よう実RTA 決闘者チャート 作:KKKK
龍園SIDE
どうやらこの学園には馬鹿がいるらしい。決闘部なる意味不明な部活を設立したDクラスの生徒への評価はだいたいがそんな感じに落ち着くだろう。
勝てば大量のポイントが得られる。そんなでかい釣り針と餌で対戦相手を集めてポイントの集金システムを作ろうとしていることはわかるが、そう上手く行くとも思えねえ。
一笑して終わらせる。それが普通なのだが、事実としてこの本剛防人という男は入学して早々にそのシステムを思いついて実際に行動に移せるだけの相手ということなんだろう。
俺がざっくりと八億を集めるべきだと考えている間に、奴は既に集金システムを形にしていた……ならば俺は奴を馬鹿だとは認識しない。
この男は本物のアレなのか、それか馬鹿を通り越した大馬鹿であるかのどちらかだ。
それを確かめる為にもまずは情報が欲しい。奴の集金システムを将来的には利用することもできるかもしれないからな。
「龍園さん、あそこみたいです」
特別錬にある空き教室が例の決闘部の部室であるらしい。舎弟になった石崎が指差す先には確かに決闘部と書かれた表札が掲げられている。
「クク……邪魔するぜ」
ノックも無く部室の扉を開くと、そこでは頭を抱える三年の女と例の馬鹿がいた。
机を挟んで向かいあっており、その間にはオセロが広げられていた。どうやらこのオセロで戦っていたらしい。
女が頭を抱えていることからそちらの戦況が悪いのだろう。盤面を見てみると確かに本剛の方が圧倒的に優勢であることがわかった。
「もう一回……もう一回よッ!!」
「猪狩先輩だったか? その前に十万ポイントをまず払え、そういう契約だろうに」
三年の女、猪狩という生徒はその言葉に悔しそうに顔を歪めて自分のポイントを確認してから、泣く泣く挑戦料を払うことになる。
「もう一回したいというのならばこちらの契約書に同意してくれ、さっきと同じようにだ」
そう言って本剛は契約書を差し出す。それを見て猪狩は不満そうにしながらも今更引けないと思ったのか名前を書いて指印も押し込む。
ダメだなアレは、勝てば全て帳消しになると思ってやがる。典型的なギャンブル破産者の面だ。
「ふむ、確かに契約は結ばれた。俺が負ければそちらは百万を得る」
馬鹿な女はさっき負けたばかりだというのに懲りずにまたオセロで挑む。そしておそらくこの調子ではまた負けるのだろう。
こいつの末路はどうでもいい。俺にとっては情報をくれる都合の良い相手だからな。
「……監視カメラはあるか」
つまりこのやりとりは学校側も把握している。だとすればこの賭場も事実上黙認されているということだ。これは面白い事実ではあるな、将来的に何か役に立つかもしれねえ。
「そちらは何用だ? 悪いんだが今日の予定は全て埋まっているんだ。交流会に参加したいならばそちらのカレンダーに予約を書き込んでくれ」
「クククッ……交流会ねぇ、物は言いようだなおい」
本剛はオセロに集中しながらもこちらに喋りかけて来る。視線はずっとオセロ盤に固定されているが、こちらのことも把握していたようだな。
チラッと、部室に壁に張り付けられていたカレンダーに視線をやると、そこには7月までびっしりと交流会の予約が記されているのがわかる。
随分と繁盛しているようだな。知ってる名前もチラホラと見える。六月一日は坂柳がチェスで挑むらしい。一年の名前もあるが多いのは三年生だな。
卒業を意識する学年だからこそか、なるほど上手く考えるもんだ……まぁ勝ち続けられればの話だが。
「あの龍園さん、伊吹の名前がここにあるんですけど」
「あぁん?」
予約のカレンダーを眺めていると石崎がウチのクラスにいる生意気な女の名前を発見する。確かにアイツの名前が書かれているな……何をやってんだアイツは、わかりやすい沼に嵌ろうとしてることに気が付いてるのか?
