よう実RTA 特殊トロフィー最速取得チャート   作:KKKK

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感想、評価、誤字報告、ありがとうございます。


裏 5

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 堀北side

 

 

 

 

 

 

 いつもそうだ、私の兄はいつも私以外の誰かを評価する。

 

 それがいつ頃であったのかはよく覚えてはいない。兄の好みに合わせて髪を長くしたり、兄を真似て伊達メガネをかけてみたり、そういうことをしているといつの間にか兄は私を遠ざけるようになっていたと思う。

 

 あるいは因果が逆かもしれない、兄が私を遠ざけようとするから気を引くために髪を伸ばしたのだろうか。どちらにしても今となってはあまり関係がない。だって兄さんとは相変わらずギスギスしたままだから。

 

 そんな折、同学年でAクラスを率いている零膳さんが生徒会に入ったと聞いて、私は小さくない動揺を抱えたと思う。

 

 あぁそうか、あの子は兄さんに認められたんだなと、悔しさと羨ましさと……少しの納得がそこにはあったわね。

 

 Aクラスのリーダーで、しっかりと結果を残し、その上で兄さんにも認められて、私が持っていない全てを持っている零膳さんが、正直なことを言えば妬ましくはあったのかもしれない。

 

 だとしてもどうしようもない、結局は兄さんに認めてもらえるまで、このDクラスで進んでいくしかないのだから。

 

 

 

「憧れって理解から最も遠い感情だって偉い人も言ってたよ」

 

 

 

 無人島でも干支試験でも、そしてこの体育祭でも、彼女は注目を集めていた。それどころか苛立って途中退席した須藤くんを説得して引き戻したり、あれだけ自由人な高円寺くんすら彼女に煽てられれば競技に参加した程だ。

 

 ああいう風にふるまえれば、私も兄さんに認められるのかしら?

 

 でも、どれだけ想像しても私はああはなれないなと、奇妙な納得しか感じないわね。

 

 体育祭最後のリレーで零膳さんはアンカーを走り、女子とは思えないほどの疾走で二年生の男子生徒と肉薄した戦いを見せられたことで、私も同じようにできるのかと想像しても、きっと無理だと断言できる。

 

 

 零膳さんは惜しくも敗れてしまったけれど、それでもクラスメイトや他の学年の人たちは口を揃えて、惜しかったと、凄いなと、彼女を称賛していたほどだ。

 

 私自身でさえそう思う。負けたというのに、それまでの彼女が見せた戦いや姿勢は、誰かの心を奮い立たせるには十分だったのでしょうね。

 

 多くの人に認められ称賛される零膳さんと、くじいた足を引きずりながら悩む私……あぁ、兄さんも零膳さんの方を生徒会に入れるだろうなと、自虐にも似た思いが胸の中にじんわりと広がっていくのがわかる。

 

 

 そんな私に、彼女はそう声をかけた……憧れは、何? 急になんなのかしら?

 

 

「堀北さんって、いつもお兄さんを目で追ってるよね。この体育祭でも、生徒会長が競技に出る度に視線をやってたの、気づいてた?」

 

「それの何が悪いのかしら? 兄弟なのだから、何もおかしくはないでしょう」

 

「そうだね、でもずっと褒めて欲しい、認めて欲しい、話しかけて欲しいって願い続けるのはどうかと思うわけさ」

 

「そんなこと、貴女にわかる筈がないわ」

 

「わかるさ、人はただそこに立っているだけで、色々な情報を発しているんだから」

 

 そう言って零膳さんは、私の内心まで見透かすような独特の眼差しを向けてくる。心の奥底まで観測されているようで、少しだけ居心地が悪いわね。

 

「でもやっぱり兄弟なんだね、似た者同士だよ堀北さんと会長は。あの人はあの人で、君に視線を送っている。まぁ生徒会長は堀北さんほど心の内が読める訳でもないけどね。気が付いてたかな? 会長も君を見てるって……こういうのって、なんていうのかな、深淵を覗く時はなんちゃらかんちゃら的な、ちょっと違うか」

 

 やれやれ、とでも言いたげな様子で肩をすくめる零膳さんは、ポケットの中から湿布を取り出して急に私の前に座り込んで見せる。

 

「ほら足首だしなよ、湿布張ったげる」

 

「……要らないわ、余計な気遣いは不要よ」

 

「実はお兄さんに様子を見て来てくれないかって頼まれたんだよね」

 

「え、兄さんが……」

 

