よう実RTA 決闘者チャート 作:KKKK
堀北学SIDE
この男の噂は把握していた。入学初日に道場破りまがいのことをしてポイントを稼いでいる一年がいれば嫌でも目立つからだ。
関心半分と、警戒半分の印象を持ったまま五月に入って、すぐさま決闘部なる部活を作ったという情報が入って来た瞬間に、そこに興味の色が加わった。
やろうとしていることはわかる。要は全校生徒規模の集金システムの確立だ。良いか悪いかはともかく、そういった発想ができて行動に移せる積極性は素直に認めるべきだろう。
南雲もそうだが、俺にはない発想をする者を見る度に感心することが多い。そう考えると俺はこの学校に来てよかったと言えるのかもしれない。
「生徒会長ともなれば、多くのポイントを持っているんじゃないか? 一口どうだ?」
「遠慮しておこう」
「なんだ、負けるのが怖いのか? それでよくもまぁ生徒会長が務まるものだ」
「安い挑発は止めておけ、無駄だぞ」
そう返すと目の前の男、本剛防人はこちらを注意深く観察してくる。何もかもを見通しているんじゃないかと思えるような眼差しはあまり見ないものだな。
人生経験豊富な老人に見られている気分になってしまう。これで年下なのだから驚きであった。
「なるほど、そこまで軽率ではないらしいな……それより、そろそろ離してやったらどうだ?」
そう言われて俺は妹の首を掴んで投げ飛ばそうとしていたことを思い出して、パッと手を離した。妹への制裁はもうどうでもいい。
「兄さんッ!? やめてくださいッ!!」
そして次の瞬間に、妹の制止を振り切って流れるように本剛の顔面へと上段蹴りを放つのだった。
「なんだ、やる気はあるんじゃないか。内に熱を秘めるタイプだったのか」
だがその一撃はあっさりと受け止められてしまう。瞬き一つしないまま当然のように掴まれてしまった。
「ほう、決闘部等という部活を作っただけのことはある。どうやら思いあがっただけの自信家ではないらしいな……だが解せないな、それだけの実力があるのならば、もっと真っ当に挑めばいいだろう」
「クラスポイントを上げてか? それだけでは及第点だ」
「2000万を貯めて保険を確保しておきたいと?」
「通過点だなそれは……一つの目安としては、まぁ八億だろう、少し欲を言えばそれ以上か」
「……」
八億か、確かにそれだけあれば安泰どころの話ではないな。ほぼ実現は不可能だろうが。
「八億って、貴方、一体何を考えているのよ」
妹も初耳なのか驚愕しているのがわかる。
「不可能ではあるまい」
「不可能よそんなこと、それなら兄さんの言う通り真っ当に挑みなさい」
「正しいか真っ当かなんてことにこだわる必要がどこにある。事実俺は集金システムを確立しているぞ、それが全てだろう……で、堀北、お前は入学してからこれまで何をしてきた? 他人にケチをつけてきただけだろう」
「……そ、それは」
今度は全てを見通すような眼差しを鈴音へと向ける。
「まぁ責めはしない。お前はまだ高校一年生の少女だ、多くを求めん……機会はこれから与えてやるから俺を見て目を輝かせながら学べばいい」
「何を偉そうにッ」
熱くなっている鈴音を遮るように前に出る。今のが挑発であり発破であると理解できない内はまだコイツの相手は早いだろう。
「できるのか? 八億というとてつもないポイントを集められると?」
「ハッ、既に集金システムは形になった。後は徐々に規模を広げていけばいい。生徒会長よ、察するにこの学園はポイントが上下するようなイベントを学校が主催するのだろう?」
「察しているのならば隠しても無駄だろう。お前の考えている通りだ」
「つまり年間で変動するポイントは学校の都合次第ということだ。与えられるチャンスの数もな。ならばそのチャンスの数を増やしてやればいい……そうだな、生徒が自主的にやる特別試験などと言った感じでな」
「……」
なるほどな、仮にもし決闘クラブに集まるポイントが莫大な物になるとすれば、それを餌にクラス単位、或いは学年単位での賭け事も成立するかもしれん。
