よう実RTA 特殊トロフィー最速取得チャート   作:KKKK

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裏 4

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 松下side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さてどうしたもんかな、そんな風に私は豪華客船の心地いいベッドの上で考え込む。

 

 いつも通り目覚めて、同室の軽井沢さんや佐藤さんがまだ寝ていることを確認すると、先に寝汗を流す為にシャワーを浴びることにした。

 

 熱いシャワーを浴びると頭も冴えてくる。だからこそ現状に危機感を覚えるというか、どこか眠りが浅かったのもきっと今のクラスの現状があるからだと思う。

 

 私が所属しているDクラスは学校から最底辺の評価を受けた生徒で構成されている。そしてそこに私も所属しているのは……まぁ、同じ穴の狢という奴なのかもしれない。

 

 言い訳をさせてもらうと、そして自己評価を隠さず言えば、私は別にAクラスに配属されてもおかしくはなかったと思う……自惚れでなければだけど。

 

 勉強も運動も、誰にも負けないとまでは言わないけど、平均よりは高いはずだ。それでもDクラスに配属された理由は……きっとほどほどな生き方が身についてたからだね。

 

 周りに期待されることも、頼られることも、疲れてしまうと中学の私は考えていたしね。出る杭は打たれるとも言うし、出過ぎて全てを置き去りにできるほど強くもなかった私は、ほどほどに成果を出していた。

 

 その結果がDクラスなのだから笑えない。

 

 それでも冷静にクラスの状態や面子を確認して、なんとか活路はないかと考えていた。平田くんや櫛田さん、堀北さんだったりといった優秀な生徒はいる。個人的な能力を見れば他のクラスにも負けていない生徒もいるけれど、ど真ん中を支える大黒柱のようなものが欠けていた。

 

 だからいつまでもフラフラとさまよって、気が付けばAクラスとはとんでもない大差が付いてしまっている。

 

 だからこそ色々と考えなければならない、どうしたものかと。

 

 熱いシャワーを浴びてから脱衣所で着替えて髪を乾かす。その間も私はこれから先のことをずっと考えていた。

 

 まだ一年の夏、焦るような時間じゃないけど、悠長に事を構えてDクラス配属になったことを考えると、今からちゃんと動いておくべきだよね。

 

 軽井沢さんと佐藤さんも起きてきたので変わるようにシャワー室を明け渡すと、とりあえず私はこれからのことを考えて目当ての人物を探すことにするのだった。

 

 よく目立つ子なのですぐ見つけると思うしね、そんなことを考えながら豪華客船を歩いていると、案の定すぐに見つけることができた。

 

 船の中にあるカフェの一角、オープンテラス席の場所にやけに目立つ子がいるのがわかる。同じようにカフェで軽食を食べようとしている他の生徒たちの視線や意識がそっちに引き寄せられているのが遠くから見てるとよくわかる。

 

 男子たちは普通にテーブル席に座ればいいのに、わざわざ彼女と同じオープンテラス席に座って可能な限り距離を近くしようとしているし、女子は女子でチラチラと視線を向けて黄色い声や熱っぽい溜息を吐いている。

 

 まぁ、気持ちはわからなくはない。そこまで席や意識を引っ張られているというのに、決して声をかけようとしていことも、なんとなくだけどわかる。

 

 なんていうか、住んでいる世界が違うとはこういうことなんだと思う。

 

 実際、私もどう声をかけたものかと悩みはしたけれど、彼女と同じ席に座っている子が同じクラスの子だったので、悪いとは思いつつも利用させてもらうことにした。

 

「あれ、佐倉さん、今日はここで朝食?」

 

「あ……松下さんも、ここで朝食ですか?」

 

 佐倉愛里さん。ここ最近、やけに垢抜けて来たともっぱらの噂であり。山内くんを筆頭にウチのクラスの男子から面倒なアプローチを受けているのも知っている。

 

 多分だけど、零膳さんの影響だろうね。野暮ったい眼鏡もかけなくなったし、前髪で表情を隠すこともしなくなったし。

 

 グラビアアイドルに似ているとかなんとか山内くんが興奮してたというか、多分だけどその辺の噂も間違いではないんだと思う。零膳さんとは学校に入る前からの知り合いだっていう話だしね。

 

「零膳さんは初めましてだね。私、松下千秋、よろしくね」

 