「まぁ嘘なんだけど、内心では堀北さんのことを心配してたよ。あの人は妹のことになると心が読みやすくなって助かる」

 

「……」

 

 座り込んだ零膳さんがこちらを見上げてくる。その瞳で上目遣いをされると、どうにも断りにくいわね。

 

「しかし龍園くんも酷いことするよねぇ、明らかに堀北さんが狙い撃ちされてたけど、恨まれてるのかい?」

 

「おそらく、参加票を手に入れてたのでしょうね」

 

 ひんやりとした感触が足首から広がってくる。少しだけ痛みが和らいだような気がした。

 

「なんだ、わかってるじゃない。ここで何が起こってるかわからないなんて言われたら頭を抱えたよさすがに」

 

「他所のクラスの心配をするなんて、随分と余裕なのね」

 

「え、そりゃ余裕だよ。Aクラスのポイント、どれだけあるか知ってる?」

 

 そうだったわね、確かに圧倒的なポイントを持っていた……惨めな私に湿布を張るくらいの余裕なんて幾らでもあるということかしら。

 

「別に惨めな堀北さんに湿布を張りに来た訳でもないんだけど」

 

 何故、この子は当たり前のように心を読むのかしら。

 

「ここに来たのはシンプルに心配だったからさ、女の子が足を引きずって歩いてる姿は美しくない……はい、これでOK、歩くくらいならいいけどあんまり激しい運動はしちゃダメだよ」

 

 湿布と包帯で固定された足首から手を放して立ち上がった零膳さんは、疲れたとばかりに背伸びをしてみせる。

 

「はぁ疲れた、南雲先輩がリレーでずっと追いかけてくるんだもん。良い感じに花を持たせるのも大変さ」

 

 よくわからないことを言った零膳さんは、また私の内心を見透かすような独特の眼差しで見つめてくるのだった。

 

「どうせこの後、龍園くんがあれやこれやを仕掛けてくるんだろう? どうするつもりなのさ」

 

「……貴女には関係がないでしょう」

 

「あるとも、君が困っている、それが理由じゃだめなのかな?」

 

 きっと、あの櫛田さんも周囲からの評価や顔色を気にして、私に似たようなことを言ってくるのでしょうね……だというのに、零膳さんの場合は本当に心からの言葉だと思えるのだから不思議だわ。

 

 言葉に付随する、ある種の説得力がずば抜けているように思える。そして実際に、彼女の言葉は余計なノイズや感情が入らずに、すっと心の奥に染み込んでくるのがわかった。

 

「龍園くんの無茶ぶりでどうしようもなくなったら私を頼るといいよ、誰かに頼るのはカッコ悪いと思うかい? きっと堀北さんのお兄さんはそうは思わないんじゃないかな」

 

「……」

 

「はい頑張れ頑張れ、君ならどんな困難も越えていけるとも……何故かって? 私がそう信じているからさ、それはつまり君が思っている以上に重要なことなんだと思うよ」

 

 謎理論と共に零膳さんは私の背中を押して先へと押し進める。うだうだと悩んでいた私の葛藤などつまらない小石とばかりに。

 

「あ、そうだ堀北さん、体育祭が終わったら私が生徒会長になるからさ、君も生徒会に入ってよ。そんでさ、お兄さんを見返してやろうぜ」

 

 本音なのかおべっかなのかはわからないけれど。どこかおちゃらけた様子でそう言った零膳さんは私の背中を押して強制的に歩かせるのだった。立ち止まっている時間なんてないぞと言わんばかりに。

 

「堀北さんに足りないのって結局は自信なんじゃないかな……あ、能力云々じゃなくて、己を心から信じるって意味でね」

 

「どういうことよ」

 

「大した意味はないさ、私はなんかそれっぽいこと言って頭よく思われたいだけの人間だからさ」

 

 最後に彼女はグッと力強く私の背中を押して手を放す。肩から感じていた熱が消えたことに僅かな心残りを感じながらも、私は待ち構えているであろう龍園くんへと立ち向かわなければならない。

 

「……慰めてくれたのかしら?」

 

「いや? 単純に君が困ってそうだから、声をかけただけ」

 

「そういうことにしておくわね……ありがとう」

 

 素直に感謝の言葉が出た、自分でも驚くほどにすんなりと。

 

 きっと相手が櫛田さんや綾小路君、そしてクラスメイト相手ではこんな言葉はすんなりと出てはこないのでしょうね。

 

 彼女と話していると、人生経験豊富な大人と話している気分になってしまう。だから素直に感謝することができた。

 

