のんきなエルフとくたびれオオカミ   作:ターキィ

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40.事態は急速に終息

 

 ところで転生者ウルーリケ、その前世が生まれた家では酷い男尊女卑が蔓延っていた。男性たちは女性たちを徹底して弱く見下げ果てたものとして扱った。ろくに学校にも行かせてもらえずに毎日家事をやらされており、暴力も日常茶飯事で現代社会とは思えないほどであった。ある時、とある外国で自作銃を使ったテロ事件が起こったというニュースを見た。被害者であったその国の政治家は、良い人物であると彼女の国には聞こえていた。彼は殺されていいような人物ではなかったはずだ、殺されるべき人物は他にもいる、そう思った彼女はすぐに自作銃の作り方を調べて作り、家の者たちに報復を行った。しかし、三人までは殺すことができたが四人目に返り討ちに合い、そのまま死んでしまった。気がつけば目の前に胡散臭い女神がいた。

 

「憎たらしい社会風習をぶち壊したいですよね?」

 

 かくして、彼女はこの世界に転生、ウルリーケ・フォン・ハッセルとして生まれ変わった。しかしながら、彼女の生まれたドワーフ社会も、男尊女卑が蔓延っていた。とんだ詐欺女神だと彼女は思ったが、家格を最大限利用し、前世の知識が活かせる地位に立つことができた。その頃には、彼女の考えは銃に向かっていた。銃は平等で最高だ、一撃で命を奪うことが出来る銃を持てば人と人は対等になる、銃こそが男女や種族を平等にするのではないか、ある種信仰に近い考えを持っていた。ヴァレリーの噂を聞き、彼と合流したのもこの信念があってのものである。彼の言う悲しみのない世界は彼女の思う平等な世界に近かった。だからこそ、彼について行くことにしたのだ。

 

 「待ってくれ! 我輩の、見て欲しい! 我輩の、砲を!」

 

 それが今はどうだ、変なおっさんにセクハラ染みた言葉を投げかけられながら逃げている。ヴァレリーと手を組んだのは失敗だったのだろうか、それとも、何か重要なことを見失ってしまった結果なのだろうか。

 

「イキャニ、なんとかして」

「"取り替えの魔輪(チェンジリング)"」

 

 イキャニの魔法の輪が、逃げる二人と追う一人の姿を変え、全員を足がいっぱいあるなんか変なタコのような姿に変えた。急に足が増えたので全員転んでしまう。

 

「お前、鬱陶しい魔法使うなや!!」

「なんとかしてって言ったのに! だって何に変わるかは制御できないねん!」

「てかそれしか使え……もういい、逃げるのはやめた、戻せ、イキャニ」

「はいなのねん……」

 

 再び元の姿に戻る一行、ウルバンはようやく元の猫獣人の姿に戻ることが出来た。

 

「おお、懐かしき毛皮だ」

「逃げずに、この猫を撃ち殺す」

 

 そう言って、ウルリーケは腰のリボルバー型の自作銃を抜いて、銃口をウルバンに向けた。

 

「おおぉ! お初にお目にかかる! それはどういう仕組みなのだ!」

「……火薬……爆発物で弾丸……つまり、矢を発射してる」

「なるほど、推測通りだ、素晴らしいぞ、実に興味深い!」

 

 目を輝かせて、食い入るように見つめるウルバン、まるで子供のようだ。その様子を見て、毒気を完全に抜かれてしまうウルリーケは思わず構えを解いてしまった。

 

「同業者ってこと?」

「左様。我輩ビザンチスタンよりやってきた兵器開発者、ウルバンである」

「ふぅん。なんかさっき、砲を見て欲しいって言ってたけど」

「そうだ、是非ともな」

 

 彼は背負っている荷物から、布に包まれた物体を取り出した。そして、それを地面に広げる。先日ジロたちにも見せた砲である。

 

「お前さんの噂を聞いてすぐに作った試作品だ! 全く上手いこといかないがな」

「見せて」

 

 なんとこの二人、唐突にその場で試作砲について議論を交わし始めたではないか。しかも、お互いにかなり専門的な話を繰り広げており、とてもじゃないがついていけない。ただ、一つ言えることは、二人は似た者同士ということだ。イキャニは疎外感と共に、なんか早口で気持ち悪いなと思っていた。