もし俺たちの学年がこのまま卒業まで行ったとして、クラスポイントに大きな差がある他のクラスが一発逆転を求めて本剛相手に全てを賭けることも、ありえなくはないか。
一年の間に行われる特別試験の数は限られている。本剛の言うようにチャンスの数が限られているということだ。
「一発逆転か……確かにAクラス以外の生徒からしてみれば甘美な誘いにはなるか」
「まぁ尤も、参加料は払って貰うがな。そのクラスにあるプライベートポイントとクラスポイントを全て賭ける形になるだろう」
「俺たちの学年が最後の特別試験を終えた時に、Aクラス以外の生徒たちは飛びつくか。よく考えたものだ。特別試験を……チャンスの回数を増やすか、俺にはない発想だ」
隣に視線をやってみると、鈴音が驚愕を露わにしていた。良くも悪くも真面目で頑固な妹には衝撃が大きかったようだな。
「だが勝てるのか? クラス単位、学年単位の戦いとなればクラスの総合力も必要になってくるだろう。お前のクラスはそれで勝ち続けられると?」
すると本剛は鈴音を真っすぐ見つめてから何かを夢想する。
「問題はない。入学してからこれまで観察してきたが、一年Dクラスはそこまで弱くはない……問題は多いしどうしようもないくらいに幼稚な者もまた多いのは事実だがな」
そしてこいつは自信満々に、決して揺らぐことない意志を示しながらこう言うのだった。
「しかし俺がここにいる。幼童を導くことくらいは容易いことだ。どいつもこいつも俺の背中を見つめて目を輝かせることだろう!!」
なるほど、この男は傲慢なのだろうな。ただし何もかもを突き抜けた傲慢さだ。ここまで来れば出る杭を打つこともできないまま見上げることしかできないだろうな。
不思議な男である。普通ここまで思いあがったことを口にされれば呆れるか苛立つのだが、何故か感心してしまうのだから変な男であった。
だが、まぁ良いだろう、コイツがいれば多少は期待できそうだ。劇毒になるか劇薬になるかのどちらかだろうが、どちらであっても鈴音に大きな影響を与える筈だ。
南雲といい、コイツといい、俺にない発想をくれる者が多く集まるこの学校に来れて良かったと、今になって自覚するのだった。
そう考えると、俺は幸運な人生を歩んでいるのだろう。
南雲SIDE
面白い一年が入って来たもんだと俺は感心しているんだぜ? 入学してから早々に学校中からポイントを集めるシステムを作ったんだからな。
だがリスクが大きすぎるのは問題だ。俺が考えているシステムのようにもっと安全で安定的な形にしないと駄目だろ。
まぁなんの影響も無ければそこまで注目もされておらず、生徒会にも入っていない一年生なんだ。リスクを大きくしなければ人が集まらないと考えたんだろうがな。
だがそれを抜きにしても興味深くはある。決闘部なんてシステムなんだ、戦うことも積極的なんだろう。
良いぜ、悪くねぇ、お前みたいな男を俺は探してたんだ。
こういった自分は絶対に負けないと思いあがってる奴を叩き潰すのが心地良いんだ。二年にはそんな骨のある奴は一人もいないからな。
三年の堀北先輩とは学年が違うことからなかなか戦う機会はなかったが、コイツなら俺の渇きを癒してくれるかもしれない。そんな期待を抱かせるくらいには注目しておいてやるよ。
だからせめて負けてくれるなよ、俺がお前を食い散らかすまでな。
「よう、お前が本剛か?」
特別錬にある空き教室、それが決闘部の部室として宛がわれている。注目されているのか毎日生徒が訪れて大量のポイントを落としていってるらしいな。
部室に入る前にも、トボトボ歩いている三年の先輩がいたから、どうやらポイントを巻き上げられたらしい。
そんな部室の扉を開いて中に入ると、そこには椅子に腰かけて何やら紙に書き込んでいる本剛の姿があった。
「確かに、俺が本剛だが……あぁ、二年の南雲雅か」
「ほう、俺のことをもう把握しているのか」
「当然だ。大量のポイントを集金するシステムを作っているんだろう? 少し調べればわかる」
「そうだろうな。こんな部活を作ったお前なんだ、俺を無視することはできねえだろ。どうやら自己紹介は必要ないらしい、話が早くて助かるぜ」
あぁ、本当に面白い男だ。こういう相手が欲しかった。
