔で腕を組んで頷けばよくて、もしダメならほら見たことかとあざ笑いながら別の選択肢を行動基準にする。それだけの話だ。

 

 他の奴らとは違う……そう、俺だけは常に冷静に物事を見極めて、どんな時でも活路を見失わない。

 

 

 橋本正義は、そういうバランス感覚を持った男なのだから。

 

 

 

「それじゃあ葛城くんチームは島の探索とマッピングをよろしくね!! 熱いし小まめな水分補給は忘れずに!! そんで単独行動は禁止、ケガしないように互いにカバーする感じでお願い!!」

 

 

「「「「ハイヨロコンデ~!!」」」」

 

 

「そんで私たちのチームは拠点制作といこうか、洞窟だからテントは立てる必要はなさそうだけど、ごつごつしててまともに休めないしシートとクッションは必要かもね。シャワーと個室トイレもまぁ必要かな……う~ん、他のクラスの動き次第では節約できるところもあるだろうから、半日くらいは様子見しますか。とりあえず緊急で必要なものだけちゃちゃっと組み立てちゃおう!!」

 

 

「「「「アナタダケノタメ~!!」」」」

 

 

「よ~し、今日も暑いけど気合い入れていくよ!! バイブス上げてこう!!」

 

 

「「「「ハイツツシンデ!!」」」」

 

 

「因みに今日の晩御飯は私の手作りだ!! どうだ楽しみだろう!!」

 

 

「「「「アナタダケノタメ~!!」」」」

 

 

 

 

 そう、俺だけは、どんな時でも冷静に……決してぶれることなく、常に活路を見出し続ける。

 

 

 

 

「「「「「-・ ・・ ・- ---・- -・-・・!!」」」」

 

 

 

 

 こんな風に、脳死で零膳のお嬢に付き従うような間抜けにはなり下がらない……絶対にだ!!

 

 

 そもそもなんでこいつらはここまで危機感がないんだ? いや、そりゃ確かに零膳のお嬢は有望なリーダーだ。そこに今更疑問は挟まねえ。だからといってそれで何もせずに付き従うっていうのはただの馬鹿だろう。

 

 どうしてこいつらは安心感を求めない? 零膳のお嬢だっていつかどこかですっころぶことだってあるだろうに、だからこそ保険を求めるのはこの学校の生き方だろうに。

 

 なのにAクラスの連中は、脳死でお嬢の言葉に従うだけでそれが人生の全てであり幸福であると確信しているかのような顔をしてやがる。

 

 

 俺から言わせてもらえば、足元も前も見ないで危ない宗教に嵌ってる連中と大差がない。恐ろしいことに、それを自覚しているのが現状で俺だけという状況に、背筋が凍るような思いだ。

 

 大丈夫だよな? ちゃんとこのクラスで勝てるんだよな? それを確信できないから俺は俺らしく立ち回っていくだけだ。

 

 ブレるな俺、橋本正義は冷静な男だろ? お前ならうまく立ち回れるさ。

 

 

「よし、じゃあ橋本くんたちにはスポット巡りを任せようかな。はいリーダーカード、とりあえず目についたスポットを占有してポイントを稼いでおいてね」

 

「あ、あぁ、そりゃ構わねえが、俺がリーダーでいいのか?」

 

「何か問題があるの? あぁ、一人じゃなくて鬼頭くんたちと一緒にお願いね」

 

「ある程度人数を増やしても、スポット占有を繰り返せばリーダー候補は絞られるだろ。積極的に占有していくのは危険って思うんだけど」

 

「なぁに、零膳さんにまっかせなさい。この試験はどうれだけ効率的にポイントを稼げるかが大事なのさ、身軽な男子チームには次々とスポット占有をお願いしたいんだよ」

 

「……まぁ、そういうことなら」

 

 悪い展開じゃない。おそらくお嬢なりに考えがあるんだろうが、俺がリーダーになることで他所のクラスとの交渉なんかもやりやすい。最悪、リーダーの情報を売るなんていう選択肢だってあり得る。そう考えると悪いもんでもないか。

 

 まずは顔と名前を売る、俺は使える奴だと他のクラスのリーダーに宣伝する。例えこの試験の結果が散々な物になったとしても、まだ一年の夏という序盤も序盤、クラスポイントに余裕がある時だからこそだ。

 

 よし、やるか、俺は俺の立ち回りを見失わない。この状況を最大限の利益とするだけだ。

 

 他の脳死した生徒たちとは違う、活路と選択肢は常に複数用意しろ。

 