「よし、少しは調子が戻ったみたいだね。後は龍園くんをシバくだけだけど、一人でいけるかい?」

 

「何も問題ないわ」

 

 そう、何も問題はない、こんな所で挫けているようではこの子にも、そして兄さんにも近づくことはできない。わかってはいたけれど、見ないフリをしていただけだ。

 

 憧れているだけでは決して敵わない、きっと背中に手を伸ばし続けるだけで終わってしまうのだから。

 

 決意と勇気を胸に、まずは目の前にある困難を乗り越えて見せる。結局、その繰り返しでしか兄さんにも零膳さんにも追いつけないのだから。

 

 

 せめてこの子には、弱い子だと失望されたくない。貰った分の勇気を返せるように強くあろう。そう思いながら私は背中を見せて歩き出すのであった。

 

 

 

 

「やっぱ黒髪スレンダーなんだよね、腰つきえっろいわ~……帆波と並べて抱きたい。いや、抱く……う~ん、このムラムラは、100メートル走勝負で勝った代金として、澪を抱くことで鎮めようかな、一旦ね」

 

 

 

 

 少し離れた段階で零膳さんが何かを呟いていた。風に搔き消されて私に届くことはなかったけれど……きっと優しい彼女のことだから、私を応援してくれたのだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 南雲side

 

 

 

 

 

 

 一年生の女子にしてはやるな……それが俺が零膳へと向けた評価の全てだった。

 

 

 大したもんだぜ、俺にそう思わせるのはな。まさか堀北先輩以外で俺をここまで楽しませてくれる奴がいるとは驚きだ。

 

 零膳一美。勿論その名前も顔も知っている。テレビをつければ何かしらの番組やCMで見るからな。

 

 体の全部が芸術品みたいな女と言っても過言ではないだろう。同年代の男からしてみればまさに一番星だ。

 

 だからこそ零膳がこの学校に入学したと知った時は期待したもんだ。そしてこいつは期待以上の成果を見せてくれた。堀北先輩にすぐさま認められて生徒会に入り、一年のクラス闘争でも目まぐるしい結果を作る。

 

 なるほど、こいつは期待以上だな。そのリーダーシップも、クラスを纏め上げて結果を残す能力も、輝くような瞳も艶のある髪も、鈴のような声も黄金比のような肉体も、全てが特別な存在だろうな。

 

 俺は俺が理想とする生徒会に零膳がいて、俺の少し後ろを歩いている姿を想像することで気分がよくなるのがわかる。宝石のような女はまさに俺の隣で輝くことが自然なのかもしれないと、そんな妄想に酔いしれる日々が始まったとさえ言えるのかもしれない。

 

 あの声も、体も、俺の隣にあるべきだと自然に考えるようになるまで、そこまでの時間は要らなかったな。

 

 アイツを見て知ってしまってからというもの、他の女がどうにも色褪せて見えてしまう。俺の中で魅力的な女の完成図が零膳になってしまったからだ。

 

 なずなの奴がそんな俺を見て「また始まった」みたいな顔をするが、今回ばかりは言っとくけどマジなんだぜ。

 

 これが恋って奴なんだろうな。生まれて初めて知った感情だった。

 

 アイツが俺の生徒会で働き、俺の少し後ろをついて回る、そして俺だけを信じて俺だけを尊敬する、そんな想像をするだけで股間が熱くなるのがわかる辺り、本気の恋ってことだんだろう。

 

 その髪も、体も、魂も、俺の傍で輝く為にある……これは確信だ。

 

 

 

「はぁ、はぁ……やるな零膳、一年生の女子とは思えない走りだったぜ」

 

「ナグモセンパイ、ハヤーイ、コレハカテナイヤー」

 

 体育祭最後のリレー勝負は激闘だったな。零膳のクラスメイトはどいつもこいつも高い能力を持っており、序盤から終盤にかけて上級生が相手でも引けを取らない走りを見せていた。

 

 アンカーである零膳と俺が最後の最後まで争う走りだったが、最終的にゴールテープをもぎ取ることができた。

 

 まぁ、一年生の女子が相手なんだ、当然と言ったら当然か。

 

 零膳も一位になれなかったことを、荒い息のまま悔しがっているのがわかる。どうやら俺に勝てるつもりだったようだが、さすがに相手が悪すぎるだろう。

 

 いや、それでも足掻こうとする姿は愛らしくはあるな。本当の強者を知らずに頑張る女子は見ていて楽しくもある。

 

「むぅ、南雲先輩、わかってたけど強敵ですね」

 

