のんきなエルフとくたびれオオカミ   作:ターキィ

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92.ボコれぼっけもん

 

 潜入した一行はエロ城に接近していた。幸い、まだここに敵がいるはずがないと警備兵たちは考えていたのか気付かれることはなかった。その潜入は鮮やかと表現する他なかった。

 

「あっ、あいつら侵入…」

「オラッ!」

「ぐえーっ!!」

「めちゃくちゃゴリ押しだった!」

 

 全ての目撃者をボコればステルス潜入である、とある伝説の傭兵も使っていた戦法であった。とはいえ、それが通用するのは一般市民から徴兵された警備兵たちだけである。エロ城に近づくほど、警備は厳重さを増していった。

 

「あの通路だけで、七人ウロウロしてますよ」

「一箇所にあんなに要らないでしょ警備……」

 

 さながら七人の侍であった。

 

「烏滸がましいわ!」

「アカネ、うるさい」

 

 ジロに怒られ、アカネは不満げな表情で黙った。一行はエロ城城門のすぐ近くまで潜入し物置に潜伏していたが、警備の厳重さにそれ以上進みあぐねていた。エルヴィンは城壁を見上げ、口を開く。

 

「僅かに魔力を感じるぞ、おそらく空から入り込むのは難しいだろうな」

「じゃあ、正面突破しかないのか」

「腕が鳴るぜ」

「え、え〜……」

 

 滅茶苦茶やる気満々のジロとナムヒであった。アカネは消極的である。

 

「待って下さい皆さん、まずあの城壁を越えられるか試してみませんか!」

 

 珍しく良い提案をするステラ。大弓を手に取ると矢を番える。

 

「それ使ってるの久々に見た」

 

 アカネの言葉を無視し、隙を見計らって物置を飛び出すと、城壁の上へと狙いを定める。そして矢を放った。矢は真っ直ぐと飛んでいき、城壁の真上に差し掛かったところで、歩いていた警備兵に直撃した。

 

「アアアァゥ!!」

 

 映画でよく聞くような叫び声を上げながら城壁の内側に落ちていく兵士。

 

「敵襲だぞー!」

 

 同時に叫び声を聞いた周りの警備兵たちが騒ぎ始める。

 

「……ふーん、きみは弓矢がうまい!」

「なんで当たるんですかぁー!?」

 

 結局この状況では隠密潜入は困難になってしまい、魔法の防壁の存在などどうでもいい話となった。

 

「よし、暴れるとするか!」

「ああ」

「致し方あるまい」

「んも〜! なんでこうなるのっ!」

 

 一行は物置から飛び出すと、それぞれ武器を構えて戦闘態勢に入った。警備兵たちは熟練揃いであったが、手練であるジロやエルヴィンには敵わず斬り伏せられ、ナムヒのテコンドーに翻弄され、アカネの大規模魔法に雑に処理された。

 

「もうあいつ一人でいいだろ」

 

 しかし、警備兵たちの増援は不自然なほどに尽きることは無かった。なんでだ。

 

「さっきから言おうと思ってたんですけどー!」

 

 物置の中からステラが叫ぶ。彼女は最初っから戦わずに隠れていた。

 

「警備兵たち、なんか倒れても生き返ってますよ!」

「もっと早く言え!!」

 

 そう、この警備兵たちは不死身の肉体を持っていた。更に無尽蔵な体力をも有しており、疲れる気配も無かった。

 

「これは、マズイぞ」

「うむ、いくら戦ってもジリ貧になるだけだ」

 

 すると、城門から高笑いしながら一人の男が現れた。

 

「フハハハハハ! 我が無敵の兵隊の相手を楽しんでくれているようだな!」

 

 しかし、一行にはそんなやつに構っている暇はなく、無視して戦い続けている。

 

「あ、一旦ストップ! 攻撃やめ!」

 

 すると、警備兵たちは一斉に攻撃をやめ、その男の前に列を作った。

 

「俺は警備隊長、(もん) (まもる)。強化された肉体の島津兵どもを、よくもまあこれだけ蹴散らしたな。褒めてやる」

「名前がテキトー過ぎる!」

 

 このテキトーな名前の男こそがこのエロ城の城門の守衛頭であった。彼は稀人であり、女神からの祝福である他者を強化する能力を持っていた。

 

「お前らを片付け、俺の物語『島津兵たちにバフかけたら無敵過ぎるんですが?』が始まる」

「絶対おもんないだろ!」

「妙に長続きしているのに中身薄そう」

 

 ナムヒとアカネにはタイトルだけでまるでこの小説のような評価を下されてしまった。

 

「読んでみたらわかる! 一章まで読んでみたら! いやそんなことはいい……薩摩の言葉では果敢な勇士のことを『ぼっけもん』と呼ぶ……」

「それがどうした」

「そう、謂わば俺はぼっけもんトレーナー」

「やかましい」

「行け! 薩摩藩士! 100万ボルト!」

 

 100万ボルトは出なかったが、強力な身体強化は薩摩の兵士たちを不死身の肉体に変えていた!

