よう実RTA 決闘者チャート 作:KKKK
葛城SIDE
何故こいつらは真面目に試験を攻略しようとしないのだろうか?
この無人島試験は節約と忍耐を競うものであるというのに、龍園も本剛もまともに攻略しようとしない。いや、こちらとしてはそういった相手がいるのはありがたいことではあるんだが。
まず無人島生活が始まってすぐに龍園がやってきて物資の売却を提案してきた。坂柳がいないことから既にマイナススタートのAクラスにとってそれ自体は良い提案でもあった。高い買い物だという声もあったが物資を多く確保できるのだから断る理由はない。
契約は結んでも問題はないだろう。これで無人島試験での一位通過はほぼ確実になったのだからな。
坂柳が参加しなかったことで初めからAクラスは270ポイントからのスタートだったのだから、これでより余裕も出て来た。
後はこの試験を機に一気に主導権を握るべきだろう。坂柳は本剛とのギャンブルに狂って信用はできないからな。自分のクラスのリーダーがギャンブル狂いなど絶対に避けなければならない。
さて龍園との交渉で余裕ができたのだが、次に本剛が俺たちが拠点としている洞窟にやってきて、リーダーの情報をポイントで買えと慫慂してきた。
「お前はクラスを裏切ると?」
本剛防人、一年だけでなく今は学校中から色々な意味で注目されているこの男は、いつの間にか洞窟内の拠点に入ってきて椅子に座っていたのだ。心臓が止まるかと思ったほどに気配が薄い。
「その表現は正確ではないな、そもそも最初からあんな連中を仲間だと思ったことはない。Dクラスに配属されたことも納得の連中だ。この学校のシステムが公表された時点で見切りをつけている。勉強しろと言ってもまともにしないし、授業中は私語や居眠りばかり。品行方正なお前たちAクラスが羨ましい限りだ。俺が500ポイントを残すのにどれほど苦労したのか語ってやろうか?」
既にDクラス……いや、今はCクラスだったか、本剛はもう見切りをつけているということだろう。
「お前も知っているだろう、俺が作った部活を」
「決闘部だったか? リスクが高すぎるシステムだとは思うが……そうか、お前の狙いは2000万ポイントによる一抜けか」
「そういうことだ、あんな連中と心中なんてごめんなのでな」
金の亡者や守銭奴と呼ばれることもある男であるが、その狙いは2000万によるAクラスへのチケットが狙いか……わかりやすくはあるな。そうでなければあれほどリスクの高いシステムに賭けたりはしないだろう。
ポイントの為にクラスも裏切るか、ある意味では覚悟のある男であると言えるのかもしれない。
「俺は2000万を目指している、お前はクラスポイントが欲しい、悪い取引ではないと思うがな」
「……確かにな」
本剛の方針はわかりやすい、そして俺たちにとっては何のリスクもない。出費が痛くはあるが、最終的にはこちらの利益にもなるだろう。
「前向きに検討したいと言いたいが、お前が口から出まかせを言っていることもありえる。確実にリーダーが確定できるだけの証拠を持ってこい」
「良いだろう、では契約を結ぼうか。俺がリーダーの確定情報を提示したら、Aクラスは毎月一人頭5000ポイントを提供すると。四十人全員で20万ポイントだ、何か異論は?」
「それでいい。真嶋先生、契約書の受理をお願いします」
契約書を作成してそれを学校側に受け取ってもらう。
「本剛、契約を履行して欲しければリーダーカードを持ってこい。そうでなければ契約は意味をなさない」
「言われずともわかっている」
そう言いながら本剛はポケットを弄ると、中から自分の名前が刻まれたリーダーカードを目の前に差し出すのだった。
「お前……」
「言っただろ、あんな連中と心中なんてごめんだとな。俺は俺が勝つ為に常に全力を出している」
「勝つためにそこまでするか」
「失望したか?」
そこで本剛は少しだけ憂いを混ぜた表情を見せて来る。
「だが、勝たなくてはならない。俺には叶えたい夢がある。絶対に、絶対にAクラスで卒業しなきゃならないんだ」
「夢か……」
この学園に通う者ならば誰もがそうだろう。そう考えるとこの仲間を裏切る男にも少し同情できるかもしれん。
「ウチは貧乏でなぁ、大学に通う金を工面できない。だがAクラスで卒業すればその辺は融通が利かせられるだろう」
「……お前の覚悟はわかった。確かにここに契約は完了した」
「感謝する。もし俺がAクラスになれた時は、よろしく頼むよ」
「努力することだ」
「あぁ」
最後に憂い交じりの笑みを浮かべて奴は洞窟を去っていく。仲間を裏切り守銭奴や金の亡者と言われている男ではあるが、葛藤や迷いがないという訳もなかったか。
無人島試験の結果発表の瞬間まで、俺は愚かにもそう思っていたのだった。
一之瀬SIDE
本剛防人君。色々と噂が絶えない人、いい意味でも悪い意味でも。けれど凄く頭が良くて度胸のある人なんだなってことは全員が共通する評価だと思う。だってそうじゃないとあんな部活を作ろうと思わないだろうから。
「どうだろうか、悪い取引ではないだろう?」
「それは、うん、そうだね。まさかそんな取引を持ち掛けてくるなんて思わなかったけど」
本剛君がいつの間にか私たちの拠点の中にいた。椅子に座ってぼんやりと私たちの作業風景を眺めていたのだ。
もの凄くビックリしちゃった。ここに来るまでに誰にも見つからなかったのだろうか?
