よう実RTA 特殊トロフィー最速取得チャート 作:KKKK
一之瀬side
少しだけ、心に余裕ができたような気がする。
それも一美ちゃんの生徒会選挙演説を聞いてからだと思う。あの演説を聞いてからと言うものの、自分がこれまでどれだけ視野が狭くなっていたかを自覚したんだよね。
この学校に来て、特殊な制度を聞かされて、クラスを率いる立場になってから、多分だけど自分でもわからない内に追い込まれていたんだと思う。
自分は勿論だけど、クラスメイトを守らないといけない、Aクラスで卒業しなければならない、そうしなければ全てが終わる、そんな風に考えてたっけ。
別に不満がある訳じゃなかったけど……ほんのちょっとだけ、小さなストレスが積み重なっていくような感覚はあった。
それが視野を狭くしていたんだろうね。Aクラスで卒業することに固執するあまり、その先を見てはいなかった。そこがゴールであって、そこが人生の全てだと無意識の内に刷り込まれてたのかな。
当たり前のことなのに、その当たり前に気が付いていない人が私も含めて多かったんだと思う……そう考えると、一美ちゃんは他の人と距離感と熱量に悩んでいたのかもしれない。
一美ちゃんが演説で提示した奨学金制度は、凄く私の心を軽くしたように感じる。やっぱり金銭面での不安が私にはあったし、Aクラスで卒業する最大の理由がそこにあったからだ。
けれどもし返済不要の奨学金制度を受けられるのならば、それは私にとってAクラスで卒業するのと同じ意味を持つ、お母さんにこれ以上の負担をかけなければ、正直なことを言えばAクラスで卒業できなかったとしてもかまわない。
だからだろう、少しだけ心が軽くなった……軽くなったからこそ、視野が広まったようにも思える。
今まで見えていなかったことに気が付き、これまで知らなかったことに気が付ける。特別試験でもそうだし、日々の生活の中でも同様だった。これが多分、視野が広まるってことなんじゃないかな。
勿論、Aクラスで卒業することを諦めた訳じゃない。私のクラスメイトの中にもやっぱり特権を欲しいって思う人はいるだろうし、そんな人たちの為にもこれまで以上に頑張らなくちゃいけない。
きっと、Aクラスで卒業することに執着して盲目になっていた頃の私では、ここまで前向きに余裕をもって特別試験に挑むことはできなかったんじゃないかな。
それに気が付かせてくれた一美ちゃんには、とても感謝している。あの演説の言葉で、そして私を生徒会に誘ってくれたことで、どれだけ私の視野は広がっただろうか。本当に感謝してます。
今まで以上に余裕をもって、今まで以上に前向きに、自分とクラスメイトを成長させながら進んでいける……そんな決意と思いを、踏みにじるような特別試験がやってきた。
ある日、突然に、一年生だけに用意された特別試験によって、私たちはクラスメイトの一人を退学にしないといけなくなった。
「いやぁ、アホ丸出しだね。退学者がでなかったから、強制的に退学者を出しますなんてさ。いやいや教育機関として破綻してるでしょ、そこは優秀な学年なんだって喜ぶべき所なのにさ」
一美ちゃんが呆れたようにそう言うのも、仕方がないと思う。多分、同じように感じている生徒の方が大半だろうから。
「一美ちゃんはどうするの……その、今回の試験」
「まぁポイントは余ってるしねぇ、切り捨てられるような子もいないし、ポイントで救済かな」
「……そっか」
さすがだ、こんな滅茶苦茶な試験が突然やってきても。一美ちゃんは決して慌てず冷静なままだ。
「帆波は? どうするつもりなの?」
「私は……勿論、救済するよ。私のクラスに退学になっていい生徒なんて一人もいないから」
「いや、現実的な問題として、ポイント足りる?」