 この状況を、俺の安心感へ変えるんだ。

 

 

 

 そう、俺だけは、俺だけは決して――。

 

 

 

「頑張ってね、橋本くんには期待してるよ」

 

 

 

 零膳のお嬢がいつも纏っている、言葉では言い表せられない不思議な引力がぐっと強くなったような気がした瞬間に、俺の肩をポンと叩く。

 

 匂いが強まる、頭がフラフラとして、心地いい活力が全身に広がっていくのがわかる。

 

 不思議だ、今なら空だって飛べる気がする。俺は俺の分と格をわきまえて、決して主人公にはなれないと納得していきていたのに、今ならどんな困難も越えられそうだ。

 

 

 いや、俺は、でも、俺は……あれ?

 

 

「橋本くんの~、ちょっとかっこいいとこ見てみたい!! がんばれ、がんばれ!!」

 

 

 ずんちゃずんちゃと、謎の踊りをお嬢が見せた瞬間に、俺は――。

 

 

 

「ハイヨロコンデ~!! アナタダケノタメ~!!」

 

 

 

 自然とそんな返事をしていた。

 

 

 

 

 やっぱりさ、クラスを裏切る奴ってカスだと思う……やっぱ零膳さんよ、零膳さんしか勝たん。

 

 勝ったなガハハ。俺のこの予想は試験終了した後の結果発表で確信へと変わり。これまでの人生で感じたことのない安心感を全身に感じることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 伊吹side

 

 

 

 

 

 

 

「可愛い、可愛い、可愛い……やっぱさ、スポーツ少女の時代が来てる。今まで私の周囲にはいなかった子だし、新鮮な感じがあるんだよね」

 

「ちょ、来んな、おいこっち来んな!!」

 

 無人島試験が始まってすぐに、ウチのリーダー……不本意窮まりないけど、一応はリーダーってことにしている龍園が考えた作戦は、全てのポイントを投げ捨てるというものであった。

 

 物資を売ったり、相手のリーダーを看破するまではわかる。でもクラス全員が試験を速攻でリタイアするのは訳がわからなかった。

 

 だけど、じゃあお前はどうするんだと問われれば、きっと私では誰にでも思いつけるような普通の作戦しか思い浮かばない。

 

 だからまぁ、やっぱり不本意だけど龍園の作戦に従っている。内容や思惑はどうであれ、少なくとも私よりは悪知恵が働く奴だから。

 

 まぁ顔面をぶん殴られたことに関しては絶対に許さないけど……今は、気にすることじゃない。

 

 渡されたトランシーバーやカメラなんかを詰めたカバンを目印を付けた木の下に埋めて、頬を腫らした状態で木を背もたれにしておけば、狙い通りDクラスの誰かが近くを通るはずだ。

 

 馬鹿そうな相手ならなお話が早い。そうやって相手の拠点に潜り込んで、スパイとして活動するのが私の役目……スパイにするにしても、もう少し人選を考えた方が良いと思う。誰がどう見ても私に向く仕事じゃないでしょこれ。

 

 いや、龍園からしてみれば他の候補がいなかった感じかな、まさかひよりの顔面をぶん殴る訳にもいかないし。つまり消去法ってことか。

 

 

 まぁやると決めたからにはやり切る、龍園に「つかえねえ奴だ」と馬鹿にされることだけは避けたいし。

 

 

 カメラもトランシーバーも隠した、後はDクラスの男子が通りかかるのを待つだけ……だというのに最初に通りかかったのがこの女とか引きが悪いにもほどがあるでしょうが!!

 

「くそッ……意外に動ける!!」

 

「はい捕まえたぁ」

 

 アイドル女から逃れる為に抵抗するけど、零膳は想像以上に動きが素早い。格闘技をやってる体は明らかにしてないけど……いや、そういえば前にテレビを見てた時に、なんかのスポーツ番組でバレエや新体操を披露してたなこいつ。

 

 ひらりひらりと、こちらの攻撃をよけた零膳は柔軟な体を駆使して私を絡めとるように拘束してきた。

 

「ん~……匂いフェチであることを実感する」

 

「嗅ぐな!? 鼻を鳴らすな!! 離れろって!!」

 

 いっそ龍園よろしくこいつの顔面をぶん殴ってやろうかと思って拳を固くするのだが、振り上げたそれはこいつの整いすぎた顔面を前にすると、途端に解けてしまう……なんていうか、まぁ、ちょっと傷つけるのはダメか、こんなに綺麗なんだし。

 

「はいはい、落ち着こうねぇ……ん~、頬は腫れてるけど、体の方は大丈夫そうだね。湿布だけ貼り付けとこうか」

 