「ところでお前は何を書いてるんだ?」
「小テストの問題を作っている。ウチのクラスには幼稚な者が多いからな、苦手分野を中心にそれぞれに合った形で毎日作っているんだ」
「なるほどなぁ、Dクラスだと随分と苦労するだろう」
「全くだ。勉強しろと言ってもまともにやる気をださんし、進学や就職に備えさせようにも想像力が足りていない」
「お前が作ってる小テストだって、渡した所でゴミ箱行きじゃねえのか?」
「未来に備えて力を蓄えろと言ってもまともに聞きはしないが、来月のボーナスの為に頑張れと言えばまぁ多少はな」
なんだ、思っていたよりも面倒見のいい奴みたいだな。こんなことにポイントを使わなければまともに機能しないこいつのクラスメイトには呆れるしかないが。
「それで、何のようだ、南雲先輩」
「顔を見に来たんだよ、将来有望な一年のな」
「ほう、お眼鏡に適ったかな?」
「まぁ及第点くらいはくれてやるよ。もっと美味しそうに実るのを待ってやれるくらいにはな」
「なんだ、勝負を申し込んできた訳じゃないのか。こちらとしては期末試験での勝負でもと思ったんだけどな。全ての教科でそれぞれ点数を競い合うのはどうだ? 一つ勝つごとに百万だ」
「へぇ、もうそこまでポイントが貯まってるんだな、感心だ」
だがこいつと戦うのはまだ早い、今日ここに来たのはあくまで偵察でしかない。将来的に学園の王になる俺に挑むに値するのかどうかをハッキリさせたいだけだ。
「だがまだ早い。もっと美味しく実ってくれよ本剛、今のお前じゃあ俺の相手は務まらない。三年には堀北先輩って人がいてな、まずそっちと遊びたいんだよ。お前はその後だ」
「堀北、あぁ、あの男か」
「なんだ、知り合いか?」
「少し話す機会があっただけだ」
どうやらあの人も本剛には注目しているらしいな。
「それにだ、俺はいずれこの学園の王となる男だ。簡単に挑めると思わない方がいい。まずは資格を得ることだ。このまま決闘部で勝ち続けて、ポイントを貯めて俺に認められるくらいにな……まぁ期待はしておいてやるよ、こっちはまともに戦える奴がいなくて乾いてるんでな」
そう、俺に挑むには資格が必要だ。こいつならば楽しませてくれると思えるくらいのな。
「せいぜい励めよ、俺を楽しませられるようにな」
そう言って俺は本剛に背を向けて部室を去ろうとする。しかしそんなこちらの耳には盛大な溜息が届くのだった。
「なんだ、この程度の男だったのか……期待して損した」
「……あぁ? お前今、なんて言った?」
「期待して損をしたと、そう言ったんだ。戦える相手に飢えて乾いていると言う割には随分と獲物を吟味しているようじゃないか……強敵と戦いたいと言うよりは、気持ちよく勝てる相手を探しているだけかと、そう思ったのさ」
「……」
まさか俺に真正面からここまで言う奴が年下にいるとはな。その度胸だけは買ってやるよ。
「いずれ王になる? おいおい冗談はよしてくれ、仮にも王を名乗るのならば、あまねく全てにその背中を晒して下剋上の機会をくれてやれよ。それが王者の義務というものだ……だというのに、ヘラヘラと笑いながら獲物を吟味するなんてな。挑んでくる全てを叩き潰して上に立つ器量もない男だったか……ハッ、これで王を名乗ろうと言うのだから笑いものだ。どうやら裸でゴミの王冠を被ろうとしていることにも気が付いていないらしい」
「……あまり調子に乗るなよ?」
「貴様は裸の王様だ。気持ちよく勝てる相手だけを探して誇っているだけのな……しかしまぁ、この程度の男に二年生は完封されるとは、情けないにも程がある」
また大きな溜息を吐いてから、本剛はこちら全てを見通すような眼差しを向けて来る。
「所詮お前は、堀北学や俺がいない学年に生まれただけの凡夫……期待して損をした、疾く失せろ」
「上等だッ!! いいぜ、お前の安い挑発に乗ってやるよ!!」
こうして俺は後日期末テストで本剛と戦うことになった。こちらは平均で96点を記録したのだが、本剛は全ての教科で満点を取ったことで完封負けすることになってしまい、俺は数百万ポイントを失うことになるのだった。