そんな彼は私にリーダーの情報を買い取ってくれないかと提案してくるので更にビックリすることになってしまう。
「え、えっと、良いのかなそんなことして? 本剛君がクラスの人たちから責められたりしない?」
「責められるだろう。だが俺にとっては重要なのはクラスでの評価ではなく、クラス移動を出来るだけのポイントだ」
「2000万ポイントだね……決闘部だっけ? それもポイントを集める一環なんだ?」
「そういうことだ……俺の噂は聞いている筈だ。守銭奴だの、金の亡者だの言われているってことくらいは」
「あ、あはは」
「実際にその通りだ。きっと俺は褒められた男ではないんだろう。実際に今もクラスを裏切ろうとしている訳だからな……だが、俺は誰になんと言われようともAクラスで卒業したい」
「うん、その気持ちは否定できないよ。きっと皆が願っていることだから……叶えたい、夢があるんだね、本剛君にも」
「夢、とは少し違うな、目標と言うか、願いと言うか……妹がさ」
「妹さんがいるんだ?」
その言葉に私は故郷にいる妹の顔を思い出す。そしてお母さんの顔も。
「あぁ、可愛い奴だ……詳しくは話せないが、俺がAクラスで卒業するのは妹の為でもあるんだ。その為にどんなことをしてでも2000万ポイントが欲しい」
少しだけ憂いた横顔を見せて来る。きっとここに来るまでにいろいろな葛藤や迷いがあったんだろうなって思えるくらいには、影のある横顔だった。
「非難したければしろ、最低だと罵れ……だが俺はその先の未来が欲しい」
色々と思う所はあるけれど、本剛君は覚悟のある人なんだってことはわかった。これでもっと自分の欲望に素直な人なら冷静になれるんだけど、家族の為だと言われるとどうしても同情してしまう。
それに、リスクなくボーナスポイントが貰えるのだから、私たちのクラスにとって悪い話じゃない。
クラスを預かるリーダーとしての一面からもこの話は悪いものじゃなかった。でも確認しなければならないことはあるよね。
「でも本剛君、どうやってリーダーを証明してくれるの? 言葉だけじゃちょっと難しいかな」
「それに関しては問題ない、リーダーカードを手に入れるからな」
「それを提示してくれる訳だね?」
「そういうことだ」
「神崎君、どう思うかな?」
これまでずっと黙って私たちの話を聞いていた神崎君に意思を確認してみると、彼は納得したのか頷きを返してくるのだった。
「悪い提案ではない、ただしリーダーカードを俺たちに見せることが条件だ。そうでなければ契約は履行されない」
「勿論、そのつもりだ。では最終確認だが、俺がリーダーカードを提示すればそちらはクラス全員から毎月5000ポイントを、四十人全員で20万ポイントを支払うことで問題はないな?」
「その条件で契約書を作ろう」
神崎君も賛成してくれたので、早速契約書を作っていき、名前を書いてから星ノ宮先生に受理してもらった。
「しかしクラスを裏切るか、あまり想像できないな」
「神崎、こんな俺を笑うのか?」
「お前の覚悟は尊重しよう……だが正直な所、呆れてもいる。苦境や困難を仲間と共に乗り越えてこそAクラスになれた意味があるんじゃないのか?」
「良い言葉だ……お前は強い男なんだろう。俺はそうはなれなかった」
「……そうか、ならばこれ以上何も言うまい」
本剛君は神崎君の言葉に暗い顔をする。きっと沢山の迷いがあったんだろう。
「これがリーダーカードだ」
「え、もう持ってたんだ……というかリーダーだったんだ」
「そうじゃなきゃ自信満々にカードを持ってくるとは言えないだろ」
本剛君はポケットから自分の名前が書かれたカードを取り出して私たちに見せて来た。どこからどう見ても本物で間違いなくリーダーカードだった。
こうして私たちは契約を履行することになる。それが誤りであったと気が付くのは試験の結果発表の時だったんだよね。
龍園SIDE
「実は俺には病弱の弟がいてな」
「……あぁ?」
「妹もいるぞ、後母親も病弱で、父親は蒸発している。祖父は山で芝刈に行って熊に襲われ、祖母は川に洗濯に出た切り帰って来ない。後、夢もある……クラスを裏切ってまでポイントに執着する十分な理由がある」
「……」
「わかるだろ龍園、俺にはポイントが必要なんだ」
こいつはいきなりやって来て何を言い出すんだ?