 リレー終わりに給水所で水分補給をしながら、零膳は悔しさをにじませた顔でそう言ってくる。こいつにそんな風に思われるだけで自尊心が擽られるのは悪くはない。

 

「おいおい、今更気づいたのかよ」

 

「だってぇ、やってみなきゃわからないじゃないですか」

 

「だが実際戦ってみてわかっただろ」

 

「はい、足の速さには自信があったんですけど、南雲先輩には勝てそうにありません」

 

「まぁ、お前も一年の女子の割には速かったぜ。俺にそこまで言わせたことを自慢したっていい」

 

 実際に、俺以外の奴がアンカーだったら負けていただろうからな。零膳は頭だけでなく運動能力も高い。それこそ運動部でトップを張ってる男子でもなければまず勝てないだろう。

 

「はぁ~、自信はあったんだけどなぁ……こんなんで生徒会長になれるのかな」

 

「おいおい、今更諦めるってのか? 生徒会じゃああれだけ元気よく立候補してたじゃないか」

 

「それはそうですけど、やっぱ南雲先輩がいるからなぁ」

 

 リレーで負けたからか少しばかり自信を無くしてるみたいだな。それはそれで楽ができるので好都合ではあるんだが、せっかく楽しませてくれる一年生が出て来たんだ、こんな所で折れてもらっちゃ困る。

 

 何もかもに敗北して、心から俺には勝てないのだとわからせてやりたいんだ。

 

 しかしどうしたもんか、ここまで自信を無くしていると生徒会選挙を辞退しかねないが……餌でも用意してやるか。

 

 

「今更、辞退なんて詰まらない真似はするなよ……まぁ、俺と戦って自信を無くしたってのはわからなくはないがな。うん、そうだな、それなら俺がもし負けて生徒会長になれなかったその時は、お前にポイントをやるよ」

 

「ポイントですか?」

 

「あぁ、それならやる気も出てくるだろ? 嘘だと思うのなら誓約書を作って学校に提出したっていい」

 

「どうしてそこまで……クラスの人たちも怒るんじゃないんですか」

 

「あいつらが俺の判断を否定する訳ないだろ、なにも問題はないさ……だが、この俺がここまで言ってるんだ、お前も相応の物を支払ってもらうぜ、勿論、言ってる意味はわかるよな?」

 

「……」

 

 零膳は給水所で配られているスポーツドリンクを握ったまま少し考え込む……迷っているようだな、利益と不利益を天秤にかけている。

 

「勝った方が、真の実力者が全てを得る……それが俺が目指すこの学校だ。だから俺はこの戦いに全てを賭けてやるよ、当然お前もそうするべきだ。生徒会長に本気でなりたいならな……それともなんだ、お前はその程度の奴だったのか?」

 

 安い挑発ではあるが、零膳はあからさまにムッとした表情を見せてくる……チョロいな、こういう煽り耐性がない奴はこの学校じゃとても操りやすい。

 

 

 まぁ、まだ一年生だ、動きを誘導するくらいは簡単だな。

 

 

「わかりました、南雲先輩がそこまで言うのなら私も逃げません。互いが持ってる全てを賭けて戦いましょう」

 

「よし、よく言った、それでこそだ」

 

 

 可愛い奴だ、誘導されているとも知らずに。

 

 そもそもこの生徒会選挙で零膳が勝つことはできない。こいつがどれだけ優秀であっても、資金力や影響力ではどうしても二年生が上回るからだ。

 

 内心ではほくそ笑みながらこいつが勝負に乗って来たことをいじらしく思う。絶対に勝てるはずがないというのに、それでもポイントという餌に食いつくしかなかった哀れな一年生だ、少しくらいは同情してやるか。

 

「南雲先輩、私頑張ります」

 

「あぁ、せいぜい俺を楽しませてみせろ」

 

 そして俺が生徒会長になったらこいつの全てを支配してやる。心も体もクラスもポイントも、全てが俺の物となるんだからな……そんな未来を思い浮かべるだけで、股間が熱くなるのがわかった。

 

 

 

 

「でもさ雅、実際に勝てそうなの?」

 

 

 体育祭が終わってすぐに生徒会選挙が告示された。今回は立候補者が二人いたので選挙をする形となり、俺と零膳は学校中の注目の的だった。

 

 そんな俺を気遣うようにクラスメイトたちが、そしてなずなが調子の程を訊ねて来た。

 

「なんだ、なずなは俺が負けるとでも思ってるのか?」

 