対戦方式は空手、挑戦権は十万……おい待て、そんなポイントをアイツが持ってる筈がねえ。
「おい、本剛、俺たちも予約させてくれや。だがその前に契約書を確認させろ」
「構わんぞ、好きなだけ検分しろ」
特に隠すことでもなかったのか、本剛は大量に用意されていたコピー用紙を指差す。一枚捲り取って契約書を確認してみると……あぁやはりだ、手数料込みの後払い方式になってやがる。
この交流会とは名ばかりの決闘ギャンブルは、前払いではなく後払いと契約書に書かれている。正確には勝敗が決した瞬間に支払い義務が生じる内容だ。
つまりその時まで財布にポイントが無かったとしても「勝負自体は成立」するということ。後払いであるのならば勝てばいいと考えて挑む馬鹿もまぁいるんだろう。
そして払えなかったらどうするか。契約書には延滞手数料と称して追加でポイントを払う旨が記されてやがる。リボ払いと言うべきか、分割払いと言うべきか、月初めに学校から支払われるポイントはソイツに支給されることはなく、学校側から本剛へと流れる形になる訳だ。延滞手数料込みでな。
伊吹……脳筋組だとは思ってたがここまで馬鹿だったか。これでまだ俺たちのように情報を得る為に踏み込んだならまだ救いようがあるが、十中八九デカい釣り針に引っかかった口だろう。
馬鹿がッ!! もう少し冷静になりやがれ!!
そんな風に俺は思うのだが、このカレンダーに記されている予約の数を考えると俺が思っている以上に間抜けな連中が多いらしい。
この学校ではポイントによってクラスを移動できる権利がある。2000万を貯めれば一抜けできる。それはAクラス以外の奴からしてみれば抗いがたい魅惑を放つってことか。
なるほど、面白い集金方法だ。勝ち続けられれば最終的には莫大なポイントが転がり込んでくる。
普通ならば冷静になる、なるはずだが、頭を冷やすにはこの決闘システムと学校のシステムが恐ろしいほどに上手く絡んでやがるな。
2000万というバカでかい餌に、食いつかない筈がないということか。
本剛は馬鹿だな、しかし突き抜けた大馬鹿だということはよくわかった。情報収集はこれでいいだろう。システム面に関してはわかったが、次は奴の実力を知りてえが……偵察がてら石崎かアルベルトを挑ませてみるか。
それでアイツの実力を正確に把握する。それが重要だ。
その前に伊吹を引っ叩いて冷静にさせないとな。まさか俺がギャンブルに嵌るな、なんて正論で人を諭す日が来るとは思わなかったぜ。
本剛のシステムは知ることができた。実力はこれから把握していくとして、一応は俺の計画の参考にさせて貰うとするか。リスクがデカすぎるシステムだが確かに参考にできる部分はあるしな。
「帰るぞ石崎」
「え、良いんですか?」
「ある程度は把握できたからな。アイツは本物の大馬鹿だ、それがわかっただけで十分だろ」
一応、アルベルトを柔道で挑ませて偵察させるか。そう思ってカレンダーの中で空いている日に名前を書き込んでおく。
ギャンブルに参加するのではなく、あくまで偵察だがな。
こいつのシステム上、際限なく餌をデカくしなければ人を集められないだろう。最終的に積み上がったそのポイントをこちらで奪えば良い。
つまらない学校だと思っていたが、どうやらなかなか楽しめそうじゃねえか。
坂柳SIDE
面白いシステムを作ったようですね。それが校内放送を聴いた私の感想でした。
この学校のシステムと、彼が作った決闘システムは上手く絡み合う。ただ懸念があるとすればリスクが大きすぎるという点でしょうか。
本剛防人君、噂はこちらにも届いていましたね。入学してからすぐに色々な部活に顔を出して道場破りまがいのことをしていたと。
おそらくそれ自体がこの決闘部の宣伝であり広告でもあった筈。
ただの愚か者なのか、それとも自分は負けないと確信している自信家なのか、それを確かめる為にも私は決闘部へと向かいました。
「用件は?」
決闘部の扉を開くと、そこには件の本剛君が待っていました。どうした訳か彼は参考書を開いた状態でスクワットを繰り返しています。
だというのにまるで何事もないかのようにこちらに要件を尋ねて来る様子に、少し出鼻を挫かれた気分になってしまう。
「何故、参考書を開いてスクワットをしているのですか?」
「おかしなことを言う、鍛錬と勉学の為に決まっているだろう。空いている時間の有効活用だ」
「……そうですか」
身体の弱い私にはよくわからない感覚ですね。これは一般的な高校生の常識なのでしょうか?
