のんきなエルフとくたびれオオカミ   作:ターキィ

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96.ドー国の55時間

 

 ジロたちがエロ城で戦いを繰り広げている頃、討伐隊も守備隊と衝突していた。討伐隊は破竹の勢いで快進撃を続けてはいたが、城下町目前というのにあまりにも疲弊していた。特に稀人の少年少女で構成されていた部隊は慣れない殺生とゲリラ戦に疲労困憊であった。ジロたちが離脱してからもう二日は経過しており、敵軍があまりにも脆弱過ぎる為にどんどん奥へと浸透しており、戦い続きであった。

 

「疲れた顔をしているね」

「ええ……」

 

 スヱコとサエは馬の上で話していた。異世界人たるスヱコはともかく、サエは強大な力を持つとはいえ気丈に振る舞っていた。現代日本ではなく中世に産まれていれば女傑とされていたであろう、異世界向きの人材である。しかし疲労の色を隠せてはいなかった。

 

「おそらく相手の術中にある」

 

 スヱコは懸念していた、敵軍が撤退を繰り返すのは深部まで誘き寄せる罠なのではないかと。そしてその懸念は的中する。徐々に進行方向の即背面からも敵の襲撃が行われるようになっていった。討伐隊は包囲されていたのである。兵士たちの疲労感は一層増した。そしてドー国兵にも変化があり、明らかに戦い慣れ始めていた。敵地の奥、つまり彼らの故郷での戦いということもあるだろうし、戦闘と撤退を繰り返して肝が座り始めていた。更に戦いの主導権を握られているというのが大きな不安要素であった。予備兵力はグンマーに置いてきたナンキーとその護衛軍ぐらいである。あいつ来てたんだ。状況を打開するには来るはずのない援軍を待つか、エロ城まで進み続けて突破する他ない。そんな思案にスヱコが没頭している中、伝令が現れた。

 

「敵の襲撃です、全方位から多数!」

「来てしまったか」

 

 サエは飛び出し、魔術札で召喚をする。スヱコも武器を取って陣頭指揮を行う。もはや命運が尽きるのも時間の問題であると、討伐隊の誰もが感じていた。そこへ突然、スヱコにとっては聞き慣れない轟音が響く。だがサエにとっては違ったようであった。

 

「これは、銃声……?」

 

 火薬の破裂する音である。その他にも、ロケット花火のような音がした。

 

「火薬兵器!?」

 

 ドー国の新兵器かと、稀人たちの心が絶望の色に染まりかけたが、それらの標的はどうやらドー国軍であり、彼らは慌てふためきながら撤退していった。それからすぐ、軍馬に跨り、見慣れない月の意匠が描かれた旗を掲げた大陸風の鎧を着込んだ将校が現れた。

 

「ペク将軍ここに見参! ジロ坊やは元気かな?」

 

 彼はペク将軍と名乗った。ナムヒの父親であり、ジロの恩人である。続いて彼の軍隊がぞろぞろとやってきた。手にはハンドカノンを持ち、軍馬は多連装ロケット砲である火車を引いている。

 

「ありがとうございます、助かりました」

 

 スヱコが彼に深々と頭を下げた。しかし、彼は首を横に振る。

 

「頭を上げるといい、娘を助けぬ親がどこにいる! それに恩を売るチャンスをみすみす逃す手はないしな!」

「娘さんはここにはいないけどありがとうございます!!」

 

 火車とハンドカノンの砲撃が鳴り止むと、ペク軍団はハンドカノンを下ろして剣を抜き一斉突撃、追討を始める。士気が一気に回復した討伐隊も進軍を再開。ドー国軍の強固な陣地にぶつかるまで進み続けた。だがその陣地も突如として爆発し、粉砕された。

 

「えぇ!? な、なに!?」

 

 わけがわからないまま、スヱコや兵士たちは辺りを見渡す。空を見ると、人がジェット噴射のようなもので浮いていた。それから多数の龍騎乗兵が空を覆う。

 

「ログレス軍、ただ今到着!」

 

 サヤカの姿であった。が、面識がある人がその場にいないため、みんな首を傾げた。

 

「誰だか知らないけどありがとう!」

「……うん」

 

 実際知らない人だったので、サヤカは頷くしかなかった。新たに増援を得た討伐隊は更に進み、エロ城城下町へと突入した!

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

「腹減ったなぁ」

「ですよね」

 

 その頃、ドー国海軍艦隊の旗艦に座乗していたのは艦隊司令のヤソオ ヤマモトとその側近、ヨネウチである。彼らはタヌマロが連れてきた水軍将校たちであった。

 

「シモキタカワ辺りに美味しい蕎麦屋さんがあるらしいですよ」

「そっかぁ、行きてえなぁ」

「終わったら行きましょうか」

「おう、そうだな」

「お前さっきからなんでタメ口なんですか?」

「え……すみません、ヤマモト司令」

 

 彼らはドー国沿岸の警備に当たっていた。数隻の戦列艦が隊列を成し沖合にて哨戒任務をしていたが、洋上戦力が来るとは思われておらず、結構暇していた。そこへ、伝令兵が現れる。

 

「一隻の大型船がこちらに向かってきています」

「あ、そっかぁ」

「軍用船ですか?」

「わかりませんが、こちらの警告に従わない様子でして……」

「一隻とは舐められたもんですねぇ、頭に来ますよぉ!」

 

 ヤマモトはすぐに司令を出し、一隻の不審船に艦隊を近づける。船には専用に訓練された魔術部隊が乗っており、射程圏内に入れば一瞬で敵船を海の藻屑へと変えられるはずであった。だが、まだ船が小さく見えるような距離から、その攻撃は飛んできた。最後尾の一隻にそれが当たると一気に甲板が炎に包まれる。

 

「あれなんだかわかんねぇな」

「回避運動だ、早くしろよ!」

 

 しかし次々に僚艦が沈められていく。轟音は響き、飛翔音もするが、彼らにはそれが何なのか理解出来なかった。

 

「ダメなようですね」

 

 そして、不審船に乗って指示を出していたのはウルリーケであった!

 

「おらおら、吹っ飛ばせ!」

 

 彼女が設計し制作した一品物の艦砲と砲弾は、この時代の船にしては明らかにオーバースペックであった。彼女の持てる知識と技術で設計開発され、近代の艦砲と変わらぬ射程距離と精度、装填速度、たったの一門であってもとてもこの時代の木造船が太刀打ち出来る代物ではなかったのである。彼女の横には儚げな猫人の青年が杖を突いて立っていた。彼こそがウルバンの息子であった。片足が内反足である為に杖を突いている。

 

「ウルリーケ、この砲は凄いね。円錐状の弾も。でもこの精度を要求するなら技術的に量産は厳しいよ」

「まあ、今はこれで十分だろ。よし、ロームシャの仇だ!」

「ロームシャ……?」

 

 酷い八つ当たりもいいとこであった! 本作品は地域性やそのイメージに基づくものなど、いかなる出生地、人種、民族、宗教、思想、疾病、障碍に対する偏見、差別等を助長する意図はありません。

 

「この作者もう終盤だからって書きたい放題だな」

「君が言ったんだよ……?」

 

 あっという間に艦隊は全滅し、ドー国港湾に悠々と入場する。そして遠くに見えた城目掛けて砲撃を開始したのである。

 




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