のんきなエルフとくたびれオオカミ   作:ターキィ

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95.ねこちゃん困惑させ魔法

 

 エロ城天守閣では、アカネとエルヴィン、イエユナの攻防が繰り広げられていた。洗脳されたステラとナムヒが二人の前に立ちはだかる。が、ステラは速攻ボコボコにされて床に転がっていた。

 

「洗脳されてるとはいえ、酷くないですか……?」

 

 一方でナムヒはエルヴィンとの熾烈な争いをしている。

 

「ぐっ、素早いなっ!」

「カ〜〜〜〜ネ〜〜〜〜〜……ぎ〜」

「カーネギー!?」

 

 両手剣を大振りする戦闘スタイルのエルヴィンは素早い徒手空拳を放つナムヒと相性が悪く、防戦一方であった。それに、ステラはともかく彼女に重傷を負わせるわけにはいかなかった。

 

「私メインヒロインなのに、酷くないですか……?」

「ううむ、ちょっと言い過ぎかも知れんな……」

 

 アカネはというと、イエユナと魔術の応酬を行っていた。

 

「"魔力の雨矢(スターレイン)"!」

「"雷よ、災いを逸らし給え"」

 

 光の雨が降り注ぐも迸る稲妻に弾かれてしまう。専門は幻惑術であったが、イエユナも優れた魔術師であり実力は拮抗していた。というより、アカネは魔力が無尽蔵にあるというだけで、単純な実力や経験ではイエユナの方が上であった。

 

「"(くう)よ、我が敵を謀り給え"」

 

 彼女が呪文を唱えると、彼女の姿が消えたと思いきや、再び現れ、そして無数に増えていく。

 

「どれが本物か当ててみるゆ?」

「"ねこちゃんおいで(サモンキティ)"! 本物を探せ!」

 

 アカネの手からねこちゃんが飛び出すと、一直線にある一体のイエユナに駆け寄る。

 

「おっ、ねこちゃん!」

「"魔力の起爆(デトネート)"!」

「にゃぁ〜〜〜」

 

 鳴き声を上げた瞬間、ねこちゃんが光り輝き、爆発した!

 

「ぬわっ!?」

 

 イエユナが悲鳴を上げると辺りに立っていたイエユナの像が消え去る。そして爆風の中から怒りに満ちた表情の彼女が現れる。

 

「お前、よくも、ねこちゃんを……!」

「私は犬派だからね。にしても、あんまり効いてなさそう……」

 

 少しだけ、アカネは絶望を感じていた。魔力量であればいざ知らず、実力差はあまりにも大きい。対魔術師の戦闘経験が圧倒的に不足していた。ジロが戻るのを待ちたい気持ちも大きかった、さながら、詳細を知る上司が遅れてくるため、人伝の曖昧な情報しか持たないままプロジェクトの打ち合わせに出席せざるを得ない若手社員のような状況だった。

 

「やけに具体的だ」

「それは遅れる上司が悪いゆ!」

 

 先程からあらゆる種類の魔法を放つもほぼ全てが無力化されてしまっていた。この熟練魔術師を倒すには大規模な魔法を撃つしかないのだろうか、それさえも無効化されれば彼女に打つ手はなくなってしまう。そんな追い詰められた彼女の脳裏に浮かんだのは、オクサンフォルダ魔術師大学にて師からこっそり教わった切り札とも言える魔術である。

 

「くっ、一か八か、"ねこちゃん困惑させ魔法(コンヒューム・ザ・キャット)"!」

「!」

 

 彼女が呪文を唱えた途端、手のひらから光の玉が現れる。眩い光を放つそれは部屋中を覆い、一同が目を開けると一帯がお花畑のような風景に変わっていた。そこら中にねこちゃんが落ちており、様子をうかがっている。

 

「な、なにこれ!?」

 

 唱えた術者であるアカネ自身が叫ぶ。どういう呪文か全くわかっていなかったのである。しかもよく見たらお花畑ではなく野菜畑であった。

 

「どっちでもいいよ!」

「な、何を使ったゆ! 幻惑術かゆ!?」

「ごめん、わかんない!」

 

 二人とも混乱していた。そこへ、打ち合いをしていたはずのエルヴィンと倒れていたはずのステラが走ってきた。

 

「うおお吾輩はパンケーキ!」

「ならばっ、私はバター!」

 

 よくわからないことを叫びながら二人は腕を組んで飛び跳ねる。

 

「合体!」

 

 同時に叫ぶと二人の体が光り輝いた。

 

「熟年離婚!!」

 

 そして熟年離婚へと様変わりする!