「よろしくねぇ、因みに松下さんのことは前から知ってたよ」

 

「あ、そうなんだ」

 

「学校で名前と顔が一致しない人はもういないかな。そうだ、よければ松下さんも一緒に食べない? それとも誰かと予定ある?」

 

「うぅん、ここには一人で来たけど、席が余ってなくてさ。それじゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな、佐倉さんも大丈夫かな?」

 

「はい、大丈夫です」

 

 よしよし、うまいこと一緒になれたね。他人よりも顔見知り、顔見知りよりも友人の立場をまずは目指す。今後がどうなるにせよ、彼女との関係は必要不可欠だろうしね。

 

 可能ならば零膳さんに恩を売って、Dクラスがこのまま這い上がれなくても拾い上げて貰えるくらいには存在感を放たないとダメだ。そんな私の思惑を知ってか知らずか、零膳さんはとても気安い様子でニコニコとした笑顔を向けてくる。

 

 会話は別に苦にならない……というか零膳さんはとても喋り慣れている。あまり主張しない佐倉さんですら、彼女の前では会話に淀みがないし、そういう雰囲気を作るのがうまいと言うべきなのかな。

 

 テレビに出て色々な相手と話してきたような子だし、トーク力とでもいうべきものが同年代の子と比べて圧倒的に高いんだよね。一方的に主張せず、かといって聞き手にだけ集中したりもしない。

 

 常に相手がどう思い、どう喋りたいのかを考えながら、適切な間や相槌や声色を使い分けている……なんていえば良いんだろう、凄いというよりは、専門のメンタルセミナーの講師みたいな雰囲気がある。

 

 多分だけど零膳さんは、それを意識してやってるんじゃないかな。常に心地いい時間を維持して、彼女と話しているだけで安心感を覚えるような、そういう雰囲気を作っているはずだ。

 

 声色も、相槌も、視線も距離感も、もっと言えば容姿や匂いや周囲の環境まで、全部が零膳さんが放つ雰囲気の一部となって、私たちを包み込んでくる。

 

 実際、私も彼女と話していると、他のクラスメイトと話している時に感じる無意識の遠慮や配慮が薄れていくような気もしているしね。つまり彼女との会話は極端なまでにストレスを感じないのだ。

 

 それを無意識にではなく、意識してやっている……武器として使っているんだろうね。

 

 

 酸いも甘いも知り尽くした老人がやるならわかるけど、同い年の子がこれかぁ……しかもAクラスのリーダーで圧倒的な成果もあげていると来た。

 

 

 なんていうか、中学時代の私はもう少し頑張っておけと言えるのならば言いたい。もしAクラスに配属されていればこの子に丸投げで全部が解決したんだろうしね。

 

 まぁ、今更嘆いても仕方がない。現実は何も変わらないのだから、彼女との関係性を深めておこう。

 

 噂によると零膳さんは男子よりも女子に興味があるらしい。テレビか何かでもそんなことを言っていたような気もするし、ワンチャンあるかもね。

 

 もしDクラスがダメだった時に備えて、まずは彼女のお眼鏡に適っておこう。別に裏切ろうって訳でもないんだし、悪いことでもないよね?

 

 零膳さんのトークでストレスフリーな時間を過ごして、これまた彼女の思惑通りにこの後に一緒に船の設備で遊ばないかと提案されたので、私は全力で乗っかっていく。

 

 自然と連絡先も交換できたし。おそらく彼女はこれまたこちらがストレスを感じないタイミングを見計らって連絡や遊びへの誘いなどもしてくるはずだから、それにもしっかり対応しなきゃね。

 

 後は零膳さんが何に価値基準を置くのか、それを知る為にももっと仲良くなる必要があるかな。

 

 相手に恩を売る上で、相手が何を求めているか、それはとても大切だから。

 

 こうして連絡先も交換できて交流も始まったし、後は時間をかけてゆっくり零膳さんを知っていくとしよう。

 

 豪華客船の中を歩いて、どこで遊ぼうか佐倉さんと零膳さんと一緒に歩いていると、零膳さんは不意にコモンスペースがある場所から逸れて別の通路を進みだす。

 

 

 この先には何があったっけ? 船内の地図を頭の中で広げてみるけど、その先に目ぼしい施設はない。

 

 