「そうは言わないけどさ、最初は立候補者が他にいないから雅が自動的に生徒会長になる流れだったじゃん。でも選挙することになったんでしょ? あの子みたいに動かなくていいの?」

 

 なずながそう言いながら教室の窓から中庭へと視線をやると、そこでは零膳が「清き一票をお願いします!!」とアピールをしているのが見えた。

 

「あんな物は無意味だ……いいかお前ら、選挙で一番大切なのはなんだと思う?」

 

「そりゃ、政策とか、人柄とか?」

 

 なずなは極めてまともな一般論を言った。他のクラスメイトも似たような感想しかださない……まぁこいつらは俺がいないとせいぜいBクラスが限界だった連中だ、こんなもんだろうさ。

 

「違うな。選挙で重要なのは組織票だ。政策だの人柄だの実績だのなんてものは、ただのフレーバーテキストでしかなくて、本当の意味でそれを重視してる奴なんていない。だからアイドル議員とか、タレント議員なんて連中が選挙で勝ったりしてるだろ? 裏にある巨大な組織票が個人ではなく組織として勝たせてくれるからだ」

 

 そして規模は違えど、この学校の選挙でも同じことが言えるだろう。

 

「考えてもみろ、俺は間違いなく二年生の票の大半を自由に動かせる、対する零膳はどうだ? 同じように全ての票を自在に操れると思うか?」

 

「まぁ、一年生もライバル同士なんだし全部が全部とはいかないかな。でもあの子、凄く人気があるよ」

 

「だろうな、仮に一年の票が俺と拮抗したとしても問題はない」

 

「いや、問題しかないでしょ。ウチの学年、それなりに退学者が出てる訳だし、まだ退学者が出てない一年生と比べたら票の母数は少ないよ」

 

 それは零膳が一年の票の全てを自在に操れたらの過程だが、確かに油断はできないな、だが手はもう売ってある。

 

「だからこそ重要なのは三年生の票だ。おそらく零膳は堀北先輩と組んで三年の票をまとめるだろうが、今年で卒業する三年にこの選挙に本気で参加する意義がどこにある? それどころか、票のまとめ役はAクラスのリーダーである堀北先輩だ、蹴落としたくて仕方がない相手の言うことを聞いて一年に投票する……ありえないだろ」

 

「ありえないって断言するのは、油断しすぎじゃない」

 

 なずなは心配性だな。やれやれ、少しばかり不安を拭ってやるか、手のかかる奴だなこいつも。

 

「ありえないさ、三年を動かすのは言葉じゃなくて実利なんだから。元々、堀北先輩と戦う為に準備はしてたんだ、実は三年の一部はもう買収済みなんだよ」

 

 特にBクラスの猪狩先輩とか、なにがなんでもAクラスへ這い上がりたい連中にとって、今は少しでもポイントや支援者が欲しい。

 

「対して零膳はどうだ? 俺が用意する以上の利益を三年に提供できると思うか?」

 

「それは、まぁ無理か……」

 

「だろう? だからこの勝負は端から結果が決まってるんだよ。資金力ではどうしたって一年生の零膳では俺に敵わない。あいつが俺以上の見返りを三年に用意できないのなら、どれだけ一年の票を固めたって絶対に勝てはしないんだ」

 

 それがわかってるから俺は焦らないし、零膳が中庭でやってるアピールなんかもしない。この戦いはそもそも現場努力でどうこうできるものじゃないからだ。

 

 資金力と組織力、それが選挙に勝つ上で一番大事なこと。それを理解していない奴はああして中庭で声を張り上げて泥臭く戦うしかない……まぁ、健気な努力をしている姿は可愛らしくはあるんだがな。

 

 多少は支持を集めるだろうが、結局は無駄な努力に終わる。勝負って奴は、土壇場で焦った所で覆るもんでもない。

 

 

 それでもどこか不安そうに見つめてくるなずなやクラスメイトに対して、俺は不安を和らげさせる為に、いつも通りに道を示してやるだけだ。

 

 

 

「お前らにも見せてやるよ、本物の強者って奴は戦う前から全てを終わらせてるってことをな」

 

 

 そう、俺は既に勝っている。だから、なずなたちの不安はそもそも無意味なんだよな。

 

 安心させるようにそう伝えればクラスメイトたちも安心したのか、何も心配はいらないなと言いたげな表情で教室から解散していくことになる。

 

「よしなずな、これからカラオケでもどうだ? いつもの面子を誘ってさ」

 

「はぁ、そんなことしてる場合じゃないでしょうが」

 