「それで用件は?」
「決闘部の交流会に興味があるんですよ。聞けば挑戦方法はこちらで指定できるとか……ふふ、私、少しばかりチェスを嗜んでいまして、一局どうでしょうか?」
「ふむ、今日はもう対戦予定がないから構わないが……良いだろう、ではこちらの契約書にサインしてくれ」
来ましたね、彼が用意した契約書。これが見れれば彼の考えた集金システムをある程度は把握することができるので目的の一つでもありました。
なるほど、挑戦料は前払いではなく後払いですか。勝負自体は手元にポイントが無くても成立させることができるのはいやらしいですね。払えない場合は月初めに支払われるポイントが手数料込みで差し引かれてしまう。
この緩やかな借金が続けば最後には冷静さを失って彼に挑むしか選択肢が無くなってしまうかもしれません。彼が垂らす餌があまりにも大きいが故に。
勝てさえすれば一発逆転が可能になる。借金も膨れ上がる手数料も、全て帳消しにできる。
そして支払いに関しては応相談とも書かれている。これはクラスポイントが肩代わりにされる形にだってできそうです。
悪くはありません。やはり負けた時のリスクが大きすぎることが懸念ではありますが、それを差し引いても一定の評価を与えましょう。
「因みにお尋ねしますが、チェスはできますか?」
「あぁ、そこは問題ない。こんな部活をやっているんだ、チェスで挑まれる展開も想定している」
「ふふ、自信はあるようですね。それがいつまで続くか見ものです」
「チェス盤と駒を検分してくれ、先攻後攻はそちらで選んでくれて構わない」
どうやら本当に自信があるようです。チェスに限らずこういった競技は基本的に先行有利なのですから。
感じ取れたのは自信、揺るがない意思……面白い、少し遊んであげましょうか、上には上がいるとわからせるのも一興です。
私は優秀な両親の遺伝子を受け継いで生まれた天才、もし私に匹敵する相手がいるのだとすればそれはあの白い部屋にいる彼だけ――。
その揺るがぬ自信が本物なのかどうか、証明してみてくださいな。
そんなことを思って余裕綽々で挑んで三十分ほど、私は一方的な敗北に追い込まれたのでした。
あれ、おかしいですね、どうしてこうなってしまったのでしょうか。
「こちらの勝ちだな」
「……」
「おい、聞いてるのか?」
「ッ……えぇ、聞いていますよ」
「結果に納得したのならばポイントを支払ってくれ。払えないのならば来月の支給日に不足分を差し引くことになるぞ」
「いえ、大丈夫ですよ。この場で支払いましょう」
幸いにも今は五月が始まったばかり。ポイントには余裕があります。
「確かに、支払いを確認した。今後ともこの交流会に参加してくれると嬉しい」
「……」
なるほど、こんなシステムを作るくらいなのですから相当に自信があるのでしょうね。そして実際に油断していたとはいえ私を凌駕してみせた。ならば彼は愚か者ではなく確かな才能を持った人物であるということでしょう。
面白い、認めてあげましょう。貴方は私の敵として楽しませてくれるとね。
「しかしあれだな、自信満々に挑んできた割には大したことがなかった」
「……はい?」
「ん? あぁ、すまない、ついな……独り言だから気にしないでくれ」
「おやおや、あんなに大きな声で独り言だなんて、少し無理があるのでは?」
「ではハッキリと言っておこう、正直期待外れだった。もう少し善戦してくれるものかと思っていたんだがな」
「ほう……言いますね、こちらはまだ様子見であり値踏みの段階だったんですよ。勝ちを拾わせてあげたと理解できないようですね」