「にゃはは、そこなんだよね」
足りない、それも頑張ればどうにかなる額じゃないくらいに足りない。クラス中のポイントを集めたとしても同じだ。
そう、だから私は一美ちゃんに頼るしかなかった。学校が終わると同時に会わないかと催促して、こうして部屋へ招かれていた。
差し出されたレモンティーで緊張で乾いていた喉を潤した私を、一美ちゃんは自分のベッドに腰かけた姿勢でどこか面白そうに眺めてくる。
あれ、なんだろ、なんかデジャヴが……あ、そうだ、これって夢で見たシチュエーションと同じなんだ。
いつも見てる夢の内容だと、このまま私は一美ちゃんと……いや、待って、止めよう、とても真面目な話をしてるんだから。
「一美ちゃん」
「はいはい」
「ポイントを、貸してください。私にできることならなんでもするから」
私はクラスメイトを守る。その為のリーダーだし、それができなければ皆を率いる資格がないと私は思っているから。
決意を込めて頭を下げると、一美ちゃんはクスクスと少しだけ笑って見せる。
「帆波は優しいねぇ、貴女のそういう所、凄く好き」
褒められて頬が熱くなった。一美ちゃんにそう思ってもらえることに、感情や体がザワつくんだよね。この子に褒められるという事実が、とても誇らしく感じるようになっているんだよね。
一美ちゃんは微笑みながら自分が腰かけているベッドの隣をポンポンと叩く。私はそれに促されて彼女の隣に腰かけた。
凄い……すっごく良い匂いがする。頭がクラクラするようなそれは隣に座ったことでより強くなったような気もする。
うわぁ、これも夢で見たシチュエーションだよね……この後に、夢の通りならとんでもない感じになるんだけど、いやダメダメ、何を期待してるんだろ。
なんてことを妄想していると、一美ちゃんは突然に距離を詰めて来てピッタリと体を引っ付けてくる。
柔らかい、良い匂い、体が熱くなる、心臓が痛いくらいに高鳴っている……ゆ、夢で見た光景と同じだぁ。
「ポイントなら貸してあげるよ、それも無利子無返済の催促無しでね」
「え、本当に?」
「うん、だって帆波が困ってると私も嫌な気になっちゃうもの」
そう言って、一美ちゃんはピッタリとくっ付いた太ももに手を伸ばして、サラサラと触れてくる。その指先が私の太ももを撫でる度に、体中に甘い痺れが広がるのがわかる。
「んや……待って、ダメ」
「どうして? 人肌って触れ合うと気持ちいでしょ……ん、ちゅ」
太ももを撫でながら今度は私の首筋にキスをしてこられて、その唇の感触を感じるだけで体中からふにゃふにゃと力が抜けてしまう。
何度も夢で見たシチュエーションだからなのか、私はこれから起こることを艶めかしく想像することができて、おへその下辺りがぎゅっと熱くなってしまった。
私、こうなることをずっと期待してたのかな。
「ふふん、私はね、気が付いてるんだよ……帆波が私を見る目が日に日にえっちになってることに」
「そそそそッ、そんなことないけどねッ!?」
「本当に? 一度もこういうことするって想像したことない?」
あります、何度も夢に見てます。
太ももを撫でられながら、そして首回りや鎖骨付近をキスされていると、これが夢なのか現実なのか曖昧になってきてしまう。
いつも夢で見ているから何故か抵抗感が少ないんだよね、それどころか唇の感触をもっと欲しがるように私の口もパクパクとした動きを繰り返していた。
「えっちな帆波に言い訳をあげよっか?」
「い、言い訳?」
「そう、帆波は私からポイントを借りたから、仕方なく受け入れるの。本当は嫌で嫌で仕方がないけど、大量のポイントを受け取っちゃったからね」
そ、そうかな、仕方がないのかな……そうだよね、こんなにポイントを借りてる訳だし、これくらいは受け入れないと、ダメだよね?