 

「我らが無敵の島津軍だべさ!」

「キミたちは島津相手にしたんや、死ぬで?」

「方言の解像度が都会の人じゃん!」

 

 本作品は地域性やそのイメージに基づくものなど、いかなる出生地、人種、民族、宗教、思想、疾病、障碍に対する偏見、差別等を助長する意図はありません。そして、彼らは死ねば死ぬほど強化が重なり、より強力になっていく。死や痛みを恐れることもない!

 

「お前たちの冒険、ここで終わりアルよ!」

「죽어 줄까!」

「Mechikung!」

「それも方言扱い!? 大日本帝國か!?」

 

 喋り方はともかく、その強化された肉体は本物である。とはいえ、ジロたち一行はある約束事をしていた。

 

「ちょっと待ってよ、あの、島津豊久っていうお殿様がこの世界に来てるんだって!」

「そうだ、シジマに来るように言っていたぞ」

 

 その言葉には、島津兵たちに動揺が走った。

 

「てやんでい! べらぼうめ! 証拠はどこにあるんでい!」

「証拠は、無いけど……ていうか肝心の鹿児島弁喋る人がなかなか出てこないね」

「するってぇと、あれかい? 若殿の使者を騙る不届き者ってことかい?」

 

 結局のところは口約束であった。返答に窮したエルヴィンは、正直な感想をぶちまけてしまった。

 

「ううむ、まあ、有り体に言えば」

「かかれーっ!!」

 

 さぁ、戦いだ! 一斉に島津兵たちは一行に斬り掛かる! 彼らは死ねば死ぬほど強力になっていくが、かと言って黙って斬られるわけにもいかず、ジロやエルヴィンの刃が次々に彼らを斬り伏せる。そこで、彼らの四肢を削ぎ落とし、半死半生の状態で放置する。

 

「ううむ、いい気分ではないな」

「甘いやつだな、エルヴィン」

「トリくぅん、そんなんじゃあ東方世界は生き残れないぜぇ?」

 

 ジロとナムヒはエルヴィンをからかうようにそんなことを言う。この世界基準だとエルヴィンが高潔過ぎるのだが、それはどうでもよかった。徐々に敵兵は数を減らし、うめき声を上げる達磨たちが辺り一帯に散らばっていた。

 

「ごめん、ちょっと、離脱、おぇっ」

「吾輩が付き添おう」

 

 いくらこの世界で鍛えられたとは言え、現代人たるアカネはたまらず先程までいた物置に駆け込んだ。エルヴィンも共に向かった。

 

「ご自慢のぼっけもんとやらはこんなものか」

「肩透かしだね」

 

 一方でピンピンしているジロとナムヒは勝ち誇っていた。だがしかし、ぼっけもんトレーナーは余裕の表情を崩さない。

 

「フハハ、俺はトレーナーだぞ? 生き死になど自在に出来る!」

 

 彼が指を鳴らした瞬間、地面に横たわる島津兵たちが一斉にうめき声を止めた。そしてしばらくするとみるみるのうちに傷が治り、四肢も生え、復活した! しかもより強力になって。

 

「HPが激ローの場合は死なせ、そして強力に蘇らせることが出来る!」

「HPが激ロー言うな」

 

 ジロのツッコミも束の間、再び彼らの激しい攻勢が始まった。強化されたとはいえ一人一人は所詮は地球人であった、しかし多数の兵士が押し寄せる。

 

「まだ余裕はあるが、これはマズイな」

「根比べってわけか!」

 

 まだ軽傷ではあるが、二人にも切り傷が増えていく。ナムヒもナムヒで、彼女にしては珍しく焦りの表情が出ていた。ところで、後ろに下がっていた三人はあることに気がつく。

 

「……なあアカネ殿、思うにあのトレーナーとやらを直接攻撃すれば良いんじゃないか?」

「あ、そうだねエルヴィンさん、それ採用」

「じゃあ私の出番ですね!」

 

 再び弓矢を番えて、ステラは物置を飛び出した。そして狙いを定め、トレーナーに矢を放つ。そして矢は見事に背中に突き刺さった! ジロの。

 

「うっ!」

「あ、間違えた。もっかい撃ちますね!」

 

 そして再び放たれた矢は、今度こそトレーナーの脳天に突き刺さる。

 

「がっ!」

「やりましたー!」

「俺の背中に刺さるくだりいる?」

 

 彼が斃れると、島津兵たちは騒然とする。

 

「な、体が自由になったやさー!」

 

 そう、彼らは体の自由を奪われていた。ぼっけもんトレーナーの呪縛が解けると、彼らは一様に喜びの声を叫んだ。

 

「やった、俺達は自由やで!」

「そっか、やっぱり操られていたんだね!」

 

 アカネはその様子を見てうんうんと頷く。

 

「これで混乱に乗じて分捕りし放題だべ〜〜〜〜!」

「女攫いに行くぞなもし!」

「金品もいただくゾイ!」

「やっぱ殺しとこうジロさん」

 

 まぁ、戦国時代の人たちだから倫理観が、ね……。

 




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