「まだ心配なのかよ、安心しろって。三年にポイントを握らせるだけで勝てるんだからな」

 

「まぁ雅が負ける所は想像できないけどさ」

 

「だろ?」

 

「でも今日は遊びにはいけないかな、放課後は一美と遊ぶ約束してるんだよね」

 

「あぁ、最近付き合いが悪いと思ってたら、零膳と仲良くやってたのか」

 

 すると、なずなは少しだけ顔を赤くして頬をかくしぐさをみせる。

 

「ま、まぁ、そういうこと……仲良くやってるよ、今日もお泊りするんだ」

 

「そうか、まぁいいさ、暇な時にでも誘ってやるよ」

 

「うん、そうして」

 

 なずなもまた急ぎ足で教室を出ていった。この後、零膳と遊びに行くんだろう。それならあいつに零膳が負けた時に慰め役を任せてもいいかもしれないな。俺も大人げなく一年の女子を追い詰めちまってるから、これでも少しばかり悪いとは思ってるんだぜ?

 

 教室の窓から中庭を見下ろすと、そこではまだ零膳がアピールをしているのが見えた。

 

 

 可愛い奴だ、もう決着はついてるっていうのに……無意味で健気な努力をするアイツを俺が支配することを想像すれば、また股間が熱くなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 綾小路side

 

 

 

 

 

 生徒会選挙の公示がされて暫くした後、全校生徒は体育館に集められて最後の選挙演説に付き合うことになった。

 

 オレたち一年生にとっても無関係ではないこの選挙ではあるが、ここ一か月ほどを振り返ってみると零膳たんが色々な所で選挙アピールをしていることを思い出すことができた。

 

 朝、校門前に立って挨拶したり、中庭でアピールしたり、放課後なんかもよく応援お願いしますという声が聞こえて来たからだ。

 

 対する二年生の男子生徒は何をしていたのかわからないが、零膳たんがあれだけ頑張ったのだから報われて欲しいと彼女に関わった者ならば思うのかもしれない。

 

 体育館に並べられた椅子に学年ごとに座って、オレたちは生徒会選挙の締めくくりとなる最後の演説を待つのであった。

 

 最初に壇上に立ったのは二年生の先輩だ……名前は南雲とか言ったか、零膳と違って全く表に出てこなかったので最後まで印象の薄い男である。だが壇上に立つその姿は自信に満ち溢れており、負けることは一切考えていないのは伝わるだろう。

 

 自信満々に、余裕のある笑みを浮かべながら体育館の壇上に立った南雲は、少しだけ全校生徒を睥睨すると、やはり自身に満ち溢れた声でこう言い放つ。

 

 

「まぁ、長々と語った所で意味はないからな……俺が生徒会長になったら、この学校を真の実力主義に変えてやるよ。黙って俺についてこい」

 

 

 それだけだった。まるでオーケストラの指揮者のような雰囲気を出しながらも、具体的なことは何も言わず、三十分の演説時間を僅か数十秒で切り上げてしまう。

 

 あの自信、勝ちを確信しているということか。二年生が座っている列からサクラと思わしき大きな拍手が広がっていき、それは徐々に体育館に広がって行って、あまりにも短い演説に困惑している一年生へと届く。

 

 さて、見ものだな、零膳たんはどう対抗するのか……あの南雲という二年生は騒がず慌てずとも勝てるだけの状況を整えたと思っているのだろう。その自信が虚飾でも偽りでもないと、少なくともあの男の中では確固たる結果が見えているに違いない。

 

 

 南雲と入れ替わるように今度は零膳たんが体育館の壇上に立つ。

 

 

「皆さんこんにちは、この度生徒会選挙に出馬した零膳一美です、さっそくですがこの生徒会選挙の最後を締めくくる演説を行いたいと思います」

 

 どうやら彼女は南雲と違って三十分ある演説時間をしっかりと使うようだ。

 

「皆さんはこの学園に来た時、何を思い、どう感じましたか? 進学、就職率、共に100パーセントを謡い、ここを卒業すれば将来が約束されるという宣伝を聞いて、入学することができたことに胸を張っていたのではないでしょうか?」

 

 そこで一呼吸置いて、壇上から周囲を見渡す。相変わらず喋り方や間の取り方がうまく、自然と耳を傾けたくなる声色であった。

 

 

 そんな彼女が、少しだけ感情をこめてこう言い放つ。

 

 

「私は今日ここに来るまで三度失望しました……入学してすぐに失望して、学校の真実が明かされて二度失望して、生徒会に入って詳しい情報を見れる立場になって三度目の失望を経験しました」