無人島試験が始まって俺のクラスは速攻でほぼ全ての奴らをリタイアさせて、残った物資をAクラスに売りつけることで利益を確保することになり、後はリーダー当てでポイントを稼ぐ作戦に出る方針にした。
俺は各クラスの拠点に放ったスパイからの報告を待ちながら無人島に潜伏していたんだが、気が付くとこいつがいた。
気配も音もなく、寝転がって昼寝をしていた俺をいつのまにか覗き込んでいたので咄嗟に蹴り飛ばそうとしたのだが躱されてしまう。
「ついでに孤児院で大量の子供の面倒を見ているも加えておこうか?」
「御託はいい、何のつもりだ」
こいつと殴り合って無駄な体力を消耗すべきではないか。情報を探る為にも会話の主導権をこっちに引き戻す。
「決まっているだろう、交渉だ。こちらのクラスのリーダーの情報を買い取れ」
「……」
こいつ、堂々と裏切るつもりか?
何らかの罠かと考えて周囲を見渡すが、誰かが潜んでいる空気じゃねえな。本当に一人で来やがったのか?
「条件はそちらのクラス全員から毎月5000ポイントだ。問題ないのならば契約書を作ってもらおうか」
「まちやがれ」
「不満か?」
「大いにな、なんのつもりだ?」
「家族や夢の為にクラスを売っているんだ」
「それはもういい、本音を話せ」
「お前は話が速い男で助かる……俺の目標は2000万ポイントだ」
「あぁ、だろうな。あんな馬鹿げたシステムを作るくらいなんだ、そうなんだろうよ」
そこは納得できる、寧ろそうでなきゃ困るくらいだ。
「俺の目標の為にはポイントを搔き集めなければならない。意地汚く集めているのさ」
「クククッ、とんだクソ野郎だな。テメエを信じてるクラスの連中に聞かせてやりてえよ」
「好きにしろ、あんな底辺連中からの評価などまるで価値を感じないのでな」
堂々と言い切りやがったな……だがどうする、コイツに姿を見られた時点でこっちの作戦は看破されていると思った方がいい。伊吹も蹴り返されたからスパイを潜入させることもできてねえ。
こいつを使えるか? 2000万の為に意地汚くなってる奴だと考えれば納得と言えば納得だが。
だが罠の可能性はある。しかし姿を見られた以上こちらの作戦は破綻したも同然、ならいっそ……いや、リスクは排しておくべきか。
「契約の条件を変えるぜ。毎月の支払ではなく一回払いだ、50万でな。それ以上は出さねえ」
「……ふむ」
本剛はその条件に少し考え込んで、何もかもを見透かすような眼差しを向けて来るのだった。
「これ以上の条件を引き出すのは難しいか。良いだろう、ではそれでいこう。こちらがリーダーカードを提示すればそちらは契約を履行する、それで問題はないな?」
その条件を頭の中で反芻していく。何度も何度もだ……何か抜け穴があるか?
いや、無いはずだ、コイツは守銭奴で金の亡者であることは間違いない。ポイントの為にクラスくらいは平気で裏切るだろう。そうだと言われれば納得できるくらいには貪欲で強欲だ。
「追加の条件だ、俺がやろうとしていることを邪魔するな」
「具体的には?」
「俺が無人島に残っている情報を葛城や一之瀬にバラすなってことだ」
「良いだろう、ではその条件で契約を結ぶぞ」
この判断が間違っていると知ったのは、無人島試験の結果発表の時だった。
確かにこいつは強欲だったってことだろう。俺が想定するよりも遥かに貪欲でもあったことにこの瞬間に気が付かなかったというのは俺のミスだ。