「言い訳は不要だ。余裕だとか様子見だとか値踏みだとか、目の前の戦いに集中できていない者が言った所でつまらぬ雑音でしかない」
「……」
「何度でも言ってやろう、期待外れだよ坂柳」
「安い挑発ですね。わかりますよ、そうやって私をムキにさせてまた挑ませようとしていることくらいは」
「なんだ、わかってるじゃないか」
「生憎と、私はそこまで愚かではないんです、残念でしたね。今日ここに来たのは偵察と情報収集が主な目的、そしてそれは達成することができましたので満足しています。どうやら貴方は私を楽しませてくれるようです。誇ってもいいでしょう、こちらも退屈しなくて済みそうでなにより」
そう、私は冷静だ。想定より相手が上手であったが、それ自体は嬉しい誤算というもの。いずれ私が勝たなければならないあの白い部屋の彼に挑む前の試金石にできるでしょう。そう考えるといい時間であったとさえ言える。
私は目的を達成したので椅子から立ち上がってこの決闘部の部活を去ろうとする。あくまで余裕を残したまま優雅に。
「うん? 待て、坂柳か……確かこの学園の理事長も同じ苗字だったな、もしかして父親か?」
「えぇ、それが何か?」
しかし部室のドアノブに手を触れた瞬間に彼は待ったをかけてきた。
「なるほど、だからか」
私は冷静、つまらない挑発に踊らされるほど愚かではない。
「……何を仰りたいんでしょうか」
そう、この程度の挑発なんて掠りもしないのです。
「いや、なに、きっと父親の配慮があったんだろうなと、なんとなく思っただけだ」
「残念ですね、さっきも言いましたがつまらない挑発など無意味です」
「だが多少お利口で駒遊びが得意なくらいでAクラスになれたのは少し不思議でな……あぁ、気にする必要はないとも、俺はそれなりに理解のある方だ。我が子は可愛いものだとも」
「私の父は公平な人ですよ」
「そうか、そうなのか……お前がそう言うのならそうなんだろうな、お前の中ではな」
私は冷静、私は冷静、この挑発はまた私にポイントを支払わせようとする手段でしかない。踊らされる必要はなにもない。
「……撤回してください」
こんなわかりやすい餌と釣り針に構う必要なんてない。しかし私の口は何故か勝手に食らいついていた。
挑発が刺さったと確信したのだろう、本剛君は唇を緩めている……クッ、その顔を止めなさい。
「断じて撤回するつもりはない、お前は親の配慮に甘えているだけのつまらん女だ。せいぜい恵まれたクラスメイトに支えられて自分は実力者なんだと思いあがっていればいい。良い青春じゃないか」
「……」
「……」
そこで私と彼は互いに微笑み合って黙り込む。言ってはならないことを言ってしまいましたね? そこから先は戦争ですよ。
「思っていたよりも研究会の参加者が多くてな、次の挑戦をするならばまず予約してくれ」
彼はそう言って部室に壁に張り付けられていたカレンダーを指差す。
そして私は六月一日、ポイントの支給日に自分の名前を書き込む。当然ながら競技はチェスとなります。
「私が勝ったら撤回してもらいますからね」
「構わんぞ、なんだったらお前の奴隷になってやろう」
「大きくでましたね、何をしても文句はないと」
「負ければ死んだも同然だ、死んだ人間にプライドなど不要だ。裸になって学校中を走り回ってやるよ」
「その言葉、決して忘れないようにしてください」
「お前も挑戦料を忘れるなよ」
こうして私たちは再戦を誓い合うことになりました。乗せられていると自覚しながらも、引くに引けないのですよ。
なぁに、勝てばいいんです、勝てば。