 

 

 ざわざわと、困惑が体育館に広がっていくのがわかる。

 

「その上で私なりの結論を出しました。この学校は教育機関ではなく、ただの靴屋だと」

 

 またざわめきが大きくなっていく。

 

「皆さんはシンデレラをご存じでしょうか? 勿論知っていますよね? 綺麗なガラスの靴を履けるお姫様を王子様が探してなんやかんやでハッピーエンドな感じのアレですよ……あれが、この学校の現状です」

 

 

 少しだけ注目を集めるように、大きなため息をマイクに向かってわざとらしく吐きつける。

 

 

「学校は実力主義を謡いながらも、やっていることは豪華な下駄を作るだけであり、教育というものを完全に棚の向こうに放り投げています。この学校の掲げる実力とは、自分たちが作ったガラスの靴を履けるシンデレラを作ることであり、人を教え育てることはあまり重要視していません」

 

 

 そこで零膳たんは壇上に用意されていた大型のプロジェクターを起動して、大きな画面を全校生徒に見せつける。そこに投射されていたのは、過去数年間に渡るこの学校の授業関連の情報であった。

 

 

「こちらの表をご覧ください。こちらは過去数年間の高育における授業時間と特別試験の時間を現した全学年のグラフとなります。見てわかる通り、夏休みや冬休みなどにも容赦なく特別試験が食い込んでいるのがわかりますね」

 

 まぁ、オレたちも夏休みど真ん中に無人島に放り込まれたな。

 

「就職や受験を目前に控えた三年生であっても、長期休暇という大事な時間をすり潰して特別試験に参加していますね。一般的な教育機関が行っている資格受験対策や、大学受験対策などは、驚くことに生徒の自主性に丸投げとなっております」

 

 プロジェクターには次の情報が記される。

 

「因みにこちらは、全国共通模試や、十八歳になってから受験することができる各種免許や資格試験などの参加率になっております。多少のブレ幅はあれども平均で2パーセントですね……わかりますか? この高育に通う生徒の中で、全国共通模試だったり、車の免許や各種資格の受験をしたいと申請したのが、毎年それくらいしかいないということですよ」

 

 少しだけ憤ったような様子を見せているが、あれは聞き手から共感されたい為のポーズだな。

 

「何故でしょうか? 生徒にとってどれも重要なことなのに、異様に参加率が低い。答えは簡単です、この学校は貴方たちを育てるつもりがないからです。特別試験という対決ごっこを優先して、教育機関が果たすべき責務を捨てているのは一目瞭然となります。生徒の自主性に丸投げしてガラスの靴を作るのに集中しているからですね……Aクラスで卒業できるシンデレラがざっと四十人前後いれば、それで良いんですよ」

 

 

 なんとも辛辣な物言いである……おそらく誰も否定はできないだろうが。

 

 

「そして恐ろしいことに、この学園に通う生徒はそこに疑問を持ちません。学校から貰えるガラスの靴を履けるように足を加工して、そうすれば未来が約束されると甘い考えを持っています。将来、皆さんの中には大きな舞台に立ちたいと願う人も多いでしょう、政治家になりたい、スポーツ選手になりたい、一流企業や一流大学に入りたい……しかし残念ながら、ガラスの靴を履けても真剣勝負の場で勝たせてくれる訳ではありません」

 

 

 当たり前と言えば、それまでの言葉ではあるが、零膳たんからしてみれば多くの生徒がその当たり前を理解していないように見えたということか。

 

 

「ハッキリと言いましょう、この学校は教育機関として破綻しています。特別試験で生徒の競争心や根気を伸ばすことは正しくとも、それが行き過ぎて今となっては実力を伸ばすのではなく、いかにガラスの靴に合う足に加工するかが重要視されています……私の失望がいかほどであったのか、皆さんも少しは理解してくれたでしょうか」

 

 彼女にとって、周りの生徒は少しおかしく見えていたのかもしれないな。

 

「特別試験での勝敗を煽るあまり、いかに他者を蹴落とすかが重要視されている現状は、もはや経営陣の怠慢失策と甘えとしか言えません、学校はこれでいいだろうと投げやりになり、生徒は生徒でこれでいいかと投げやりになる……社会に出てから本当に必要とされる者は、120人を蹴落とせる者ではなく、120人を味方にできる者だと、私が教育者ならば教えますが……まぁ、目的と理念が盛大にズレてしまっている現状では意味がありません」