 けれど少し進んだ辺りで零膳さんが何をしようとしているのかわかった。ウチのクラスの軽井沢さんとCクラスの生徒が揉めていたからだ。どうやって気が付いたのかわからないけど、彼女はどうやら仲裁をしようとしているらしい。

 

 でも意外かも、軽井沢さんって普段は割と強気というか、いじめっ子気質がある子だから、囲まれて怯えている様子は普段の雰囲気とは大きくかけ離れている。

 

 よく言えばどこにでもいる、クラスカーストって奴をいつも気にしてるタイプの子……でも今は表情は凍り付いてるし、どちらかといえば隣にいる佐倉さんみたいな印象を受ける様子だ。

 

 相手が複数人で、しかもCクラスの生徒だからさすがに怯えているのかな? いや、普段の軽井沢さんなら睨みつけることくらいしそうだけど。

 

 なんであれ零膳さんはそんな状況をよしとはしなかった。軽井沢さんを庇うように立つと、そのままCクラス生徒と向かい合う。

 

「まぁまぁ、落ち着いて。何があったか知らないけどさ、明らかに穏やかな雰囲気じゃないし、何があったのさ?」

 

「……」

 

 危機感やストレスを感じさせない、そんな口調で話しかけられてCクラスの生徒たちは、どうしたもんかと顔を見合わせて視線だけで一瞬の話し合いを済ませて……最終的にはリーダー格の、真鍋さんだったかな? その子がこう切り出す。

 

「は? なにアンタ、関係ないんだから引っ込んでなよ」

 

「そうもいかないよ、私は生徒会役員だからね。生徒のトラブル解決も仕事の内なのさ」

 

「トラブルじゃないし」

 

「そうは見えないから声をかけたんだよ……う~ん、あんまりこういうことは言いたくないんだけどさ、このままおとなしく帰ってくれた方がこちらとしてもありがたいっていうか」

 

「何度も言わせないで、邪魔だから消えて――」

 

 

 全てを言い終わる前に、真鍋さんが言葉を詰まらせる。私と佐倉さんも零膳さんの雰囲気が変わったことを肌で感じ取ってビクッと体を反応させてしまった。

 

 なんて言えば良いんだろうね、引力というか、重力っていうか……なんかこう、零膳さんを中心に渦ができたというか、そんな感じ。

 

 カリスマってこういうことを言うのかもね。視線を逸らせない凄みって奴なのかもしれない。

 

 背中越しでもそれを私と佐倉さんは感じ取ったのだ、目の前にいた真鍋さんたちは私たち以上にそれを感じているのかな、途端に勢いを無くしていく。

 

「喧嘩したって一文の得にもならないよ、私はそう思うんだけど、真鍋さんはどうかな?」

 

「あ、う……まぁ」

 

「でしょ? はい、じゃあこれでおしまい、そうだよね?」

 

「……うん」

 

 さっきまでの強気な表情をどこかに投げ捨てて、Cクラスの生徒は逆らってはいけない何かに怯えるようにすごすごと退散していくのだった。

 

 うん、さすがに相手が悪かったねこれは。

 

「軽井沢さん、大丈夫?」

 

「え、あ、うん……大丈夫、あの、ありがと」

 

「ふふ~ん、気にしなくていいよ、生徒会役員として当然のことさ」

 

 零膳さんは軽井沢さんへ手を差し伸べて魂を抜いてしまうようなとびっきりの笑顔を見せる、するとそれを向けられた軽井沢さんは頬を赤くして恥ずかしそうに視線を逸らしてしまう。

 

 気持ちはわからなくはない、横顔を見ていた私でもクラっとするほどだし、同じように横顔を見ていた佐倉さんは恥ずかしそうに体をモジモジされているのがわかる。

 

 ずっと見ていたいと、どれだけ冷静であろうとしてもそう思ってしまう魔性の表情だった……可愛い――はッ? 私は何を同性相手にメロついているんだろうか。

 

 いや、でもこの表情は反則だと思う。性別とかそういうものを超越した魔性が宿ってるんだもん。誰かを夢中にさせることにここまで振り切ったら、魔性や神聖が宿るんだって初めて知ったかも。

 

 私も冷静であらないとね、少しでも油断すると、多分零膳さんに微笑んでもらう為になんでもしてしまうようになりそうだし。

 

