のんきなエルフとくたびれオオカミ   作:ターキィ

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39.ステラの秘策

 

「ガミガミガミガミガーミガミ!!」

 

 ジロとステラは床に正座させられ、猫獣人と化したアカネに説教されていた。

 

「私達が一生懸命探してるのににゃ! 二人は酒飲んで何してたにゃ!」

「だってステラが……」

「だってジロさんが……」

「んにゃー! お互いに罪をなすりつけくさってにゃ!!」

「ところで少し見ない間に随分美人になったな、アカネ」

「獣人基準で褒められても嬉しくないにゃ! ありのままを褒めてほしいにゃ!」

「面倒くさいこと言い始めましたよ……!」

「でもいつも美人だと思ってるし」

「そういう上っ面だけにゃのが一番嫌にゃ!」

 

 まさしくカンカンになった様子のアカネであったが、そこへ横から何者かの声が掛かった。

 

「お嬢さん、君は二人ににゃーと言っているのかにゃ」

 

 見れば、そこにいたのは喋る虎柄の猫であった。

 

「全く世も末だにゃ。浮世は暗く、疫病が蔓延り、税金は高い。こんにゃ時ににゃーと言っているのは、よっぽど頭がおかしくにゃった奴だけだにゃ。君みたいに可愛い女の子がそんな言葉遣いじゃ駄目にゃよ? それにその服……露出度が高いにゃ。ちゃんと下着を履いているのかにゃ?」

「なにこの猫きも……」

 

 不快な猫はさておき、こんな事をしていたために再びヴァレリーたちを見失ってしまう一行である。このまま追いかけっこのグダグダな展開が続いてしまうのだろうか。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 それからしばらくして、元の姿に戻っていたヴァレリーたちは家を建てていた。どうやらグダグダな展開は避けられないようである。

 

「ったく、なんで家なんて……」

「しょうがないのねん、ヴァレリーは困っている人を見捨てられないのねん」

 

 作業員が急病のために困っていた大工の棟梁を手伝い、家の建築作業を行っている。ウルリーケとイキャニは不平不満を漏らしながらも、せっせと作業をこなしていた。

 

「ふぅー、ウルリーケくん、イキャニくん、そろそろ休憩にしようか」

 

 棟梁が声を掛けると、二人は疲れた表情でその場に座り込んだ。家はもう今日にでも完成しそうで、仕上げの作業に取り掛かっている所だった。

 

「こんな事をしている間に追いつかれるよ。明確に危害を加えた以上、これまでよりももっと強力な追手が来るかもしれないんだ。早いところこの街を出た方が良いと思うのだけれどね」

 

 実に不満気で、不満という概念を絵に描いたような表情をしているウルリーケだが、イキャニは首を振るばかりで、ヴァレリーは棟梁と熱心に話をしていた。そして彼女の懸念通り、四人の冒険者たちが彼らを追ってやってきたのである。

 

「わーい! 新しいお家ですよ!」

「もうすぐ出来そうだな」

「ジロさんとステラのお家じゃないでしょ……」

 

 お互いに存在を認識すると、睨み合うように対峙することとなった! ……実際には、アカネとウルリーケは呆れたような表情をしていた。アカネがヴァレリーたちを見て、疑問をこぼす。

 

「……なんで大工の手伝いを?」

「棟梁が困っていたからね……ハッ、まさかこの大工の棟梁もお前たちの仕込みだというのかい!?」

「その通りです! まんまと引っかかりましたねぇ!」

 

 ステラはデマカセを言った。当然そんなわけないのであるが、ヴァレリーは素直な性格なのですっかり騙されてしまったようだ。

 

「な、なんだって……!? 君たち、そこまでして僕たちのことを付け狙っていたのかい……?」

 

 とてもショックで、悲しそうな表情になるヴァレリー。それを見て罪悪感に駆られるどころか、ステラはむしろ嬉しそうに笑っていた。

 

「ふふん、そうですよ! 馬鹿ですね! 自分の罪の重さを思い知るがよいです!」

「……ウルリーケ、イキャニ、君たちは先に行っていてくれ」

 

 ヴァレリーが静かに言うと、彼らは頷き、その場から走り去った。

 

「あ、待ってくれ! 我輩の試作品を見て欲しい!!」

 

 ウルバンは彼女たち二人を追う、残った三人でヴァレリーたちに対峙した。彼は両手を広げ、魔力を高め始める。

 

「ひぃぃぃ、なんか怖いですぅ!」

「余計な挑発するから……」

 

 アカネは呆れた顔でそう言いつつ、魔法を唱える準備をする、ジロも腰の刀に手を当てた。

 

「君たちにも悲しい過去があるんじゃないか、それを取り除くことが果たして悪いことかい? どうしてわかってくれないんだ」

 

 ヴァレリーは悲しそうにそう言った。

 

「"屈辱の想起(パセ・エ・ユン・ケュー)"」

 

 彼が呪文を唱え手を前にかざすと、途端にジロとアカネの脳裏にトラウマが蘇る。恐慌を起こす精神魔術であった。

 

「ぐっ……!」

「い、いやぁ……」

「あああ、娘が、結婚して、俺は寂しいぃぃ!!」

 

 ついでに大工の棟梁も悲しい気持ちでいっぱいになった。彼の頭の中では娘の結婚式で、号泣しながら娘を送り出しているシーンが展開されている。

 

「あ、ごめん、棟梁……ともかく、この世の中には悲しいことで溢れている、それを少しでも慰めようというのが僕の使命だ。誰にも邪魔はさせない」

 

 ジロは耳も尾も萎ませ泣きながら自らの腕に噛みついてその場にうずくまり、アカネは地面に手をつきえずいている。棟梁に至っては白目を剥いて気絶している有様であった。む、娘の結婚式で……? そんな中、困惑した表情でいるのはステラである。

 

「み、みなさん、どうしたんですか!?」

「……馬鹿な、エルフの精神防壁だって貫通できるのに」

 

 エルフ、特にステラのようなハイエルフは生まれながらに精神魔法の耐性を持っている、しかし、それを突破するほどの魔力をヴァレリーは持ち得ていた……が、そうであるにも関わらず、ステラには全く効いていない様子であった。

 

「なぜだい、君は悲しくはないのかい?」

「え、いや、別に」

「……そうか、君にとっては悲しいのが当たり前のことなんだね」

 

 ヴァレリーは悲しげな瞳で語り掛ける。

 

「いえ、特に悲しい出来事は思い浮かびませんでしたので」

「えぇ……」

 

 そう、ステラには悲しいことは無かった! ジワジワ悲しいことや、ちょびっと寂しいことはあったが、まあ仕方のないことだろうと思っていた。ステラはお調子者だしみそっかすではあったが、良い意味で能天気であった。

 

「まぁ、そういう人もいるよね……いいことだとは思う」

「しかし、私は自由に動けるので弓矢を撃ちます」

 

 彼女は大弓に矢をつがえると、そのまま引き絞り構えた。

 

「僕に弓は効かない」

「あなたに効く必要はありません!」

 

 そして、彼女は天に向かって放った!

 

「……まさか!?」

 

 ヴァレリーは何かの合図であると察し、辺りを見渡すが特に変わったことはなかった。ステラはもう一度、空に向けて放つ、やはり何も起こらない。

 

「……えっ!? 一体何をしているんだい君は!?」

「ふふふ……」

 

 不敵な笑みを浮かべるステラであったが、おそらく特に何も考えていないのではないだろうか……!?

 




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