のんきなエルフとくたびれオオカミ   作:ターキィ

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35.幸先悪し

 

 森の奥深くで、ジロとアカネが首から血を流して倒れていた。

 

「ごほっ、げほっ……」

 

 アカネは喉を抑えて、もがき苦しみ、ジロはアカネの方に向かって這いずっていた。一方でステラは木を背にして青い顔で座り込み、口を抑えて震えていた。

 

(魔人のテロリストどころか、その辺の魔物に襲われて大ピンチですぅ〜〜〜〜!!)

 

 ステラは心の中で絶叫した。あまりにも幸先が悪い。パリシイを出発し、近くの森に入り日が暮れた途端にこれである。この状態を引き起こした犯人は首刈りフクロウと呼ばれる魔物であった。無音で飛び、魔力を発さない為に魔力探知にも引っ掛からない、我々の知るミミズクに似た夜行性の大型猛禽である。鋭い爪で首筋を裂き、息絶えた獲物の肉を貪る首刈り系魔物の中でも特に厄介な凶悪な魔物である。見た目はミミズクだがフクロウの名で知られてしまっており、どちらに分類すべきかは学会でも意見が別れている。

 

(学会とかどーでもいいんですよぉ! な、なんとかしなくちゃですよねやっぱり……!)

 

 そうこう考えているうちに、ジロがアカネのすぐ近くまで移動していた。

 

「ゴッホっ、バッハっ、シューベルトっ……!」

 

 咳き込む時もボケることを忘れないアカネであった。殊勝な心掛けであるが、イマイチ面白くなかったペナルティで意識を失ってしまう。ジロはそんな彼女の傷口をブツブツと呟きながら撫でる。すると彼女の傷はみるみる癒えていった。しかし彼の方も力尽きたのか動かなくなってしまう。彼はそのまま地面に突っ伏してしまった。

 

(し、死んだ、わけじゃないですよね……?)

 

 どちらにしろ、確認するには首刈りフクロウをなんとかしなくてはならない。考えに考えた末、ジロの持つ弓を思い出した。作者は忘れかけていたというのに。思い出してからは早かった。ジロの元へと走り、弓と矢筒を乱暴にひったくる。そしてすぐにまた別の木を背に座り込んだ。

 

(や、やるしかないです……!)

 

 震える手で弦を引き、狙いを定める。狙うのはもちろん首刈りフクロウだ。フクロウは彼女の様子を伺っている。彼女が倒れた二人に駆け寄り隙を見せるのを待っている。ハイエルフは夜目が利くため、ステラにはその様子がくっきりと見えていた。目も鼻も利くジロが奇襲を許したのは単にこの存在を知らなかった為である。状況が動いたとはいえ、ステラが弓を扱ったことがあるのは遥か昔の子供の頃で、ましてやジロの持つような扶桑の大弓などは初めて触る。

 

(お母様は、弓の腕だけは褒めてくれました……だから、だいじょ、え、この弓めちゃくちゃ力要る!!)

 

 構えた瞬間、弓弦の張りの強さに驚く。それでも何とか渾身の火事場のクソ力で引き絞り、プルプル震える狙いをなんとか定めて放った。シュッという風切り音と共に、矢は真っ直ぐに飛んでいった。それは吸い込まれるようにフクロウへと向かい、命中する。そしてそれは、そのまま何処かへと飛んでいってしまった。

 

「はぁ、ふぅ〜〜……なんとかなりました……!」

 

 安堵の息を吐き、二人の方へと歩く。アカネを揺すると口から血を吐き出しながら息を吹き返したので、体を押して体勢を横にする。彼女は無事のようだが、意識が朦朧としておりとても話せる状況ではなかった。ジロの方は呼吸しているかすら怪しかった。

 

「まずいですね、これは……」

 

 慌ててジロの上着を脱がせ、上半身裸にした。鍛え抜かれた肉体美ではあったが、今はそれを愛でている場合ではない。胸のあたりに耳を当てると、心臓はまだ動いていた。

 

「乳首摘んだら目を覚ましたりしませんかね」

 

 試しに両方の乳首を摘んではみたものの、特に反応はない。当たり前である。

 

「仕方ありません、人工呼吸(ディープキス)するしかないようですねぇ! これは仕方なくなんですからね、誤解なさらぬよう」

 

 誰かに言い訳をしながら、彼の顔を覗き込む……そこである問題が生じた。

 

「口が大きすぎてどうやればいいのかわからない!?」

 

 狼獣人であるジロの口は人類やエルフよりも遥かに大きい、マズルがあるためである。人類やエルフのやり方では肺にまで空気を送ることができないのである。マウストゥーマウスでは口の横から空気が抜けてしまう。

 

「えーっと、えっと、えっと、あそうだ、それじゃあこうしましょう!」

 

 彼女は彼の口をめいいっぱい開けると、そこに顔を突っ込んだ。

 

「ヴォアっ!!? 」

 

 突然口の中に何かが入ってきて、驚きのあまり目を見開いたジロは反射的にえずき、彼女を突き飛ばした。

 

「おっと、目をお覚ましのようですね?」

「ゲホッ、ゴホォッ……ふぅ……助かった……魔物はどうした」

「私がやっちまいましたよ! ふっ、まあ雑魚でしたがね!」

「そうか……エライぞ」

 

 そう言ってジロは彼女の頭を撫でる。

 

「へ、へへっ!」

「アカネは無事か」

「とりあえずは大丈夫そうです」

「そうか……俺は、血が足りなくなった……」

 

 襲われた際に大量に吹き出したものと、自分とアカネの傷口を妖術で塞ぐのに使ったものとでかなりの血を失ってしまっていたのだ。とにかく、このままここで休む事に決め、野営の準備を始めたのだった……そこへ、草むらから物音がした。

 

「ひぃつ! もう勘弁してください!」

 

 半泣きになりながら二人を庇うように前に出るステラだったが、そこにいたのは一人の旅人であった。猫獣人の男である。

 

「おや、旅人か! 我輩道に迷ってしまってな、野営に参加させてくれると心強いのだが!」

 

 大荷物を背負った胡散臭い男が馴れ馴れしく話しかけてくるものだから、ステラは警戒した。しかし、男はそんなことは気にせず、荷物を下ろして座る場所を確保すると、火を起こし始めた。

 

「こっちの事情はお構い無しみたいですね……」

 

 とりあえず、敵意は無さそうなので、ステラは追い出しはしないことに決めた……。

 




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