 

 そこで零膳たんは大きく息を吸って、力強く宣言をする。

 

 

「だから私は生徒会長になりたいと思っています」

 

 

 強い意志が宿った宣言は、自然と聞く者の背筋を伸ばす。

 

 

「さて、前置きが長くなってしまいましたね!! ここまで散々、この学園をこき下ろしてきましたが、実はそんな学園でも私が他の教育機関とは異なる特別な長所だと思っている所があります」

 

 

 またプロジェクターに写された画像が入れ替わる、今度は予算表だった。

 

 

「それは予算です。この学校には国家予算から資産家の寄付に至るまで、それはもう莫大な予算が集まっています。残念なことにこれだけの予算がありながら作っているのはガラスの靴ですが、まぁ今更気にしても仕方がありません、長い目で改善していきましょう、ここは靴屋じゃなくて学校なんですからね……さて、はいここ注目」

 

 今度は親しみを感じられやすいように、少しばかり砕けた口調に変えると、持っていたレーザーポインターでプロジェクターの一部を指し示す。

 

「とんでもない予算があるよね、これが高育の年間予算。私が生徒会長になったら、これらの予算の一部を、返済不要の教育支援資金に充てたいと考えています。要は経済的に大学進学が厳しい生徒向けの救済案ってことだよ」

 

 またざわめきが体育館に広がっていく。

 

「さっき私はガラスの靴って表現で学校を馬鹿にしたけど、実は少しだけ認めてる部分もあるの。その靴があれば経済的に困ることなく進路を選べるだろうからね。だから必要としている人の為を思えばAクラス特権も完全には馬鹿にできないんだ……まぁ、尤も、靴があっても真剣勝負に勝てるかどうかは結局は本人次第なんだけどさ」

 

 ざわめきの中心は、三年生だな。これから受験を迎える三年にとっては零膳の言葉は大きな衝撃になったらしい。

 

 確かに、もしAクラスで卒業できなくても、経済的な支援が得られるのならば志望校を目指すハードルは下がると考えても不思議はない。実力があっても経済的な負担が厳しい生徒なんて、珍しくもないだろうからな。

 

「あぁ、後、報酬制度の明確化も整備したいって思ってます。さっき出たデータだと全国共通模試で高い順位になった人にはプライベートポイントを一定額支給するとか、資格取得したりとか、もっと言えば部活で明確な成果を出したりとかさ。これなら地面を舐める勢いだった共通模試への参加率とかも改善されるだろうし、みんなのやる気も上がるでしょ?」

 

 これは餌だな。極めて真っ当な政治的アピールだ。要は零膳たんは有権者に対して自分を支持してくれればこういう利益があるとわかりやすく主張している。

 

 

「さて、長々と語っちゃったけど。私が言いたいことを纏めるね。皆さん、Aクラスで卒業することは大切だけど、本当に重要なのはその先にあるからそこをゴールと決して勘違いしないように。そして例えAクラスで卒業できなかったとしても、私はみんなに経済的な支援をできるシステムを用意したいと思っています……輝かしい未来を描くには、沢山のお金と、そのお金でどれだけのチャンスを作れるかが重要なんじゃないかな。そういった意味では、この学校は最高の舞台さ!!」

 

 

 だから、と零膳たんは言葉を言ったん区切って生徒たちの注目を集めて見せた。

 

 

「私は生徒会長になりたいです……皆が、決してAクラスで卒業することだけに、人生の全てを賭けるような、そうできなければ何もかもが終わりなんだとズレた未来を思い描かないように。お金とチャンスとシステムを用意したいから、清き一票をお願いします」

 

 

 演説の最後をそう締めくくると、体育館には自然と拍手が広がっていた。南雲が用意していたサクラとは違って、全学年から広がったそれは、彼女の言葉に多くの者が納得したからだろう。

 

 実力とは、未来とは、成功とは、結局Aクラスで卒業することはそこまで重要ではなく、最終的には己自身で積み上げていかなくてはならない。そんな当たり前の事実を、多くの生徒が改めて理解したということか。

 

 各々が未来を思い描く為に、金は無駄に予算が有り余っている学校に用意させる。零膳たんの選挙演説はつまりそこへ集約されていた。わかりやすくはあるな。

 

 

 

 オレは大きな拍手が広がる体育館の現状を見て、この選挙は零膳たんの勝利であると確信したので、応援用に持っていたサイリウムと「零膳たんしか勝たん」と書かれた団扇を懐へ戻し、腕を組んでただ力強く頷くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

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