 色々とあったけど収穫は大きかったかな。軽井沢さんもこれを機に零膳さんと関わるだろうし、私一人で彼女と仲良くするとどうしてもクラスのグループから浮いちゃうけど、軽井沢さんや佐倉さんと一緒なら変な勘繰りもされないかな。

 

 このまま零膳さんグループに入って仲良くなって、恩を売って私にもほほ笑んでもら……じゃなくて、上手いこと引き上げてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 綾小路side

 

 

 

 

 

「チェックメイトだ」

 

 

 何度目かのチェス勝負で、オレはこれまた何度目かのチェックメイトを行う。

 

「ふむ、負けてしまいましたね」

 

 それを見せられて向かいの席に座っている坂柳が潔く敗北を受け入れる。最も、互いの実力が拮抗しているので、どうしても先手有利になってしまうのだが。坂柳が先手番であったのならばまた結果は違っていただろうし、事実さっきの対局はそうなった。

 

 この坂柳という女子生徒はホワイトルーム関連を知ってなおオレに近づいてきたらしい。夏休みど真ん中の豪華客船でやるのがチェスで良いのかと思ったのだが、何やら譲れない何かがあるらしい。

 

 結果的に暇だったオレは……特に友達もいないので、坂柳の提案を受け入れて、客船内にあった土産物などを扱った店でチェス一式を購入して(坂柳持ち)チェス勝負を受け入れた。

 

 加えて言うのならば、坂柳を通してAクラスの動きを、さらに言えば零膳の動きを知りたかったというのもあった。

 

 何かを賭ける訳でもなければ、何かを失う訳でもない、その上で相手の思惑や戦略を知れるのならば悪くはない……という言い訳で、友達がいなくて手持無沙汰となっているのがオレだった。堀北? あれは友人とは言えないだろう、それくらいのことはわかる。コンパスで刺してくるしな。

 

 そういった意味では、こうして坂柳とチェスに興じるのは健全な学生らしい時間なのかもしれない。オレの回りにいるのは櫛田とか堀北とかああいうアレらだ。だというのにチェス勝負をねだってくるなんて、健全すぎるだろう。

 

「さすがにお強いですね、拍子抜けしなくて心底うれしい限りですよ」

 

「そうか……お前も強いぞ、少なくとも同じレベルの奴はあの白い部屋にもいなかった」

 

「ふふ、お上手ですね。そういわれると悪い気はしません」

 

 優雅にほほ笑む坂柳は紅茶で喉を潤して上品なしぐさを見せる……どうしてオレの回りには痴漢冤罪を押し付けてくる奴とか、コンパスで刺そうとしてくる女しかいないのだろうか?

 

「しかしチェスだけでは味気ないですね、先手がどうしても有利になってしまいますから」

 

「だとしたらどうする? クラス闘争でもするのか?」

 

「いいえ、Aクラスは一美さんがまとめていらっしゃいますから、私の出番はないでしょう。意見を訊かれることはあっても、リーダーではありませんので」

 

「零膳か……少し意外ではあったな。坂柳、お前ならクラスを掌握する為に動いたんじゃないのか」

 

「えぇ、ですが無駄なことですよ。きっと何をどうしようが、最終的には一美さんがリーダーになっていたでしょうから」

 

 やはり意外である。ただチェスをしただけで大した時間は過ごしていないのだが、それでも打ち手の性格くらいはある程度は掴める。坂柳はもっと攻撃的な意識を持った相手だと数度の対局でつかめていた。

 

「なんて言えば良いんでしょうね……彼女はほら、不思議と人の中心に立つ人物だとは思いませんか?」

 

「あぁ、言わんとしていることはわかるぞ」

 

 零膳一美には言葉では説明の難しい不思議な魅力がある。視線や意識を引き付ける何かがあるということだ。

 

 単純に容姿が優れているという意味ではない……いや、それは勿論あるのだが、それを大前提とした何かだ。

 

 その答えをオレは知らない、ホワイトルームでも教えられなかった。そもそもカリスマというものを数値で表すことはできないので、数字を神と信奉しているあの場所では、きっと永遠に答えの出ないものだろう。

 

 どうすれば人を引き付けられるのか、どうすれば注目を集められるのか、どうすれば好感を得られるのか、それを理論と経験則で出すことはできても……おそらく零膳の纏うそれとも決定的に意味が異なるとオレは思う。

