のんきなエルフとくたびれオオカミ   作:ターキィ

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94.因縁

 

 天守閣を飛び出したジロとタヌマロは熾烈な空中戦を繰り広げていた。市街地の屋根の上を飛び回り、激しい鍔迫り合いを行う。

 

「麿を単なる貴族と侮るでないぞっ!」

「黙れゴミクズ」

 

 全然取り付く島もないジロであった。それもそのはず、このタヌマロはジロにとって家族や妻の仇であり、過去一頭に血が上っている。刀を握る柄にも力が入っており、これが逆に、タヌマロにとっては受け流すに好都合であった。鋭い金属音が空に響き、街の警備兵たちがずっと顔を上に向けている。ジロは先程斬られた傷から血を掬い上げると、あたりに飛沫をばらまく。

 

「"血の爆発(チリユクサクラバナ)"」

 

 呪文と同時に飛沫が爆発する。タヌマロは素早く躱し爆風から逃れた。

 

「いつまで持つでおじゃるかな」

「"血の両手剣(アメノトツカノツルギ)"」

 

 続けて呪文を唱え、ジロの持つ刀に血が寄り集まって固まり巨大な両手剣となった。彼はそれを素早く振り下ろすが、タヌマロは身軽に避けてしまう。

 

「そのように連続で妖術を唱えていれば、すぐに体力が切れてしまうでおじゃろう?」

「それより前にお前を殺す」

 

 その言葉は強がりではなかったが、タヌマロの遅延戦術にまんまと嵌ってしまっているのは事実であった。怒りに冷静さを失っていたのである。激しい攻防は続くが、ジロは目に見えて疲労の色を見せていた。

 

「では、こちらからいくでおじゃる。"呪術飛翔相撲殺(スクナノスマヒ)"」

 

 タヌマロも妖術の使い手であった。呪文を唱えた途端に、彼の指から血が吹き出す。それは彼の背中で翼の形となり、体は宙に浮いた。そして凄まじい速さで飛び回り、ジロの体をズタズタに引き裂いていく。

 

「ほっほっほっほっ! 今の体では見切れまい!」

 

 対するジロは疲労困憊であった。躱す事もできずに防御態勢を取ってはいるものの、倒れるのは時間の問題である。そもそも天守閣で斬り付けられたのを普通に躱していればこんなことにはならなかったのである。もはや朦朧としており、頭の中には声が響く。

 

「ジロ……!」

「……トモエ、か」

「違うハーメリア!」

「ハーメリアなのか……」

 

 彼の荷物の中にこっそり忍び込んでついてきてたハーメリアの声であった。今まで危ないのでずっとここに隠れていたのである。つまりこれは幻聴とかではない。

 

「お前は逃げてろ」

「そういうわけにはいかないわよ。何か手伝えることある?」

 

 ジロは神龍パワーでなんとかしてほしいなぁとは思ったものの、やっぱりそれは違うかな、とも思った。

 

「やつを、俺のところに近づけさせてくれ」

「わかった!」

 

 彼女は荷物から飛び出し、タヌマロの前に立ちはだかる。

 

「ハハハハー! 私はハーメリア! TS(性転換)しておしまいっ!」

「な、えぇっ!?」

 

 叫んだ途端に彼女の身体が光り輝き、その光に包まれたタヌマロは性転換し、爆乳メスケモへと姿を変えてしまった! 彼は近くの屋根に着地し、困惑しつつも状況把握に努める。

 

「な、なにが……胸が、ある!? まさか、麿、女の子になっちゃった!?」

「困惑のし方がキモいわ!」

 

 しばらく自身の身体をペタペタと触っていたが、落ち着くと彼はジロの方に向き直った。

 

「……麿も、ヒロイン入りするでおじゃるのか!?」

「しない」

「そうか……」

 

 ちょっと残念そうなタヌマロであった。なんでだよ。

 

「あなたの相手はこっちよ!」

「ぬおっ」

 

 ハーメリアが飛び回り、魔力の炎を彼に吹きかけて挑発する。ハーメリアは神龍であり凄まじい魔力を持つも、戦い向きではなく牽制程度にしか戦えない。とはいえ無意味な性転換も注意を引くには十分であった。

 

「神龍退治は罰当たりだがやむを得ん」

 

 再びタヌマロは飛び始めると、ハーメリアを追う。ジロはそれを見ながら準備を進めていた。身体中に傷があり、血も流していたが、更に自身の身体を手ずから傷つけていた。そして半死半生といった、意識を失いかけた状態になるとハーメリアに合図を送る。

 

「こっちよ古狸!」

「麿は狸ではない!」

「名前からして狸でしょ!」

 

 挑発の暴言を吐きながらジロの方へと向かった。タヌマロもそれに続く。彼女はジロに近づくと急激に速度を落とし、方向を変える。しかしタヌマロはそのまま真っ直ぐとジロの方へと突っ込んだ!

 

「ぐっ……!」

「この程度読めておる」

 

 ジロの一太刀は空を切り、逆にタヌマロの刀がジロの腹に突き刺さっていた。致命傷であったが、しかしジロはニヤリと笑い、タヌマロの肩を掴む。

 

「読めていたのなら……近づくべきじゃなかったな」

「ここから入れる保険があるとでも言うのでおじゃるか?」

「"傷病転移の呪(カタシロノオオハライ)"」

 

 呪文を唱える声が響く。するとみるみるのうちにジロの傷口が塞がっていき、そしてタヌマロの体に今までのジロと寸分変わらない傷が出来始めた。

 

「なっ、これはっ……!」

「因縁を終わらせるにはショボい幕引きだがな」

「ぐぅぅ……!!」

 

 出血と痛みに耐えきれず、タヌマロは倒れ伏した。

 

「最後の一発が効いたな、お前のつけた傷だが」

 

 ジロが自身に刺さった刀を抜く。傷口はすぐに塞がり、逆にタヌマロの体の同じ場所に傷口を作り内臓を損壊する。彼がもう動けないのを見ると、ジロは踵を返し立ち去ろうとした。

 

「ま、待て……麿は……そちの……」

「お前の話など聞く価値も…」

「麿はそちのようになりたかったでおじゃる。幼い頃そちの事をずっと見ておった、じゃがそちは麿を一瞥だにしなかった。麿は…」

「急に滅茶苦茶喋るわね!?」

 

 いきなりべらべら喋り始めた! しかし、ハーメリアのしっぽビンタを喰らって、永遠に沈黙する。聞く価値に値しない話だろうし。タヌマロの亡骸をそのままに、二人はエロ城天守閣へと急ぎ戻ることにした。

 




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