そう、一美ちゃんには返しきれないほどの恩があるんだし、ちゃんと受け入れないと。
言い訳を与えられた瞬間に私の心と体はすぐさま一美ちゃんへと寄りかかることになってしまう。まるでこうなることを最初から望んでいたみたいに。
「大丈夫だよ、トロトロのドロドロに溶け合って、身も心も全部甘い痺れで満たしてあげるから……ふふん、もう私がいなきゃ満足できないくらいに愛してあげる」
耳元でそう囁かれた瞬間に、私の中に残っていた最後の理性が焼き切れたんだと思う。ずっとこうされたかったと、ただただ納得するしかないくらいに、素直に一美ちゃんを受け入れたんだから。
「まずは最高のキスを教えてあげるね……はい、あ~ん」
「ん……ちゅ、あむ」
艶めかしい唇と舌が私に差し出されるように見せつけられると、私はそれに答えるように唇を差し出す。
夢で何度も見た光景だったけど、実際に体験してみると夢なんてただの夢だと今では思えるくらいに、甘い時間だったと断言できてしまう。
それ以降、私は夜な夜な見ていたえっちな夢から解放されたんだよね……だって現実の方がずっと甘くて気持ちが良いって知っちゃったから。
その日から私たちはこうして肌を重ね合わせて溶け合うことが多くなって、時には私たち以外の人も混ざって過激な時間を過ごすことになった……まさか坂柳さんや佐倉さん、軽井沢さんや松下さんなんかと、そういう関係になるなんて思ってもいなかったな。
なんていうか、大勢でえっちなことをするなんて乱れてるという自覚はあるんだけれど、一美ちゃんを知っちゃったから私はもうここから抜け出せないんだと思う。
彼女と一緒にいる時間だけは、クラスのリーダーじゃなくて、ただの一之瀬帆波でいられるもん。一美ちゃんも私にクラスのリーダーとしての姿を求めてこない……本当にただ恋人のように溶け合うだけの甘い関係を、私は自分が思っていた以上に楽しむのだった。
月城side
「納得できません。この特別試験は完全に破綻しています。退学者がいないから強制的に退学者を出すだなんて……私はとても間抜けですと自己紹介をしているようなものですよ、ご自覚はおありですか? 何故そこで退学者がでないくらいに優秀な学年なんだと思わないのでしょうか」
私が綾小路先生の命令を受けてこの学校に理事代理として赴任してすぐにやったことは、まずは小手調べの特別試験を用意することでしたね。
綾小路清隆を退学にする為の小手調べ、これで退学になれば私の仕事も終わり、ダメだった場合は二の矢を放つ、それがダメならば三の矢を放つ。
まさかクラス投票如きで退学になるとは私も思ってはいません。そもそもこれは挨拶代わりのようなもの……巻き込まれた他の学生には申し訳ないとは思っていますが、こちらも仕事なのでね、泣く泣く受け入れてもらいましょう。
なんてことを考えながら強権とも言える姿勢で挟み込んだこの特別試験、公示されたその日の放課後には理事長室に面会希望者が現れて、開口一番そう言い放つ始末。
まぁ、気持ちはわからなくはありません、言っていることも至極まとも、反論のしようがないくらいに、ど正論と言えるでしょうね。
しかし、はいそうですかと受け入れて前言撤回するようなことはありません……これが私の仕事なのですから。
だから私は理事長室に乗り込んできたこの学校の生徒会長に向けて、大人らしくこう言い放ちましょう。
「もう決まったことですよ零膳一美さん。どういう意味かわかりますか? 学生である貴女が何を言った所で翻ることのない確定事項ということです。もしこれを止めたいのならば、理事全員を説得するか、この学校の経営権を保持するしかありません。因みに国営の教育機関なので買収するのならば国を相手にということになりますね」
煙に巻く言い方をされて、理事長室へ突撃してきた零膳さんはピクリと眉を動かす。
内心の苛立ちを完全に表に出さないのは学生にしては見事と言えるでしょうね、しかしまだまだ子供、大人の理屈を覆せる力はありません。
「生徒たちが納得するとでも?」
「納得する必要はありません、ただ受け入れなさい。世の中というのはね、君たちが思っているよりもズルくできているんです」
「えぇそうでしょうね。実際に公平である必要はなくとも、それでも公平感は出さなければならないでしょう……これはもう特別試験ではなく、ただ退学者を出したいだけのエゴしか見えません。それともなんですか、理事長にはどうしても退学させたい生徒でもいるんでしょうか?」
「さて、どうでしょうね……仮にそうだったとして、君にできることなど何もない、違いますか?」
「否定はしないんですね」
「そう聞こえましたか?」