 

「兵器開発者って本当か」

「無論だ、これまではトレビュシェットを作っていた」

「ふぅん、それで多少は様になってるってことか」

 

 ウルリーケもすっかりその気になって、談義に夢中になっている。イキャニは呆れ果て、ヴァレリーの様子を見に行くことにした……。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 その頃には、流石のヴァレリーもステラが時間稼ぎをしていた事に気がついていた。

 

「騙したな……!」

「私が言うのもなんですけど、これは流石に騙される方が悪いと思いますよ……」

 

 怒り心頭の様子で睨みつけてくる彼を前に、涼しい顔で返すステラ。確かに、ただ矢を適当に撃っていただけである。

 

「どうしても僕を止めるつもりかい。嫌な記憶なんて無くなった方がいいに決まっているじゃないか!」

「確かに、お前の言う通りだ」

 

 ヨロヨロと立ち上がる、ジロの声。彼の耳と尾は未だに萎れているが、その目は少しだけ輝きを取り戻した様子である。

 

「君もわかってくれるかい。心の傷は火傷だ、たまたま痕の残らなかっただけの連中が、『乗り越えられる』『いつか幸せになれる』『時間が癒やしてくれる』などとのたまう……胸糞悪くなる、最低の下衆どもだよ」

「同感だな」

「わかるね、心を癒すことが出来るのは記憶の消失だけなんだ」

「そうだと思う」

 

 彼の返事を聞く度にアレッと思うヴァレリー。なんというか、やり取りに手応えがない、暖簾に腕押しである。

 

「えっと、じゃあ僕のやり方に賛同するってことでいいの?」

 

 ところが、その問いかけにはジロは首を横に振り、刀を抜く。

 

「え、敵対する理由なくないかな!?」

「お前は犯罪者だ、ヴァレリー。他者から魔力を吸い出す行為はこの魔王国では秩序を乱す」

 

 そう言うと、刀を中段に構えてじりじりと距離を詰めていく。対するヴァレリーは、困惑しつつも魔法で応戦することにしたようだ。無数の氷の槍が生成され、次々と発射される。

 

「"事象の改竄(サカノウエノクモ)"」

 

 ジロが幻惑の妖術を唱えると、彼の腕の先程ついた咬み傷から流れる血が蒸発する。すると氷の槍は誰もいない方向へと飛んでいってしまう。彼の行く手を阻むことは出来ず、接近を許してしまう結果となった。

 

「やめろ、僕の魔力量が見えているんだろ? 僕に本気を出させないでくれ」

「お前程度凌げる」

「余程っ、自信があるようだねっ……!」

 

 ヴァレリーは後退りながら、再び氷の槍を発射し牽制を行う。しかし、それもまた飛距離が足りなかったり、飛んでいく向きが明後日の方向であったりと、ジロに向かって飛ぶことはなかった。

 

「神妙にお縄につけ」

「いやだ、僕にはまだやるべきことがあるんだ!」

 

 今度は巨大な氷解を生み出し、投げつける彼であったが、これも難なく躱される結果に終わった。もう打つ手なしといった様子のヴァレリーであるが、その表情はまだ諦めていない様子だ。そんな中でジロはふと視線を後ろにやった。

 

「時間切れだ」

「"魔力の拘束(レストレイント)"!」

 

 アカネの呪文が発動し、光の鎖のようなものがヴァレリーを襲う。彼は慌てて逃げようとするものの、足元から這い上がってきた光により、完全に拘束されてしまった。

 

「くそっ、こんな、こんなところで……」

「よくもあんなクソみたいな事思い出させやがって……!」

 

 怒りの表情を浮かべるアカネ、そんな彼女の頭をジロの手が優しく撫でる。

 

「すまない、助かったよ」

「……うん」

「私も頑張りましたよ! 私も撫でてください!」

 

 ステラはそう言いながら、二人の所まで駆け寄ってきた。彼女はジロと目が合うと、ニコッと微笑んで、頭を彼に向けて差し出した。が、ジロは無視した。

 

「な、なぜ……!? あ、照れ隠しですね、わかりました」

 




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