 

 もしホワイトルームでカリスマを身に着けるカリキュラムがあったとすれば、それは科学的でメンタル的な、極めて教科書的なアプローチになるだろう。だがそれで零膳が作れるとは思えない。

 

 もっと根本的で、根源的な出発地点が違う……兵隊蜂がどれだけあがこうとも、種の頂点である女王蜂にはなれない。零膳が持つ引力とは、数字や鍛錬とは別次元の、もっと深いところにある才能、或いは格差なんだと推測するしかない。

 

 

 興味深いな、オレの知る誰とも異なる存在……可愛い、結婚しよ。

 

 

 

 坂柳は零膳の名を出す度に頬を緩めて少し照れたような顔をする。愛おしい何かに触れるようなその表情は、纏っている怜悧な雰囲気とは異なり年相応に見える。

 

「一美さんがリーダーをしてくれるのであればなんの憂いもありません。私は私で、こうして貴方と競い合いたいんですよ」

 

「そうか、クラス間の戦いではないのなら、チェスくらいは付き合うぞ」

 

「そうですか、ご友人との付き合いもあるのでは?」

 

「……そこは気にしないでくれ」

 

 

 コンパスで刺してくる女とか、痴漢冤罪してくる奴とか、脅してくる担任教師とか、色々思い浮かぶが、それに比べたら坂柳のなんとおとなしいことか。

 

 

 なんてことを考えながら、カフェの個室でまたもや対局をしようと準備するのだが、そんなオレと坂柳の動きを大きな船内放送が遮る。

 

 

 

『ぴんぽんぱんぽん!! えぇ~、こちら生徒会所属の零膳一美です。皆さん、いかがお過ごしでしょうか? 私は食堂で食べたオムレツが絶品だったと主張したいです。はい、では前置きもこれくらいにしまして……試験も終わりスケジュール的に余裕もできたということもあり、わたくし零膳からレクリエーション企画が行われることをお知らせします!!』

 

 

 これはなんだと坂柳に視線を送ると、彼女はクスクスと面白そうに笑うだけだ。

 

 

 

『えぇ~、最初にお知らせしますとこちらのレクリエーションは特別試験ではございません。生徒会主催の純粋な催しとなっております。ですので参加しなくてもペナルティーなどもありませんので安心してください』

 

 

 

 なるほど、また特別試験でも始まるのかと思ったが、どうやら違うらしい。そういえば零膳は生徒会所属だったな。

 

 

 

『レクリエーション内容はズバリお宝探し!! 今現在、この豪華客船の至る所にQRコードが記された紙が隠されております。それをそれぞれがお持ちのスマホカメラで撮影すると、なんとプライベートポイントが贈呈されます!!』

 

 

 穏やかで、聞いているだけでストレスが消えていくような声色の放送だ。科学的に、メンタル的に計算されつくしたものであるのだろうが、そこに零膳が持つ魔性とでもいうべきものが混ざっている。

 

 

『繰り返しますが特別試験ではありません、ペナルティーもありません。ですので皆さん、気軽に参加してくださればうれしいです。なお、隠されたQRコードは一般的に立ち入り可能な場所のみに限定されていますので、スタッフさんには決して迷惑をかけないようにお願いします……ん~? どこにあるのかヒントが欲しいってぇ? そこまでは言えないけど、傾向としてアレだね、見つかりにくい場所にあるものほど高額なポイントが貰える、と言いたいけれど、実はそうでもなかったり、あるいは裏をかいてその逆だったりしてね。まぁ、頑張ってみてよ、損はさせないからさ!!』

 

 

 

 まさに宝探しゲームという訳か、ヒントは無いにも等しいが、特にペナルティーがある訳でもないので多くの生徒が参加するだろう。

 

 

 

『因みに船内に隠されたQRコードは全部で160枚!! それぞれ得られるポイントは異なります。上手いことやれば一年生全員にポイントが行き渡るけど、そんなことはまずありえないよね……どういうことかって? 数に限りがあって、取れるQRコードに限りはない、頑張れば頑張るほどお小遣いが増えるってことさ!! 最高ポイントはなんと五十万ポイント、最低保証ポイントは1000!! みんな準備はいいかい? それじゃあ宝探しゲームスタートだ!!』

 

 

 オレは、カフェの個室の中を見渡してみる……さすがに目立つ場所にあからさまに張り付けてはいないか。

 