 

「熟年離婚!?」

「そのまま敵にドーン!」

 

 二人は熟年離婚状態のままイエユナに激突し、彼女は吹き飛ばされダメージを負った。

 

「な、なに……?」

 

 地面に倒れつつ彼女は状況の理解に努めるが、全然意味がわからなかった。一方で、ナムヒは違法賭博をしていた。チンチロである。

 

「半だ半! 半半半半!」

「それ似てるけどチンチロじゃないよ!?」

 

 そして、出目は95と47!

 

「おお」

「おおじゃないよ! 百面ダイスじゃんこれ!」

「ところで、何が半で何が丁なんだ?」

「知らない……」

「ファンブル!」

 

 ナムヒが叫ぶと同時に投げた百面ダイスがイエユナに突き刺さる。百面ダイスだったので、百回多段ヒットした。

 

「ぐああぁ、よ、避けれない、どうしてだゆ!?」

 

 この辺りで、アカネは脂汗が出始めた。もしかするととんでもない呪文を唱えてしまったのかも知れないと。

 

「これ、なんかヤバい魔法なんじゃ……」

「落ち着くのだアカネ、こういう時こそ冷静に」

 

 エルヴィンの声が背後から聞こえて振り返ると、彼はナムヒの手で焚き火の上に棒で括り付けられ、遠火で焼かれていた。

 

「冷静すぎるよ!」

「焼き鳥食いて〜」

 

 これを好機と見たイエユナは攻撃を仕掛ける。

 

「"火よ、我が敵に災いを(もたら)し給え"!」

 

 彼女の両手から火炎が吹き出しエルヴィンたちを襲う。しかし彼らは平然としていた。

 

「吾輩はハンサムだから効かんよ」

「あたしも超美人だからなぁ〜」

「私もぷりちーですからね」

「何なんだゆこれは!? じゃあどうすればいいんだゆ!?」

 

 益々イエユナは混乱していった。アカネも若干困惑していたが、やるべきことはわかっていた。

 

「みんな、決めるよ!」

ハシシ(ヤク)を?」

ハシシ(ヤク)じゃなくて! トドメだよ!」

 

 それを聞いたナムヒとエルヴィンはイエユナに掴みかかり拘束する。

 

「なっ! 離せゆ!」

 

 そしてステラは懐から大鍋を取り出し、大鍋の中でグツグツに煮立ったおでんからしっかりと味の染みた大根、ではなくズッキーニをフォークで一つ取り出すと、イエユナの口に押し込んだ!

 

「あづっっっっっっ!!!!」

「それトドメ!? 誰だよズッキーニ入れたの!」

 

 そのアカネの言葉が響くと、ねこちゃんたちは飽きたのかどこか遠くへと走り去っていく。すると周りの景色が消えていき、元の天守閣へと戻った。イエユナは床に倒れ伏し、エルヴィンとステラ、ナムヒは全裸で仁王立ちしていた。

 

「なんで全裸なの……?」

 

 いそいそと服を着始める三人を尻目に、アカネはもうこの魔法二度と使わないと固く誓ったという。それから、イエユナの元へと近づこうとすると、突如として轟音と激しい衝撃がエロ城を揺らした。

 

「な、なにっ?」

 

 支柱が軋み、今にも城が崩れそうである。窓から外を眺めると海が見え、いくつもの燃え盛る船が洋上の提灯のように辺りを照らしていた。そして、燃えていない一隻が一瞬光りを放つと、その数秒後に恐ろしい風切り音が聞こえ始める。

 

「ほ、砲撃されてる!」

「急いで脱出せねば!」

「ああ」

 

 ナムヒはステラを担ぎ、海とは逆側の窓から飛び出す。

 

「まだ心の準備が〜〜〜!」

 

 エルヴィンは、アカネに手を差し伸べた。

 

「行くぞ、アカネ殿」

「でも、イエユナが……」

「ううむ、本来なら裁きを受けねばならんだろうが……この野望の城と共に滅ぶ運命にあろう」

 

 そう言って、彼は半ば強引にアカネを抱き抱えると、同じ窓から外へと飛び出した。一人、天守閣に取り残されたイエユナは動けぬまま悔しさに涙を滲ませていた。程なくして、エロ城は砲撃により基礎を破壊され、崩れ去った。

 




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