 私の体を拘束して好き放題撫でまわしてきた零膳は、最終的に懐から湿布を取り出して頬に張り付けてくる。

 

「はいこれで大丈夫」

 

「……あ」

 

「ん~?」

 

「……ありがとう」

 

「あぁ、恩着せがましくなりたくないから、キスしてくれたらそれでいいよ」

 

 うん? 言葉の前半と後半が繋がってなくないか? 気にしなくていいよと言うべき所でしょうが。

 

 湿布を張って零膳はようやく私を解放すると、近くの木を背もたれにして座り込んでしまった。アンタが座ってる下に私が埋めたカメラやトランシーバーがあるからどいて欲しいんだけど……。

 

 そんな都合などお構いなしにこいつは自分の隣をポンポンと叩く、このまま逃げてもよかったけど……まっすぐ見つめられると何もできなくなってしまい、最終的には渋々と隣に腰をおろしてしまう。

 

「龍園くんも酷いことするよねぇ、いくらスパイにしたいからって私の好みの女の子にこんなことするなんて」

 

 隣に腰を下ろして同じ木を背もたれにするのだけれど、こいつはすぐさま頭を私の肩に預けてきた……なんでこいつはこんなに気安い訳? パーソナルスペースとか知らないの?

 

 いや、というか……龍園の作戦、全部バレちゃってるじゃない、あのバカ、自信満々な顔してたくせに。

 

「で、なに? 他のクラスに注意喚起でもするつもり?」

 

「しないよ、龍園くんとはある種の同盟関係だしね。勝手に転ぶ分は知らないけど、わざわざ危害は加えないともさ。今回の試験では物資も融通してもらったしねぇ」

 

「あっそ、あの物資ってアンタらに売りつけたんだ」

 

「あれ、そこまでは共有されてないんだね」

 

「あいつが人をそこまで信用すると思う? 必要なことしか言わないでしょうが」

 

「確かに、そうかも」

 

「大丈夫なのアンタ、それなりに吹っ掛けられたんじゃないの?」

 

「いた、実質タダで物資は貰ったけど」

 

 うん? どういうこと? ポイントを定期的に貰う代わりに物資を売りつけるって感じなんじゃないの? それとも私の勘違いだった?

 

「う~ん、説明が難しいんだけどさ。さっきも言った通り龍園くんとはある種の同盟関係にあってね、物資を売ってもらうのもその一環さ。まぁ、正確にはタダではないんだけど、副会長からポイントは調達する算段だからさ、空手形になっちゃうけどそれの利益を山分けって感じ……つまりCクラスから貰った物資は南雲先輩の財布から最終的に出して貰うの、Aクラスの財布は痛まない、太っ腹だよね!!」

 

「よくわかんないけど、アンタが困らないんならそれでいい」

 

「あんれぇ、心配してくれた感じ?」

 

「……」

 

 やっぱりぶん殴ってやろうかと拳を固めるが、結局はこいつに見つめられるとうまく抵抗できない。

 

「ふふ、そろそろクラスに帰らなきゃ、伊吹さんも……澪も、スパイ頑張ってね、ちゅ」

 

「ちょ、やめろってッ!?」

 

 

 

 最後に零膳は湿布の張られた私の頬になんの戸惑いもなくキスをして立ち上がると、全ての不満を吹き飛ばす満面の笑みを向けてくるのであった。

 

 ダメだ、こいつといるとこっちのペースが全部乱される。本当にやりにくい相手だ。

 

 無人島の木々に紛れて見えなくなっていく零膳の背中を見送ってから、私はなんとか落ち着こうと深呼吸を繰り返すんだけど、わずかに残ったあいつの残り香や、湿布越しの唇の感触がいつまでたっても消えなくて、私は頭を抱えることになる。

 

 あきらかにおかしい、ずっと首や耳まで熱いままだ、酒にでも酔ってるのか私は?

 

 結局、Dクラスの男子に見つけてもらうまでその熱は続いてしまい、顔を真っ赤にしていたことから本気で体調が悪いのかと心配される始末だったけど、私はなんとかスパイとして潜り込めるのだった……まぁ、試験結果は散々なものだったけど。

 

 後、なんだろ、これ以降、私はなんか寝る度にあいつが夢に出てくるようになって、それが段々とねっとりしていくようになったというか、過激になっていくというか……。

 

 なんか、欲求不満なのかと悩む日々となっているので、煩悩退散とばかりに、ジムでサンドバックを殴ることが多くなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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