零膳さんの瞳がこちらを観察するように細められる。こちらの内心まで見透かすような視線は老齢な政治家でも相手にしているかのような気分にさせられてしまいますね。
怖い怖い、まだ子供だというのに、とてもよい観察眼をしているようだ。
「であるならば、今回だけでなく理事長はこれから先も私情で特別試験を割り込ませて、生徒のことなど欠片も配慮せずにただ理不尽を押し付けてくることも考えられます……この学校は完全に教育機関としての看板を下げた方がいいでしょうね」
「君がここで何を言おうとも結論は変わりませんよ……これは決定事項です、ただ受け入れなさい。子供は大人の言うことを素直に聞くものですよ、知りませんでしたか?」
「子供は大人が思っている以上にその生き方を見ているものですよ、尊敬に足りえない大人の言葉ほどイラつくものはない、知りませんでしたか?」
「なるほど、これは耳が痛い……とはいえ私も仕事なのでね、これ以上喚かれても困ります。あぁそうだ、こういうのはどうですか?」
私は理事長室の机の引き出しからいくつかの書類を取り出して、それを彼女の前に滑らせる。
「……退学届け?」
「えぇ、これ以上不平不満を述べるのならば、君のクラスの何名かが突然に退学することもありえます。勿論、全ては偶然でしかなく、やむを得ない家庭の事情といった所でしょうか」
「……」
その書類を見せつけられた零膳さんの表情が一瞬で凍り付く。そしていっそ殺気する纏っているのではないかと思えるような冷たい視線をこちらに向けてきましたね。そういう所は子供らしくない。
「君は利口だ、そうでしょう?」
「……えぇ、わかりました。私はここで退散します。特別試験の開催にも口を挟みません」
その言葉に私は微笑みと共に拍手を送る。実に利口な学生だと称賛するように。
「素晴らしい判断です。君はとても聡明だ」
「ありがとうございます」
どうすることもできないと悟ったのだろう、零膳さんはその場で一礼してから理事長室を去っていく。
「申し訳ないとは思っているんですよ、しかしこれが大人というものです、勉強になったのでは?」
「……」
扉を開けた瞬間に彼女の背中へそんな勝利宣言を送るのだが、彼女は何も言い返すことはなく、一瞬だけこちらに振り返ってから見つめてくると、何も言わずにそのまま出ていきましたね。
子供らしく何か言い返してくるかと思いましたが、何も言葉にせずに去っていく姿は哀れと言うしかないでしょう……最後に向けて来た視線は、なんの感情も宿ってはいませんでしたし、完全に屈服したということなのでしょうね。
しかし私はここで致命的な勘違いをしていました。彼女が最後に向けて来た感情のない視線は心が折れたものではなく……こいつにはもう何を言っても無駄だという諦めから来ているものだという致命的な勘違いを。
「こいつはもうここで処すから、もう何も言う必要はないんだ」という、結論を出した視線と表情をしていたのだと、後から気が付くことになる。
私がこれまでの人生で、海や山に沈めたり埋めて来た色々な輩に、私は同じような視線を向けていたというのに……私自身がその目を向けられるている自覚がなかったのは、まさに致命的。
最後の最後まで子供と侮った結果、私の末路は悲惨なものであった。
「おごッ!? ぐばぁッ!?」
ぐしゃりと、肉が潰れて骨が折れる音が私の中に響く。それも一度や二度ではなく、体中の至る所から絶え間なく。
私を取り囲み、地面に押さえつけて餅つきでもするかのように足蹴にしてくる生徒の数は三十人ほど。私の周囲を取り囲み、隙間なく埋めて絶え間なく制裁をしてくる。一人が疲れればまた誰かが隙間を埋めて、その繰り返しでいつまでもリンチが終わることはない。
何故こうなったのか……特別試験が終わって、監視カメラをダミーの映像にすり替えて綾小路くんへ挨拶をしにいったまでは良かった。
たまたま現場に居合わせた坂柳さんを蹴り飛ばし、それを庇った綾小路くんに追撃したこともまだ良い……ただ、その現場を零膳さんがみていた挙句、撮影までされていたのはさすがに拙いでしょうね。
しかし慌てず騒がず、零膳さんが持っている撮影媒体を処理してから、何かしらの理由をつけて退学させればいい、ただそれだけの問題をここまで大袈裟にしてしまったのも、この招かれざる乱入者によるものでした。
所詮は子供、それも少女、脅威には程遠いので軽く痛めつけて録画データーを奪えばいい。そう思いながら彼女を蹴り飛ばした瞬間に……アラームでも鳴り響いたかのように事態が一変することになってしまう。
蹴り飛ばされて地面を転がった零膳さんは……驚くことに自分で背後に飛んで衝撃を和らげましたね。とても普通の学生とは思えない動きでしたが、問題はその後。