 試しにと、座っている椅子の裏へと手を伸ばしてみると、そこに張り付けてあった紙があったので引っぺがせば、案の定QRコードが記されていた。

 

「おや、さっそく発見しましたね」

 

「あぁ、だがこれが幾らになるかはわからないな」

 

「試しにカメラで読み取ってみられてはどうですか? 零膳さん曰く、一回限りではなく集めれば集めるほど得をするようですし。額によって傾向や難易度も図れるかもしれません」

 

「そうだな」

 

 スマホのカメラでQRコードを読み取ると、オレの端末には1000ポイントが自動的に振り込まれた。

 

「このQRコードは、おそらく低難易度なのかもしれないな」

 

「ふむ、裏をかいて高額の可能性もありましたが、あったとしてもそう多くはないでしょうしね」

 

 実際、簡単に見つけられたしな。これだけの労力で1000ポイントが貰えるならただただ得しかないレクリエーションと言える。

 

「しかし生徒会というのも太っ腹だな、こんな生徒に特しかない催しをするなんて」

 

「生徒会、というより一美さんの持ち込み企画だった筈ですよ。詳しい内容までは知りませんでしたが、予算が下りなかったのでAクラスで貯金しているポイントで補填してようやく開催に漕ぎつけたとか、クラスメイトを説得していましたしね」

 

「だとすると驚きだ、よくAクラスの連中は反対しなかったな。クラスで集めたポイントを使うだなんて、もはや私的流用だろ、それは」

 

 生徒会で予算が下りなかったレクリエーションを開催したいから、クラスのポイントを使わせてね……なんて提案をDクラスの連中が受け入れるとは思えないし、それはAクラスも同じだろう。

 

 しかしこうして開催できたということは、表面上Aクラスは零膳の提案を受け入れたということなのだろうか。

 

「一見すると無駄遣いと言えるのかもしれませんね。そして実際にAクラスで貯金されていたプライベートポイントは大きく目減りしています。しかし一美さんも考えがあってのことですよ」

 

「行き当たりばったりじゃないということか」

 

「はい、これは投資です。生徒会選挙へ向けた、票固めの一環ですよ」

 

 なるほど、生徒会選挙か。つまりは選挙前のバラマキ政策という奴だな。

 

「二学期になると生徒会選挙が始まります。現在、次の会長に有力視されているのが副会長の南雲先輩です。名実ともに、次の会長の最有力候補でしょう」

 

「そこに零膳が割って入るか」

 

「まずは一年生の票固めをしないと、スタートラインにも立てないでしょうね。一美さんが生徒会長になってくれれば嬉しい、一年生全体にそう思わせる必要があります」

 

「その為には多少の出費もやむなし、それどころか一年生の内に生徒会長になれればこの程度の損失など軽く埋められるか……なるほど、大きな広告のようなものか、このレクリエーションは」

 

「えぇ、そうでしょうね。人は良く知らない誰かよりも、親しみを持った相手に投票します。二年生よりも、自分たちに利益を齎してくれる一美さんの方が、一年生全体にとって利益になると思わせる、極々初歩的な政治活動です」

 

 確かに、極めて初歩的で、ごく当たり前の戦略だろう。しかし学生でそれをやれるのは果たしてどれだけいるだろうか。資金を調達して、それを広告にして、自分の票を纏め上げる……学生離れしているな、色々と。

 

「零膳に勝ち目はあるのか?」

 

「南雲先輩は強敵でしょう。相手は学年全体を牛耳っている相手です。まずは一年生の票固め、そして次は反南雲派と三年生……さて、どうなるでしょうね、楽しみではありませんか」

 

 そういった坂柳の表情は、零膳が負けるとは欠片も考えていない誇らしげなものであった。少なくとも坂柳の中では言葉にはせずとも結論が出ているのかもしれない。

 

 

 こうして坂柳にねだられてチェス勝負をしたかいがあったな、零膳の動向や考え、そしてAクラス全体の動き、得られるものが多かった。

 

 特に零膳の思惑や性格は重要だ。坂柳を介して間接的にだが零膳の解像度が高くなっていく。オレはオレの中にある空白を埋めるためにも、もっと彼女を知らなければならない。

 

 

 やはり興味深いな零膳一美……可愛い、結婚しよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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