一撃で仕留めきれなかった自分を呪うしかありません。零膳さんは大きな声で助けを呼ぶという暴挙に出ました。とても澄んでいて不思議と遠くまで響くそれは、大鐘楼でも打ち鳴らしたかのように、学校中へ広がっていくことになり……後はもう、大勢の生徒を巻き込んでのリンチへと発展してしまう。
ワラワラと、巣を攻撃された蜂の群れのように人が集まりだして、これまた零膳さんが大袈裟にこちらの脅威を喚けば、集まった生徒たちは統率された軍隊のような動きでこちらを囲んで来る。
なんだこれは、何かがおかしい……大声で叫んだからといって、こんなにもすぐさま集まってくる筈がない。
「なんだこのおっさんッ!? 武器まで持ってるぞ!?」
「まったく、以前のストーカーといい、この変質者といい、どうなってるんだこの高校は」
「橋本くん、鬼頭くん、油断しないでね!! その人、ガチ目の殺人未遂犯だからさ。坂柳さんも綾小路くんも襲われてて大変なんだ。あ、須藤くん来てくれたんだね、ちょうどよかった助けてくれない?」
「おいおいどういう状況だこれ……掲示板に書かれてた備品整理のバイトに来たんだけどよぉ、そのおっさんは何なんだよ?」
生徒の一人が零した備品整理のバイトという単語に、私は歯を食いしばることになってしまう。そうか、あの子はここに人が集めるようにあらかじめ誘導していたのか……偶然? いや違う、最初からこちらをハメ殺すつもりで弱みを探して付け狙っていたのか。
そこで私は大勢の生徒が作る僅かな隙間の向こうにいる零膳さんと視線が合う……そして彼女はやはりなんの感情も宿さない底冷えする瞳で、こちらを眺めるだけだ。
心が折れた故の無感情な視線ではない、シンプルに……シンプルに興味がないのだろう。
何故ならば、ここでハメ殺すともう決めているからだ、二度と立ち上がれず再起不能にすると決めているからだ……そんな相手に、なんの言葉や感情が必要だろうか。
私自身がそうだった、海に沈めた輩も山に沈めた輩も、もう金輪際関わることのない誰かに向けて、私も同じ視線を向けていた。
状況としては既に詰みである。監視カメラのデータを差し替えようとも、零膳さんが撮影した坂柳さんや綾小路くんへの暴行動画が決め手になる上に、これだけ大勢の生徒を巻き込んで白日の下に晒されてしまっている……何をどうして、どんな言い訳を述べようが、私が心疾患の生徒に対して一方的に暴行した挙句、それを庇った生徒にも追撃をして、さらには目撃者すら消そうとした殺人未遂犯という事実が、もう覆ることはない。
それでも彼女は徹底的だった……既に詰んでいる私を更に追い詰めるように、兵隊たちを動かす。
「私もいきなり襲われて大変だったんだ、みんな助けて欲しい」
その一声で、集まった生徒たちの表情が消え去る。感情任せに暴れるのではなく、王に命じられた臣下のように、迷いなく制御された暴力をふるってくる。
一人が背中からタックルしてきて、もう一人が股間を蹴り上げてくる。地面に転がされれば、数えきれないほどの靴裏が私を踏み固めるように振り下ろされていく。
絶え間なく、隙間なく、ただ一方的に、丁寧に丁寧に、私を追い詰め粉砕していった。
一人二人の話ではない、集まった何十人という生徒が、私を地面のシミにでもするかのように無感情に暴力を振るって来たのだ……まさにリンチであった。
手足がねじ曲がろうが、顔面を粉砕しようが、王が止めろと言うその時までこの集団は止まることがない。
「ぐおッ……ま、待て、待ちなさいッ……お願い、待ってッ……がッ!?」
手足が粉砕されてあらぬ方向にねじ曲がり、体中の骨が悲鳴を上げた段階で私は命乞いの言葉を必死で絞り出していたのだが、生徒たちの隙間から見える零膳さんは特に何かを反応した訳ではなく、手持無沙汰な感じでスマホを弄っているだけで、もはや視線すら寄越すことはなかった。
「零膳たんを蹴り飛ばすとは……さすがに万死に値するぞ!!」
因みに、私をリンチする生徒の中で、最も執拗に、そして楽しそうに蹴り飛ばして来たのは、綾小路くんでした……事前の情報と違って、とても感情豊かなんですね君は。
こうして私はこの学校を去ることになってしまいます……因果応報とはこういうことなのでしょうね。ベッドの上で流動食を舐める生活をしながら、そう思う毎日を過ごすことになるのでした。
また後日、公安や警察の偉い人間が私の病室を訪ねてくることになり、色々な意味で詰むことになってしまうのですが……こんなことになるのならば、この仕事は断っておくべきだったのでしょう。
後悔が先に来ることはない、この年齢でそれを知ることになるのですから、人生とは本当にままならないものと言えるのかもしれません……それもこれも、あんな場所でわざわざ暴行を起こした私が軽率過ぎて悪いと言われれば、きっとそれまでなのでしょうけど。